Pakistan’s Strategic Dilemma: Choosing Between the Asian and American Axis in the Context of Afghanistan

 

(WAJ: アメリカでトランプ大統領の2期目がスタートして、戦火の中にあるガザやウクライナのみならず、高関税率を梃子とする世界貿易秩序の改変により、世界の政治経済情勢は激しく揺すぶられている。米NATO軍が撤退した後、3年半に及んでアフガニスタンを支配してきたターリバーンも同様である。アフガニスタンは国家財政の過半を国外からの援助に頼り、国連やさまざまな人道支援組織からの国際的な援助によって生き延びてきた。3年半たっても国家承認を得られないターリバーンの治世も根本からゆらいでいる。その揺らぎはターリバーン内部の不協和音、対立として外部にも表れるようになっている。一部では内戦の再発の危険がささやかれている今、アフガン内部の状況およびパキスタンやイランなどの関係について、ファテー・サミ氏が分析・コメントする。なおサミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で閲読できる。)

 

ファテー・サミ(本サイト・アフガン主筆)
2025年2月10日

はじめに

アフガニスタンの状況は極めて複雑で流動的な地政学的問題であり、世界的な勢力争いや地域の力学と深く絡み合っている。この国は、特にアメリカ、パキスタン、そして周辺のアジア諸国を含む西洋と東洋の大国による戦略的な駆け引きの中で重要な焦点となっている。ソ連時代以来、アフガニスタンはグローバルおよび地域のアクター間の競争の駒として利用されてきたが、ターリバーン政権下での最近の動向は、この複雑なハイリスクの争いが今も続いていることを示している。アフガニスタンの現在の課題を理解するには、国内政治の分析にとどまらず、外部勢力の影響と彼らの相反する地域的利益を考慮する必要がある。

これらの力学は、ソ連の支援を受けたアフガニスタン人民民主党政権の崩壊(訳注:1989年にソ連軍が撤退したあと1992年に完全崩壊)以来、顕在的および潜在的な形で進化してきた。冷戦時代を通じて、アメリカはムジャヒディーン派閥に対して政治的・経済的・安全保障面での大規模な支援を行い、その大部分はパキスタンを経由して提供された。腐敗し傀儡的なハミド・カルザイおよびアシュラフ・ガニー政権が崩壊した後、アメリカはさらにターリバーンを支援し、資金、武器、戦略的支援を提供した。また、アメリカは多くのテロ組織を育成し、地域の不安定化を狙い、特にロシア、イラン、中国といったアジアのライバル国を標的とした緊張の温床を作り出そうとした。より広範な戦略的目的として、アメリカは不安定を生み出し、これらの対抗勢力を弱体化させようとしている。

ターリバーンの政権復帰は、ドーハ和平合意を通じて正式に確立され、より広範な戦略・情報プログラムの継続の一環と見なされている。 この意味で、ターリバーンの再興は予期せぬ展開ではなく、むしろこの地域における長年の米国の外交政策の延長である。

ターリバーンの再浮上、特にカーブルやカンダハールといった政治の中心地での復権は、シラージュディン・ハッカーニ(訳注:ターリバーンの第一副指導者 https://en.wikipedia.org/wiki/Sirajuddin_Haqqani)や神出鬼没なムッラー・ハイバトゥラーといった人物の指導のもとでの権力闘争によって特徴づけられる。 カンダハール派のターリバーンは、ドゥラーニー系パシュトゥーン族のさまざまな分派から支持を得ている一方、カーブル派はハッカーニの指導のもとで国家の権力構造に強固な足場を築いている。カンダハール・ターリバーンの指導部の中心にはムッラー・ハイバトゥラーがいるが、彼の実体は2016年にパキスタンで爆発的に誕生して以降、謎に包まれている。 しかし、彼が姿を見せない陰で、情報機関―特にパキスタンのそれ―は彼の名で命令を発し、ターリバーンにこれらの指示を順守させ続けている。 これは、かつてムッラー・オマルの時代にも見られた手法を想起させる。彼もまた姿を消していたが、その死後も命令の正当性を与えるために彼の名が利用され続けた。

情報機関はしばしば世論を作り出し、自らの戦略的目標を推進するために物語を作り上げる。 冷戦の始まり以来、特に大国たる米国の行動は、モスクワが支援する政権に対抗するためにムジャヒディーン勢力の支援に向けられてきた。 ターリバーンの形成と台頭、さらには多くの関連するテロ組織の設立は、「緊張の温床を作り出す」ことを目的とした広範な戦略の一環であり、アジアの不安定化を狙ったものであった。 これには、ターリバーン政権への一貫した政治的・安全保障的・経済的・軍事的支援が含まれていた。

最近の報告によると、アフガニスタンでは予期せぬ展開が差し迫っているようだ。特に、ターリバーン高官の中でもハッカーニ派に属する者たちが、姿を見せない指導者に対して不服従の姿勢を示しており、その影響がアフガニスタン北部および北東部での軍事行動として現れている。これらの動きは、ターリバーン内部でのクーデターの可能性を示唆しており、カンダハールでハッカーニ派への支援が進んでいる可能性もある。また、多くのターリバーン高官やその家族がアフガニスタン国外へ移住しているとの報告もある。同時に、周辺諸国の外相がアフガニスタンを訪問しており、特にイラン外相を通じてターリバーンに対し特定のメッセージが伝えられている。(訳注:「イラン外相がターリバーン首相と会談、関係強化を呼び掛け」)さらに、ロシアや中国がアフガニスタンの治安悪化に対する懸念を強めていることから、水面下で重要な動きが進行している可能性が高いと考えられる。

トランプ大統領は、自身の政権がターリバーンに対する完全な統制の基盤を築いたと主張したがっている。彼の発言では、特にパキスタンやシリアを経由してテロ組織の戦闘員を各地へ移動させることで、将来的にアフガニスタン北部および北東部での作戦展開が準備されていると示唆している。この文脈の中で、ISIS(イスラム国)の動きが急速に形成されていることは、進みつつある大変動を裏付けている(訳注:シリアでのアサド政権追い落としをアメリカが支援している。)。さらに、米国がターリバーンへの資金提供を停止することにより(訳注:トランプ米政権の対外援助打ち切りで「50カ国の治療・予防に影響」 WHO事務局長、不安定化が進んでおり、アフガニスタンが依然として複雑な安全保障・諜報の駆け引きの中にあることを示している。これは、広範囲にわたる影響を及ぼす可能性がある。

アフガニスタンの状況は、依然として地政学的な圧力を及ぼす手段として利用されており、特に中国、ロシア、イランといった競争相手を標的にしている。しかし、こうした目的を効果的に達成するにはまだ不安要素がある。米国は、ターリバーン政権を本質から変えようと努力を続けているが、その試みは自ら課した和平戦略によって損なわれている。国際情勢が変化する中で、世界秩序はかつてないほどの流動的な状態に陥っており、この移行期間こそが、国際安全保障、政治、権力の再編において重要な瞬間となる。国家、地域、国際システム全体にわたる変化が予想される。

 

内戦寸前のアフガニスタン:列強角逐の戦略的ホットスポット

アフガニスタンは内戦の瀬戸際に立たされており、この紛争は地域の危機を深刻化させ、国民に深い苦しみをもたらす可能性がある。現在の地政学的な状況において、ターリバーンは最も優秀な代理部隊としての地位を維持しており、かかる変動期に権力闘争の中で生き延びる機会を得ている。しかし、国際的な力関係の変化と、アフガニスタンの状況に影響を与える各国の相反する利害関係により、ターリバーンを含む代理部隊に大きな変化が求められる可能性がある。

最近の動向は、アフガニスタンの将来をますます不透明にしている。ターリバーン政権下での米国の支援停止に加え、ターリバーンへの圧力の高まり――例えば、姿を隠している指導者ムッラー・ハイバトゥラーに対する逮捕令状の発行(訳注:アフガニスタン:ICC タリバン最高指導者に逮捕状請求 アフガン女性らに対する正義の一歩――により、状況は一層不安定になっている。さらに、パキスタンの地政学的立場や地域の動向、地域・超地域的な大国間の競争の激化が、今後の展開を正確に予測することを困難にしている。

例えば、報告によると、当初パンジシール州やアンダラブ地域(訳注:バグラーン州南部の一帯でパンジシールとともにアフガニスタン国民抵抗線線の拠点)に移住させられた複数のターリバーンの家族が、南部の州へと移動させられたという。この移動に伴い、以前は北部に駐留し、パンジシールやアンダラブでの作戦に従事していた軍部隊が南部へと再配置されている。こうした動きは、今後重要な展開が差し迫っている可能性を示唆しており、ターリバーンが内部または外部からの圧力に対応するためにこれらの措置を講じた可能性がある。さらに、ターリバーン内部で不満が高まっており、特にカンダハール派への権力集中を批判する反対派のムッラーたちの動きがメディアの注目を集め、内部の亀裂が生じていることを示している。こうした事態を踏まえると、これらの動きは偶発的なものなのか、それともアフガニスタンの政治・安全保障情勢におけるより大きな組織的変化の兆候なのか、という疑問が生じる。

 

トランプ大統領の怪しいターリバーン政策:米国の戦略とアジアのライバルへの含み

パキスタンは、歴史的にイギリスやアメリカとの同盟関係にあわせてもっぱら行動して来たが、現在ではアジア軸に同調して動くよう圧力を受けている。

ドナルド・トランプ大統領のターリバーンに対する立場は、特にアジアにおける米国の戦略という広範な文脈の中で、怪しさと矛盾をはらんでいる。彼の政権はターリバーンの政権復帰につながったドーハ和平合意の仲介に重要な役割を果たした一方で、ターリバーンに関する彼の発言は一貫性を欠いていた。トランプの政策は、大局的には中国やロシアといったアジアの大国の台頭を抑えることに焦点を当て、米軍のアフガニスタン撤退を優先していたように見える。しかし、彼の政権は、かつてテロ組織と見なされていたターリバーンと交渉するという現実的なアプローチを取ったとも考えられ、変化しつつある戦略的ニーズに応じて進んで身を翻す含みを持っていた。このターリバーンへの一定の承認と、中国・ロシアの影響力を抑えようとする米国の広範な戦略が組み合わさることで、米国の外交政策には一層の怪しさが加わった。トランプの戦略は、ターリバーンを地域の不安定要因として利用し、アジアの競争相手の地政学的な野心を損なおうとする意図があった可能性がある。しかし、彼の発言は、ターリバーンをアフガニスタンの将来において持続的な役割を果たす存在として認めるのか、それとも不安定化の手段としてのみ利用するつもりだったのかを明確にはしていなかった。

それは二つの道のどちらかの選択を迫る。ひとつは地域の安定を優先しアフガニスタンで長引く紛争を終結させる努力をする道、もうひとつは外部勢力との地政学的競争を続ける道である。集められた証拠によれば、パキスタン国内で高まる安全保障上の脅威は、地域的な圧力の直接的な結果であり、それによってパキスタンはより広範な地政学的舞台で影響力を発揮する能力を制限されてきた。しかし、ターリバーン統治下のアフガニスタンに対する国際的な姿勢が変化する中で、パキスタンの役割はより顕著になると予想される。

アメリカがアフガニスタン支配を取り戻そうとする試み、特にアジアのライバル勢力を牽制する目的での動きは、インド、アラブ諸国、トルコの関与を伴って進められてきた。この連携により、パキスタンの関与が深まり、東西間の競争における新たな局面が開始された。さらに、ターリバーン、アラブ諸国、アメリカが関与する諜報活動の激化によって、複雑なネットワークが形成されている。例えば、シラージュディン・ハッカーニのようなターリバーン指導者がパキスタン軍統合情報局(ISI)の指導の下で頻繁に移動していることや、ワシク氏(訳注:事実上の情報相で、ハッカーニに随行し1月にUAEを訪問した)によるアラブ諸国への外交訪問などは、より統制された戦略が進行していることを示唆している。

<参考記事> ハッカニ氏のUAE訪問はタリバン指導部内での彼の役割を高めるための試みと見られる

 

ターリバーン指導部の形成には、ムッラー・バラダール(訳注:ターリバーンの共同創設者、ムッラー・ヤクーブ(訳注:アフガニスタン国防相 ターリバーン創設者オマル師の息子、シラージュディン・ハッカーニ、ハイルラ・ハイルカなどの人物が含まれており、これは偶然ではない。この人事の背後には、ターリバーンの指導部を再編するに留め、暴力の連鎖は維持する狙いがあり、それがアフガニスタンの不安定な未来につながっている。その裏にある、ターリバーン内部の派閥間の対立を煽り、安全保障上の危機を生み出し、最終的には地域全体を混乱に陥れるというたゆまぬ努力も、この大規模な地政学的戦略の一環である。この計画は、中央アジアの重要な資源の確保をめぐる地域大国と超地域的勢力の競争と密接に関連している。

もしアメリカとその西側同盟国が主導するこの戦略がうまく進まなければ、その結果は壊滅的なものとなるだろう。この計画実行の失敗は、ターリバーン主導のより暴力的で容赦のない代替案を浮上させ、アフガニスタンがさらに激しい内戦へと突入する可能性が高い。前述の通り、そのような紛争は大規模な流血を引き起こし、地域のよりいっそうの不安定化とアフガニスタン国民の苦難を一層悪化させることになる。

結論

結論として、アフガニスタンの状況は単なる国内危機にとどまらず、東西間の大きな権力闘争の焦点となっている。米国の撤退とドーハ合意の下でのターリバーンの復権は、数十年にわたって続いてきた戦略的な駆け引きの延長線上にある。パキスタンをはじめとする地域の関係国は、対立する勢力の狭間でますます板挟みになり、アフガニスタンがより広範な地政学的対立の戦場となることが予想される。一方で、外部勢力が自らの戦略的利益のためにアフガニスタンの不安定さを利用し続ける中、先行きは不透明である。変動する世界とますます分断が進む安全保障環境の中で、アフガニスタン国民が自らの未来をどのように形成していくのかは、依然として複雑で未解決の課題である。

<参考文献>

・Coll, S.、2004 年。『幽霊戦争: ソビエト侵攻から 2001年9月10日までの CIA、アフガニスタン、ビンラディンの秘密の歴史』ペンギン プレス。
・Cohen, S.P., 2004. 『パキスタン軍』 オックスフォード大学出版局.
・Gerges, F.A., 2021. 『ターリバーンの対テロ戦争:アフガン危機と過激派イスラム主義との世界的闘争』 オックスフォード大学出版局.
・Hussain, Z., 2021. 『ターリバーンの復帰:パキスタンと地域への影響』 カーネギー国際平和基金.
・Johnson, T.H. & Mason, M.C., 2008. 『火が放たれるまで兆候なし:パキスタン・アフガニスタン国境の理解』 ランド研究所.
・Katzman, K., 2021. 『アフガニスタン:ポスト・ターリバーンの統治、安全保障、米国政策』 米国議会調査局.
・Klein, N., 2007. 『ショック・ドクトリン:惨事便乗型資本主義の台頭』 ピカドール.
・Rubin, B.R., 2013. 『アフガニスタン:西側はどのように道を誤ったのか』 オックスフォード大学出版局.
・Sanger, D.E., 2009. 『遺産:オバマが直面する世界とアメリカの権力への挑戦』 ダブルデイ.
・Wilkinson, M., 2018. 『ターリバーン:武装イスラム主義、石油、そして中央アジアの原理主義』 ピーター・ラング.
・Zardad, S.A., 2020. 『ターリバーンと対テロ戦争:戦略的地政学と外部勢力の役割』 『国際政治ジャーナル』

(※書籍タイトルは英語からの翻訳)