The Muslim Brotherhood Movement: Intellectual, Historical, and Geopolitical Analysis

 

(WAJ: 。中東で最大級のイスラーム政治組織であるムスリム同胞団に関しては、トランプ政権第1期にテロ組織として指定するかどうか検討されていたがこれまでテロ組織としての指定はなされてこなかった。しかし11月18日、テキサス州でテロ組織として指定されるにいたっている。では、このムスリム同胞団とはどういう組織なのだろうか。本サイトのアフガンサイト主筆であるファテー・サミ氏が詳細に論じる。なお、本稿の著者ファテー・サミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。)

 

ファテー・サミ(Fateh Sami):フリーアカデミック研究者
2025年11月2日

 

はじめに

イスラーム主義(Islamism)は、宗教的・政治的イデオロギー傾向の広範なスペクトラムを構成し、イスラームの原則を政治システムに統合することを主張する(Roy, 1994; Voll, 1994)。その支持者たちは、イスラームが本質的に政治的であり、リベラル・デモクラシー、共産主義、資本主義といった世俗的な代替案よりも効果的に社会正義・道徳秩序・政治的正統性を確保しうる包括的な規範的枠組を提供する、と主張する(Esposito, 1998; Piscatori, 1983)。この見解を支持する者たちは、アラビア語で「アル=イスラーミユーン」(al-Islamiyyun) と呼ばれ、しばしばイスラーム諸制度・社会動員ネットワーク・または組織化された政治的集団と結びつけられる(Haddad & Esposito, 1998)。多くのイスラーム主義潮流の中心には、統治の基盤としてのシャリーアの実施、ムスリムの超国家的連帯の追求、イスラームの正当性に基づいた国家または公共秩序の確立への志向が存在する(Mandaville, 2007)。

この多元的なイデオロギー的景観の中で、1928年にハサン・アル=バンナー(Hasan al-Banna)によってエジプトで創設されたムスリム同胞団(アル=イクワーン・アル=ムスリムーン/al-Ikhwan al-Muslimun)は、近代における政治的イスラームの最も重要な潮流のひとつとして台頭した(Mitchell, 1969)。宗教的復興と社会福祉・教育活動・政治的アクティビズムを結合させた独自の組織的潮流として理解されるが、その教義的・戦術的革新はアラブ世界のみならず世界中に広く模倣され、20世紀および21世紀における他の多くのイスラーム主義潮流の発展に影響を与えた(Kepel, 2002)。

その持続的なイデオロギー的影響力と地政学的関連性を踏まえると、ムスリム同胞団は近代イスラーム主義の進化を理解するうえで極めて示唆的な事例である。同運動は宗教的・社会的イニシアチブとしてだけでなく、政治的・地政学的アクターとして機能し、地域およびその外部に対して相当の影響力を行使できる存在であった。

したがって、本研究は同胞団の以下の二つの主要な側面を検討することを目的とする:

研究の二つの柱
1. 知的・イデオロギー的側面: 運動の言説・原則・教え・イデオロギー的進化の分析
2. 地政学的側面 : 同胞団の外国勢力・地域国家との関係、およびより広範な戦略的・政治的力学における役割の検討
これら二つの側面を統合することによって、本研究はムスリム同胞団の本質と機能の全体像を明らかにし、そのイデオロギー的基盤と地域における政治的活動との相互関係を解明することを目指している。

 

歴史的背景と運動形成
オスマン帝国カリフ制の崩壊後、アラブ世界は深刻なアイデンティティの危機と政治的空白に直面した(Cleveland & Bunton, 2016)。アラブ世界の主要な知的・政治的中心であったエジプトは、世俗主義・民族主義・共産主義の諸潮流の競合の焦点となった。この時期、社会改革とイスラームへの回帰の必要性が広く認識され、ムスリム同胞団の台頭にとって肥沃な土壌が形成された(Mitchell, 1969)。

 

ハサン・アル=バンナーによる創設(1928年)
1928年、ハサン・アル=バンナーはエジプトでムスリム同胞団を創設し、シャリーア・道徳原則・社会正義・倫理的結束に基づいたイスラーム社会の構築を主要目的とした。そのイデオロギー的枠組は以下の三つの基本柱に基づいていた:
1. タウヒード(神の唯一性)とウンマ中心主義:イスラームを人生のあらゆる側面を包含する包括的な体系として捉えること。
2. 個人と社会改革:社会に存在する腐敗と不正義を根絶する取り組み。
3. 抑圧と腐敗との闘い:不正義に立ち向かうため、社会的領域と政治的領域の双方で積極的に関与すること。

この創設期において、ムスリム同胞団は宗教的復興主義と社会的アクティビズム、さらに政治的関与を結びつける運動として確立され、その後エジプト全土、さらにはより広範なアラブ世界にも影響を及ぼす基盤を築いた。

 

知的・イデオロギー的側面:核心原則と創設者の思想
ムスリム同胞団は、古典的なイスラーム教義に基づきつつ、ハサン・アル=バンナーによる改革的解釈を統合する形で創設された(Mitchell, 1969)。この運動は、イスラームを包括的な社会・政治システムとして提示することを目指し、個人の道徳性・社会的責任・社会改革の重要性を強調した。
アル=バンナーの構想において、イスラームは単なる精神的・儀礼的実践ではなく、公的・私的生活のあらゆる側面を導く枠組として捉えられていた(Esposito, 1998)。

 

組織構造と内部的凝集力
同胞団は体系化された階層的組織と成文化された内部規則を維持し、教義の一貫した伝達を確保するとともに、メンバー間で共有されたアイデンティティ意識の形成を促進した(Wickham, 2002)。この組織的枠組によって、運動は以下のことを可能にした:
• 広範な教育・文化活動の実施
• 地域的・地方的ネットワークの構築
• エジプト、そして後にはより広いアラブ世界における社会的・政治的影響力の拡大

 

世俗主義・民族主義との対峙
世俗主義および民族主義の潮流に直面し、ムスリム同胞団は継続的な批判的論考を展開し、イスラーム原則への回帰こそがアイデンティティの危機・社会の崩壊・道徳的腐敗を克服しうると主張した(Esposito, 1998)。
こうした知的介入は近代政治イスラームの台頭に大きく寄与し、同胞団のモデルはその後のイスラーム運動にとって影響力のある参照点となった(Esposito, 1998)。

 

移住後の展開
1950年代、ガマール・アブドゥル=ナーセルの下で弾圧が行われた後、同胞団の指導者たちは湾岸諸国や北アフリカへ移住した(Kepel, 2002)。そこで彼らは、学校・文化団体・教育センターの広範なネットワークを形成し、運動のイデオロギー的・社会的教えの普及を可能にした。
この越境的拡大により、同胞団はエジプトを超えて政治的イスラームのモデルとしての性格を帯びるようになり、地域政治に影響を与える能力を高めると同時に、他のイスラーム主義運動の組織戦略の形成にも寄与した(Kepel, 2002)。

 

内部批判と課題
知的整合性と組織力を備えていたにもかかわらず、同胞団は以下のような内部的・イデオロギー的課題に直面した:
• 倫理的理想と政治的現実主義のあいだの緊張
• 宗教的アイデンティティを強調するがゆえの社会変化への柔軟性の不足
• 宗教教義が政治目的のために利用される可能性

 

他のイスラーム潮流との比較
ムスリム同胞団は、ワッハーブ主義やサラフィー主義、さらにはアル=カーイダのような武闘派ネットワークを含む他のイスラーム潮流の中でも独自の位置を占めている。
イスラームの原則を共有しつつも、漸進的社会改革・組織的規律・政治的関与を強調する同胞団の姿勢は、より硬直的または武断的な潮流とは対照的であり(Roy, 1994)、近代政治イスラーム研究における主要な参照点となっている。

 

同胞団に至る知的系譜
ジャマール・アル=ディーン・アル=アフガーニ
役割:イラン・エジプト・インドで活動したイスラーム改革者・政治活動家(Hourani, 1983)
目的:西洋植民地主義への対抗、ムスリムの政治・社会意識の喚起、イスラーム的統一(汎イスラーム主義)の推進(Hourani, 1983)
戦術:新聞・公的演説・論説による知的・教育的働きかけ
アプローチ:主として知的かつ市民的であり、大衆動員や街頭での組織化とは異なる

 

ムハンマド・アブドゥ
役割:エジプトにおけるアル=アフガーニの弟子であり、宗教・社会改革者(Voll, 1994)
目的:エジプト社会の知的改革、イスラームの近代的解釈の提示、合理主義・改革志向に基づく新世代ムスリムの育成
戦術:近代的クルアーン解釈と教育機関の設立による改革思想の普及

 

同胞団の独自性
アル=アフガーニとアブドゥの思想的遺産はイスラーム改革の基礎を形づくったが、ムスリム同胞団はそれらの思想を組織的・社会的・政治的アクティビズムへと具体化した点で異なる(Hourani, 1983; Voll, 1994)。
この転換は、ムスリム同胞団が近代政治イスラームにおけるイデオロギー的かつ実践的アクターとして機能したことを示している。

 

最終的なまとめ
本研究は、ムスリム同胞団が単なる思想的・改革的運動ではなく、地域政治・地政学的領域における積極的な参加主体であることを明らかにした。
他のイスラーム潮流との比較、およびジャマール・アル=ディーン・アル=アフガーニとムハンマド・アブドゥの思想的遺産との対照を通じて、同胞団が知的・教育的・組織的側面を併せ持つ点で、過激派・武闘派・純粋宗教主義的潮流とは異なることが浮き彫りになった(Roy, 1994; Kepel, 2002)。
さらに、デオバンド派諸学校やハサン・アル=バンナーの教育ネットワークが、地域的・越境的活動家の育成において重要な役割を果たし、宗教教義・組織構造・財政資源の統合が現代イスラーム運動の形成において中核的であったことを示している(Wickham, 2002)。
結論として、知的・教育的・地政学的という多次元的視座からこれらの運動を分析することは、イスラームおよび国家運動をより深く理解する鍵となり、独立的・比較的な分析方法はその目的・戦略・影響をより明確に浮かび上がらせる有効な手段である。

References
Cleveland, W.L. & Bunton, M., 2016. A History of the Modern Middle East. 6th ed. Boulder: Westview Press.
Esposito, J.L., 1998. Islam and Politics. Syracuse: Syracuse University Press.
Esposito, J.L., 1998. Political Islam: Revolution, Radicalism, or Reform? Boulder: Lynne Rienner Publishers.
Haddad, Y.Y. & Esposito, J.L., 1998. Islam, Gender, and Social Change. Oxford: Oxford University Press.
Hourani, A., 1983. Arabic Thought in the Liberal Age, 1798–1939. Cambridge: Cambridge University Press.
Kepel, G., 2002. Jihad: The Trail of Political Islam. Cambridge, MA: Harvard University Press.
Mandaville, P., 2007. Global Political Islam. London: Routledge.
Mitchell, R.P., 1969. The Society of the Muslim Brothers. Oxford: Oxford University Press.
Piscatori, J., 1983. Islam in a World of Nation-States. Cambridge: Cambridge University Press.
Roy, O., 1994. The Failure of Political Islam. Cambridge, MA: Harvard University Press.
Voll, J.O., 1994. Islam: Continuity and Change in the Modern World. Syracuse: Syracuse University Press.
Wickham, C.R., 2002. Mobilizing Islam: Religion, Activism, and Political Change in Egypt. New York: Columbia University Press.

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© 2025, Fateh Sami
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