What Do France’s Surprise Election Results Mean for the Far Right?
(WAJ: マクロン大統領の議会解散の「賭け」は首の皮一枚をかろうじて残す薄氷の勝利をえた。果たしてフランスにおける右派ポピュリズムは失速したのか。それともそれは一時の足踏みなのか。NATOによるウクライナ支援の今後はどうなるのか。ヨーロッパと世界の平和にとって大きな影響を及ぼすであろう今回の選挙結果をアメリカの伝統的シンクタンクはどうみているのか。日本のわれわれにとっても他人ごとではない。)
COUNCIL on FOREIGN RELATIONS
2024年7月10日
フランスでは、突然の総選挙で予想外の左傾化が起こり、極右ポピュリズムの熱狂は収まったが、今やパリでは統治能力の危機が迫っており、エマニュエル・マクロン大統領の権力基盤はさらに弱まっている。
専門家Matthias Matthijsによる寸評
今回の選挙でフランスの極右運動が盛り上がった。何がおきたのだろうか?
7月7日に行われたフランス議会選挙の第2回投票は、左派と中道という対立する政治勢力の戦略的で巧みな連携により、驚くべき結果をもたらした。マリーヌ・ルペンの極右政党、国民連合(NR)は、6月30日の第1回投票で33%の得票率でトップだった。さらに、第1回投票で直接選出される国民議会の76議席のうち、過半数の得票を得たNRが40議席を獲得し、同党にとって絶対的な記録となった。
左派の新人民戦線(NPF)と中道政党のアンサンブル(「共に」の意味)同盟(訳注:アンサンブル同盟はマクロン大統領を支持するルネッサンス党がこの選挙に勝ち抜くため2つの中道政党を呼び込んで5月に急造した与党連合)は、この急上昇に面食らい、第2回選挙では三つ巴の戦いを避け、国民連合の候補者に共闘して立ち向かった。一方、国民連合は2011年に創始者ルペンの娘が党首の座を引き継いでから(訳注:マリーヌ・ルペン党首時代に党名を父が名付けた国民戦線から国民連合に変えた)、同党の「非悪魔化」に努力してきたにもかかわらず、昔の汚名をいまだ引きずっているのには理由がある。つまり外国人嫌悪、同性愛嫌悪、そしてしばしば反民主主義的な見解を臆面もなく表明する者が党員として引き寄せられのさばっている。
左派・中道政党による、極右に対抗する「共和戦線」として知られるこの戦略は、以前にも成功を収めている。2002年、ドゴール派のジャック・シラク大統領の再選を助けた。当時、国民戦線の党首だったルペンが大統領選挙の第2回投票に進出したが、フランスの有権者の80%以上が、極右大統領の誕生を嫌ってシラクに投票したのだ。
<参考記事>
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik/2002-05-08/16_0701.html
今回、国民連合は第2回投票で得票率をさらに4ポイント上乗せし37パーセントにまで伸ばしたが、577議席の議会では全体の25パーセント弱(143)の議席しか獲得できなかった。一方、最大グループとなったのが新人民戦線。得票率わずか26パーセントにも関わらず議席の31パーセント(180)を獲得し、2位のアンサンブルは得票率わずか25パーセントで議席の28パーセント(159)を獲得した。
フランスの極右はもはや政治的要因ではないのだろうか?
まったく逆だ。失望もあったが、極右は今回、これまでで最強の選挙結果を見せた。マクロン氏が初めて大統領に選出された2017年、極右の国民戦線は国会議員577人のうちわずか6人しか獲得できなかった(訳注:翌年、彼女は党名を「国民連合」に変えた)。2022年には89人を獲得。今年は他の右翼政党の協力もあって、過去最高の143人の国会議員を獲得した。国民議会で270議席(絶対多数の289議席に近い)を獲得するという自らが課した非常に高い期待(そして世論調査が明かした希望)には今回遠く及ばなかったが、傾向は明らかに上向きだ。だからこそ、ルペン氏は最終の選挙結果が発表された後、反骨精神をみなぎらせ、「我々の勝利は遅れただけだ」と指摘した 。明らかに、マクロン氏が再出馬できない2027年の大統領選挙での大勝利を狙っている。そして、彼女の政党は「不誠実な同盟」に負けただけだと主張した。
フランスの左派政党「新人民戦線」は何を望んでいるのか?
新人民戦線(1936年の選挙で右派を破りフランスで初めて社会主義者の首相となったレオン・ブルムが率いた進歩的な人民戦線を参考に結党)は、マクロン大統領が6月9日に解散総選挙を呼びかけた後、わずか数日で結成された。左派の扇動者ジャン=リュック・メランション率いる極左の不屈のフランス、共産党、緑の党、フランソワ・オランド前大統領の社会党(現在はオリヴィエ・フォール率いる)で構成されている。NPFは、候補者についてまだ合意に至っていないものの、党内の誰かを首相にすえて新しい連立政府を樹立する権利があると主張してている。ただし、マクロン大統領には新人民戦線から首相を任命する義務はない。
NPF は、富裕層への増税や一連の膨らんだ予算案など、非常に古めかしい左派の政策をマニフェストに掲げていた。その中心には、マクロン大統領が苦労して実現した年金改革 の撤回 (定年年齢を64歳から60歳に戻す)、最低賃金を月額 1400 ユーロから 1600 ユーロに引き上げること、食料、エネルギー、ガスなどの生活必需品の価格を凍結すること、労働者階級および中流階級の家庭のエネルギー料金を全体的に引き下げることなどが含まれていた。新人民戦線はまた、億万長者の税制優遇措置を廃止し、富裕税を復活させ、資本所得への課税を大幅に引き上げることも望んでいる。外交政策では、メランション氏はイスラエルのガザ地区での軍事行動に対してより強硬な姿勢を主張し、フランスがパレスチナ国家を遅滞なく承認することを望んでいる。
政権は膠着状態になるのだろうか?
現時点では間違いなくそのように見える。隣国ドイツとは異なり、フランスには連立政権の経験がない。伝統的に、直接選挙で選ばれた新大統領は有権者に政権の信任を求め、絶対多数で大統領の所属政党が政権を握る。過去には他党の首相との共存もあったが、そうした政党は常に国民議会で絶対多数を占めていたため、フランソワ・ミッテラン元大統領(1986年から1988年、および1993年から1995年)やジャック・シラク元大統領(1997年から2002年)は渋々受け入れた。現時点では、安定した多数派が形成されておらず、特に新人民戦線がマクロン氏の同盟者との連立政権を否定し、両党とも極右との連立政権を否定しているため、フランスは未知の領域にいる。
マクロン氏は、退任するガブリエル・アタル首相に対し、当面は暫定政権のトップに留まるよう求めており、今後数日のうちに最も賢明な進路を決めることになる。アタル氏自身は過半数を獲得できず、少数派政権を率いてきた。同氏は、さまざまな問題で多数派を獲得するか、フランス憲法第49条第3項に基づき、議会を迂回して法案を成立させるかのどちらかを選ばなければならなかった。第49条第3項の頻繁な使用は、マクロン政権が過去2年間不人気だった理由のひとつであり、6月9日の欧州連合(EU)議会選挙でマクロン氏が敗北する結果となった。
マクロン氏は新人民戦線から誰かを選出して少数派政権を樹立しようとするかもしれないが、議会における自身の同盟者が彼らの政策をどう支持するかは見通せない。また、自身の政党から誰かを任命して、新人民戦線のより穏健派と協力できるかどうか試すこともできるが、彼らは今のところそれは選択肢ではないと主張している。また、次回の総選挙が開催される2025年6月まで政府を機能させるために、政治的所属のない官僚主体の政府を任命するという決断を下すこともできる。
ヨーロッパの重要問題に影響を及ぼす上で、これはマクロン大統領(およびフランス)にとって、何を意味するのだろうか?
これは明らかにマクロン氏にとって悪い知らせだ。大統領としての実力が低下するからだ。2017年から2022年までの最初の任期中、マクロン氏は国内改革を推し進め、次世代EU(新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対するEUの共同経済復興計画)の推進やロシアのウクライナ侵攻への初期対応など、EU内でリーダーシップを発揮することができた。2022年5月に始まる2期目では少数派内閣で統治しなければならなかったが、同氏の政党は国民議会で多数議席を占めており、大統領令で統治するか、第49条3項を使って議会を迂回することができた。
マクロン氏は今夏から、議会内のさまざまな政党の意見を考慮し、妥協しなければならない。フランスでは大統領が軍や国家安全保障機関の指揮を含む外交政策に幅広い影響力を持つが、マクロン氏は国内問題に関して政府のとるべき道を指示することができなくなる。キーウ支援については幅広い継続性があるが、ロシアとの戦争でウクライナを支援するためにより多くの資金を捻出するのは難しくなるかもしれない。防衛やエネルギー政策を含むEUの新たな取り組みについては、マクロン氏は前政権よりもさらに不安定な新政権に足かせをはめられることになるかもしれない。
しかし、主な争いは2025年の予算をめぐってだろう。ここでフランス政府は、「過剰赤字是正手続き」を推進しているEUと衝突する可能性がある。フランスは現在、ユーロ圏加盟国の財政政策を管理し、政府赤字を3%未満に抑えることを目指すEUの安定・成長協定に違反している。現在のフランスの赤字は5%を大きく上回っており、今後数年間で赤字を減らすには増税と支出削減の組み合わせが必要になる。左派政権が有権者を失望させることなくそのバランスをとれるかどうかは見通せない。ドイツのオラフ・ショルツ首相が独自の緊縮予算をまとめたという事実は、フランスに同じことをするよう圧力をかけるだけだ。困難な数カ月が待ち受けている。