『手に魂を込め、歩いてみれば』で
ニュースでは到底実感の湧かないガザを感じる

野窓パルワナ

2014年のイスラエル・ガザ紛争で被災したガザの人々のための緊急人道支援で
エルサレムに駐在し、
ガザにほとんど毎月通っていた身として、ガザの出来事は他人事ではない。
なので『手に魂を込め、歩いてみれば』の特別試写会の機会は大変ありがたかった。

映画はイラン出身のセピデ・ファルシ映画監督が
ガザに入域したくてもできない様子から始まる。

私も2024年5月、ガザとの国境、エジプトのラファからの
緊急支援物資の越境手配のためカイロにいた。
外国人は勿論のことエジプト人もラファへの入域は
エジプト政府により厳しく制限されていて
もどかしく感じたことを思い出した。

主人公のファトマ・ハッスナーはガザ市で暮らす24歳のフォトジャーナリスト。
ファルシ監督は知人を介してオンラインでファトマと知り合い、
彼女を通じてガザの様子を映像に収めていく。

二人のコミュニケーションは約1年に及んだ。

明るく笑顔を絶やさなかったファトマだけれど、
時間が経つにつれて笑顔が少なくなり、うつろな表情を見せるようになっていく。

ほとんど食べていないと言う。
きれいな水もない。
集中できない、
思考できなくなってきていると言う。。。

ヘリコプターやドローンが飛び交う騒音
背後に聞こえる爆撃
ファトマの住居の窓から見える、空爆による爆煙
破壊されぺちゃんこに倒壊した建物や家々と瓦礫の山

ファトマも何度も強制移住を強いられている。
でもガザに安全なところはどこにもない。

ビラによりその地への攻撃予告と移動勧告をしておきながら、
人々が移動すると、移動先を攻撃するイスラエル!
信じられない!

大好きだった親戚、親友がイスラエル軍に殺害され、
悲しくいたたまれないファトマ。

ファトマが段々無表情になっていく様子が辛い。

連日ニュースで流れるものの、
遠く実感のないガザ地区の惨状が、
ファトマの映像や写真を通じて目の前に迫り、胸が詰まる。
戦争が与えるファトマへの心理的影響を目の当たりにして、
戦争の怖さ、悲惨さに身震いする。

そして遂に
家族7人共々ファトマが空爆の犠牲となる日が来てしまった!
ファトマとのやり取りが映画としてカンヌ映画祭に招待された翌日に。

この映画を通じて、
生身の人間ファトマの目を通じて、
イスラエルに攻撃されるガザ地区の様子、
戦争が人間に与える甚大な物理的、心理的影響が胸に迫る。

以前属していた団体で、
ハラハラしながらガザの現地スタッフの毎日の安否確認連絡を
待っていたことを思い出した。

まさに、明日どころか1時間後に
自分がどうなっているか分からない状況にいることを
私たちは想像しがたい。。。

「今こそ この戦争を撮って世界に見てもらう必要がある。
苦しみを全て記録するの。他に誰がやる?」と言ったファトマの強さ。

映画を見ながら
電気もほとんど使えない状況で、インターネットの接続の悪い中で
ファトマは監督とよくコミュニケーションを続けているなと思ってしまったのだけれど、
これはファトマの信念と覚悟の表れだった。

ファトマは記録した。
今度は一人でも多くの私たちが見る番。
ファトマが言うように、
世界中の私達には、その必要がある。

2025年11月20日現在、ガザ地区における死者数69,500人、負傷者数17万人以上。
ガザの人口は約220万人だったので、人口の約10%以上の人々が死傷している。
このうち2025年10月の停戦合意以降に殺害されたのは280人にも上る。
また、国連開発計画はガザの80%の建造物は破壊されたと報告している。

ガザの惨状の影となり余り報道されないけれど、
ヨルダン川西岸の方も、
実は約1000人もがイスラエルによって殺害されていることも忘れてはならない。

まだまだ戦争は終わっていない。
私達には、この映画を見る必要がある。

『手に魂を込め、歩いてみれば』は12月5日より全国で順次上映される。
是非映画館に足を運んで
ガザの一般市民の目線でガザを感じて欲しい。ガザに触れて欲しい。
https://unitedpeople.jp/put/

Blog『海外支援従事者のひとり言』でも当映画のこと、パレスチナ状況を含め
駐在国の現場の様子や日本で世界を感じるあれこれを発信しています。
是非ご覧ください。
https://parwana.hatenablog.com/