(2025年9月24日)

 返り血浴びる もろ刃のヤイバ 

~ターリバーン、全土でインターネットを遮断~

 

 

まず、光ケーブル経由の接続を遮断

9月に入ってアフガニスタンではターリバーンが各州でつぎつぎとインターネット接続を遮断する措置を取り始めた
15日までにバルフ、カンダハール、ヘルマンド、ヘラート、ウルズガーン、ニムローズ各州の住民は光ファイバーインターネットにアクセスできなくなった。住民が一斉にクレームを発した。さらに17日にはクンドゥズ、タハール、バダフシャン、バグラーン4州で、さらに同日、ラグマン、パクティーカー、ナンガルハール各州が遮断され、18日には大地震のあったクナル州でも遮断され、14州での遮断が確認された。この遮断命令はカンダハールを拠点とするハイバトゥラー・アフンザド・ターリバーン最高指導者の命令によって実行され、20日過ぎには遮断は全国に及んでいるとみられている。
 See ⇒ アフガンの声:ターリバーンによるインターネット遮断:アフガニスタンは沈黙と完全な暗闇に陥る

 

生活の基盤を奪われる悲痛な叫び

この暴挙によりリアルの学校から追い出され、しかたなしにオンラインで学習していた女性や少女の学習への道がたたれた。さらにはインターネットなしには仕事ができないジャーナリストやデザイナーなどの生活の基盤がた破壊された。社会インフラの運営もままならなくなった。これはターリバーンによる支配に対して国民の不満がたまってきたことや自分たちの組織内の対立などが背景にあり、言論弾圧、思想弾圧の様相が大きい。

インターネットがなければ学習できないアフガニスタンの女性・少女、仕事が成り立たないジャーナリスト、デザイナー、プログラマー、ビジネスパーソンらは悲痛な叫びをあげている。アフガニスタンの独立系メディアであるハシュテ・スブ・デイリーは数々のインタビューによってアフガニスタンの現実をレポートしている。
 See ⇒ インターネットの遮断:アフガンから胸引き裂かれるレポートの数々

 

ネパールではSNSを遮断しようとした首相を退陣させた

ちょうど同じころ、ネパールでは偽情報対策などを名目に、ネパール政府が「未登録のSNSプラットフォーム」の国内利用を停止する措置を取ろうとした。それに対して若者を中心とする抗議運動がカトマンズを中心に広がった。SNS禁止自体への反発だけでなく、政府の長年の汚職、不公正、政府への信頼低下などに対する不満がこのデモの火種となり、デモは暴力を伴って発展、警察との衝突に発展した。少なくとも19人が死亡、数百人が負傷。西部地区の2つの刑務所から受刑者900人が脱走する事件まで発生した。その結果、K・P・シャルマ・オリ首相は9日、過去数十年で最悪規模の騒乱が起きていることを受けて辞任した。
 See ⇒ ネパール首相が辞任、抗議デモ収まらず議会に放火

 

ターリバーンによるインターネット接続の遮断は、単なる表現の自由の制限などではない

「アフガンの声」コーナーでは、「教育への影響」「職業・生計への打撃」「言論・表現の自由の制限」の実態が切実な言葉とともに告げられている。まさに国民の生存権、人権を土台から揺るがす暴挙というほかない。しかしそれは、「社会インフラ・行政の運営を阻害」するものでもあり、社会の存在そのものをも揺るがし、ターリバーンの手や足、首をも縛り、締め付ける諸刃の刃である。

 

ターリバーンの暴挙の背景と動機

ターリバーンは、なぜこのような暴挙を今おこなったのか。取り急ぎ、その背景と動機を3つ挙げておこう。

(1)イデオロギー的・宗教的モラル規制
ターリバーン側は「不道徳なコンテンツ」や「モラルの乱れ」を防ぐため、という理由を挙げている。本サイトでたびたび報じているようにターリバーンは新しいシャーリア法を制定し国民をそれに従わせようとしているが、ターリバーン内部でさえ順守を声高に叫ばざるを得ない現実がある。

(2)統治の安定性・抑圧的統制の強化
国民の不満の増加、異なる情報源による反対意見などを抑制するため、情報の流れを制限することは抑圧体制を維持する上で用いられる手段だ。ターリバーンはこれまでにも女性の活動、メディアの自由などを厳しく制限してきた。インターターネットはネットワークのツールであり、横に個々人が最速につながることのできるツールである。ネパールの例だけでなく、強権政府や権威主義国家がネットツールを恐れる最大の理由はここにある。

(3)ターリバーン内の派閥・指導部の意思
この命令はカンダハールを拠点とするターリバーンのハイバトゥッラー・アフンザダ最高指導者から出された事実が公表されている。そしてその決定の背景にターリバーン内部の対立があることが「レポート-8 権力闘争の最中、インターネットが遮断される:ハイバトゥラーは自らの影に屈する」で暴露されている。

 

数々の実例と胸をうつ叫び

ターリバーンによるインターネット遮断の暴挙は、アフガニスタンの今後に重大な影響を与える事件となるだろう。「アフガニスタンの声」コーナーに収録された次のふたつの記事を参考にしていただきたい。

インターネットの遮断:アフガンから胸引き裂かれるレポートの数々
<レポート-1> Wi-Fiの切断から希望の再燃へ (突然オンライン学習ができなくなった少女の悲痛な叫び)
<レポート-2> インターネット遮断:グラフィックデザイナーのキャリアを崩壊の危機に追い込む
<レポート-3> インターネット遮断:女子教育の最後の砦に対するターリバーンの「自爆攻撃」
<レポート-4> ターリバーンによるインターネット遮断への反応:組織的弾圧と最後の希望の炎の消滅
<レポート-5> 経済打撃から抑圧の道具へ:専門家はターリバーンのインターネット遮断がアフガニスタンの危機を深刻化させると警告
<レポート-6> インターネット遮断:アフガニスタンの女性​​を沈黙させるプロジェクトが完了
<レポート-7> インターネット遮断、アフガニスタンの女性​​と少女たちの最後の希望の光を打ち砕く
<レポート-8> 権力闘争の最中、インターネットが遮断される:ハイバトゥラーは自らの影に屈する
<レポート-9> エンタメの裏側:ユーチューバーがターリバーンの弾圧を隠蔽する

ターリバーンによるインターネット遮断:アフガニスタンは沈黙と完全な暗闇に陥る

 

問題はアフガニスタンやネパールだけではない

アフガニスタンやネパールだけでなく、世界には数多くの独裁国家や権威主義国家がある。それらの国々にとって、情報流通インフラとしてのインターネットは必須だが「言論封鎖」「反対意見を封じる」ためには邪魔者である。しかし、自由と民主主義の守護神であったはずのアメリカが、アジアや中東やアフリカや中南米の国々でさえビックリするような赤裸々な言論統制、反対者抑圧をするようになってきた。アメリカ以外のG7諸国ではそれほどではなくてもポピュリスト勢力が力を増してきて「誤情報対策」などの名目で情報統制の動きがでてきている。この点も要考察事項である。

【野口壽一】