Salafism in the Islamic World: Origins, Branches, and Intellectual-Social Impacts
(WAJ: アフガニスタン4月革命(1878年4月)以後、アフガニスタン人民民主党(PDPA)およびそれを支援してアフガニスタンに侵攻したソ連軍と武装闘争した主力のひとつがワッハーブ派だった。ウサマ・ビンラーディンの祖国であるサウジ・アラビアが重要な支援国であったからである。ワッハーブ派とサウジ家のサウジアラビアとの特別の関係は前掲「ワッハーブ主義:宗教改革運動からサウジアラビアにおける政治的イデオロギーへ」(https://webafghan.jp/sami_91/)で詳述してある。今回はサラフィー主義の動向を踏まえて現在のターリバーンとの関係が述べられている。なお、本稿の著者ファテー・サミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。)
ファテー・サミ(Fateh Sami):フリーアカデミック研究者
2025年11月16日

はじめに
サラフィー主義は、イスラーム世界において最も影響力のある思想潮流のひとつであり、その起源はイスラーム初期の数世紀にさかのぼり、宗教の真正な教えへと立ち返ろうとする努力に根ざしている。この運動は外形的には、クルアーンと預言者ムハンマド(彼に平安あれ)のスンナ(訳注:預言者ムハンマドの言行(言ったことや行動)、慣習、伝統)にもとづいて、ムスリム個人と社会の双方を改革することを目指し、宗教的な革新や迷信を批判しつつ、初期イスラームの中核的価値の復興を志向するものであった。
注目すべきは、サラフィー主義が18世紀のワッハーブ主義の登場以前から、その初期的形態においてすでに存在していたことである。歴史上の改革運動は、「正しき祖先たち(サラフ・アル=サーリフ)」、すなわち最初期のムスリム世代への回帰を強調し、歴史的歪曲や多様な神学的解釈からイスラームを浄化することを目指していた。時代が下るにつれ、クルアーン解釈の相違や法学諸学派(マズハブ)の増殖によって、イスラーム内部にはさまざまな分派が生まれ、時には論争や宗教的動機にもとづく暴力すら引き起こすに至った。
現代においては、社会的・政治的・地政学的条件の影響のもとで、サラフィー主義は宗教改革運動から、多面的かつ国際的な運動へと変容し、時に外国の政治的目的の道具として利用されるようになった。今日、サラフィー主義は教育的形態、政治的形態、ジハード主義的形態として現れ、ムスリム社会に深甚なる影響を及ぼしている。
本稿の目的は、サラフィー主義を独立した対象として検討し、その起源、諸分派、影響を分析することで、ターリバーンを含む後続の過激主義運動を理解するための基盤を提供することである。
サラフィー主義の定義と主要概念
「サラフィー主義(Salafism)」という語は、アラビア語の サラフ(先人、前人)に由来する。概念的には、「サラフ・アル=サーリフ」、すなわちムスリム最初期の世代である教友(サハーバ)、後継者(タービウーン)、後継者の後継者(ターバ・アル=タービウーン)への帰依を意味する。この運動は、クルアーンと預言者(彼に平安あれ)のスンナへの回帰を強調し、宗教的革新や迷信を避けることを重視する。その目的は、個人およびより広範なムスリム共同体の道徳的・社会的改革にある。
サラフィー主義とワッハーブ主義のあいだには思想的連関が存在するものの、両者には重要な相違点もある。ワッハーブ主義はサウジ国家の政治的枠組みの内部で発展し、地理的にもアラビア半島に限定されてきた。他方で、サラフィー主義は国際的で多面的かつ多様な現象へと発展してきた。
現代サラフィー主義は、大きく3つの主要分派に分類される。
1. 学問的(学者的)サラフィー主義
政治活動や暴力行為には関与せず、教育と宗教解釈に重点を置く形態である。
2. 政治的サラフィー主義
サラフィーの原理にもとづき、政府や社会構造に影響を与えることを目指す形態である。
3. ジハード主義的サラフィー主義
武装闘争と暴力的手段によって目的を追求する過激な志向である。
これらすべての分派は、クルアーンとスンナへの中核的帰依、宗教的革新の否定、イスラーム社会再建への努力を共通基盤としている。この枠組みは、多くの現代イスラーム運動の知的基盤を形成している。
歴史的起源とワッハーブ主義との関連
サラフィー主義の歴史的起源は、イスラーム初期の改革的潮流に求められる。それらはしばしば局地的かつ散発的であったが、神学的逸脱、盲目的模倣、宗教的革新への反対という共通の精神を共有していた。
18世紀、アラビア半島においてムハンマド・イブン・アブド・アル=ワッハーブが「純粋一神信仰(タウヒード)」の強調、ならびにシルク(多神崇拝)と迷信の否定を掲げる改革運動を開始した。この運動は、サウード家の政治的支援を受けてサウジ国家とワッハーブ思想の基礎を築いた。思想的にはサラフィー主義と近接しているものの、ワッハーブ主義は地理的・政治的に限定された存在であり続けた。
時を経るにつれ、ワッハーブ思想は教育ネットワーク、宗教メディア、学術的経路を通じて拡散され、アラビア半島を越えて近代サラフィー主義の発展に影響を与えた。今日におけるサラフィー主義は、さまざまなムスリム多数派諸国に広がり、学問的、政治的、ジハード主義的形態として現れている。
サラフィー主義とワッハーブ主義の主要な違いは、その規模、多様性、そして国際的広がりにある。ワッハーブ主義がサウジ国家と密接に結びついたままであったのに対し、サラフィー主義は地域的境界を越えて国際的運動へと変容した。しかしながら、両者はいずれも純粋な一神信仰、宗教的革新の否定、教義改革の重要性を強調している。
ジハード主義的分派と過激主義
現代サラフィー主義における最も顕著な展開のひとつが、ジハード主義的分派の出現である。これは改革的教えから派生しつつも、過激主義と暴力へと進んだ潮流である。学問的サラフィー主義や政治的サラフィー主義とは異なり、ジハード主義的サラフィー主義は、教育や市民的活動ではなく、武装闘争によって社会変革を実現しようとする。
この分派は、現在のイスラーム諸政府は正統性を欠き、厳格にシャリーアにもとづく体制を樹立するために、ジハードによって打倒されるべきであるという信念にもとづいて活動している。その結果、ジハード思想は、元来の宗教的枠組みを超えて、政治・イデオロギー的性格を帯びるに至った。
国家の脆弱性、不平等、外国の占領、政治危機といった社会的・歴史的条件が、この分派の成長を促進してきた。アル=カーイダ、ISIS、その他の過激派組織は、自らをサラフ・アル=サーリフの真の継承者であると主張しているが、その暴力的かつタクフィール(異端宣告)的な手法は、サラフィー主義本来の改革的理想からは大きく逸脱している。
このようにして、ジハード主義的サラフィー主義は過激主義の1モデルとなり、地域情勢および国際安全保障に重大な影響を及ぼす存在となった。
結論
サラフィー主義の中核は、イスラーム初期に根ざした改革と復興の運動であり、宗教を革新から浄化し、最初期ムスリム世代の教えを回復することを目的としている。時代が進むにつれて、ワッハーブ主義および社会・政治的展開の影響を受け、サラフィー主義は国際的で多面的な現象へと進化した。
学問的形態から政治的形態、そしてジハード主義的形態に至るまで、すべての分派はイスラーム社会の再建を目指している。しかし、ジハード主義的サラフィー主義は、現代的現実、人権概念、発展、国際関係を軽視し、暴力的かつタクフィール的な路線を採用するに至った。歴史的分析によれば、ワッハーブ主義が特定の政治的枠組みに限定されていたのに対し、現代サラフィー主義は世界的で多次元的な現象となっている。今日の過激主義潮流、とりわけターリバーンや類似集団を分析するためには、サラフィー主義の理解が不可欠である。
サラフィー主義を正確に理解するためには、知的・宗教的次元、政治的次元、ジハード主義的次元という3つの相互に関連する側面を検討する必要がある。今後の研究は、ムスリム同胞団、ワッハーブ主義、サラフィー主義、ターリバーンの発展に関与した主要人物間の関係をさらに解明し、これら諸運動のあいだに存在する歴史的・思想的連関を明らかにするであろう。
また、サラフィー的スペクトラムの中で出現する諸分派の主要な目的のひとつは、人びとの意識を覚醒させ、啓蒙することであり、イスラームの純粋かつ精神的本質が、一部政権の歪められた政治的アジェンダと混同されないようにする点にある。これらの政権は、地政学的・経済的野心にもとづいて外部勢力と協調しつつ、歴史的に宗教的信念を操作し、世俗的目的を正当化してきた。実際には、彼らの行為は真のイスラーム信仰やその道徳原理への尊重を反映するものではなく、その主眼は搾取と支配を通じて短期的および長期的利益を確保することにある。
著作権
本稿は、ファテー・サミによる研究および分析の成果として執筆されたものである。著者および原典または出版社の明示な引用なくして、本稿のいかなる引用、再出版、翻案も固く禁じる。
References
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