(2025年8月25日)

 核なき戦争なき世界は可能だ 

~ヨーロッパと30カ国の逆襲の意味を考える~

 

 

ヨーロッパの逆襲

トランプ大統領とプーチン大統領のアラスカ会議があり、3日後には急遽、ワシントンにゼレンスキー大統領が駆けつけ、トランプ大統領のもとに欧州から7人の指導者たちもはせ参じてホワイトハウスで首脳会議が開かれた。

第2期トランプ大統領の登場以来、トランプから見放されたヨーロッパは、このホワイトハウスサミットのあと、着実に自立の道を進み始めたようだ。EUから離脱したNATO加盟国のイギリスもEUおよびその他諸国との連携を選択した。日本やオーストラリアもこの流れに合流している。(ワシントンサミット後もEUは米国に頼れるのか?(ガゼッタエキスプレス:コソボのメディア)

 

史上最大のマヌケ劇

8月15日午前(日本時間16日未明)、アラスカで、トランプ・プーチン会談がはじまった。

15日、米アラスカ州アンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン米軍基地で握手するトランプ米大統領(右)とロシアのプーチン大統領(ロイター時事)

 赤じゅうたんで出迎えるトランプ

「トランプ大統領によれば、ウクライナ協議については合意に至らなかったが、『大きな進展』があったという。一方、共同記者会見でプーチン大統領は、紛争に終止符を打つことに『心から関心がある』と述べた。」(BBC報道) トランプ氏はブチャの虐殺に責任があり子供の拉致容疑でICCが逮捕状を発出しているプーチン容疑者を「洗浄」し、国際舞台に再デビューさせた。

成果はなにもない。プーチン大統領は、ゼレンスキー大統領は任期オーバーのニセ大統領で交渉相手にはならない、とうそぶいている。トランプ大統領のバカさ加減が世界中に暴露されただけの結果におわった。

<アメリカ国内の反応>

Xでは、プーチン氏の専用機到着前に米兵が駐機場に赤じゅうたんを敷く写真が拡散。「恥ずべき瞬間」「赤はウクライナ市民の血の色だ」などとコメントが付いた。民主党の次期大統領候補に名が挙がるニューサム・カリフォルニア州知事は、「親友プーチンのために米兵をひざまずかせた。へどが出る」とトランプ氏を非難した。」(時事通信社 2025/08/16 20:35ほか)

民主党支持者だけでなく、流石のトランプ擁護者もエプスタイン問題などの裏切りで怒り爆発、頭を抱えていることだろう。

ゼニカネ勘定しかできないトランプのディールなるものが、幾多の人民の血を流しても非ゼニカネ的国家の名誉に執着するプーチン容疑者の民族的宗教的執念の前にはいかに醜く貧弱であるかがあらわになった会談だった。

なぜかくも、トランプ氏がプーチン大統領に弱いのか、憶測が飛び交っている。

プロレス好きのトランプ氏にとって、ヒールは必須。悪役プーチンを使って和平を演出できればノーベル賞、それがだめでも戦争が続けば武器売買で大儲け。エプスタイン疑惑が再燃し、岩盤層のトランプ支持者のなかにも動揺がひろがっている。トランプ氏はプーチン大統領にハニトラをしかけられて弱みを握られているとか。エンタメ劇場のネタは尽きない。

 

国防、国防力とは何か?

世界のメディアはウクライナ劣勢とキャンペーンしている。しかし現実の戦場ではロシア軍の進軍は止まったまま。ロシアは民間施設への派手な空爆を敢行して戦況が有利と見せかけている。

一方ウクライナ軍は、世界の戦史を塗り替えるような驚くべき戦法を現実のものとし成果をあげている。ドローンや新時代の先進軍事技術を開発しロシアの空海軍や兵站施設に実効的な打撃を与えはじめている。プーチンの非人間的尊大さをもってしても、現実のウクライナ人の誇りを打ち砕くことは容易ではないだろう。今やウクライナ人はプーチンとトランプの両方を敵に回して自らの名誉と国土を守ろうとしている。

国防力とは武器や軍装備品や兵站能力、その国の金融・経済力、工業力の総合だが、骨幹をなすのは国民であり、国民の闘う意志だ。民間施設を多数のミサイルやドローンで破壊されているウクライナ人は、ウクライナは3年半で重要なインフラ施設をことごとく攻撃され破壊される経験をした。いまやミサイルやドローンなど武器の製造は国外に移し国外から運び入れている。ロシアは民間施設を爆撃するくらいしか攻撃目標がない。ウクライナは逆にいままで無傷だったロシア国内のインフラを破壊できるようになった。外からの経済制裁とウクライナの爆撃でロシア経済は沈没に向かっている、と意気軒昂。

国家安全保障だ、国防だと打ち上げる日本の政治家はウクライナの現実をみているのだろうか。かの国の人びとの誇り高き戦う意志と行動を理解しているのだろうか。本当に武力で日本を守ろうとするなら自らの命を投げ出してでも戦う国民がいなければ戦争などできない。

マッチ擦る つかのま海に霧ふかし
身捨つるほどの 祖国はありや (寺山修司)

 

国家とはなにか、何のためのものか

プーチンは、ウクライナの独立を認めたレーニンの政策が間違いだったと言ってる。

レーニンはウクライナだけでなくフィンランドの独立も認めた。ツアーであれ資本主義であれ人民抑圧と帝国主義を徹底的に批判し政策に移し実施したのはレーニンだった。連邦制はその思想をベースにしていた。国家は王や国家官僚のものでなく人民のもの、人民をまもる機関である。ソ連の理念以前にアメリカが掲げた理念でもある。

その理念を発展させようとしたレーニンの思想を歪ませて生まれたのがスターリニズムという化け物。スポーツ選手を薬物漬けにしてでもロシア第一にしたいウルトラナショナリズムを掲げるプーチニズムはさらに醜悪な国家主義というガンだ。

問題の根深さは自由と民主主義を掲げる国ぐにが、実はむしろロシアや中国に先んじた先輩格のゴリゴリの国家主義者であり帝国主義者である点だ。大衆を幻惑させ操る術数においては年季の入ったより狡猾さをもっている。

近くは2021年の東京オリンピックや、2022年北京冬季オリンピックで、ジョン・レノンのイマジンがメイン曲として使われた。国家が利用し、ナショナリズムをあおるスポーツビジネスが、国家も宗教もない平和を希求するメッセージを世に送る、これほどのブラックジョークはない。

想像してごらん、簡単なことだよ
国家も宗教もなく、誰も殺さない、殺されない世界を
頭上には天国も、足元には地獄もない
あるのはただすべてのひとの平和な暮らし (ジョン・レノン、野口訳)

 

アフガニスタンとウクライナの違い

1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻とウクライナへの侵略行動は、表面的な類似はあるが、本質的に決定的な違いがある。

アフガニスタンの場合、ソ連は、アフガニスタン政権の要請によりその政権の政策遂行を支援するために出兵した。ソ連勢力圏、影響圏の防衛意思に基づくものではあったが領土拡張のためではなかった。しかし、武力によって「人民のための政策=幸福」を防衛できると考えたところに失敗の原因があった。(同様にアメリカが、日本で成功したようにアフガニスタンを民主化できる、と考えたのも大失敗の原因だった。)

 

ウクライナとソ連・ロシアの紛争略史

・1991年:ソ連崩壊に伴い、ウクライナほかソ連構成国が独立。ウクライナは中立宣言しクラフチュク大統領(91~94年)就任。
・1994年:ブタペスト覚書(ソ連の核をウクライナやカザフスタンなどからロシアへ集中:ロシア米英がウクライナの独立、領土保全、武力不行使、核兵器の不使用を保証)。実質的なロシアの核軍拡。
    クチマ大統領(94~2005年)EU、NATO指向
・2004年:オレンジ革命(欧米派政権誕生)
    プーチン、大統領再選(オレンジ革命を理由にブタペスト覚書否定)
・2005年:ユシチェンコ大統領(05~10年)
・2008年:ユシチェンコ大統領、NATO入りの希望表明
・2010年2月:ヤヌコヴィッチ大統領(親ロ派)誕生
・2013年:ヤヌコビッチ、ロシアとの緊密化を決定(中国と安全保障友好協定)
・2014年2月:マイダン革命(ヤヌコヴィッチ逃亡、親欧米派政権誕生)
    3月:ロシア、クリミヤを武力併合
    4月:ドンバス戦争開始
    9月5日:ミンスク1合意
・2015年2月11日:ミンスク2合意(プーチンは、ウクライナが守らずジェノサイドをしていると主張)
・2019年5月:ゼレンスキー、大統領に当選、EU、NATO加盟憲法改正案発効
・2021年7月:プーチン7月、論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」発表。
・2022年2月24日:ロシア、ウクライナへ侵攻

 

ロシアのウクライナ侵略戦争の行方

第2次世界大戦後、世界はソ連を先頭とする世界社会主義連合vsアメリカが主導する資本主義西側連合が対峙する冷戦体制に陥った。アフガニスタン紛争はこの中での出来事であった。

ソ連のアフガニスタンへの侵攻は、ソ連陣営に対する西側との宣戦布告なき代理戦争に発展し、ソ連の侵攻の失敗、世界社会主義体制の崩壊を引き起こす要因のひとつとなった。ソ連のアフガニスタンへの侵攻はアメリカの諜報活動によって誘引された

ソ連におけるゴルバチョフ政権の樹立(1985年)、アフガニスタンからのソ連軍撤退とベルリンの壁の崩壊(1989年)、旧ソ連社会主義世界スキームの崩壊によるヨーロッパでの勢力圏争い。EU、NATO圏の拡大(ひたひたとロシア国境まで到達)とつづいた。

NOTOの拡大がロシア国境にまで延び、アメリカ(ネオコン)らはロシアを追い込み、挑発によりロシアの軍事侵攻を誘発する罠を仕掛けた。こらえきれずプーチンはこの罠に引っかかった。プーチンはロシア政治のトップとして登場して以来、数々の戦争を仕掛け、勝利することにより「偉大なるロシア復興」の幻想をロシア国民に与え続けてきた。

ロシアはブタペスト覚書によるウクライナの独立尊重の約束を破り、クリミア半島を占領しウクライナ国内の親ロ派を独立宣言させ、支援と称して侵攻、併合した。窮鼠猫を噛む侵略行為である。プーチンの狙いはウクライナの一部の領地を奪うことでなく、米英NATOをウクライナ以西に追い戻すことであった。

アフガニスタンでソ連を挑発して軍事侵攻させたアメリカは、NATOを引き連れてヨーロッパでの支配権を拡大しようとしてウクライナでも同じことをした。しかしもはや「世界の警察官」の役割を果たせなくなったアメリカは後退戦を余儀なくされるにいたった。アフガン・ヨーロッパ戦線での戦線縮小、後退戦を担当しているのがトランプ大統領というわけである。

 

30カ国の逆襲に日本も合流している

トランプ大統領の言動が二転三転するのは、彼の性癖(TACO)でもあるが、アメリカの力量がすでに世界をコントロールできる能力を失ったことが最大の要因だ。トランプ氏はウクライナから手を引きたいと切望している。

8月18日のワシントンにおけるゼレンスキー大統領との会談および彼をふくむ欧州7人組とのホワイトハウス会談は、ヨーロッパから手を引くと宣言するアメリカからヨーロッパが自立する歴史的な転換の日となった。

European leaders listen in the East Room of the White House.

ヨーロッパから手を引くと主張するトランプ氏は、アメリカからヨーロッパへの武器販売スキームを確立した。米国の装備をNATO加盟国が購入し、それをウクライナに転送する枠組みである。(APニュース他

今回さらに1000億ドルの武器をヨーロッパに売り、ヨーロッパがそれをウクライナに提供する構想やさまざまな米国製武器の取り引きが取りざたされている。トランプのディールの正体がこれである。(ニューヨーク・ポストフィナンシャル・タイムズ

ウクライナ防衛に直接の軍事力を行使しないと言明しているトランプ政権に対して、ヨーロッパ勢は、アメリカ抜きに有志連合(数カ月前から約30カ国で協議、日本も含む)を結成し、ウクライナの安全を軍事的に担保する構想をルッテNATO事務総長が表明している。(ウクライナ「バベル」報道

トランプから見放されたヨーロッパは着実に自立の道を進み始めた。EUから離脱したNATO加盟国のイギリスもEUおよびその他諸国との連携を選択した。日本やオーストラリアもこの流れに合流している。(ワシントンサミット後もEUは米国に頼れるのか?(ガゼッタエクスプレス:コソボのメディア))

 

核なき戦争なき世界にむけて

現在の世界は国際連合をはじめとする、国家間の連合や連携、さらには宗教団体の行動によって動かされている。平和は戦争と戦争の間の戦争のない時期でしかないのが現実だ。

だが、核なき世界、戦争なき世界は世界人民の願いだ。2009年にノーペル平和委員会がさしたる成果もないのにオバマ大統領に、2017年に核兵器禁止条約の制定に大きく貢献したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)に、そして2024年日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)にノーベル平和賞を与えたのは、「核なき戦争なき世界」を実現しようとする世界人民の願いを支援しようとしているからだ。

「核なき戦争なき世界」は、世界の願いである。しかし、武器を武器で抑圧する、核兵器を核兵器で抑止するという暴力思想では「核なき戦争なき世界」を実現することはできない。

インドの独立を非暴力の思想と信念で実現したガンジーは「真実と信念は必ず実現する」との言葉を残している。彼はその非暴力の思想と哲学について次のようにも述べている。いまこそこの言葉をかみしめ、玩味すべきときではないだろうか。

「非暴力は成長の遅い植物のようなものだ。目に見えないほどゆっくりと、しかし確実に育つ」
“Nonviolence is a plant of slow growth, it grows imperceptibly but surely.”
(マハトマ・ガンジー:Mahatma Gandhi (1958). “Collected Works”)

【野口壽一】