(2025年7月25日)

 激動の世界、大乱の日本政界 

~どこもかしこも「○○ファースト」ばかり~

 

 

アメリカでトランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を叫べば、ヨーロッパでも日本でも、世界のあちこちで、2番煎じ、3番煎じの「〇〇ファースト」。

日本では、古くは小池都知事が「都民ファースト」と追従して小旋風を巻き起こした。だがそのあとは、国政転換までいかずいつの間にか尻つぼみ。しかし今回2025年の第27回参議院選挙ではつむじ風が国政をかく乱する要因のひとつとなった。「日本人ファースト」の掛け声に「外国人排斥」の塩味を加味した参政党。小池風「都民ファースト」とは一味違った。

しかしこの「日本“人”ファースト」を振りまいた参政党は、一味どころか、危険極まりない激辛イデオロギーをまといコロコロ変わるウソまみれの政党だった。

毎日新聞は投票日翌日にさっそく「創設者と観察者 内外の2人が明かす参政党の『正体とこれから」と題する結党時主要メンバーらの「党勢を広げるために陰謀論を取り入れ、もはやそれを拭えなくなった保守の集まりですよ」の声を報じた。また、前回2022年に同党から参院選に立候補した武田邦彦教授は参政党党首神谷宗幣氏が如何にウソつきで信用ならないかを自分の体験を交えてYoutubeで叫び始める始末

参政党の「日本人ファースト」が如何に滑稽で、それが「外国人排斥」と結びつけばいかに危険なイデオロギーであるかは、多くの人びとが指摘しているから今回ここでは繰り返さない。だがそれは、参政党そのものおよびその主張を無視していいというわけではない。

参政党のウソと脅し文句と大衆受けするうまい話を振りまいて「情報弱者」の票をかき集める手法は、いまの日本の政治の弱点を鋭く突いている。しかも参政党は、口先だけの口舌の徒ではなく、日本全国に支部をもつ地に足をつけつつある組織である。政党ならば必ず取り組むべき課題にとりくみ、成果をあげている組織なのだ。なぜ若者がこの党に一定の支持を与えたのかの分析とあわせて、真剣に批判検討すべき対象であることは確認しておこう。

自公が参議院で過半数の維持に失敗し、衆参両院で少数与党に転落したのは日本の政治にとって一大事である。ただ議席の数合わせだけの議論をしているだけでは、日本国民の意識がどう変化しつつあるかを見落とす危険性がある。失われた30年と嘆いている間に、「日本人」の老化は着実に進み、「老いては子に従え」という格言が見事に自己顕現したのが今回の選挙結果だったのではないか。

 

通用しなかったのは「昔の名前」

自公議席の過半数転落を大々的に報じつつも、この国をどうしていくかの議論抜きに、石破総理の去就や次の総理、連立か連合か部分連携か一本釣りかなどと、昔ながらの井戸端会議、床屋政談にうつつをぬかしているマスメディアが、国民意識の現実から遊離している現実が、今回の選挙では見事に示された。

(7月22日、NHKクローズアップ現代より)
今回の選挙での各党獲得議席数の変遷がそれを端的に現している。
下記がその結果。
(A) 自民、公明、共産の激減
(B) 立憲民主、維新のヨコヨコ
(C) 参政、国民民主の激増
(D) 振るわない小政党(れいわ、保守も含めて)

結果を一言で表すと、昔の名前で出ていた政党の凋落、新顔の伸張である。

国民民主はかつての民主党や労働組合の同盟の流れを汲む古い潮流だが一時政権を取った社会党由来の民主と異なり、いったん消滅しかかった政党であるだけに、玉木党首の「手取りを増やす」キャンペーンで息を吹き返した新顔といえる。

全体の投票率は前回参院選(2022年)の52.05%から6.46ポイント増え58.51%に達した。その増大分がいままで投票しなかった若者層であったことを考慮すれば、高齢有権者の絶対的減少による有権者の若返りの結果、ともいえる。新投票者と自公からの流出が「新しい名前」の政党に向かったのである。

 

決定的な多党分立

かつて自民党と社会党が補完し合って国政を進めてきた「55年体制」といわれた時代から、確実に変わったものがある。それが多党化である。

各党の得票数をおなじNHKの番組で示された比例区での票数を比べると歴然とする。

つまり、国民と参政の合計得票数が政権与党である自民得票数を220万票と大幅に超えるのである。(自民+公明)の与党と(国民+参政+立憲+維新)の野党との差は800万票に達する。

ドングリの背比べ状況と与党の支持率が圧倒的に少ない事実。しかも、①ほとんど同じくらいのドングリたちである野党5党、②およびその他数党の絶対少数党との間の主張の隔たりと、③埋めようのない多様性は愕然とするほどである。すなわち、絶対少数である与党を数でオーバーする連携を野党は絶対に実現できない事実である。

そこが、右派ポピュリストが政権をにぎったイタリアや政権奪取に限りなく迫っているフランスやドイツの多党化と日本の現実の決定的な違いではないか。

 

強まる官僚体制支配

「自公の激減、参政と国民の激増」、かつ野党が多数を占めたと言っても自公の過半数からの不足議席数はわず3議席。無所属8や保守的少数野党、近しい他党議員の一本釣りを考慮すれば多数形成は見通せる。野党の主張のばらつき具合をみればとても政権交代などありえない。衆参で自公が少数与党に転落したと言っても、自民・立憲が分裂合同して新党結成するなどの一大“奇跡”が起きない限り、官僚機構と一体となった自民党中軸政権の存立はゆるがない。

日本の政治は、このような政党の多党分立および主張多様性と政党間対立が進めば、財務省、総務省、防衛省を軸とする官僚機構、つまり官僚支配がますます進むだろう。

日本の小選挙区比例代表制は、民意の多様性を議席に反映させ政権交代を促し可能とさせる制度として導入されたが、結果は皮肉にも多党乱立を定常化し制度設計とは真逆の結果を生むことになってしまった。

ヨーロッパでは、比例代表制を導入している国が多く、制度の欠点を解消すべく多くの工夫がなされている。しかしイタリアでは2022年総選挙以降右派ポピュリズムが政権を獲得し、フランスやドイツでも、移民排斥やEU否定、自国ファーストのポピュリズム勢力が政権奪取の一歩手前まで伸張している。

これらは長所短所を問わぬ選挙制度の問題点であるとともに、運用面での問題点も含んでいる。アメリカの大統領選挙制度はトランプ大統領という異様な存在を生んでしまった。

 

原因は必ずしも選挙制度だけの問題ではない
各国で排外主義的なナショナリズムが力をえ、それが選挙をつうじて存在感を増す背景には、現代世界、とくにグローバル資本主義(グルーディ資本主義=貪欲資本主義)の行き詰まりが生む、

①社会不満の高まり、
②主要政党の分裂や衰退、
③マスメディアの腐敗・不全、
④SNSなどニューメディアの発達による影響

などがある。このようなさまざまな要因によりほんらい民意を正確に反映する制度であるべき「社会防衛効果」がうすれ、むしろ怒りの受け皿となっている現実がある。

ウエッブ・アフガンは8月5日号を休刊として、次号発信は8月15日。アフガニスタンはターリバーン復権の4周年、日本は敗戦80年の区切りの日。アフガニスタンも日本も混乱や停滞による「失われた年数」は数十年。はたしてこの区切りの年はよりいっそうの混乱の日々となるのか、それとも栄光への出発の年となるのか。

腰を据え手を胸に当てて熟考すべき岐路の年だろう。

 

野口壽一