Biden’s Catch-22 in Ukrain~Washington’s backing for Kyiv and avoidance of risk are increasingly at odds
(訳注:原題のCatsh-22とは、”「どうにもならない状況、板挟み」の意味の慣用句。 米国の作家 J. Heller の小説に登場する空軍部隊の「軍規」に由来し、狂気なら戦闘を免除されるが、狂気であると申し出ると正気と見なされ、いつまでも戦い続けることを強いられることから。 a Catch-22 situation の形で使われる”。[googleより])
(WAJ: 第2次世界大戦戦勝記念日の5月8日の前日、ロシア当局が戦術核兵器の使用を前提とした演習を行うと発表した背景には何があるのか。そしてマクロン大統領やイギリスが苦戦中のウクライナへの支援を強化すると発表する背景には何があるのか。さらにまた、長らく停滞していたアメリカのウクライナ支援予算が議会通過した事実が現実に及ぼす影響は? 核戦争へとエスカレートしかねない危険な思考が、米NATOロシアの頂上指導部の間で渦巻き始めた。悲惨な事態に警告を発し、人類を消滅させかねない火遊びを止めさせるべきときである。)
<執筆>
ラファエル・S・コーエン(ランド・コーポレーションのプロジェクト・エアフォースで戦略とドクトリン・プログラムのディレクター)
ジャン・ジェンティーレ(ランド・コーポレーションの陸軍研究部門の副部長)
2024年5月17日
4月24日、ジョー・バイデン米大統領がウクライナに600億ドル以上の支援を提供する待望の対外援助法案に署名し、ウクライナと世界中の支援者は安堵のため息をついた。法案がワシントンの政局に何カ月も巻き込まれている間、ウクライナの戦場での立場はますます不安定になっていた。ロシアが新たな攻勢に出ると予想される中、ウクライナ軍は文字通り弾薬を使い果たしていた。このような状況を受けて、安全保障当局の高官たちからは悲観的な意見が相次いだ。「撃ち返せない側が負ける」とNATOのクリストファー・カボリ連合軍最高司令官は警告した。ホワイトハウスの内部評価はさらに厳しいものだった。普段は陽気なウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領でさえ、アメリカの追加支援がなければウクライナは「戦争に負ける」と予測した。支援によって、ウクライナは今、戦うチャンスを手にしている。
残念ながら、ウクライナの課題は単なる物資にとどまらない。今回の支援策をめぐる争いは、バイデンの対ウクライナ戦略を悩ませている戦略的パラドックスの核心を突いている。一方では、バイデンは「ウクライナへのコミットメントは弱まらない」米国の支援は 「必要な限り 」続けると公言している。しかし同時に、バイデン政権は戦況拡大や、核武装したロシアとの直接対決には断固たる懸念を示している。単独で見れば、どちらも称賛に値する目標だが、同時に達成しようとすれば、ますます矛盾を拡大する。バイデンが最後までこのバランスを保つのは無理だ。
バイデン政権のウクライナ戦略の根底にあったのは、西側諸国が総力で支えるキーウには時間があるという考え方だった。ウクライナが最初のロシアの侵攻を撃退した後、これは真実のように見えた。ウクライナは最初から社会全体を動員して戦争に臨んだが、ロシアは少なくとも当初はそうではなかった。ロシアの死傷者はかなり多く、クレムリンが予想していたよりも確実に多かった。何十万人ものロシア人が国外に逃亡した。そしてそれは、ロシアが経済制裁の痛手を感じる前のことだった。それは当時、「史上最も影響力があり、足並みそろった、広範囲に及ぶ経済制裁」と称賛された。戦況がウクライナに有利に見えたため、バイデン政権は、ウクライナに与える武器種の制限や攻撃可能な標的の限定など、戦況管理の名目でワシントンが課した予防策にもかかわらず、キーウは有利に戦えると考えた。
それから2年が経ち、時間がウクライナに有利に働くという仮定はますます怪しくなっている。カボリが最近証言したように、ロシアは「当初の予想をはるかに上回るスピード」で軍備を再構築しており、その軍事規模は戦前よりも拡大している。制裁にもかかわらず、ロシア経済は2023年に緩やかな成長を記録し、今年もその勢いだ。ロシアは数万人の兵士を失い、数十万人が負傷しているが、この犠牲者の規模がロシア国内の動揺につながったり、プーチン政権を目に見えて揺り動かすことはない。
一方、戦況膠着と見られるなかウクライナの戦略的立場は徐々に危うくなっている。ロシアが2022年7月以降で最も顕著な進軍を展開し、夏の攻勢に向けて準備を進めているのに対し、武器や弾薬に乏しいウクライナは戦線後退を余儀なくされている。米国の武器が再び流入しているとはいえ、それが前線に届くには時間がかかる。
その間、ウクライナは血を流し続けている。推計により大きく異なるが、殺害されたウクライナ人の数はいずれも数万人に上ると示している。ロシアに比べてウクライナの人口が少ないことを考えれば、この数字は特に重要だ。実際、ウクライナは最近、兵員を補充するために徴兵年齢を27歳から25歳に引き下げなければならなかった。それ自体は、破滅的なことでも珍しいことでもない。アメリカはかつてもっと若い年齢で徴兵していたし、今でも18歳から25歳の男性に登録を義務づけ、兵役志願者を募っている。それでも、ウクライナの徴兵政策の変更は、同国がますます緊張状態にあることの表れである。
おそらく軍事的状況よりもはるかに切迫しているのは、戦争の政治的力学であろう。1年半前、私たちは、アメリカがウクライナを支援するには忍耐力が試されると書いた。当時多くの論者は楽観的だったが。かつてウクライナ支援に懐疑的だったマイク・ジョンソン下院議長が、自らの職を賭けて(訳注:4月20日になって共和党のジョンソン議員が援助法案の賛成に回った)援助法案を最終的に可決した事実は、この点を再確認させる。
<参考記事> ジョンソンの決断
https://edition.cnn.com/2024/04/21/politics/ukraine-aid-mike-johnson-house-speaker-israel-taiwan/index.html
<ランドの見解>(1例)
https://foreignpolicy.com/2023/03/28/us-russia-ukraine-china-short-war-strategic-patience/
とはいえ、今後のウクライナ支援が大きな逆風に直面していることは否定できない。ギャラップ社による世論調査では、現在のアメリカ人のウクライナ支援に対する考えは、少なすぎると考える人と、多すぎると考える人が真っ二つに分かれている。民主党のウクライナ支援支持率は秋の前回世論調査から急上昇しているが、共和党の支持率は遅れをとっており、今後のウクライナ支援は米国の選挙でどちらが勝つかによって決まるかもしれない。
ウクライナにとってはまた、戦略を練り直す機会も少なくなっている。中東で新たな戦争が勃発し、米大統領選が間近に迫る中、ウクライナがかつてのようにメディアの注目を集めることはない。ウクライナによるロシアの黒海艦隊の艦船撃沈や、ロシアの燃料補給基地攻撃は、かつてはトップニュースになったが、現在では欧米の主要メディアで同じような行動が注目されることは少なくなっている。同様に、アメリカ国民もかつてのようにゼレンスキーの演説に心を奪われているようには見えない。これらのことは、もしこの傾向が続けば、次のウクライナ支援策をめぐる政治的な争いは、それがいつになるにせよ、過去よりもさらに激しくなる可能性があることを意味している。
悪いニュースばかりではない。欧州の支持は依然として強固で、着実に高まっている。フランスやリトアニアなど一部の国は地上部隊の投入に前向きな姿勢を示しており、イギリスやノルウェーなど他の国は、ウクライナがロシア国内の標的を攻撃することに米国よりもはるかに前向きである。また、600億ドルでもウクライナは多くの武器を調達でき、それによって多くの戦略的時間が与えられる。ドナルド・トランプ前米大統領でさえ、ウクライナ支援に反対する姿勢を少し和らげたように見える。言い換えれば、ウクライナにはまだ戦略的な余地があるが、この緩慢な衰退を覆すことを望むのであれば、これまでとは異なる戦い方が必要になるということだ。
まず、ウクライナはロシア国内を深く攻撃する必要がある。その理由は2つ。現在の報道によれば、ロシアはウクライナの占領地域を支援するため、国内の鉄道網に依存している。ウクライナがロシアの物流網を阻害し、ひいてはロシアのさらなる進出を阻止したいのであれば、これらの拠点を攻撃する必要がある。もうひとつの理由はもっと厄介だ。米国やドイツなどが過去2年間にウクライナに提供した防空設備をもってしても、広大な国土をカバーし、ロシアが飛ばしてくるものをすべて迎撃するには、まだ十分な能力がない。矢を撃つ前に射手を叩け。つまり、ウクライナは飛行中のミサイルやドローンを迎撃するのに躍起にならず、ロシアの空軍基地、爆撃機、ミサイル発射基地を標的にする必要がある。それはすなわち、ロシアを攻撃することを意味する。
英国はすでに、ウクライナが英国が供給するストームシャドウ巡航ミサイル(訳注:英仏共同開発のミサイルで、0.45トンの弾頭を550キロ先に打ち込む)を使ってロシア領土を攻撃することを許可し、この方向に一歩を踏み出している。今こそ米国は英国に倣い、米陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)の長射程版を使用してロシア国内の作戦支援目標を攻撃する許可を与える時だ。
ウクライナが将来のある時点で地上反攻を成功させ、ロシア軍を自国から追い出したいのであれば、何らかの航空戦力も必要となる。ロシアの航空戦力、特に攻撃ヘリやドローンは、2023年のウクライナの反攻が頓挫した重要な理由のひとつである。そして、ロシアの地上軍と黒海艦隊がかなりの損害を受けたのとは対照的に、ロシア空軍は投入した航空機の約10%しか失っていない。ウクライナはただ守るだけでなく、独自の攻撃型空軍力を必要としている。そうして初めて、ロシアの基地を攻撃し、ロシアの空軍力を無力化し、ロシアの進軍を阻止できる。
バイデン政権は当初は難色を示したが、欧州の一部の同盟国がいずれF-16戦闘機をウクライナに展開する。この戦闘機が、特にロシア軍を標的にする適切な弾薬を装備され、飛行させるだけの十分なメンテナンス能力を伴うなら、この点で大いに役立つ。とはいえ、在ヨーロッパ米空軍司令官ジェームズ・ヘッカー元帥が指摘するように、F-16は比較的古い機種で、使いこなすには通常何年もの訓練が必要だ。ウクライナの航空戦力の特効薬にはなりそうもない。
ウクライナが必要とする航空戦力を手に入れるには、より広範な能力一式が望まれる。そこには、より高く飛ぶ高性能ドローンを使い地上または空中の司令室から電子戦を指揮する能力が含まれる。これらを組み合わせれば、ウクライナの制空能力は1拠点ずつ優位を獲得し、やがて波状的にロシアの空軍と地上軍を脅かす。
最後に、ウクライナが反攻を開始する場合には、より大きな作戦リスクを負う必要がある。ロシア国内のロシア軍事目標に対する長距離攻撃は、空からの波状攻撃能力と組み合わせることで、地上反攻が成功するための条件を整えることができる。しかし、ウクライナ側は作戦上のリスクを受け入れる必要があり、ロシアの防衛線を打ち砕くような作戦上の突破口を開くためには、反攻の初期段階である数日から数週間は、死傷者や資材の面で大きな犠牲を強いられる可能性が高い。
ウクライナ紛争は現在、特に厳しい状況にあるように見えるかもしれないが、紛争の結末があらかじめ決まっているわけではない。ウクライナが失った作戦の勢いを取り戻すには、より多くの装備と弾薬が必要だ。直近の援助決定のおかげで、ウクライナは今、それらを手に入れるための物資を手にした。
しかし、より重要なことは、ウクライナもその西側支援国も全体的なアプローチを変える必要があるということだ。ウクライナはもはや、ロシアの撤退をただ待ち、ロシア国内の軍事・兵站目標への攻撃を控え、ウクライナ東部での砲撃戦がいずれ自分たちに有利になることを期待する余裕はない。その代わり、攻勢に転じる必要がある。ウクライナにとっては、自国の存亡がかかっているのだから、その方が売り込みやすい。
しかし、バイデン政権にとって、そのようなリスクを受け入れることは、過去2年間の戦略の柱を放棄し、ただ1つの道だけを選び、戦況の深刻化という起こりうべき結果の招来を意味する。それを選ぶのはつらい。しかし、選ばないことはもっと危険かもしれない。