Trump swallowing Putin’s lies is a bigger threat to Ukraine than bombs
(WAJ: 8月15日にアラスカで行われると発表されたトランプ大統領とプーチン大統領の、ウクライナをめぐる停戦交渉に関しては世界各国で山ほどの報道・憶測が流されている。戦争犯罪容疑でICCから逮捕状が発出されているプーチン大統領は、ICCに加盟していないアメリカ領内であれば安全と思ってか、ウクライナ大統領ゼレンスキー氏抜きの会談に応じた。会談に臨む両大統領の意図は? そして問題点と予想される結果は? ホワイトハウスのレビット報道官は早くも首脳会談はトランプ氏がプーチン氏の「話を聞く場」とトーンダウンした予防線を張っている。日本のマスコミは、トランプ大統領がノーベル平和賞を狙っている、などと面白おかく報道しているが、問題はそんなところにあるのではない。停戦と和平実現、そして核保有国であれば武力に訴えて国境線の改変が可能であるとのロシアの意図を挫くためには、本論考で英ガーディアン紙コラムニストのラファエル・ベア氏は明瞭に主張しているごとく「ウクライナへの軍事支援とモスクワへの経済圧力を最大限に維持することが同盟国の任務」なのだ。彼の論考を、①新聞解説風に、つぎに②逐語訳で以下にシェアする。)
ラファエル・ベア(Rafael Behr: 英ガーディアン紙コラムニスト)
2025年 8月13日(水曜日)
<国際面向けの解説記事>形式に翻案
アラスカ会談 米露思惑の交錯
トランプ氏の取引志向、プーチン氏が利用か
【リード】
戦争は必ずしも完全勝利で終わる必要はない。歴史の多くは、明確な勝敗ではなく膠着によって刻まれる。しかし、アラスカでの米露首脳会談は、ウクライナ人抜きで決着できるかのような演出を両首脳が狙う場となる可能性が高い。米大統領の「取引優先」の姿勢は、ロシア大統領にとって格好の好機となる。
■ それぞれの思惑
トランプ氏は「数日で戦争終結」を公約に掲げたが、就任から7か月後も戦闘は続く。自らを「世界最高のディールメーカー」と位置づける彼にとって、長引く戦争は政治的な負担だ。
一方、プーチン氏は2022年2月の全面侵攻時、数週間でのキーウ陥落を予想していた。しかし予想は外れ、戦略を長期消耗戦へ転換。多数の兵力と空爆を武器に、ウクライナの国家としての存続能力を削ぐ戦術に出た。彼にとって敗北は許されず、停戦で占領地を保持しても「歴史的使命」は未達成とみなす。
■ 会談の舞台裏
今回の会談は、トランプ氏が停戦期限設定や制裁示唆でモスクワを揺さぶった結果、実現した。プーチン氏は「領土交換」や「非武装化」といった条件を「最低限の譲歩」と装い、トランプ氏に自らの論理を繰り返させる狙いだ。これらは事実上、ウクライナの将来を恒久的に脅かす内容だ。
■ 同盟国の懸念
欧州諸国やNATOにとって最大の懸念は、米国が不公正な停戦案を提示し、ゼレンスキー政権が受け入れられない状況に追い込まれることだ。その場合、プーチン氏は「平和を求めたのにウクライナが拒否した」と国際社会にアピールし、戦争継続の責任を相手側に転嫁するだろう。
■ 現実的な終戦像
最も現実的な見通しは、朝鮮半島型の冷戦的膠着だ。停戦ラインの背後に堅固な防衛網が築かれ、事実上の占領状態が固定化される。完全な和平にはならず、武力衝突の火種を残す形となる。
■ 分析:トランプ氏の弱点
トランプ氏は戦争や平和を道徳・歴史・戦略の文脈で捉えない傾向がある。彼が重視するのは、自らの利益か「偉大な取引」の称号だ。この性向は、同盟や国益よりも自身の成果を優先させる危険性を孕む。プーチン氏はそこを突き、米国を利用してウクライナに降伏を迫る構図を描いている。
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<全文を逐語翻訳>
トランプがプーチンの嘘を鵜呑みにすることはウクライナにとって爆弾よりも大きな脅威だ
戦争は必ずしも勝たなければならないものではない。完全勝利は国民の想像の中で最も大きく映るが、それは常に愛国心を支えるために国が語り続ける物語だからだ。歴史のより全体像は、膠着状態の中に記される。
このことは、ドナルド・トランプが金曜日にアラスカでウラジーミル・プーチンと会うときに思い出す価値がある。両首脳には、ウクライナの運命がウクライナ人抜きで決定的に解決できると装う動機がある。しかし、それが事実になるわけではない。
米大統領にとって、これは個人的虚栄心のプロジェクトだ。彼はホワイトハウスに戻って数日で戦争を終わらせると約束した。就任から7か月経っても戦闘が続いていることは、自らを世界一の取引人と見なす彼の自己像への痛烈な否定である。
プーチンもかつては、戦争を素早く終結させられると考えていた。2022年2月、キーウが数週間で陥落するとの予想で全面侵攻を開始した。しかしウクライナの抵抗により計画は挫かれ、ロシア大統領は持久戦に切り替えた。多数の兵力と空爆で、ウクライナを主権国家として存続できなくする戦略だ。ロシアの産業基盤と世論は恒久戦争に向けて鼓舞され、クレムリンの宣伝は無尽蔵の軍事力を誇示している。指揮官らは敵陣を突破し、待望の降伏を引き出すと約束し続ける。
プーチンは、ウクライナの敗北が不可避であると信じなければならない。なぜなら、それ以外のシナリオ──たとえこれまで占領した領土を保持する停戦であっても──は、彼自身が掲げた歴史的使命を未達に終わらせるからだ。ウクライナが武装し、欧州の民主主義諸国と独立した統合政策を進めることを許すゼレンスキー大統領が続く限り、彼は復讐心を抱き続けるだろう。
クレムリンがウクライナの戦略的進路を支配できない国境や条約は、プーチンの目には不当である。それでも戦術的必要があれば署名はする。彼はすでに米大統領の我慢を試したことを理解しており、戦争継続の理由を説明する上でゼレンスキーに後れを取ったと感じている。
ゼレンスキー大統領は、2月のホワイトハウスでの屈辱的な場面──恩知らずと責められ、自国侵略を招いたと非難された──から立ち直った。NATO諸国がウクライナ軍への資金支援を約束することで裏打ちされた巧みな外交により、トランプは事態が単純ではないとわずかに認めるようになった。プーチンは「たわごと」を言う傾向があり、平和への関心を口にしながら民間人への爆撃を続けていることがその証拠だ、と。
今回のアラスカ会談は、トランプが停戦期限を設定し、モスクワへの制裁をちらつかせ始めたために実現した。プーチンは譲歩の意志を装う必要があったのだ。首脳会談という見せ場と、「領土交換」を巡る巧妙な曖昧表現を組み合わせれば、トランプの自己のカリスマ性への信頼と「取引は成立させられる」という信念に訴えると計算した。
プーチンは、この会談を利用して、トランプの歪んだ歴史無知な物語観に合う形で戦争を枠付けるだろう。その物語では、悪賢い犯罪者ゼレンスキーが老いたジョー・バイデンをたぶらかし、米国の財宝を無謀な敗戦確実の賭けに投じさせる。戦争はほぼ勝っており、ウクライナは勝てないが同盟国を巻き込み浪費させられる、とプーチンは言うだろう。そして、ロシアがまだ占領していない地域も含めた不当な領土要求を「最低限の合理的な配分」として提示し、ウクライナの「非武装化」を必須だと主張する──これは将来の侵攻に対する無防備状態を保証するものであり、ロシアの安全のためだと称する。これらは何か月も前から彼が繰り返してきた要求で、今月も再確認している。
トランプがプーチンに陶酔的に屈しなくても、ロシアにとっては会談は成功となり得る。交渉後にクレムリンの主張を繰り返すだけで十分にダメージはある。欧州の同盟国が恐れているのは、トランプがゼレンスキーが受け入れ不可能な停戦案──侵略者が線引きした不当で機能しない分割案──を誇らしげに発表し、プーチンが「和平を試みたがウクライナの頑迷さで戦争が続いている」と主張することだ。
より悲観的でないシナリオもあり得る。トランプのプーチンへの新たな懐疑心が、お世辞による腐食に耐えるかもしれない。ロシアの戦場突破への自信が誤算である可能性もある。制裁に対するロシア経済の耐性を過大評価しているかもしれない。いつの日か、普通のロシア国民が終わりの見えない「国家再生」のために若者を犠牲にする意欲を失うかもしれない。
国内の経済・政治的動機が変化すれば、プーチンは停戦に本気になる。その瞬間を早めるには、ウクライナへの軍事支援とモスクワへの経済圧力を最大限に維持することが同盟国の任務だ。それでも現実的には、停戦後も一部ウクライナ領は事実上永久にロシアが占拠し、厳重に要塞化されるだろう。1953年の休戦以来、技術的には戦争状態が続く朝鮮半島の非武装地帯のように、熱戦を冷戦に変える抑止力によって支えられた膠着が残る可能性が高い。
現時点でゼレンスキーと同盟国が直面している課題は、道徳的・歴史的・戦略的文脈を欠いた形で戦争と平和を語る米大統領への対応だ。トランプは、ウクライナが独立国家として繁栄できる和解と、征服を目指すロシア大統領を満足させる和解との間に意味のある区別をしない。彼が重視するのは、自分を富ませる取引と、自らを偉大な取引人として誇れる取引だ。もしその利益が米国の同盟や国益を放棄して得られるなら、それをしない理由はない。
それがアラスカでのプーチンの狙いだ。ホワイトハウスの要求で戦争を終わらせる意志はなく、平和を望むふりをする必要がある。そして、ウクライナを降伏に追い込むようトランプを操り、自らがクレムリンに屈服させられたことを「個人的勝利」と思い込ませることこそが、彼の最大の希望なのだ。
(ラファエル・ベーア/ガーディアン紙コラムニスト)