Prime Minister Takaichi’s Remarks, China and Japan Must Return to the Spirit of Peace and Friendship

 

(WAJ: 2025年11月7日の衆院予算委員会で行われた、高市早苗首相と立憲民主党の岡田克也元外相の質疑で飛び出した「存立危機事態」発言をめぐって日中間の論戦が激しくなっている。日本政府は従来の立場に変更はないといっているが、首相の発言が不用意に「本心」をさらけ出したものであるのは間違いなく、中国の逆鱗に触れている。いっぽう、中国側の反応も日本側の不用意の上をいくがごとき猛烈さで、この間の状況を冷静に見れば、誰も得をしない失言と反発になっているのではないか。日本サイドのメディアとして、われわれは、両国政府の外交的やり取りと同じ土俵にたつのでなく、平和と友好を望む両国人民大衆の視点から、今回の事件を見つめる必要があるのではないか。その視点を確立するために参考にすべき意見を集めた。)

 

 

(I) 緊急声明 東海日中関係学会(川村範行会長:2025年11月26日)

「日中関係の悪化を憂慮し、早期の関係修復を求める」
打開に向けた対応5項目を提案し、日中両国政府に理性的な対応を要望する

 

(要約)
高市早苗首相が国会において、「台湾有事」の際には米軍の来援に対し自衛隊が武力行使を伴って参戦する可能性を初めて示唆し、これが集団的自衛権行使の「存立危機事態」に該当し得ると発言した。この発言は従来の政府見解を越えるものであり、中国側は「一つの中国」原則を侵害した内政干渉だとして強く反発し、発言撤回を要求した。日本政府は立場を変えておらず、両国の主張は平行線のままである。これに伴い中国は日本への渡航自粛、海産物の輸入停止などの対抗措置を取り、日本経済や民間交流、学術活動にも深刻な影響が及んでいる。国民感情の悪化も進み、2012年の尖閣諸島国有化問題以来の対立激化の可能性がある。

これを受け、日中関係の研究と交流を30年以上続けてきた東海日中関係学会は、現在の事態を看過できないとして緊急声明を発表。戦後80年間、両国は戦火を交えずに平和的関係を維持してきた歴史的成果をこれ以上損なってはならないと警告し、関係修復のための5つの提案を示した。具体的には、①対話と協議による外交努力の再開、②日中国交正常化共同声明を含む「4つの政治文書」の再確認、③政府間協議を速やかに開催し経済・民間交流を回復させること、④「戦略的互恵関係」の推進による安定的関係の再構築、⑤東シナ海等での危機管理メカニズムやホットラインの活用による安全保障上の事故防止――の5項目である。

本声明は、高市首相、木原官房長官、茂木外務大臣、呉江浩・中国大使に宛てて送付される。日中が最大の貿易相手国同士でありながら対立が続けば双方に「百害あって一利なし」であるとして、冷静な外交努力を回復させ、対立の長期化を防ぐべきだと訴えている。

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(II) 異なる視点論点23 高市首相の台湾発言はなぜ大事になったか(朱建榮 東洋学園大学教授:2025年11月20日)

高市首相の台湾発言はなぜ大事(おおごと)になったか
――2012年の「国有化」悪夢が想起される

 

(要約)
本稿は、高市首相の台湾有事発言がなぜ中国の激しい反発を招き、大問題へ発展したのかを多角的に分析している。発端は11月7日の国会答弁で、高市首相が「戦艦を用いた武力行使があれば存立危機事態にあたり得る」と述べたことにある。中国側はこれを「台湾軍事介入の明確な示唆」と受け取り、外交部・国防部を中心に集中砲火を開始。さらにSNS上での薛総領事の発言を契機に世論の対立が激化し、政府・メディアが「首相の首を切る発言」と断定的に報じたことで、日本国内では反中感情が高まり、高市支持率はむしろ上昇した。

中国側の怒りには3つの背景がある。第1に、高市発言が「ひとつの中国」と「4つの政治文書」を踏みにじり、台湾問題への軍事介入を初めて明示した点である。第2に、「台独」勢力を支援するメッセージとして受け止められた点。第3に、薛総領事発言への日本側の「意図的な曲解」と「倒打一耙(逆ねじ)」的な対応への反発である。中国の論調は、台湾問題は核心的利益であり譲歩は一切あり得ない、日本が介入すれば「侵略行為」として迎頭痛撃する――という強い警告へと変質した。

日中関係は2012年の尖閣国有化時と酷似した危険水域に入りつつあり、歴史的教訓が学ばれていないことが問題視される。国内では田中均・小沢一郎・舛添要一ら元官僚や政治家も警鐘を鳴らし、「法的根拠なき発言」「国家の危機」「出口なし」と指摘。中国側は明確な撤回か具体的合意がない限り事態の悪化は避けられないと警告している。

結論として、今回の危機は単なる言葉の問題ではなく、台湾関与の積み重ねとメディアの煽動が引き金となった「構造的摩擦」である。出口は、高位の政治的交渉と冷静な外交判断しかなく、さもなければ過去の悪夢の再演は避けられないと警告する。

(なお、論考中、日本外務省アジア太平洋局長が北京に赴いて交渉した際、日本側局長を見送る中国側局長はが両手をポケットに入れたままだった写真が、中国側の傲慢・無礼であると非難する声があがったが、おなじような写真の発表の仕方を日本も行ったことがある事実が明らかにされており、写真がいかにウソをつくかの実例が提示されており興味深い。)

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(III) 高市早苗総理への公開状(凌星光 福井県立大学名誉教授:2025年11月29日)

台湾有事発言がもたらした日中関係の危機と、四文書への回帰必要性

 

(要約)
本公開状は、高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁が中国との緊張を急激に高め、武力衝突の危険をも招いていると警告し、その撤回や善処を求める提言である。台湾問題は中国の「核心的利益の核心」であり、日本の軍事介入示唆は「ひとつの中国」原則違反として受け取られ、日中関係は国交正常化前の危険な状態へ逆戻りしつつある。筆者は6点の提案を示し、政策転換を促す。

第1に、米中関係の変化を理解すべきであり、米中が衝突を回避し始めた現状では、日本による対中抑止強化は意味を失いつつあると指摘。第2に、台湾統一は「中華民族復興」の象徴であり、すでに海空域での実効支配強化が進行しており、日本は干渉すべきでないとする。第3に、「ひとつの中国」原則は国際法で確認されており、日本はより明確な態度で支持を表明すべきである。

第4に「敵国条項」や靖国問題が未解決である以上、日本が台湾問題に軍事介入すれば、中国は国連決議なしに日本全土へ武力行使ができる可能性があると警鐘を鳴らす。第5に、日中友好4文書への回帰こそ唯一の道であり、それにより台湾問題・歴史問題・賠償問題は封印され、両国の関係は安定してきたと振り返る。

第6に、日中平和友好条約第2条(反覇権条項)に基づき、日本と中国が協力すれば覇権なき世界秩序を構築し得ると展望。米軍基地の国連管理化や軍縮も視野に入るとし、台湾問題で正しい立場を取れば日本は世界平和を主導しうると強調する。最後に、以上の提案は日中両国の賢者から支持を得られると述べ、首相からの応答を強く期待している。

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(IV) 米トランプ政権の対応(『ウエッブ・アフガン(WAJ)』によるまとめ:2025年12月1日時点)

一般原則にとどまり、『存立危機事態』適用はグレーゾーン

 

(要約)
高市首相の「台湾有事は日本の存立危機事態となり得る」との発言を契機に日中関係が急速に悪化し、中国は強く反発した。この局面で「習近平―トランプ電話会談の後、トランプが日本に抑制を求めた」との報道が相次ぎ、真偽が注目されている。事実として、習とトランプの電話会談、高市とのその後の通話は確認されており、WSJなど複数の一流メディアは「トランプが高市にトーンダウンを助言」と報じた。一方、日本政府は「中国挑発を控えるよう忠告された事実はない」と全面否定しており、会談内容の詳細は非公開のため、最終的な事実認定は分かれている。したがって、習の強い主張を受け、トランプが高市にエスカレーション回避を促した可能性は高いが、日本の政策変更を公式に求めたと断定はできない。

現米政権の公式見解は一貫して①台湾海峡の平和と安定、②いずれの側による現状変更への反対、③日米同盟と日本防衛への揺るぎないコミットメント、の三点であり、高市発言そのものの是非には踏み込んでいない。米国は原則論で日本を支えつつも、過度に中国を刺激する姿勢には一定の距離を置いているとみられる。総じて、報道レベルでは「習→トランプ→日本抑制」の構図が示唆されつつ、日本政府は否定し、米国は原則論にとどめているという二重構造が現状である。

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