Afghanistan’s Struggle under the Taliban Rule

(WAJ: ターリバーンの復権から3年になった今、世界のどの国も承認していないのに「デファクト・オーソリティ(事実上の政府)」としてターリバーンを遇する国々が現われてきている。公然と関係を取り持つ中国やロシアや中央アジアのいくつかの国々だけでなく、アメリカは裏からドーハの密約にもとづきターリバーンと「過激派テロ対策」を実施している。本サイトでは「良いテロリスト」はいない、とそのような姿勢を批判してきた。(https://webafghan.jp/terrorists-paradise-on-both-sides/)ところが、先の第3回ドーハ会議では西側諸国のみならず国連までもがターリバーンをデファクト・オーソリティとして扱いかねない姿勢を見せている。これに対しても本サイトではいくつもの論考を掲載して批判した(https://x.gd/51lVz)。今また、本稿は、ターリバーンの本質がいささかも変化していないこと、それを見逃せば、国際社会は第1次ターリバーン支配の危険性を見逃したような失敗を繰り返すだろうと厳しく指摘している。なおサミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で閲読できる。)

 

ファテー・サミ(本サイト・アフガン主筆)
2024年7月21日

はじめに:
ご存じの通り、アフガニスタンは歴史上、アリアナと呼ばれてきた広大な土地で、中央アジアからインダス川にまで広がり、アケメネス朝(訳注:古代オリエント世界を統一したペルシャの王朝。BC550年ころに起こりアレキサンドロス大王の東征によりBC330年に滅ぶ)の東部州および現在のイランの東部・中央部を含んでいた。ホラーサーンと呼ばれていた頃(訳注:7、8世紀以降)は、ニーシャープール、メルブ、ヘラート、バルフの4つの大きな地域を版図に収めたが、現在ではイラン、アフガニスタン、トルクメニスタンに分かれている。名前や国境が変わり続け、現在はアフガニスタンと呼ばれている。

歴史的に、比較的安定していた短い期間を除いて、アフガニスタンは国内紛争と外国の侵略に巻き込まれてきた。その地理的境界は固定されたことはなく、さまざまな要因により常に拡大または縮小してきた。多くの浮き沈みにもかかわらず、その政治的および社会的状況は、現在ほど悲惨なことはなかった。歴史を通じて、この土地の住民は、カリフ、専制的な王、そして北、東、西からの大侵略者に対して沈黙を選ぶことが多かった。しかし、現状はかつてないほど厳しい。この緊張が爆発すれば危険で致命的になる可能性がある。

 

ターリバーンの抑圧的な支配:
ターリバーンという犯罪組織は、アフガニスタン社会の現実からあまりに切り離されているため、現在の沈黙、つまり嵐の前の静けさの重要性が過小評価されている。アフガニスタンの人々は、ターリバーンの厳しい政策により、労働や教育などの人権や市民的自由の権利を失い、大きな代償を払っている。ターリバーン指導者たちは、アフガン国民の歴史的な回復力を認識し損ね、民衆の蜂起を無視してきた。彼らの根拠のない命令が、アフガニスタンの人々を自発的で制御不能な蜂起へと導きつつある。

 

抑圧と抵抗:
たびたび説明してきたように、ターリバーンは権力を握った後、アフガニスタンの女性と少女に多くの制限を課している。ターリバーン集団の指導者の命令のほとんどは、女性と少女に対する制限に関するものだ。ターリバーン指導者はこれまでに65以上の厳格な法令を発令しており、そのうち40以上は女性に対するもので、少女や女性に厳しい制限を課している。これらは、専制政治つまりアフガン国民がたった一人の男に服従していることを表すだけではない。横暴で反人間的な統治という悪手であり、明らかな法の支配にたいする違反だ。驚くべきことに、これらの法令は宗教の名の下に出されたものだが、宗教の精神とは相容れないものだ。例えば、学校や大学での女子教育を禁止し、官公庁はおろか仕立屋や理髪店でも女性の就労を妨げた。そして最も犯罪的なのは、ターリバーンにより投獄された女性への集団レイプ。さらに元兵士や若い男性の公開処刑などである。それはただ人権条約に抵触しているだけでなくむしろ、コーラン、スンナ、イスラム法学に反しているというべきで、部族の掟とも両立しない。さらにターリバーンはこれだけで満足せず、宗教的マイノリティにすら暴力とハラスメントを及ぼす。数日前、一部のターリバーンの輩が、カーブルのカルテ・パルワンにあるヒンドゥー教徒とシーク教徒の礼拝所に侵入した。最近、ターリバーンはアフガニスタンの宗教的・民族的指導者の写真を破壊し、削除し始めており、国民から強い反発を招いている。

ターリバーンは、何千何万もの働く女性たちから仕事を奪い、何千何万もの少女から教育の場を奪い、女性を投獄して性的暴行を加え、さまざまな容疑で元兵士や若者を公開処刑し、宗教的民族的指導者を軽視していることは誰でもが知っている事実である。ターリバーン集団に対する人々の怒りは高まっている。 さまざまな規制は、アフガニスタンの危機を深刻化させている。ターリバーンの暴力は、政府に対する国民の怒りと憎しみを日々増大させており、それは溜まりに溜まってやがて嵐のような勢いで弱いところをこじ開ける。

 

世界的な影響と将来の展望:
政府を牛耳り国を支配するという最高指導者の野望にしたがって、ターリバーンの重鎮たちは、純粋さと敬虔さというスローガンの下、自分たちの犯罪を隠そうとしている。つまりターリバーンは頑固に神権政治に固執し、それがその傀儡政権を貧困と無知に導いている。その間、世界は彼らを止めるために何もすることができていない。ターリバーンが女性蔑視的な法令を発令したことで、アフガニスタンへの人道支援が停止した。ターリバーンの行動にショックを受けた一部の国外機関は、アフガニスタンでの自分たちの役割を再考している。確かに、活動を停止しつつもターリバーンと交渉し、女性スタッフの限定的な雇用許可と、健康、栄養、教育、その他の分野での活動再開の許可を得ようとしている組織もある。しかし、多くの人命救助活動が公式には違法とされてしまった。

同時に、アフガニスタンのインフラは何十年にもわたる戦争によって破綻しており、後進国においてより顕著に表れる欧米が引き起こした気候変動により農業は破壊された。アフガニスタン経済の非効率性は欧米がもたらした孤立化にその一因がある。そして、海外に預けられたアフガニスタン資産の没収。これらすべての重い代償は、女性、マイノリティ、貧しい人々からの搾取となって最悪の結果をもたらす。グローバルな視点から見ると、ターリバーンの忌むべき行動に対する最も基本的な対処は、これらの脆弱なグループに対する損害を減らす方法を見つけることだが、残念ながら、この点に関して重要な措置はいまだ実行されていない。したがって、今述べた要因は再び積み重なって、ターリバーンの指導者たちとその政府に対する人々の怒りの嵐を増幅させる。

ターリバーンは、アフガン国民の我慢と忍耐を、いつまで踏みにじるのか。遅かれ早かれ、人々が耐えきれなくなり、現在の沈黙が破られるとき、ターリバーン政府という塔と城壁は崩れ落ちる。ターリバーンは、1997年にパンジシール州、パルヴァーン州、カーピーサ州、そしていくつかのカーブル北部地区で組織的な蜂起が起こったことを忘れてしまったのだろうか。それはターリバーン支配の最初のラウンドだった。怒ったターリバーンは北部の人々が誇りとした耕地と庭を焼き、何千エーカーものブドウ畑が姿を消した。それはゆゆしき破壊行動であり、ターリバーンの焦土作戦としてこの犯罪は歴史に刻まれている。

残念ながら、ターリバーンは忘れっぽい連中であり、彼らは支配の最初のラウンドで以前の犯罪から学ばなかっただけではない。それどころか、第2ラウンドでは、彼らは人道に対する罪を増大させた。今やターリバーンの弾圧は、これまで以上にアフガニスタン国民の血管に重くのしかかっている。そのうえ、部族支配の伝統を無視し偽りの利己主義の波にのまれて、ターリバーンは、国民を統合する移行期の暫定政府の形成に関するアフガン国民の人道的で正当な要求に少しも注意を払わず、その抑圧の刃は日々ますますあからさまになっている。そしてアフガン国民の喉もとにまで迫っている。

これまでの議論で明らかなごとく、ターリバーンが好むと好まざるとにかかわらず、彼らの政府は日々、世界からの増大する圧力にさらされ孤立に直面している。中国、ロシア、イランがアメリカと対抗して、ターリバーンにより一層の支援を提供する可能性は低い。この3カ国が抱くテロへの脅威と水利権に関する懸念をターリバーンは払拭できていない。さらに、アフガニスタンへの人道支援が無期限に続くという保証はない。ターリバーンの欺瞞の季節は終わりを迎え、国際社会にとって、ターリバーンとのさらなる関与は間違いなのだ。

女性に対する継続的な制限、貧困と失業の増加、そして国民の要求に対するターリバーンの無反応は、最終的にはアフガン国民の忍耐力の緒を切ると結論づけるべきだ。遅かれ早かれ、アフガニスタンの男女の怒りと不満があふれ出すと予測するのは、大げさではない。これが現実になるとき、沈黙は破られ、ターリバーンの足元でアフガニスタンは火薬庫と化すだろう。このような蜂起は、ターリバーンの指導者たちや戦闘員の不意を突くことになり、ターリバーンが逃亡を余儀なくされた2001年のような状況につながる可能性がある。そうなった場合、極秘諜報取引でお膳立てしターリバーンをカラチ、ペシャワール、イスラマバードへと逃亡させたブッシュ大統領もムシャラフ将軍ももはやいないのだ。

 

参考書籍等

1. ゴパール、A.(2014) 「生きている人々の中に善人はいない:アメリカ、ターリバーン、そしてアフガニスタンの目を通して見た戦争」メトロポリタンブックス
2. HRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)ワールドレポート2022:アフガニスタン
3. マルカシアン、C.(2021)「アフガニスタンでのアメリカの戦争:歴史」オックスフォード大学出版局
4. ナスル、V.(2010)「シーア派の復活:イスラム教内の紛争が未来をどのように形作るか」W.W.ノートン&カンパニー。
5. ルービン、BR(2021)「アフガニスタンの分断:国際システムにおける国家形成と崩壊」イェール大学出版局。
6. UN Women(2022年)「 アフガニスタン:人権侵害のジェンダーに基づく分析」国際連合
7. ザリーフ、M.(2021)「アフガニスタンの政情不安による経済的影響」 ラウトレッジ
8. 世界銀行(2021)「アフガニスタンの概要」
9. アムネスティ(2022)「アフガニスタン:人権危機」
国連開発計画(UNDP)(2022). 「アフガニスタン:人間開発報告書」
10. 国際危機グループ(2022)「アフガニスタンの人道危機:見出しを超えて」
11. マシッド・ミール https://www.ariaye.com/dari21/siasi2/mashid7.htm