米トランプ政権の対応(『ウエッブ・アフガン(WAJ)』によるまとめ:2025年12月1日時点)
一般原則にとどまり、『存立危機事態』適用はグレーゾーン
台湾有事を日本有事とする高市首相の「存立危機事態」発言が言葉の応酬による日中対立となった。この動きに対してトランプ政権は習近平政権と電話会談し、日本に抑制をもとめた、との推測報道も出てきている。その真偽をチェックし、現在のアメリカ政権の公式見解を探ってみる。
結論から言うと、
「トランプ政権が習近平と電話会談し、その後、日本に“抑制を求めた”」という見方は、完全な憶測ではなく、かなり具体的な報道に基づいてはいるが、日本政府は強く否定しており、「事実認定」は割れる状態だ。
現在のアメリカ政権の「公式見解」は、
①台海の平和と安定維持、
②いかなる一方による現状変更(とくに武力・威圧)への反対、
③日米同盟への揺るぎないコミットメント、という3点に集約されており、高市発言そのものを支持も非難もせず、「原則論」で包んでいる。
1. 「習―トランプ電話 → 日本に抑制要請」の真偽
① 事実として確認できる範囲
2025年11月下旬、習近平国家主席とトランプ大統領の電話会談が行われ、中国側は「台湾の“回帰”は戦後国際秩序の中核」だと強調したと報じられている。(The Washington Post)
この文脈の中で、日本の高市首相の「台湾有事=日本の存立危機事態になりうる」という国会発言も中国側から問題視されたとされている。
(Wikipedia)
その同じ日に、トランプが高市首相と電話会談を行ったことは、日本政府(官邸の発表)と各社報道で確認できる。官邸が公表した会談要旨では、
・日米同盟強化
・インド太平洋情勢
・米中関係の説明
などが話題であったとされるのみで、台湾や「自制要請」には触れていない。
(Prime Minister’s Office of Japan)
② 「日本に抑制を求めた」とする報道
一方、**ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)**は、「習との電話の後、トランプは高市に電話し、台湾の主権問題で中国を挑発しないよう“トーンを落とす(lower the volume)”よう助言した」と報じた。(Reuters)
これを受けて ロイターやガーディアン も、「トランプが高市に対し、中国との対立をエスカレートさせないよう求めた」と伝えた。
(AP News)
さらに、中国側・一部の論評では、「習がトランプを通じて日本を“押さえ込むことに成功した”」というニュアンスで宣伝されており、「習→トランプ→日本に抑制」という構図が、プロパガンダ的にも利用されていることがわかる。
(The Washington Post)
③ 日本政府の公式否定
しかしこれに対し、日本政府(木原官房長官)はWSJ報道を明確に否定している。
「トランプ大統領が高市首相に対し中国を挑発しないよう助言した、という事実はない」と記者会見で述べ、同紙に抗議したと報じられています。ただし同記事によれば、WSJの報道がいう
「トランプが“トーンを落とすよう求めながらも、高市発言の撤回までは求めなかった”」
という微妙なニュアンス部分について、日本側はコメントしていない。
(Nippon)
<真偽評価の中間まとめ>
確認されている事実
・習―トランプ電話 → その後のトランプ―高市電話という順番の通話は実際にあった。
・中国側は習―トランプ電話を「台湾と日本をめぐり米国を引き寄せた外交的勝利」と宣伝。
・複数の一流メディア(WSJ、ロイター等)が「トランプが高市に“ボリュームを下げよ”と助言」と報道。
争点
・日本政府は「中国を挑発するなと忠告を受けた事実はない」と否定。
・会談詳細は機密性が高く、米側も公式の文字記録を公開していない。
→ 従って現時点では、
・「習が台湾問題を強く持ち出し、その後トランプが“エスカレートは避けよ”と高市に伝えた」可能性は高いが、
・“日本に対し政策として『存立危機事態』路線の自制を公式に求めた”とまで断定することはできない、という整理が妥当。
2.2.現在のアメリカ政権の「公式見解」
ここでいう「公式見解」は、ホワイトハウス/国務省の公式発言・声明レベルの話に限る。
① 高市発言に直接言及したアメリカ側コメント
・11月12日、米国務省報道官は日経の質問に対し、アメリカは台湾海峡の平和と安定の維持にコミットしており、「いずれの側による現状の一方的変更にも反対する」「脅しのない形で、双方が受け入れ可能な平和的解決を支持する」
という従来の原則論を述べた。
(UDN)
11月20日には、副報道官トミー・ピゴットがX(旧Twitter)で声明を出し、「日米同盟および日本防衛へのコミットメントは揺るぎない。尖閣諸島を含む」
「台湾海峡・東シナ海・南シナ海におけるいかなる一方的な現状変更の試み(とくに武力・威圧)にも断固として反対する」と発信。これは中日の対立が激化した後、初めて明確に「日本を名指しで支える」形のメッセージだ。
(Focus Taiwan – CNA English News)
以上はいずれも、高市発言そのものを「支持」も「批判」もせず、台湾海峡の平和・現状維持・日米同盟の堅持という一般論で包み込む形になっている。
② より大きな枠組みでのアメリカの立場
現在のトランプ政権の対外的な公式ラインを、公開情報から整理すると:
A.米国の台湾政策の枠組みは基本的に従来通り
・「一つの中国」政策(上海コミュニケ、台湾関係法、六つの保証)を維持。
・台湾の最終的な地位については立場を取らず、武力による現状変更に反対する立場を繰り返し表明。
B.日米同盟はインド太平洋の「基軸」
・国務省声明や各種発言で、日米同盟を「インド太平洋の平和と安全の基礎」と位置付け、
・日本防衛へのコミットメント(とくに尖閣)を再三「揺るぎない」と表現。
(Focus Taiwan – CNA English News)(https://focustaiwan.tw/politics/202511210006)
C.台湾有事・存立危機事態をめぐる「日本の法的解釈」への踏み込みは避ける
・高市の「台湾有事は日本の存立危機事態となり得る」という法的評価について、米側は 賛否を表明していない。
・その代わりに、
―「現状変更(特に中国側の武力・威圧)への反対」
―「同盟国との緊密な協議・抑止力強化」
を強調することで、日本の姿勢を暗黙に容認しつつも、過度に中国を刺激する形の“前のめりな発言”には距離を置くというバランスを取っているように見える。
(Wikipedia)
3.まとめ
「台湾有事→日本有事(存立危機事態)」というフレーミングは、日中対立を構造的に深める性質を持っている。
これに対し、
・中国は「戦後秩序への挑戦」「日本軍国主義の復活」といった強い言葉で日本を攻撃し、
・アメリカは「原則論+日米同盟支持」で日本を支えつつも、
「エスカレーションは避けよ」というメッセージを**“非公式”には送っている可能性が高い**、
(The Washington Post)
したがって、
・「習―トランプ電話を受けて、トランプが高市に“抑制を求めた”というストーリーは、報道のレベルではかなり具体的に存在するが、日本政府は公式に否定しており、事実関係は確定していない。
・公式なアメリカの立場は、台湾海峡の平和と現状維持、日米同盟の堅持という一般原則にとどまり、日本の『存立危機事態』適用そのものについてはグレーゾーンに置いている。
という二重構造だ、と理解しておくのが現実的。
![]()