(WAJ: BBCのこの記事は、トランプ氏がバイデン氏とは異なるアプローチでネタニヤフ政権に強力を発揮するとともにアラブ諸国と築いたビジネス関係も活用しながら停戦合意にこぎつけたプロセスを分析している。ここには、TACOと呼ばれるトランプ外交の特徴=「最初は居丈高にしかし最後はしり込み」がみられ、結論はバイデン時代に模索されたものと大差ないことが指摘されている点が興味深い。しかし、WAJとしては、そもそものパレスチナ問題の根本である、イスラエルによるパレスチナ人の土地や財産生命などを奪ってきた歴史と現実を不問に付している点において、問題解決とはほど遠いことを指摘しておきたい。)

両首脳が横並びになり、目線を合わせている。ネタニヤフ氏はほほ笑んでいる
肩を並べるアメリカのトランプ大統領(左)とイスラエルのネタニヤフ首相

2025年10月10日
アンソニー・ザーカー北米特派員、トム・ベイトマン米国務省特派員(BBC NEWS JAPAN)

記事要約

この記事は、ドナルド・トランプ米大統領がガザ紛争において和平に向けた突破口を開いた経緯を分析し、バイデン政権時では実現できなかった点と比較している。

記事は、2025年9月9日にイスラエルがカタールにいたハマース交渉団を空爆した事件をきっかけに、トランプ氏が和平合意に向けて外交的圧力を強めたと指摘する。彼はネタニヤフ首相との強いパーソナルな関係を利用し、イスラエルとアラブ諸国双方に影響力を及ぼすことができたと分析。一方、バイデン政権はイスラエルとの関係構築に苦慮しながら、国内政治や党内対立の制約もあって同様の道筋を描けなかったという。和平合意案は20項目から成り、ガザからの部分的撤退や人質解放などを含むが、最終的な平和体制については未確定な要素が残るとされる。記事は、今回の“打開”が必ずしも最終解決ではないものの、トランプ政権にとって象徴的な外交成果となりうる可能性を提示している。

全文(日本語)を読む

<参考>

「20項目のガザ和平合意案(米ホワイトハウス公表文)の全文要点」(日本語訳・簡潔化)。

  1. ガザは「脱急進化したテロ不在ゾーン」とし、周辺国への脅威を与えない。

  2. ガザは住民の利益のために再開発する。

  3. 雙方が受諾すれば戦闘は即時終結。IDF(イスラエル国防軍)は人質受け渡し準備線まで後退し、空爆等すべて停止、戦線は条件整うまで凍結。

  4. イスラエルの受諾公表から72時間以内に、人質(生存・遺体を含む)を全員返還。

  5. 人質返還後、イスラエルは終身刑囚250人+2023/10/7以降拘束のガザ住民1700人(女性・子ども含む)を釈放。遺体返還はイスラエル1に対しガザ15。

  6. 人質返還後、武装放棄と平和共存を誓うハマース構成員は恩赦。出域希望者には安全な退去先を用意。

  7. 受諾と同時に大規模人道支援を即時開始(インフラ・病院・パン工房復旧、瓦礫撤去機材等、2025/1/19合意水準以上)。

  8. 物資搬入・配布は国連・赤新月社等の中立機関が妨害なく実施。ラファ検問の往来は2025/1/19合意の枠組みに従う。

  9. 当面は無党派のパレスチナ人技術官僚委員会が自治体業務等を運営。国際移行機関「平和評議会」(議長トランプ、ブレア元英首相ら)が監督し、PA(自治政府)が改革を完了し統治復帰できるまで再建資金と枠組みを管理。

  10. 中東の“成功都市”に関与した専門家団を招き、ガザ再建の経済計画を策定。

  11. 参加国と協議のうえ、関税優遇等を備えた特区(SEZ)を設置。

  12. ガザからの強制移住は行わない。出入域は自由とし、基本的には定住を奨励。

  13. ハマース等はいかなる形でも統治に関与しない。トンネル・兵器製造等の軍事・テロ・攻撃インフラは破壊・再建不可。独立監視の下で武装解除(武器恒久無力化、買い戻しと社会復帰プログラム含む)を実施。

  14. 地域パートナーが保証人となり、ハマース等の履行と新生ガザの無害性を担保。

  15. 米国はアラブ諸国等と協力し、暫定「国際安定化部隊(ISF)」を即時展開。選別したガザ警察を訓練支援し、ヨルダン・エジプトの知見も活用。

  16. ISFとイスラエル・エジプトは国境管理を支援。弾薬流入遮断と復興物資の迅速・安全な流通を確保。デコンフリクション(衝突回避)メカニズムを合意。

  17. イスラエルはガザを占領・併合しない。ISFの統制確立に応じ、IDFは非占領化の基準・マイルストーンに沿って段階撤収し、治安周辺帯のみ暫定維持。

  18. ハマースが遅延・拒否した場合でも、IDFからISFに引き渡された「テロ不在地域」では上記措置(支援拡大等)を先行実施。

  19. イスラエル人とパレスチナ人の意識変容を促す寛容・共存の「宗教間対話」プロセスを創設。

  20. 再開発進展とPA改革の着実履行を前提に、パレスチナの自己決定・国家権能への現実的道筋を模索。米国は双方と「政治的地平」を協議する対話を設ける。

出典:ホワイトハウス公表文を全文掲載した The National(2025年9月29日)。本文の各項目はこの掲載版に基づく要約訳