Talibanism: Origins, Evolution, and Contemporary Characteristics
(本稿は、アフガニスタンにおけるターリバニズム(Talibanism)の歴史的起源、思想的進化、そして現代における顕在的特徴を検討するものである。歴史的・社会的・政治的分析に基づき、ディオバンド派マドラサの役割、パキスタンの関与、ならびにパシュトーンワリ(部族慣習法(パシュトゥーンワーリー))がターリバーンの思想形成に与えた影響を考察する。さらに、ターリバーンの統治形態、内部対立、特に女性、民族的少数派、経済運営に関する政策がもたらした社会政治的帰結を分析する。最後に、国内的課題と国際的圧力という文脈の中で、ターリバニズムの将来を評価し、適応か緩慢な衰退のいずれかに向かう可能性を示す。本研究は、イデオロギー、文化、地政学が相互に絡み合いながらターリバニズムの持続と変容を生み出してきた複雑な構造を明らかにする。なお、本稿の著者ファテー・サミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。)
ファテー・サミ(Fateh Sami):フリーアカデミック研究者
2025年11月23日

はじめに
ターリバニズムは、過去30年以上にわたりアフガニスタンにおける決定的な政治的・思想的勢力として台頭してきた。その発展を理解するためには、王政の崩壊、共産主義政権、ソ連介入、内戦、大規模な人口移動といった同国の激動の歴史を検討する必要がある。これらの出来事は、特にパキスタンにおけるアフガン難民社会の中で、ターリバニズムが根付く社会政治的条件を形成した。本稿は、ターリバニズムの歴史的起源、思想形成、政治的行動を包括的に分析するとともに、その社会的・経済的影響を評価することを目的とする。文化的・部族的・宗教的文脈の中にターリバニズムを位置づけることで、国際的反対や内部的困難にもかかわらず、この運動が存続してきた理由を解明する。
1.歴史的・社会的背景
ターリバニズムは、20世紀後半におけるアフガニスタンの社会政治的展開から切り離して理解することはできない。モハンマド・ザーヒル・シャー国王の追放(1973年)、共産主義クーデター(1978年)、ソ連介入(1979〜1989年)、およびその後の内戦は、同国の社会・政治構造を根底から変容させた。数百万人のアフガン人、特に南部および東部地域の人々がパキスタンへ移住し、ディオバンド派の伝統(Deobandi tradition)に影響を受けた宗教学校で教育を受けた。
イランにも多数のアフガン難民が移住したにもかかわらず、同地ではターリバニズムは成立しなかった。これは、教育・宗教・政治制度の違いに加え、イラン政府による宗教学校への厳格な統制が主要因であった。
後に「ターリブ(複数形:ターリバーン)」(訳注:パシュトー語で「学生」の意味)と呼ばれる世代は、無国籍状態、無法状態、そしてアイデンティティの危機の中で成長した。ムジャヒディーンの内戦に対する社会的疲弊の中で、この世代が1990年代のターリバーン出現の基盤となった(Hassani, 2017)。
2.ディオバンド派宗教学校の役割と思想形成
ターリバニズムは、パキスタンに存在する数千のディオバンド派宗教学校から生まれた。これらの学校はハナフィー法学を基盤としていたが、特に女性の権利に関しては、その穏健な原則から大きく逸脱していた。ターリバーンは、これらの教義に反する厳格な政策を実施した。
これらの学校では、世界は「正」と「邪」という二項対立で捉えられ、西側諸国との関与、芸術、音楽、女子教育、社会変革は宗教への脅威と見なされた。やがて学生たちは、無条件の服従、指導者への忠誠、継続的ジハード、近代性への敵意を中核とする共通の思想的アイデンティティを形成した(Samadi, 2018)。
3.パキスタンの役割とナスルッラー・バーバル
パキスタンは、以下の点でターリバニズム形成に決定的役割を果たした。
1. 教育面:国家支援の下、宗教政党がディオバンド派学校を運営
2. 政治・安全保障面:ターリバーンを対アフガニスタン戦略の道具として利用
3. 軍事・後方支援面:多くの司令官がパキスタン治安機関の支援を受けて訓練
ベナジル・ブット政権下の内務大臣ナスルッラー・バーバルは、初期ターリバーン組織の構築を支援し、「ターリバーンの父」とも呼ばれている。パキスタンの後援は、ターリバーンを統一的かつ組織化された勢力へと押し上げた(AISS, 2022)。
4.パシュトゥーンワリと部族文化の影響
ターリバーンは、シャリーアをパシュトゥーンワリの視点から解釈する。その結果、多くの裁定は宗教法のみならず部族慣習によって正当化される。名誉、復讐、長老への服従、女性に対する抑圧的価値観といった部族的要素は、ターリバーン思想に深く組み込まれている。この部族主義と宗教性の融合は、「部族化されたイスラーム」を生み出した(Independent Persian, 2021)。
ターリバーンの思想的進化と政治的行動
5.初期統治期(1996〜2001年)
ムジャヒディーン内乱(1992~1996)の過程で成立したターリバーン政権は、厳格な法執行、公開処罰、女子教育の禁止、文化遺産の破壊、メディア検閲を特徴とした。アル=カーイダの存在とムラー・オマルとの同盟は、ターリバーンを国際ジハード主義運動へとさらに接近させた(Hassani, 2017)。
6.ゲリラ戦期(2001〜2021年)
第1次政権の崩壊過程で、ターリバーンは反政府武装運動へと転化した。パキスタンの支援の下、以下のような進化が生じた。
• 軍事・組織変革:ゲリラ戦術、爆発物、自爆攻撃の採用
• プロパガンダ拡大:ISIの関与を伴うSNS・衛星メディア活用
• 思想的強化:ディオバンド派正統主義、パシュトゥーンワリ、ジハード的サラフィズムの混合(Revayataf, 2020)
7.政権復帰(2021年〜現在)
アフガニスタン・イスラム共和国(ガニー政権)崩壊後、ターリバーンは再び権力を掌握した。
• 権力集中:最高指導者アミール・アル=ムゥミニーン(訳注:イスラム教徒の指導者を意味するアラビア語)の下、意思決定はカンダハールに集中
• 反女性政策:女子中等・高等教育の禁止、移動制限、公的生活からの排除
• メディア統制:厳格な検閲と文化表現の抑圧
• ハッカーニ・ネットワークの影響:内務省および治安機関を掌握(AISS, 2022)
8.政治的正統性
ターリバーンは、バイア(忠誠誓約)を本質的にイスラーム的正統性とみなしている。しかし、長年にわたり指導者ハイバトゥラー師は一度も公の場に姿を現しておらず、これはイスラーム史的慣行に反する。選挙や人民主権を否定し、国家を支配集団の私有物として扱っている(Samadi, 2018)。
挑戦・結果・ターリバニズムの将来
9.女性の地位
女性は公的生活から排除され、部族思想に基づく厳格な政策の下に置かれている。これにより社会発展は破壊され、アフガニスタンは国際的に孤立している(Independent Persian, 2021)。
10.非パシュトゥーン民族への対応
ターリバーン統治はパシュトゥーン中心であり、他民族の政治参加は限定的で管理されたものに留まる。このことが民族対立を悪化させ、紛争を長期化させている(AISS, 2022)。
11.経済・行政上の課題
ターリバーンは一貫した経済計画を欠き、伝統的収入、不規則課税、麻薬取引、違法鉱山採掘に依存している(Hassani, 2017)。
12.内部対立
カンダハール派とハッカーニ派の緊張は深刻化しており、統治と組織的結束に長期的リスクをもたらしている(Revayataf, 2020)。
13.ターリバニズムの将来
将来は、国際圧力、女性・若者の抵抗、経済危機、内部対立に左右される。近代的現実への適応に失敗すれば、崩壊または強制的変容の可能性が高まる(Samadi, 2018)。
固定化した世界観とイスラーム理解の限界から、大規模改革の可能性は低く、最終的衰退が見込まれる。
結論(Conclusion)
ターリバニズムは、思想的硬直性、部族慣習、政治的実利主義が融合した独特の現象である。草の根運動から政府、反乱組織、再び政府へと変遷した過程は、柔軟性と深い保守性を同時に示している。女性や少数派への政策は深刻な帰結を生み、外圧と内部対立が長期的存続を脅かしている。近代統治の現実に思想を適応できない限り、ターリバーン支配の持続可能性は疑わしい。
© Fateh Sami, 2025
(引用・利用に際しては著者および出版社の明示的承認が必要)
References
AISS (2022) The Role of Pakistan in Taliban Formation and Support. Kabul: Afghanistan Institute for Strategic Studies. Available at: https://www.aiss.af (Accessed: 23 November 2025).
Hassani, M.B. (2017) ‘Taliban and Deobandi-ism’, Andishe Moaser. Available at: https://andisha.org/uploads/journals/Andishe-moaser/and-moaser18/baqir-hasani-135.pdf (Accessed: 23 November 2025).
Samadi, M.R. (2018) ‘An Analysis of Domestic Factors in the Emergence and Growth of the Taliban in Afghanistan’, Andishe Moaser. Available at: https://www.andisha.org/uploads/journals/Andishe-moaser/and-moaser18/samadi-173.pdf (Accessed: 23 November 2025).
Independent Persian (2021) ‘The Role of Deobandi Schools in Shaping Taliban Ideology’, Independent Persian. Available at: https://www.independentpersian.com/node/368101 (Accessed: 23 November 2025).
Revayataf (2020) ‘Madrasas and Militant Networks in Pakistan and Afghanistan’, Revayataf. Available at: https://revayataf.com (Accessed: 23 November 2025).
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