ロシア、テロ対策で共闘 タリバン政権承認へ動く

ロシア、テロ対策で共闘 タリバン政権承認へ動く
「アフガンの意見考慮」

日経新聞 2024年6月6日 2:00 [会員限定記事]

ロシアがアフガニスタンで2021年に権力を掌握したイスラム主義組織タリバンに接近している。プーチン大統領はタリバン暫定政権の承認に前向きな姿勢を示した。イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威が高まり、テロ対策で協力を深める。

欧米との対立が長期化し、南アジアへの経由国となるアフガンの地政学的な重要性も増す。

プーチン氏は5月28日に「ロシアはアフガンの意見を考慮し、関係を構築する必要がある」と発言し、タリバン政権との提携を進める考えを明らかにした。5日から西部サンクトペテルブルクで開く国際経済フォーラムにもタリバン代表が出席する見通しだ。

ロシア外務省は5月27日、タリバンの「テロ組織」指定解除をプーチン氏に提案した。プーチン氏が指定解除を最終決定すれば、タリバン政権の承認に大きく前進する。武力で政権を奪取し、女子教育を認めない同政権を承認した国はない。

プーチン政権は2003年、イスラム教徒の多い南部チェチェン共和国の独立派勢力を支援したとしてタリバンをテロ組織に指定し、対決姿勢をとってきた。

IS系の「ISホラサン州」の活発な動きが、両者が急接近する背景にある。ISホラサン州は3月にロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射事件で犯行声明を出した。

アフガンを本拠地とするISホラサン州はタリバンと激しく対立し、テロを繰り返す。中部バーミヤンでは5月にも銃撃があり、6人が死亡した。

ロシアは国内の治安回復に加え、自らの勢力圏とみなす中央アジア地域の安定を重視する。共通の脅威となっているISホラサン州を掃討するため、タリバン政権に資金や兵器を供与する可能性も指摘される。

ロシアとタリバンはともに米欧による経済制裁を科されており、反米路線で共闘しやすい。ロシアは欧米向けのエネルギー輸出が大きく減り、代替としてインドやパキスタンなど南アジア諸国に目を向ける。アフガンはロシアと中央アジア諸国からパキスタンを結ぶ経由国として、地政学的な要衝となる。

 

アフガン国内ではインフラ整備計画も浮上する。4月にアフガンはカザフスタンなど周辺国と、国内で鉄道や道路網を整備することで合意した。ロシアやカザフはアフガン経由で原油をパキスタンまで輸送する計画を掲げる。

アフガンは金や銅、リチウムなどの鉱物資源の埋蔵量が豊富で、ロシアには権益獲得につなげる狙いもある。

中国もアフガンの国際社会復帰を後押しする。23年12月にはタリバンが派遣した大使を受け入れ、暫定政権の承認に向けた動きとみられる。

米国は中ロの動きに神経をとがらせる。ホワイトハウスのカービー大統領補佐官はプーチン氏の発言に反応し、「仮にロシアがタリバン政権を承認すれば、他国に悪いシグナルを送ることになる」と警鐘を鳴らした。