Northern Afghanistan: A Crucible of History and Conflict 

 

(WAJ: アフガニスタン北部がテロ組織の基地と化している。今年3月にモスクワ郊外のコンサートホールで起きた銃乱射事件でISホラーサーンが犯行声明を出している。同組織は、アフガニスタン国内やイランでも自爆テロを敢行しており、アフガニスタン北部を拠点としている。そのため、中国につづいてロシアやアフガニスタン北方の隣国でもターリバーンを承認してテロを抑えようとする動きが顕在化してきた(日経新聞報道)。本論考では本サイトのアフガンサイト主筆のファテー・サミがこの現実を詳細に論じている。なおサミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。通読すれば氏の鋭く的確な慧眼ぶりに驚かれることだろう。)

 

By Fateh Sami   2024年6月3日
ファテー・サミ(本サイト・アフガン主筆)

ターリバーンの樹立により、大国間のグレート・ゲームは新たな段階に入った。ターリバーンの支配は、テロ集団が安全に拡大するのに好ましい環境を作り出した。パキスタンとデュアランドライン両側で活動するテロ集団がアフガニスタンに侵入した。これらのグループはターリバーンの全面的な支援を受けており、全国各地に拠点を設けている。

これらグループはアフガニスタン北部に移り、中央アジア諸国の間で懸念を引き起こしている。こうしたテロ集団がターリバーンと政治的、商業的、経済的相互作用を有するために、これらの国の当局者は時々懸念を表明し、この行き詰まりを解決するためにアフガニスタンに包摂的な政府を樹立するようターリバーンを促してきた。しかし、ターリバーンにとって全国民参加の政府は全く受け入れられない。キルギスタンの閣僚副議長にして国家安全保障委員会委員長カムチベク・タシエフは最近(訳注:5月24日首都ビシュケクにおいて)、アフガニスタンの北に位置する旧ソ連構成国であった新興独立諸国の治安責任者らの会合で次のように述べた。

「アフガニスタン北部諸州へのテロリストの集中は、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの南部国境の安全を脅かすほどの規模に達している。」

<参考記事>
https://www.afintl.com/en/202405244391

 

これらの国々が極度に懸念しているのは、テロ組織の拠点が何百もアフガニスタン北部に存在することで、この域内で新たな代理戦争や国際テロ組織とその「支援者」による新たなグレート・ゲームが始まることを恐れている。しかし、アフガニスタン北部へ送られたテロ集団の策動は、すでにハーミド・カルザイ(訳注:Hamid Karzai、アフガニスタン・イスラム共和国初代大統領)の時代に始まっており、その目的はアフガン北部にテロのイデオロギーを根づかせるためで、それを支援したのが、内務相のハニフ・アトマル(訳注:Haneef Atmar、後のガニー政権では国家安全保障担当補佐官と外務相代理を歴任し、ターリバーンとの対話が可能と主張していたが、政権崩壊後はトルコに亡命)と財務相のアシュラフ・ガニー(訳注:Ashraf Ghani、カルザイ大統領のあと共和国崩壊時まで大統領)だった。

そして、アフガニスタンからアメリカ人と西洋人が撤退した。それでもアメリカが相変わらず諜報ゲームや地政学的競争に関与し、域内のライバルと対峙し続ける口実はここにある。信頼できる情報筋によると、アフガニスタン国家警察は、2015年2月24日に国内の24のテロリストグループが記されたリストを国際警察(インターポール)に提出した。このリスト内には、パキスタンで対アフガン活動のための32ものテロリスト訓練センターが含まれ、指導者は85人を数えた。このリストに基づくと、アフガニスタンでは大小168近くのグループがテロ活動に従事し、戦闘員の数は6万人から10万人と推定され、(訳注:ターリバーンとともに、あるいはターリバーンとして)当時のアフガニスタン政府と戦っていた。

(出典:Wikipedia。各州の詳細情報はここをクリック

ターリバーンがアフガニスタンで政権を握ると、これらのグループは北部に移動し、現在パンジシールからバダフシャーン、クンドゥズ、タハール、ファーリヤーブに至る北部の州に定住している。これらの各グループは現在、前述の州に軍事基地を持っている。ドーハで米国とターリバーンの間で署名された合意(訳注:2020年2月、WAJ トピックスによれば、ターリバーンは米国が「革命的集団またはテロ集団」とみなすグループと対決することに専念しているため、現時点では米国人はこのことを心配していない。テロリズムの定義は、世界中のグレート・ゲームに関与している国々の利益によって異なる。

一方、ジョー・バイデン米大統領と北大西洋条約機構(NATO)は、アフガニスタンの「テロ組織」に対する偵察飛行と必要に応じて空爆を継続すると強調した。 ISISと戦うためにパキスタンやターリバーンと協力しようとする米国の戦略的急進姿勢の根源は、物議を醸しているドーハ合意にある。ターリバーンに毎週 4000 万ドルを提供することで、米国はこの組織が共和国に代わるものであり、代理戦争の隠れ蓑であると考えている。

 

新たな代理戦争の夜明け: ターリバーン支配の影響

アフガニスタンの北方領域は、ピョートル大帝とイギリスの時代に、ツァーリと英帝国間で最初のグレート・ゲームが行われた時から、その後ソ連のアフガニスタン侵攻中、そしてさらにその後のアメリカ駐留中にも重要性を保ってきた。現在でも、ロシア、中国、米国の競争において、ワハーン回廊(訳注:アフガニスタンのバダフシャーン州にあるタジキスタン、中国、パキスタンと接する細長い領土(回廊))の存在と「代理戦争」への適性によりアフガニスタン北部の重要性は高まっている。北部の州、特にクンドゥズとカーピーサーは、古代から戦略的に重要な場所だった。クンドゥズとカーピーサーは、アレクサンダー大王からサーサーン朝、チンギス・ハーン、サファヴィー朝に至る侵略者に対する民族の自由の戦士たちの安全な基地だった。時々、一方が失われると、もう一方は侵略者に対する防御の砦となった。

北方の重要性のため、パキスタンの諜報機関は、この域内における英国の権益の継承者として、そこに特別な焦点を当てている。第1次ターリバーン統治の間、ターリバーン、ラシュカレ・ジャンヴィ、シパ・エ・サハバ、ジャイシュ・エ・モハメッド、その他のグループの構成員がアフガニスタン北部に送られ、その数は数千に上った。これらの移転は、域内における戦略的目標と地政学的有用性に基づいていた。ダシュテ・レイリ事件(訳注:2001年、米国のアフガン侵攻中に起きた事件で、クンドゥズ州で捕虜となったターリバーン兵2千人がジューズジャーン州に移送中、担当したドスタム将軍配下の兵士たちによってコンテナ内で撃ち殺されたり、窒息死させられた)によって奇しくも脚光を浴びたが、ターリバーン崩壊時(2001年)にパキスタンと米国は数千人のターリバーン戦闘員とその同盟者をクンドゥズからカラチとペシャワールに逆移送することを合意していた。このことはアフガン北部および当域内の軍事および諜報活動の重要性を明かに物語っている。

現在、アフガニスタン北部は地政学的に非常に重要であり、ロシア、中国、米国の間の諜報戦や代理戦争の中心であるだけでなく、抵抗勢力が近くにおり、彼らがアジア諸国からの兵站を期待できるという点でも重要な意味を持っている。北部は西側諸国の物流ルートから遠く離れているため、ターリバーンは現在進行中のグレート・ゲームの重要なプレーヤーとなっている。特にウクライナ紛争後のロシアと中国が米国と熾烈に競争する中でのテロ集団の北部への移転と数百の基地の創設は、域内における新たなグレート・ゲームの開始を告げるものと見られている。

域内と世界の大国間の緊張は、アフガニスタン北方の状況に深刻な衝撃を与えている。この衝撃は、域内と世界における緊張の高まり、特に中国、ロシア、イランと米国およびその同盟国との対立の影響を受けている。こうした機会を逃がさず、いかに新たな運動を生み出し北方のテロ集団を撲滅するかは、抵抗勢力いかんにかかっている。成功すれば、共通の利害を持つ独立国家共同体(訳注:旧ソ連を構成した共和国のうちバルト3国を除く12カ国)はターリバーンに抗う反政府勢力の再評価を必要とされる。さもなくば、現在の行き詰まりが続き、国民と抵抗勢力の間の協力の精神に悪影響を及ぼすことになる。このシナリオでは、ターリバーンとその外国人支持者が恩恵を受けることになる。

現在の戦略的競争と中東における危機的かつ危険な段階、台湾での軍事衝突の可能性、ウクライナでの緊張の高まりを考慮すると、現在のグレート・ゲームの結果を定義し解釈するのは時期尚早である。ただし、これらの展開は変化や変革を加速または減速させる可能性がある。ターリバーン内部の分裂の増大と外部の軍事前線からの攻撃の激化は、現在の均衡を崩壊させる可能性のある要因となっている。ターリバーンの重要拠点の破壊、新たな基地の建設、人民、とくに作家、分析家、ジャーナリストの動員、独立国家共同体への援助要請など、反政府勢力の活動は、アフガニスタンと域内の将来に大きな影響を与えるはずだ。

ターリバーン内部には、バラダール(訳注:Baradar、第1首相代行)師とハイバトゥラー(訳注:Haibatullah、最高指導者)率いる派閥が併存し、カンダハール派(訳注:アフガン南部カンダハール州に拠点を置く)とヘルマンディ派(訳注:カンダハール州の西隣ヘルマンド州に拠点を置く)に分裂するなど、顕著な内部分裂がある。その原因はもっぱら、国家の資源、蓄えられた富、鉱山、麻薬密売、つまり金の分配にある。それぞれスポンサー国を持ち情報管理されている。そのため北方における進展は遅遅として進まず有効性も低い。

アムダリヤ河流域での不安の増大と独立国家共同体内でのテロ攻撃の激化により、アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、ベラルーシ、タジキスタン、ロシア、キルギス、カザフスタン、モルドバの忍耐力が摩耗し、それぞれの二国間関係が変化している。ターリバーンがアフガン北方にいるテロ集団を監視しているのはこのためだ。ただし、この状況把握は永続的なものではない。北部のテログループのさまざまな諜報活動はターリバーンによって制御しきれない。したがって、これらのグループの外国人支持者は、アフガニスタンに逆流し国を牛耳り状況を混乱させる上で重要な役割を果たしているのだが、特にターリバーンが阻止しきれない北部は脆弱だ。

ターリバーンは、米国との20年にわたる戦争中にパートナーであった他のテロ組織とイデオロギー上の誓約と戦略的協定を結んでいる。これらの各グループは、自らターリバーンの勝利に大きく貢献したと考えている。したがって、これらの協定を破ることは容易ではなく、その破棄はテロ組織にとって反イスラム行為とみなされる。 TTP(訳注:パキスタンのターリバーン)攻撃を阻止するというパキスタンの要求にターリバーンが応えられない理由のひとつは、こうした協定の存在である。

 

泥沼を乗り越える:アフガニスタン北部の未来

結論として、ターリバーン支配下のアフガニスタンは火薬庫と化しつつあり、ほんの小さな火花でも全域内に引火する可能性があることを忘れてはならない。このため、域内と世界の国々は、ターリバーンの支持者も反対者も、さまざまな方法でターリバーンと関与しようと努めてきた。しかし、この関与の背後には、アフガニスタンの地下資源の政治的、経済的、安全保障的な搾取が横たわっている。一般に、これは抑止力のように見える。なぜなら、域内と世界の各国政府は、テロ集団との取引が火遊びよりも危険であることを知っているからだ。

一方、世界はパキスタンが自国の軍が敷いた薪で炎を上げて燃え上がるのを見守っている。域内諸国と世界は、テロリズムが何の利益ももたらさない不毛な行為であることを理解しなければならない。ターリバーンは現在、テロの網に巻き込まれており、自分自身も国もその国民も救うことができていない。ターリバーンが絡めば、いかなる代理戦争においても勝者はいない。

ソ連に対する聖戦戦士(ジハード)グループの代理戦争、米国に対するターリバーンの代理戦争、そして現在、世界的テロリストの温床となっているアフガニスタンでのISISとの新たな代理戦争は、目に見える結果をもたらさないだろう。第1回目のグレート・ゲームの時代から第2戦、第3戦に至るまで、プレーヤーたちは惨めで不名誉な敗北を喫してきた。したがって、域内と世界の大国がアフガニスタンでの競争と代理戦争を煽るのをやめるのが論理的だろう。むしろ、ターリバーンとの欺瞞的な政治的交流を避け、テロから国を救い国民を助けることに集中すべきだ。世界は、ターリバーンには国内的にも国際的にも正当性がないことを認識すべきである。ターリバーンの抑圧的、単一部族的、反人間的体制、特に女性の権利に対するあからさまな敵意は、ターリバーンが国民の支持を受けていないことの明らかな証拠であり、ターリバーンをいずれ弱体化させる。ターリバーンはこれまで他国の諜報任務を遂行してきた。国際社会は批判を無視し、アフガン国民が命をかけて送る大切なメッセージを見過ごしてしまっている。アフガニスタンの運命をもてあそび続けるなら、将来の世代はその国際社会を厳しく裁くことになる。そしてアフガニスタンの人々は脆弱なままに捨て置かれ、自らの国土で暗躍するプレーヤーたちに嫌悪感を感じるがままである。

 

<付記>テロ組織のリスト: アフガニスタン北部で活動するテロリスト集団

下記に言及するグループには、アフガニスタンとその近隣域内で活動するさまざまなテロ組織が含まれる。これらのグループは異なる指導者と所属の下で活動しており、ターリバーングループはハイバトゥラー師が率い、ハッカーニネットワークの長であるシラージュッディン・ハッカーニ師とムハンマド・オマル師の息子であるムハンマド・ヤクブ師が代理を務めている。

●マウルヴィ・マンスール師とラスール師と関係のあるターリバーン諸派、その代理の軍事副官バズ・モハマド・ハリス師、政治議員のマンスール・ダドゥッラー師、シェール・モハマド・アクンザデ師、アブドゥル・マナン・ニアジ師らと連携し、ヘラート、ファラー、バドギスなどの州で活動。 ファーリヤーブ州、ヘルマンド州、ザブール州、ガズニー州、パクティア州で活動。

● パキスタンの元国境地帯であるラシュカル・イ・イスラム、ジャマート・ウル・ハラル、カラム・エージェンシー、カイバー・エージェンシー、オラクザイ・エージェンシー、ハングー、ペシャワールなどのISIS関連グループ。

● バイトゥッラー・マスードによって設立されたテヘリケ・ターリバーン・パキスタン(TTP)。アムー、シパ・サハバ、ラシュカル・エ・ジャンヴィ、ハラカット・アル・ジハード・アル・イスラムとともにアルカイダと協力している。

●アル=カーイダと、ジュマ・ナムガニとタヒル・ヨルダシュの指導を経て現在は「ムジャヒド・オスマン・ガージ」が指導し、バダフシャーン州、タハール州、クンドゥズ州、ファーリヤーブ州マイマナで活動するゴルマックとISIS関係者

●ファズルール・ラフマン・ハリルによって設立され、カリ・サフィウラ・アクタルが率いるアル・ジハード・アル・イスラム運動。

●アンワル・ハク・ハリスが率いるヒズベ・イスラム・ハリス。

●タイヤバ軍、ハーフィズ・ムハンマド・サイード率いるパキスタンとカシミールのグループ。

●ラシュカレ・イスラム、ハイバル機関に関連しており、ムフティ・ムニル・シェイカーによって設立され、現在の指導者はマンガル・バーグ。

●アブドゥル・アジムとバリー・ゲート殉教者が率いるインドのテログループ。

●東トルキスタン・イスラム運動、ターリバーンとアル=カーイダの緊密なパートナー。

●ジャイシュ・エ・モハメッド、マウラナ・マスード・アズハル率いるカシミール人グループ。

●パキスタン軍の一部門として知られるシラジュディン・ハッカーニ率いるハッカーニ・ネットワーク。

●ハッカーニ率いるワジリスタン・イスラム首長国。

●パキスタンのシパ・サハバ、政治的にはラシュカレ・ジャンヴィを支持し、シーア派に反対。

●サフィ・モハマド率いるテフレク・ナファズ・シャリア・モハマディ。

●ハク・ナワズ・ジャンガヴィとイシャク・マリクによって設立されたラシュカル・ジャンガヴィ、ISIに近い反シーア派ムジャヒディーン運動。

● マハズ・ファダイ・グループ、ナジブラ師またはオマル・ハッタブ師によって設立されたダドゥッラー師のグループの支部。

●ゲリラ055旅団、過去にアルカイダと関係があったアラブ人、リシュコール地区とバルフ戦闘要塞に駐留、ロシアとコーカサスで活動する「ドク・ウマロフ」率いるコーカサス首長国連邦。

●チェチェン、アム、ウズベキスタンイスラム党、カザフスタンのグループがISISに参加。

これらテロ集団はサウジアラビアとペルシャ湾岸諸国から資金提供を受けて生まれたが、資金のかなりの部分は最終的にパキスタン将軍の手に渡った。

【つづく】