■本稿は米ジャーナリストクリス・ヘッジズ(Chris Hedges)氏によるポッドキャスト・レポート、“Will There be a Ground Invasion of Iran?”の概要を紹介するもので、内容は、元米国陸軍大佐コリン・パウエル国務長官の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン(Lawrence Wilkerson)氏との対談である。
(WAJ: クリス・ヘッジズ氏はアメリカのジャーナリスト、作家、コメンテーター、そして長老派教会の牧師であり、ブログやYoutubeなどで鋭評論を発表している。本サイトでも紹介した「ガザから見た世界」は秀逸なコメントである。一方、対談相手のローレンス・ウィルカーソンはベテランの米退役軍人で軍歴を終えた後イラク戦争などを厳しく批判してきた。現在、「正気を保つための退役情報専門家協会」のメンバーである。アメリカの体制内にあってトランプ政権の妄動を厳しく批判するその視点はゆるぎなく的確である。現政権の目的を「米国がイランを叩こうとする真の目的は、中国の台頭を阻止すること」および現政権は「背後の“主人(軍需産業や特定の利権団体)”の奴隷として動いているに過ぎない」と喝破しているのは、わがサイトの視点と完全に一致している。(本稿の制作にはGeminiを利用した。英語のポッドキャストだが、日本語字幕表示が可能))
クリス・ヘッジズ・レポート:イラン地上侵攻の蓋然性と帝国の黄昏
対談者:ローレンス・ウィルカーソン元陸軍大佐
1. 泥沼化する対イラン軍事行動の現状
2026年3月時点の状況として、米国とイスラエルによる対イラン攻撃が始まってから1カ月以上が経過した。米国はすでに数百億ドルの軍事予算を投じ、莫大な弾薬を消費しているが、当初掲げた戦略的目標(イラン政権の弱体化や核開発の阻止など)において、実質的な進展は何も得られていないと分析されている。
ホワイトハウスやペンタゴン、そして経済市場がパニックに陥る中、米国は中東地域への増派を決定し、地上侵攻の準備を進めている。しかし、ヘッジズ氏とウィルカーソン氏は、これが米軍にとって「地獄のような流血の惨事(bloodbath)」になるだろうと強く警告している。
2. 地上侵攻の軍事的無謀さ
ウィルカーソン氏は、自身の軍歴と軍事教育の専門家としての視点から、イランへの地上侵攻がいかに無謀であるかを詳述している。
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地形と規模の壁: イランは広大な領土と険しい山岳地帯を持つ国であり、ベトナム、イラク、アフガニスタンでの失敗をはるかに上回る困難が予想される。イラン軍は自国の地形を熟知しており、米軍が足を踏み入れれば、出口のない泥沼(クアグマイア)に引きずり込まれることになる。
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非対称戦の優位性: イランは低コストのドローン、ミサイル、機雷を駆使した戦術を展開しており、すでに米軍に大きな損失を与えている。特にホルムズ海峡の封鎖能力は、世界のエネルギー供給と世界経済に致命的な打撃を与える「世界恐慌」の引き金になりうる。
3. 戦略的背景:対中包囲網の失敗と帝国の衰退
ウィルカーソン氏は、この戦争を単なる中東の局地紛争ではなく、米国の世界覇権(ヘゲモニー)維持のための最後のあがきとして捉えている。
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対中戦略の一部: 米国がイランを叩こうとする真の目的は、中国の台頭を阻止すること。中国が推進する新たな貿易ルート(一帯一路など)は米国の制海権や支配が及ばない場所に構築されており、米国はこれを軍事力で遮断しようとしている。
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誤算の連続: しかし、この戦略は完全に裏目に出た。米国の攻撃は、逆にイラン・中国・ロシアの結束を強め、地政学的な勢力図を米国の望まない方向へ塗り替えてしまった。
4. イスラエルの絶望と核の脅威
対談の中で最も衝撃的な懸念事項として、“「イスラエルによる核兵器使用の可能性」”が挙げられている。
ヘッジズ氏とウィルカーソン氏は、イスラエルが軍事的・外交的に追い詰められ、自国の存立が危ういと感じた場合、イランに対して戦術核を使用するリスクがあると指摘する。そして、この脅威こそが、これまで核保有を控えてきたイランを、本格的な核武装へと突き動かす最大の動機になっていると分析する。
5. 政治的リーダーシップの欠如
現職のトランプ政権に対し、ウィルカーソン氏は極めて厳しい評価を下している。
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無知な指導部: 政権幹部は自分たちがなぜこの戦争を戦っているのかという本質的な理解を欠いており、背後の「主人(軍需産業や特定の利権団体)」の奴隷として動いているに過ぎないと批判している。
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唯一の解決策: ウィルカーソン氏によれば、米軍が崩壊を免れる唯一の道は「勝利を宣言して即座に撤退すること(Declare victory and get out)」ですが、現在の指導部にその英断を下す知性があるとは到底思えない、と絶望的な見解を示している。
結論:帝国の自滅
このポッドキャストを通じてヘッジズ氏が描き出すのは、現実を直視できなくなった「死にゆく帝国」の姿だ。過去の帝国と同様、軍事的な過剰拡大、政治的腐敗、そして客観的な情勢判断の欠如が、米国を自滅的な戦争へと駆り立てている。イランへの地上侵攻は、その没落を決定づける最後の一撃になるかもしれない、というのが本レポートの核心的な警告だ。