(WAJ: 国際アジア共同体学会は12月7日、同学会の年次総会にあたり、出席者および各団体と共同で下記の声明を発表した。高市首相の発言をきっかけに高まっている日中両国の緊張を憂うる両国研究者の声を心して聞くべきである。国際アジア共同体学会はアジア地域の平和・共存・協力をテーマに、政治・外交・経済・歴史・文化などを横断的に研究・議論する学際的な学会で、日中関係を中心に、東アジアの安全保障、地域協力、共同体構想などを主要な研究対象とし、研究者だけでなく、実務家や市民も参加する開かれた議論の場を特徴としている。学術研究にとどまらず、政策提言や民間交流の促進を通じて、アジアの安定と協調に貢献することを目的として活動している。)

 

声明文 

 

私たちは東アジアの平和と安定に向けて取り組む学術団体である。“台湾有事”に関し集団的自衛権を行使する「存立危機事態」になり得るとした高市早苗首相の国会発言により、日中両国の関係が急激に悪化していることを深く憂慮する。とりわけ日中両国の対立が経済損失はじめ様々な分野への影響や国民感情の悪化を招くのみならず、東アジアの安全保障を巡る緊張を高めることを強く危惧するものである。戦後80年間、日中両国は戦火を交えず、平和的に発展してきた関係をこれ以上悪化させる事は両国に取り痛手となる。ここに、学会の中立的な立場から声明を発表し、両国政府に対し早期の関係修復を求めるものである。

1、日本の現職首相が国権の最高機関である国会で“台湾有事”の際に米軍の援軍として自衛隊参戦の可能性に初めて言及したことは、従来の政府見解が踏み越こまなかった一線を越えるものであり、極めて重大である。「綸言汗の如し」、国家指導者の言葉は容易に元に戻らず、厳に責任を自覚することが肝要である。

2、中国政府は「核心利益」中の「核心利益」とする台湾問題への内政干渉であり「一つの中国」原則に反するとして首相発言の撤回を一貫して要求している。高市首相は、問題とされる答弁を行った数日後すでに国会で「反省点として、今後は特定のケースについて明言することを慎む」と述べ、更に、日本政府は、質問主意書に対する回答等で、従来の政府答弁を明確に述べ始めたものの、発言の撤回には至っていない。結果として、両国政府間の溝は深まりつつあるとさえ感ぜられる。
私たちは、首相発言の撤回が根本的な解決に結びつく最善の対応と考える。しかし、それが困難ならば、高市首相が問題とされる発言の数日後から「反省してこれからは言わない」と国会で発言していることを中国側に伝え、対話と協議による外交努力に邁進すべきと考える。
2000年代初頭の靖国参拝問題や2012年の尖閣問題による両国の関係悪化時に、合意文書の作成、親書や特使を含めた対話と協議により、関係修復を図った外交努力を範としたい。

3、日本政府は、1972年の日中国交正常化共同声明第3項を堅持し、台湾問題の平和的解決を求め続けるべきである。両国政府は、日中関係の基礎となる「四つの政治文書」を再確認し、戦後80年間維持してきた「不戦・平和」の貴重な実績を将来にわたり維持するよう求める。

4、中国は日本の最大の貿易相手国であり、また両国の官民両分野で広範な交流により密接な関係を築いており、こうした関係が途絶えるような事態は双方にとって大きな損失につながる。日中両国政府はできるだけ速やかに政府間協議を開催し、この件によって停滞した両国間の経済交流や地方交流、学術・文化を含む民間交流を元に戻るよう強く求める。

5、高市首相と習近平国家主席が首脳会談で確認した、「戦略的互恵関係の推進」による「安定的、建設的な日中関係」は、東アジアの平和と安定に不可欠であり、両国政府が共にその実現に努力するよう求める。

            2025年12月7日
            国際アジア共同体学会
            会長 進藤榮一・筑波大学名誉教授

====声明発表の場====

日時 12月7日(日)12:25-17:30
場所 明治大学グローバルフロント1階多目的会議室(千代田区神田駿河台1丁目1)
内容 国際アジア共同体学会年次大会

主旨 日本の学会、学術団体として初めて、日中関係修復の打開策として具体的な外交策を提示する。
“台湾有事”に関する高市首相の国会答弁を巡る日中対立は、早期の関係修復が必要である。
高市首相が問題発言のその後、「反省し、今後特定のケースについて発言しない」と答弁したことを以て中国に然るべき方法で伝え、対話と協議による外交努力に邁進すべきである。

※ 当日は同学会を主体に関係団体等との共同発表