A short story: Smart Talib
Written by Sulaiman Kabir Noori
Tranlated into English Fateh Sami
(WAJ: 本サイトでは、2021年に復権したターリバーンが、第1次統治時代と同じく、詩作や芸術を禁止し、歌舞音曲などの娯楽、結婚式などでの楽器やビデオカメラなどの使用を禁じる現実と、それに対するアフガン民衆の抵抗を伝えてきた。以下に紹介する短編小説「賢いターリブ※1」は、第1次ターリバーン時代の1シーンを素材にターリバーン支配の1断面を描いている。)
2024年7月28日
英訳者まえがき
ファテー・サミ
この物語は、ターリバーンの残忍な統治下で恐怖と苦しみがシャリーア法の名の下に蔓延する様を鮮やかに描き出しています。ヌーリ氏によって1997年に書かれたターリバーン第1次政権政時代の物語だが、たくましい想像力、直感力、そして文章力で著者の見た厳しい現実を表現し、それは現在にも通底しています。
この物語では、サミールとムッラー・グルミール(訳注:ムッラーはイスラム聖職者の称号)の2人が出会い、ターリバーン政権下で横行する恐喝と強奪をつまびらかにします。ターリバーンはサミールが大切にしていたビデオカセットを壊し、絶望のうえ従わせるなど、勝手気ままに振る舞います。そんな容赦のない戦術は、ターリバーンの非人道的で抑圧的な支配を象徴しています。サミールのような普通の人々が直面する絶え間ない脅威と予測不可能性は、恐怖と支配によって繁栄する体制の下で生活することの厳しい現実を浮き彫りにしています。
これらの物語は、ターリバーンの野蛮で代理的な政権が人々に恐怖を植え付け、非人間化し、安全や正義感を剥ぎ取る社会の厳しい絵を描いています。ところが、彼らは、アフガニスタン和平プロセスを装ったドーハ会議で画策された陰謀によって再び権力の座に就いたのです。彼らは爆撃、強盗、自爆攻撃を通じて、民間人やインフラに対して重大な犯罪を犯しました。しかし、残念ながら、彼らの支持者たちは、戦略的な政策を追求するばかりで、自分たちの利益のためにこの違法な政権に関与し続けています。
この間、彼らの狂信的な態度は全く変わっていません。アフガニスタンの人々は現在、1997年と同じか、さらに厳しい残酷さを経験しています。この短編は、女性、少女、教育を受けた若者が苦しんでいる現状を題材に書かれた「事実に基づく物語」です。
<短編小説>賢いターリブ
スライマン・カビル・ヌーリ著 1997年夏カーブル
街は夜になり、かつて見慣れた風景が一変した。市民は徐々に静寂を受け入れ、街は暗い雲に覆われているようにみえた。濃い髭を生やし、ターバンを巻き、色とりどりの帽子をかぶった男たちが通りをうろついていた。まるで木曜日※2のようで、マドラサ※3の学生たちが行き交い、週末に家に帰りたいと切望する彼らの顔は退屈と痛みが混ざり合っていた。
車道の両側には露天商が列をなし、なにか新しい商売に精を出した。歩道には大きなテントが張られ、陰鬱な客が手にするのは古くて硬いパンだった。このいまいましい食糧事情は、人々の心を重くした。
一定時間ごとに武装集団が現れ、ダットサン車の拡声器からアフマド・シャー・ドゥッラーニー※4の息子たちという勝利の曲を鳴り響かせた。彼らは「アムルベ・マルフ(勧善)とナヒ・アズメンカール(懲悪)」※5の手先だが、若者たちからは「アブドル・マルフ・ベイ・ニカール」(下着なしのアブドル・マルフ)と嘲笑されていた。これらの車両は楽器のメロディーなしならパトロール中で、その存在だけで恐怖を呼び起こすのに十分だった。ダットサンの車両は、巨大な装甲戦車と同じくらい恐ろしく、道路を轟音を立てて走り、通行人を撃つ準備ができていた。
ターリバーンの恐怖の影が、カーブルに暗いベールを投げかけた。かつて美しかった街は、今や哀悼の黒いローブをまとい、幸福は根こそぎにされ、消え去った。住民の半数以上、つまり女性は、ターリバーンの命令により自宅に投獄された。音楽の禁止により、カセットやビデオテープが禁制となり、街の木の枝に吊るされた。まるで踊るように風に揺れ、それらは抑圧的な体制を常に思い出させるようにひらひらとたなびいていた。それを見ていると、暗黒支配の恐怖をおぼえた。
この不愉快な時期に、サミール・ハッジ※6・カシムの父親は、彼の一人息子の結婚披露宴の手配で忙しかった。
サミールの結婚式の日だった。ハッジ・カシムは中庭の隅の壁にもたれかかり、ハリファ・ハシェムとおしゃべりをしていた。ハシェムは料理人でハンカチを肩に乗せて忙しく仕事に追われていた。周囲には、10人から15人の男性に加えて数人の若い家族がおり、それぞれ担当を持って、素早くてきぱきと調理していた。
食事の準備をしながら、ハリファ・ハシェムはすすで黒くなったアルミ製のやかんを大釜の乗った火に放り込み緑茶を淹れた。彼はそれを近くの人々に差し出して言った、「どうぞどうぞ!あなたはこんなに熱いお茶を飲んだことはないでしょう。」彼は眉毛の下から観察しつつ褒め言葉を期待していた、「はっ、とてもおいしい」というような。そして確かに、お茶は称賛に値した。
遠くから見ると、皆あごひげが濃いため、顔をみただけで人を識別するのは困難だった。彼らは皆、ハリファ・ハシェムの黒くすすで汚れたやかんを首にぶら下げたかのようだった。そんな若者の中で、サミールは白いシャツ、ターバン、そして黒いクルタ※7をはおり目立っていた。クルタにはカンダハール風のクリーム色の繊細な刺繍がほどこされていた。彼の広い肩、色白の肌、鋭い眉毛、恥ずかしそうな目、太い丸いあごひげ、そしてバランスの取れた体は、父親のぽっちゃりした体型とは対照的だった。
ハッジ・カシムは米の商人で、裕福な男だった。彼は恰幅の良さとダークブラウンの肌で、みなに知られていた。遠くから見ると、彼の胃袋のあたりは、カーブルのデ・アフガナンの曲がりくねった路地で、わずか2、3アフガニの手間賃を稼ごうと、家から家へと50キロの小麦粉を運んでいた「ババ・ラマダン・ポーター」のひとりを思い出させた。米売りのハッジ・カシムの腹は米袋なみだった。
ターリバーンの暗黒支配はあまりにも恐ろしかったため、不安と恐怖が街の路地全体に広がり、もはや誰も笑顔の唇を見ることができなかった。あごひげと口ひげの下には、笑顔の気配さえ隠されている。結婚式を祝うことは、少年少女の最大の夢だったが、その日、サミールにとっては恐ろしい悪夢以外の何物でもなかった。サミールは自分の結婚式をできるだけ盛大に祝いたいと思っていたが、その願いが叶わないことはわかっていた。街の抑圧的な雰囲気は、楽しいはずの集まりをコーラン朗読の集まりのように感じさせた。
サミールと彼の叔父にあたるハメドは、音楽と歌で家族の幸せな集まりを思い出深いものにしていたが、ジレンマに直面していた。ターリバーンの抑圧的な支配下で、自分たちの結婚式を祝うために、彼らは何ができたのだろうか? 彼らは一週間前に決断を下していた。サミールは、父の同意を得て、地下の大きな部屋のひとつを音楽の楽しい集まりのために用意していた。父親は「この壺を使えば、楽器の音や歌声が部屋から漏れるのを防ぐ」と植木鉢を8個購入した。
その夜、近親者が参加して行われた結婚式は順調に進んでいた。サミールはみんなに地下室に行くように頼み、30分後には全員がそこにそろった。
ハメドは幸せな明るい歌を歌い、自分で踊り始めた。他の者たちは彼のために拍手をしたが、不安と恐怖を感じていた。まるで、見えない片隅から悪霊が吠えているように感じられた。ハメドの母であるマリとその祖母は、サミールの曾祖母でもあるが、困惑し怯えているように見えた。二人は、生地を選ぶために店ののれんをくぐったとき、突然、鞭が針のように骨に刺さったのを覚えていた。
ハメドは皆にダンスに加わるよう勧めた。若者たちがゆっくりと前に出て楽しんでいると、突然、門から「おい、ターリバーンが来たぞ」という声が響いた。
まるで巨大な力が立ち上がり、すべての楽器を飲み込み、歌を沈黙させたかのようだった。誰もが麻痺し、美術館の彫像のように青ざめていた。叫び声は冷たい静寂の中を伝わり、みなの胸は凍えるような息をした。ハメドは一瞬で音楽をやめ、あらかじめ用意された布で機材を覆い隠した。彼は観客にささやいた、「怖がらないで! 私たちはなにも悪いことをしてるわけじゃない。これは結婚式であり、みんな幸せなんだ。」彼は低い声で、「覚えていて、私たちはいかなる音楽も聞いていない」と付け加えた。
テラスを歩いていたサミールの父親は、車が止まる音を聞き、甥に音楽を消すように警告した。音楽がやむとすぐに、路地に通じる門のベルが鳴り響いた。まるで救急車のサイレンのように彼らの耳を突き刺した。ハッジ・カシムは戸口に出た。彼は最悪の恐怖を確認した。彼の前には、中世の恐ろしく怒り狂った保安官のような武装したターリバーンの男たちが立っていた。まるで強力なレーザー光線が全身を貫き、一瞬にして彼を変えてしまったかのようだった。彼は、隣人のウスタッド・ハサンがいつも言っていたことを覚えていた――「この男たちは原子爆弾よりも危険だ」。
彼の心拍数は倍増し、列車の急速な動きのように耳に響き渡った(ドックドック、ドックドック)。つばきは、灼熱の夏の暑さで空になった水差しのように乾ききってしまった。ターリバーンは「なにをしてるんだ!」と尋ねた。ハッジ・カシムは、50年の人生で、これほど恐ろしい悪夢をみたことがなかった。自分をコントロールし、落ち着いているように見せるのに苦労しながら、彼は答えた。「マウラヴィ・サーヒブ※8、神に讃えあれ、すべてが善で完璧です。」ターリバーンのひとりが冷笑した。「良ろしい、完璧だ、とおまえは言うのか?」ハッジ・カシムはどもりどもり、「結婚式ですよ、結婚式。息子のサミール・ジャン※9の結婚式。アッラーに讃えあれ、もう終わりました。アラーに讃えあれ、私たちは完璧にやり終えましたよ。」ターリバーンのひとりが「音楽はあったか?」と尋ねた。ハッジ・カシムは、大きな腹に手を当てて、「いやいや、マウラヴィ・サーヒブ、神の恵みにより、すべてが完璧でした」と卑屈に答えた。
ターリバーンがハッジ・カシムを尋問する中、数人の若者や子供たちが廊下に繋がるテラスに出てきて、彼らの会話を聞いていた。みんな帽子をかぶっていた。
ターリバーンは、結婚式での音楽演奏を禁じていた。好奇心旺盛なターリブが、廊下の入り口に集まった若者や子供たちのグループに近づき、彼らの顔をじっと睨みつけた。誰もが、このターリブがあごひげや頭を調べて、短いあごひげの男を罰しようとしているのではないかと恐れた。幸いなことに、全員のあごひげはターリバーンのルールに従って長く、自然のままで整えられていなかった。
廊下の奥で、その鋭い目をしたターリブが、ビデオカメラを手にした若い男ムシュタクを見つけた。そのターリブはムシュタクに「こちらに来い、来るんだ!」と叫んだ。ターリブは突然笑い出し、仲間に向かって大声で叫んだ、「俺は見つけたぞ、神のおかげだ!俺は俺のやり方で見つけたぞ。」
ムシュタクは、中背やせ型の青年で、機知に富み、いたずら好きだった。ターリブの声を聞いて、彼は青ざめ、震え始めた。喉も口も乾いていた。彼は思った、「しまった、すべて台無しだ。すべてぼくのせいだ。間違いを犯してしまった。すべてを台無しにしてしまった。」
若者たちの心臓は恐怖でドキドキしていた。抑圧され、疑念を抱くような目でムシュタクを見つめ、なぜ彼が地下室につながる廊下に飛び出すというドジを踏んだのか不思議に思った。ムシュタクは弱ったふうで、足が震え、ターリブに向かってゆっくり歩いた。他の人々は彼のために道を開いた。彼は頭を下げてターリブの前に立った。ターリブは、まだ笑いながら、ムシュタクの髭をつかみ、強く揺さぶって言った。「おい、お偉いの、イスラームのシャリーア法を知らないのか。いまだに冒涜しているとはなぁ。」
ムシュタクは沸騰した湯に顎を突っ込まれたように感じた。しかし、焼けるような痛みはすぐに消え去り、厳しい罰と拷問の恐怖の影がさした。ターリブはムシュタクの手からカメラを取り上げ、「さあ、警察保安所に行くぞ」と言いながら彼を激しくひっぱたいた。
その間、サミールとハメドは、祖母の手と足に冷たい水をかけさすっていた。彼女はターリバーンの雄たけびを聞いて気を失っていた。周囲はサミールに、「ターリバーンがムシュタクをカメラの件で警察に連れて行く」と伝えた。
サミールとハメドは急いで地下室から出て、家の門の方に走った。そこではハッジ・カシムがターリバーンにムシュタクの釈放を嘆願していた。ターリバーンが父親の言うことを聞かないのを見て、サミールは口をはさんだ。「結婚式は私のもので、かわいそうな彼は罪を犯していない、無実だ。何か問題があれば私に言ってくれ!」
武器を肩に乗せたターリブが「やつも犯罪者だ。しかも若者だ。連行する。」招待客は全員中庭まで出てきた。サミールの母、叔母、姉妹たちは泣いていた。ハッジ・カシムは、妻と娘たちを屋内に入れるようその場にいた人々に頼んだ。彼はサミール、ハメド、ムシュタクと一緒に警察に行こうとした。しかし、泣き叫ぶ妻や娘たちを誰が落ち着かせることができるだろうか?サミールの母がうめき声をあげて泣きながら門のところに来た。
「サミールをどこに連れていくの? 私の心の一部をどこに連れていくの? 私たちの花婿をどこに連れて行くというの?」サミールの姉妹たちは泣きながら、「ああ、神様!どんな日だというんだろう? ああ、神様、私たちの話を聞いてください。」
ハメドがサミールとムシュタクのそばにいるのを見て、ハッジ・カシムは妻を落ち着かせ、家に引き入れようと戻った。ダットサンの車2台で到着したターリバーンは、サミールとハメドを1台の車に、ムシュタクをもう1台の車に乗せて行ってしまった。「犯罪者」にされた3人は、自分たちにどんな運命が待ち受けているのか、まったく分からなかった。車が動くと、ほとんどの女性、少女、子供たちが泣き始めた。
ハッジ・カシムの自宅の空間は、息子の結婚式の夜に大混乱に陥っていた。女性たちの叫び声と泣き声が、夜の静寂を遠くまで破った。闇が両手を広げ、熱心に光を追い払っていた。
サミールとハメドは最初の車に座り、今やターリバーンの手中にある結婚式のビデオ録画に二人とも苦悩していた。彼らは、このビデオが自分たちに何か不幸な結果をもたらすのではないかと心配した。ハメドは密かな表情でサミールを一瞥し、「この結婚式の夜、彼がこんなトラブルに見舞われるとは!」と残念に思った。
ムシュタクからカメラを奪ったターリブは、サミールとハメドと一緒に後部座席に座っていた。しばらくして、サミールはゆっくりと落ち着いてターリブの方を向いて言った、「いいですか、先生、あなたもみなと同じく多くの望みと願いを持った若者でしょう。それは私も同じです。しかし、私の人生で唯一の願いはこの結婚式でした。このカセットにあるのは、その印象と記憶だけで、それ以外には何もありません。ぶっきらぼうですが熱心な若者とお見受けします。どうかこのカセットを返していただけませんか?そうすればあなたも神も喜び、私はとても幸せになります。どう思いますか、兄弟?」
ターリブはサミールの嘆願を耳にしたが、何も答えなかった。その間、車の運転手はカメラを「狩りとった」ターリブに顔を向け、笑いながら「ムッラー・サーヒブ・グルミール、お前はとても賢いな」と言った。その名前がムッラー・グルミールであることが判明したターリブは答えて、「まだ俺の知性を疑っているのかい?」運転手の反応は「いやいや、ムッラー・サーヒブ、お前の過去を聞いてお前がとても賢い人物だとは知っていたよ。」ターリバーンは二人とも笑った。
サミールは、この機会をうまく利用すべきだと考え、ムッラー・グルミールに静かに言った、「さあ若い男の懇願です。同じ若者として聞き入れてください!」再び、ターリバーンは何も言わず、武器を股間に挟み、指を引き金に当てた。
約20分後、車はセキュリティーゲートの前で止まった。車のドアが開き、「終了」という声が聞こえた。全員が下車した。ムッラー・グルミールは、片手に武器を持ち、もう片方の手にカメラを持ち、他の者たちについて来るよう命じ、英雄のように前を歩いていった。全員がホールに入ると、ムッラー・グルミールが一つの部屋の扉を開けて、「帽子を脱げ。この中へ。」彼は他のターリバーンには自室に行くように指示した。
3人の「被告人」だけが、ムッラー・グルミールと一緒にその部屋へ入った。中には誰もいなかった。それはオフィスで、大きなカーペットが敷かれ、マットレスの上には赤い枕があった。すべての窓は開いていたが、部屋は足汗の悪臭でいっぱいで、それが彼らの鼻を焼くと、3人は「犯罪の人質」へと立場が変わった。
ムッラー・グルミールは扉を開けて叫んだ、「マウラヴィ・サーヒブ!どこにいますか?」男性でも女性でもない声が答えた、「しばし待て、私は夜の祈りのために清めをしているのだ。」
しばらくすると、細いが長い子鹿色のあごひげを生やしたマウラヴィが部屋に入ってきた。彼は沐浴の後、たくし上げた袖を元に戻し、マキシ風のスカートで顔を拭いていた。彼が入ると、「被告人」は正式な挨拶をした、「アッサラム・アライクム・ワ・ラフマト・ウッラー・ワ・トフ。(アッラーの平安と慈悲が汝らにあるように)」彼は短くうなずきながら、「ワ・アライクム・サラーム。 (汝も同じ)」と答えた。
彼は指で髭を整えながらターバンを直し、ムッラー・グルミールに尋ねた、「この少年たちは何をしでかしたのか?」ムッラー・グルミールは答えた、「彼らはムハンマドのシャリーアとターリバーンによるイスラム首長国の規則に従わない結婚式をしました。音楽はなかったが、彼らは撮影をしていました。私たちは彼らを逮捕し、ここに連れて来ました。」
マウラヴィは尋ねた、「目撃者は誰だ?」ムッラー・グルミールは「私自身が目撃者です」と答えた。マウラヴィはさらに尋ねた、「彼ら全員が撮影していたのか?」 ムッラー・グルミールはムシュタクに向かって手を差し伸べ、「いいえ、撮影していたのはこの若者です。他の二人は結婚式の主催者でした。」
マウラヴィは立ち上がり、「主よ、悔い改めよ、懺悔せよ!この男たちはイスラム法を全く理解していない。」そして、「ムッラー・グルミール、まず私の前のカメラを壊せ。この映画監督に明日また来るように伝えよ。朝までに彼の頭を剃って乾かせ。彼はその大罪によって120回のむち打ちを受ける。他の2人は、その些細な罪によって、それぞれ60回のむち打ちを受ける。これはシャリーアとイスラームの決定である。」
ムッラー・グルミールはサミールに向かって、「とっととやらないと大切な夜の祈りが出来なくなるからな」と言い放ち、その場でカメラからカセットを取り出し、踏みつけて壊した。サミールは深く失望し、恐怖が彼の心を捕らえた。ムッラー・グルミールの言葉に、サミールは後悔のあまり頭を下げ、黙ったままだった。
ムッラー・グルミールはかさにかかって言い立てた、「そう、俺はぶっきらぼうな男だ。熱心だ! 答えろ! もし撮影したカセットを元通り返してやったら、いくら払うか?」ショックを受けたサミールは、テープを返すよう頼んだのは間違いだったといま気づいた。その結果がこの始末だと。ムッラー・グルミールは質問を繰り返した。「俺は言ったぞ。お前はいくら払うのか?」サミールは答えた、「ムッラー・サーヒブ、カセットは壊されもうありません。もう何も欲しくないのです。」
ムッラー・グルミールはしつこかった、「もし生き返らせるなら、いくらの価値があるんだ?」サミールは答えた、「それは私にとって非常に大きな価値がありました、ムッラー・サーヒブ。」ムラー・グルミールは尋ねた、「もし俺がテープをやったら、20万ルピー(アフガニ)出すか?」
サミールは、ムッラー・グルミールが他にどんな策略を用意しているのかといぶかった。彼は、その時代にターリバーンが金をゆすり始めたことを知っていた。彼らは、パキスタンからトールハム国境を越えてアフガニスタンに運ばれてきた移民家族の棺からさえ金を奪い取った。
サミールは繰り返した、「もう何も残っていません、ムッラー・サーヒブ。」ムッラー・グルミールは、ベストの内ポケットからカセットを取り出し、「足で割ったカセットはインド映画のカセットだ。これがお前の欲しい本物のカセットだ。」
サミールは疑念を持ってテープを見つめ、やがて「サミール・ジャンとマフナズ・ジャンの結婚式 第2巻」とラベルが貼られているのを見つけた。ターリブが真実を語っていることに気づいたサミールは、カセットを胸に押し当て、深く息を吸い込み、ポケットの中のお金を全部取り出して、ムッラー・グルミールに渡した。「ムッラー・サーヒブ、本当にありがとう。このお金を受け取ってください。ほぼ40万です。」それから彼は用心深く、力なく「もう行ってもいいですか?」と付け加えた。
笑っていたムッラー・グルミールは、すぐにお金をポケットに入れて扉を開けた。彼は警備員に「あの人たちは通してもよい」と指示した。ムッラー・グルミールはサミールの耳元で何かをささやき、彼のために祈った。サミール、ハメド、ムシュタクはターリバーンの警備地帯を後にした。それぞれが深いため息をつき、災厄から逃れるための強い翼を見つけたかのように感じた。
サミールは、ムッラー・グルミールのことを祈るとき、その最後にささやいた言葉を思い出す、「俺を愚かなターリバーンの一員だと思うなよ。俺は油断せぬ賢いターリブだ。」
<終>
注1:学生を意味するアラビア語から来た言葉で、その複数形が「ターリバーン」
注2:イスラム社会では金曜日が安息日
注3:イスラム神学校
注4:ドゥッラーニー朝の初代シャー、在位:1747年 – 1772年。パシュトゥーン人アブダーリー部族連合ポーパルザイ族サドーザイ氏族出身
注5:第1次ターリバーン政権は勧善懲悪省を創設し、イスラームの倫理概念に基づいて厳しい取り締まりを行った
注6:ハッジはメッカ巡礼を済ませたことを示す称号
注7:袖のない長めのシャツ
注8:マウラヴィはイスラームの師、サーヒブは尊称、あわせて「先生殿」ほどの呼びかけ
注9:ジャンは魂や命をさすが、名前につけて親愛の情を示すのにも使われる