(2024年7月5日)

 外国人受け入れ 

~プラグマティズムではいけない~

 

景気動向と就業人口

人は動物、動く生物。葉緑素がないから、ミドリが大好き。

コロナ禍が過ぎて、インバウンド観光客が増加し、意外と日本の田舎にも外国人が訪れ、オーバーツーリズムが騒がれるまでなっている。

デフレ対策のおかげで、大企業の賃金は少しあがった。一方、中小企業は取り残されても、インフレは着実に進行している。

帝国データバンクが実施した調査によれば、「2024年2月における人手不足企業の割合は『正社員』が18カ月連続で5割、非正社員は3割と、いずれも高水準で推移している。物価高騰と人手不足の状況がさらに長期化すれば、企業は厳しい判断を迫られることになろう」としている。(帝国データバンク:「2024年度の雇用動向に関する企業の意識調査」

2025年新卒の雇用情勢は若干改善し高卒者の採用に力をいれる企業も増えてきている、との報道まである。

景気動向調査と併せて取りざたされるのは人口動向、つまり少子化=労働力の減少である。

少子化対策として日本人女子の生涯出生率を如何にあげるかの議論が盛んだが、日本人若者とくに女性に産めよ増やせよとばらまき予算で迫ってもシラケるばかり。効果のほどは怪しい。産業界にとって5年先10年先の「日本人労働者」の増加を待っているわけにはいかない。ましては3K、4Kと言われる職場には日本人が就職したがらない。勢い、そのような業界は即効性のある外国人労働力の雇用を求めて政府をつついている。

 

確実に不足する労働者数

状況は切羽詰まっている。緊迫する労働力需給を外国人労働者で補おうとする考えがある。

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は2年前、外国人労働者受け入れに関するさまざまな課題についての調査研究を実施した。

そこでは、2030年と2040年の外国人労働者の受容をそれぞれ419万人、674万人と見積もり、需給ギャップや外国人労働者迎え入れの具体策などの調査をおこなった。その調査レポートは「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書」としてまとめられている。

今回の<視点>原稿のための下調べをしていたら、上記報告書のアップデート版が7月7日に発表されると連絡がきた。その4日前の4日にZoomで事前報告会がおこなわれた。できたてほやほやの調査報告を視聴できた。それによれば、・・・・

2030年の外国人労働需要量は更新前と同じ419万人でかわらず、2040年は688万人で14万人の増加となった。いずれにしても、2040年には日本の就業者総数の1割が外国人となる推計はかわらない。しかしかりに688万人となってもそれでもまだ97万人が足らない勘定となる。(この日の報告会は、予測更新版のレポートは前座で、第2部はミャンマーをテーマとした実施レポート、第3部は参加企業の活動報告で、本<視点>の後半で述べる在日外国人労働者の受け入れの具体例がレポートされて、非常に興味深かった。この日のフォーラムのタイトルは「外国人労働者受け入れのための学びあいとネットワーキング」。このような現場の具体的な活動が国の方針を肉付けしていくことになる。)

一方、日本には移民に対するアレルギーがある。アレルギーの正体は西洋人へのコンプレックスアレルギーとアジア人への優越アレルギーの両極端の2種類だろう。移民までいかない難民の受け入れについても、人道主義に基づく世界条約を批准し、国民の中には受け入れ意思があっても、行政的には厳しく制限し日本は難民にほとんど門戸を閉ざしていると悪評が高い。ここ2、3年は、アフガニスタンやウクライナの事態を受けてアフガン人数百人、ウクライナ人1600人と受け入れが激増しているが他のケースでは難民申請をほとんど受諾しておらず、申請が3回目に不受理なら強制送還とする入管法の改訂も行っている。(NHK:「改正出入国管理法が施行 難民申請3回目以降 強制送還対象に」)

とはいえ政府/行政の側は、産業界の要望、実情にも配慮せざるを得ず、結果、二枚舌政策と批判されながらも外国人労働力誘致政策も打ち出している。

 

政府=入管局の建前=選別して受け入れたい

<現状>在留外国人数及び外国人労働者数の現状はつぎのとおり。

・在留外国人数   2023年末 341万992人
・外国人労働者数       204万8675人

出入国管理庁は、産業界の要請を受ける形で、2024年6月付けで、外国人労働者を受け入れるための施策について、つぎの報告書を公開している。

外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組 (出入国在留管理庁)

どのような外国人労働者をどのように受け入れるか、さらにはまた、先に紹介したJICAのシミュレーションで示されたように、どのように増やしていきたいと考えているのか、この取り組みプランを見てみよう。

積極的に受け入れたいのは、専門的・技術的分野の外国人

在留資格を、特定技能1号/特定技能2号(熟練)と定め、 つぎの特定産業分野(16分野)で受け入れる。
介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業

一見すればわかるように、日本人雇用者の就業したがらない分野に外国人労働者を当てよう、という露骨な政策である。

外国人労働者が欲しいと願っても、折からの円安や賃金の安さなどから、ASEANからみた労働市場としての日本の魅力は台湾、韓国、中国以下にさがっている。そこで、入管と言えども、日本に労働者を呼び寄せる様々な支援策を考え、実行せざるを得ない。彼らがピックアップしている10項目の支援策の中でも、しっかりやってほしいね、と思える事項には下記があげられている。

・生活オリエンテーション
・公的手続等への同行
・日本語学習の機会の提供
・相談・苦情への対応
・日本人との交流促進

どれも重要で効果的。われわれも千葉で進めているアフガン人女性と子弟のための日本語および生活学習支援学校であるイーグルアフガン明徳カレッジ(EAMC)でも提供しているサービスだ。

 

将来の日本社会のあり方まで提言している

官僚作文と揶揄されても、官僚は起承転結、メリハリをつけないと満足しないらしい。

入管局は、前節までで、海外からの労働者呼びよせ策を提言したうえで、「目指すべき外国人との共生社会のビジョン」まで提言する。つぎの3つを挙げている。

<安全・安心な社会>
<多様性に富んだ活力ある社会>
<個人の尊厳と人権を尊重した社会>

なんと美しい感動的な目標であるか、とただただ感心する。

さらに目指す共生社会に到達するための課題として次の4つを挙げている。

1 円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組(詳細な目標あり)
2 外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制の強化
3 ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援
4 共生社会の基盤整備に向けた取組

これらはまさに、われわれが千葉で始めたイーグルアフガン明徳カレッジの課題そのものである。<視点:089>「〝ワラビスタン〟から見えるもの ~日本の現状と将来を測るリトマス試験紙~」で述べた事柄だが、ここでもう一度確認しておきたい。

NHKが2月2日の夜7時半からの「首都圏情報ネタドリ!」で「埼玉・川口市がクルド人巡り国に異例の訴え なぜ? 現場で何が?」と題する30分番組を放送した。この番組でも「共生社会」構築の必要性に誘導するのだが、それは大筋において正しい。ただ、「ねばならない」「必要がある」と「官僚作文のように」上からの建前を羅列するだけでは現実を変革することはできない。ここで対象とされている「在日外国人」と「地域住民」のなかに分け入っていき、外国人と住民が「ねばならない」「必要がある」を自覚して、主体的な行動を起こし、地方自治体と連携する運動をつくりだす三位一体の構築の「必要がある」のだ。

実はこれは過去いろいろな活動を実践してきた筆者の実感だ。成功するかどうかは、ひとえに、これからの実践にかかっているのだが、いま、千葉明徳学園の施設を借りて去年の11月から始めたイーグルアフガン明徳カレッジの実践はまさにその「必要」を実感して進められてきている。

異文化の国に来て自由に外出もできないアフガニスタンの女性たちに、子供づれの来校を可能にする託児サービスも併設した日本語支援・生活支援の活動を開始したのはまさに、これまでさまざまな地域や団体が取り組んできた実践に学びつつ、EAMCの実践を共生社会への取り組みから、異文化融合社会の創造へとつながる活動の典型例を作り出したいと思っているからだ。つまり、

アフガニスタンの側からの、「日本で暮らすための日本語と日本のルールを習得したい」という要望とリーダーシップを、
市民の側からのボランティア活動によって受け止め、
それを学校法人という民間組織がバックアップして実現した、
さらにそれを自治体やさまざまな組織が支え、発展させる、
のがわれわれのプロジェクトだからだ。

政府の提言はバカにも、あだやおろそかにもできない。
なんでも必要なことが書いてある。
それを単なるプラグマティックな提言やアリバイにさせない
われわれの活動がもとめられているのではないのだろうか。

【野口壽一】