Partners in Peacemaking: How the United States and Europe Can End the War in Ukraine
ドナルド・トランプ大統領にとって、ウクライナ戦争を終わらせるための和平交渉から欧州諸国を排除するのは簡単だろう。しかし、米国にとってより良い合意を確保するには、欧州のパートナーを巻き込むことが必要だ。
(WAJ: 傍若無人に口から出ませのフェイク情報を振りまくトランプ大統領に対してどれだけの効果を持つかは不明だが、アメリカの政治におおきな影響を及ぼしてきた米外交問題評議会(CFR)は諦めずにトランプ大統領の政策に苦言を呈している。「ロシアはウクライナ全土を占領してもいい」などとトンデモ論を吐く狂気の大統領をストップさせるためにも、アメリカ国内の冷静な議論が必須である。このままでは、アメリカの民度が疑われてしまう。リアナ・ファックス氏はこの論考で、「米国は(欧州と協力することにより)資源の一部を他の戦域にシフトし、コストがかかり困難な課題であるインド太平洋における中国の抑止を優先することができる」と述べる。さらに「ロシアが今後数年以内にウクライナへの新たな攻撃を試みた場合、トランプ政権はアフガニスタンの惨事の再現を余儀なくされる」とも断言している。これらは、アフガニスタンから撤退するアメリカの本当の意図が中国封じ込めにあり、バイデンから現在の第2期トランプ政権まで貫かれているというわれわれの主張を裏づけるものでもある。)
リアナ・フィックス(米外交問題評議会(CFR)のヨーロッパ担当研究員)
2025年1月23日
パリ・エリゼ宮で行われた3者会談の後、撮影に臨むエマニュエル・マクロン仏大統領、ドナルド・トランプ米国次期大統領、ウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領。 ロイター/クリスチャン・ハートマン撮影
このウクライナ政策概要は、ウクライナの将来の安全確保に関する安保理特別イニシアティブ および平和と安全に関するヴァッヘンハイム計画の一部である 。
概要
ドナルド・トランプ大統領は就任後6カ月以内にウクライナ戦争を終わらせると約束した。原則的には、米国は欧州諸国(具体的には欧州連合(EU)と非EU加盟のNATO加盟国)の首脳を関与させずに、ロシアおよびウクライナとの和平交渉を行うことができる。しかし、停戦交渉に欧州のパートナーを関与させることで、トランプ政権は米国にとってより良い合意の確保に貢献できる。その利点としては、ロシアの凍結資産を通じてウクライナの財政・経済存続にかかる費用の大部分を欧州が引き受け、米国が重要な武器移転を行うことで米国のコストが抑えられること、欧州の平和維持軍またはミッションを通じて最終的な停戦を確保すること、EU加盟の加速を通じてウクライナを西側諸国に統合すること、欧州の同盟国に防衛費の増額を説得することで米国にインド太平洋地域での活動の自由度を高めることなどが挙げられる。
ロシアとの交渉に先立ち、トランプ政権は以下の措置を講じて欧州の同盟国を交渉に参加させるべきだ。
・ウクライナおよび欧州との統一した交渉姿勢、ならびに交渉における役割分担を確立する。この動きは、ロシアが分裂を煽ろうとする試みを阻止し、ロシアが将来の停戦協定に違反した場合の代償を増大させるだろう。
・欧州と協力して、2600億ユーロに上るロシアの凍結資産を完全に差し押さえ、ウクライナの短期的および長期的なニーズを満たす手段を創出する。このアプローチは、国内の経済的安定においてキーウを上回ることは期待できないモスクワに対し、交渉に応じるよう圧力をかけることになる。
・ヨーロッパに永続的な平和の責任を負わせ、ウクライナの停戦確保に貢献させる。この貢献は、米国の関与の程度や停戦協定の輪郭に応じて、さまざまなモデル(国際平和維持から強力な監視やトリップワイヤーミッション(訳注:前線に展開する小規模な陽動部隊をさす軍事用語)まで)で行われる可能性がある。
・欧州に対し、ウクライナのEU加盟の期限(例えば2030年)を設定するよう促し、ウクライナ国内の改革に関してEUを支援する。この動きは、EU内部の改革を加速させ、ウクライナ人に西側諸国における将来について安心感を与え、ロシアのプーチン大統領の地政学的勝利を阻止することにもなる。
・欧州のNATO同盟国とGDPの3.5%という新たな防衛費目標について交渉し、欧州の防衛産業基盤への投資を奨励する。米国は、米国製の武器だけを購入することは欧州を弱体化させ、安全保障における米国への依存度を下げず高めるだけだということを受け入れなければならない。
ウクライナにおける新たな負担割当協定
ウクライナ停戦交渉から欧州を排除することは、米国の利益にならない。米国がウクライナで良い取引を望むなら、欧州の同意が必要だ。欧州はすでにウクライナの経済的、財政的存続の重荷の大部分を担っている。キール研究所によると、欧州(EU、英国、ノルウェー、スイス、アイスランドを含む)は過去3年間で1247億3000万ユーロ(1280億ドル)をウクライナに提供しており、米国は883億3000万ユーロ(907億5000万ドル)である。したがって、欧州はウクライナに対する財政的、人道的、軍事的支援の61%を占めている。
すでに多額の投資を行っている今、ヨーロッパはもっと多くのことをできるし、そうすべきだ。新たな負担割当協定では、ヨーロッパは支援を大幅に増やし、ウクライナの経済的、財政的存続と復興にかかる費用の大半を引き受けるべきだ。一方、米国はヨーロッパでは代替できない重要な武器の供給に重点を置くべきだ。ヨーロッパには、ロシアの新たな攻撃を撃退するためにウクライナが必要とする武器の供給を維持できる防衛産業基盤も生産能力もない。それができるのは米国だけだ。ヨーロッパはまた、これまで米国防長官が主導してきたウクライナ防衛連絡グループ、いわゆるラムシュタイン方式で、ウクライナへの軍事支援の調整も引き継ぐべきだ。
<参考記事> ヘグセス米国防長官、NATO加盟国に強硬姿勢 ウクライナ支援で負担増求める
ウクライナへの支援を大幅に増やすことは、欧州にとって難しい課題となるだろう。財政余地の縮小とポピュリストの台頭は、ほとんどの欧州諸国に影響を及ぼしている。しかし、解決策は問題と同じくらい明白である。欧州は現在、凍結されたロシア中央銀行の資産2600億ユーロ(2670億ドル)という未活用の軍資金を抱えている。これまでのところ、これらの資産から得られる利息のみが、ウクライナへの年間500億ドルの融資に充てられている。しかし、これでは十分ではないだろう。ロシアの資産を差し押さえることで、準備通貨として、またドルの安全な代替手段としてのユーロの魅力が低下する可能性があるという欧州の懸念は、いくぶん誇張されている。ユーロ準備金の需要は停滞しているが、関係国はドル準備金だけに頼ることには常に消極的だ。ウクライナを適切に支援しなかった場合の悪影響は、はるかに大きくなるだろう。
米国は欧州諸国と協力して2600億ユーロを完全に掌握し、ウクライナの短期的および長期的なニーズ、特に復興と防衛投資のための資金を継続的に送るための手段を創出すべきである。欧州と米国には、納税者の負担ゼロでウクライナ向けの新たなマーシャル・プランを実施する機会があり、ウクライナは必要に応じてその資金を使って米国と欧州の生産者から武器を購入し、その資金を西側諸国に還流させることができる。また、ロシアが引き起こした破壊の代償をロシアに支払わせることには、直感的な道理もある。凍結された資産は、ある意味ではウクライナへの賠償金なのである。
ロシアの凍結資産を差し押さえることには、さらに2つの利点がある。交渉に先立ち、米国の影響力が増す。ウクライナにとって継続的で潤沢な資金が提供するライフラインは、経済安定の面でロシアがウクライナより長生きできるという考えを払拭するだろう。ロシア経済が現在直面している苦境と相まって、行き詰まりから抜け出すための交渉を求めるプーチン大統領への圧力が増すだろう。
最後に、資産を差し押さえれば、資産を含む制裁の延長をめぐる欧州連合(EU)の半年ごとの投票の際に、資産がロシアに返還されるのを心配しなくても済む。EU加盟国のうち1カ国が延長を阻止すると一度でも決めた場合、資産は解放されて失われ、米国の交渉姿勢は著しく弱まり、ロシアの戦争長期化能力を支えることになる。これは米国が許容できるものではない。
財政的支援に加え、統一された立場で交渉のテーブルにヨーロッパ諸国が加わることで、米国の交渉力も高まり、ロシアが何らかの違反をすれば同盟国すべてから制裁を受けることになる。さらに、統一戦線を張ることでロシアが分裂を起こそうとする試みを阻止できる。
恒久的な停戦の確保
ウクライナでの戦闘を終わらせることは重要な優先事項だが、それは第一歩に過ぎない。第2段階は停戦を恒久的な平和に変え、トランプ政権下およびそれ以降、ロシアによる屈辱的な再攻撃を防ぐことだ。米国は、欧州諸国が責任を負い、ウクライナでの停戦確保に貢献することを期待すべきだ。そうすれば、米国が紛争に巻き込まれ、ウクライナの存続に単独で責任を負い続けるリスクは低くなるだろう。
停戦の確保は、合意の方式に応じてさまざまな形を取ることができる。最初の選択肢は、おそらく国連が組織する国際平和維持ミッションであり、前線が長いため、ヨーロッパが多大な貢献をし、技術的に担保される。国連形式では南半球の国々が参加することになり、抑止効果が得られる可能性があるが、同時にロシアが手続きに大きな影響力を持つことになる。これは問題になる可能性がある。なぜなら、EUと欧州安全保障協力機構(OSCE)が主導した過去の監視ミッションでは、ジョージアとウクライナでロシアは正式な合意を遵守しておらず、自国側に監視員を立ち入らせたことは一度もないからだ。ロシアはまた、いかなる説明責任も負うことなく、これらのミッションの人員を継続的に攻撃したり危険にさらしたりしている。
2つ目の選択肢は、強力な欧州有志連合を結成することだろう。この連合は新たな攻撃を阻止する偶発進入禁止ゾーンをウクライナ西部に保持するため欧州軍を展開する。このようなシナリオでは、これらの部隊が攻撃された場合、ロシアは、本格的な欧州(およびおそらく米国)の対応を覚悟しなければならない。しかし、この選択肢には、欧州・ロシア間および/または米国・ロシア間の緊張激化のリスクもある。昨年、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が提案した強力な欧州側任務には、当初2万~4万人の部隊と、交代制および支援要員を含めると最大10万人の部隊が必要になる可能性がある。これらの部隊はNATOの新しい防衛計画から引き出されることになるが、欧州の安全は、彼らがNATO領土内にいるよりもウクライナ内にいる場合の方が確実に守られる。
しかし、強力な欧州側任務は、米国の支援なしには成功しない。米国は、自らの関与レベルを明確に示す必要がある。答えなければならない疑問には、米国が兵站、諜報、航空支援を提供するかどうか、またどの程度提供するか、また、NATO領土外に駐留しているため第5条(訳注:NATO加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなして反撃の対応をとるなど、集団的自衛権が行使される)の保証外だが、偶発進入禁止ゾーンを守る欧州部隊への攻撃がどの程度米国の直接的な関与を引き起こすか、などがある。これらの難しい疑問にもかかわらず、米国にとっては、単独で停戦を行なったり、数年以内に戦争が再発するリスクを冒したりするよりも、ヨーロッパに停戦確保の大きな任務を与える方が有利である。
最後に、欧州の軍事専門家フランツ・シュテファン・ガディ氏は、国際平和維持活動と強力な欧州側任務の組み合わせも提案している。「理想的には南半球諸国の伝統的な平和維持部隊が停戦ラインに沿った非武装地帯を直接巡回し、強力な欧州即応部隊を占領されていないウクライナのさらに奥に駐留させる」この案には、ロシアの新たな攻撃を抑止し、エスカレーションのリスクを最小限に抑えるという利点がある。
西側諸国に支えられた民主的なウクライナ
ウクライナを西側民主主義国家にしっかりと定着させ、国内の安定を確保するため、米国は欧州に対し、ウクライナの欧州連合への統合を加速させ、交渉を最終決定する期限を設定するよう促すべきである。もちろん、EU加盟はNATO加盟やその他の2国間または多国間の安全保障保証の適切な代替物ではない。EU第42条7項相互援助条項はNATO第5条集団防衛ほど強力ではないため、EU加盟国のフィンランドとスウェーデンはNATO加盟を決めた。しかし、ウクライナのEU加盟は、短期的にはNATO加盟に代わるものとして、ウクライナに西側の考え方を再保証させ、その回復力を高め、改革を奨励し、民主主義への願望を強化するために、現時点で利用できる最善の道である。また、ウクライナのドミトロ・クレーバ元外相とヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の両者が警告してきたウクライナの復讐主義の出現を防ぐことにも役立つだろう。さらに、ジョージアの場合のように民主主義の後退を防ぐため、米国はウクライナに国内改革を要求するEUを支援すべきである。
欧州はすでに2024年6月にウクライナとの交渉を開始することに合意しているが、これはNATO加盟よりもはるかに技術的かつ実質的なものだ。ウクライナは35章からなるEUの法律体系(the acquis)全体を採用し、その過程で徹底的な国内改革を進めなければならない。一方、EUも、ウクライナほどの規模の国に対応し、特に西バルカン諸国やモルドバなどさらに多くの国が同時に加盟した場合に拡大したEUの麻痺を防ぐために、野心的な内部改革に着手する必要がある。トルコの場合のように加盟が失敗に終わるのを防ぐため、米国はEUに対し、可能な限りウクライナの統合を加速するよう促すべきである。
欧州側は、手続きの技術的な性質が加速を困難にしていると指摘するかもしれない。しかし、ウクライナの加盟には強い地政学的利益があり、EUはすでにウクライナへの招待を迅速に進めることを可能にしている。EU加盟は、ウクライナ難民にとっても、ウクライナが西側に居場所があることを確かめ、ウクライナを従属させようとするプーチンの野望を阻止する上で魅力的なものとなるだろう。
ヨーロッパ防衛の将来
これまでに概説された米国の利益はすべてが、ウクライナに対する大西洋両側が引き受ける負担割当に関する新たな協定の策定から、恒久的な平和の確保、ウクライナを西側諸国に定着させることまで多岐にわたり、欧州に向けての自らをさらに強く防衛せよとの要求に繋がる。これは、ウクライナ交渉の文脈において、欧州は自国だけでなくウクライナの防衛にも真剣に取り組んでいること、そしてウクライナやそれ以外の地域での新たな冒険の代償は高すぎることをロシアに伝えることになるだろう。米国はNATO同盟国と交渉し、防衛費の目標を国内総生産(GDP)の3.5%など、より高めに設定すべきである。
防衛投資と支出を増やす財政余地のために、欧州は防衛目的のEU共同債務など統一行動目標を策定する必要がある。すでに、EUの結束基金を防衛目的に使うことや防衛銀行を設立することについて有益な議論がなされている。こうしたアイデアをめぐるEU内の対立には妥協が必要であり、米国は行動優先で後押しすべきである。
しかし、支出の増加が生じる。問題の一部に過ぎないとは言え同盟国もその資金を賢く使う必要がある。NATO の新しい防衛計画は迅速かつ徹底的な実施を要求している。同時に、ヨーロッパは自国の防衛産業基盤に投資する必要がある。米国からのみ購入することは、生産能力の急速な拡大を抑制し、米国とヨーロッパの両方を弱体化させる。また、ヨーロッパが自国の安全保障を米国に頼り切ると、米国の世界的な利益を損なうことになる。
欧州は、自らの強力な産業基盤により、欧州の安全保障のための独自の戦略的能力を創出し始めることができる。これにより、米国は資源の一部を他の戦域にシフトし、コストがかかり困難な課題であるインド太平洋への中国進出の抑止を優先することができる。米国は引き続き通常兵器と核抑止力を通じて欧州に関与することになるが、通常兵器の負担の大部分は欧州が担うことになる。このような大西洋両側の取引は双方に利益をもたらし、トランプ大統領が繰り返し批判しているただ乗り問題の解決にも役立つだろう。
結論
ウクライナ停戦交渉で最善の結果を得るために、米国は欧州のパートナーの意向を無視するのではなく、彼らと協力すべきである。欧州の同意を得た和平協定は、米国にとって欧州の同意を得ない和平協定よりも、より良い、より低コストの和平協定となるだろう。欧州を巻き込むことで、米国の交渉上の立場が強化され、欧州における米国の負担が軽減され、ウクライナが西側民主主義社会にしっかりと定着し、大陸にさらに耐久力のある平和が築かれるだろう。戦争に深く関与している欧州は、停戦確保の責任を負うべきである。そのような安全保障の裏打ちがなければ、ロシアが今後数年以内にウクライナへの新たな攻撃を試みることにした場合、トランプ政権はアフガニスタンの惨事の再現を余儀なくされる。このシナリオは、どんな犠牲を払ってでも避けるべきである。
この論文は著者の見解と意見のみを表している。外交問題評議会は独立した無党派の会員制組織、シンクタンク、出版社であり、評議会が政策問題について組織的な立場をとることはない。