(2025年6月16日)
ねじくれ、戦国時代化する世界
~ターリバーンさえ怒ってる~
「アメリカファースト」「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」を標榜するトランプ大統領の返り咲きによって、進行中のアメリカ一極支配の崩壊が完成した。トランプ大統領は従来の同盟国を裏切ったり切り捨てたりする政策を平気で実施。その結果、軍事力を持った国家やグループはトランプ氏の物言いを真似てそれぞれ「ミー・ファースト」をかかげ勝手に立ち回るようになった。世界は、群雄割拠し敵と味方が入り乱れ諸関係がネジクレる、戦国時代の様相を呈するようになった。
イスラエル・イラン戦争の勃発
キリスト教徒にとっては忌むべき13日の金曜日、イスラエルはイランに対してミサイルとドローンによる爆撃とイラン内部でのスパイ活動を駆使した武力攻撃によりイラン軍幹部や核開発指導者などの暗殺を成功させた。世界は驚愕し、憂慮し、イスラエルの暴挙を批判ないし糾弾した。イスラエルを支持するアメリカでさえ、イスラエル支持の姿勢は変えずに今回の暴挙にアメリカは直接関与していないと言い訳する始末。
トランプ大統領のいうことを聞かないネタニヤフ首相は中東紛争を一挙に世界戦争の危機レベルを一挙に高めた。
このような危機的状況を受けて、実権を握って4年になろうとするのに国際舞台に迎え入れられていないターリバーンは、即刻、イスラエルを非難する姿勢を明白にした。アフガニスタンの独立系テレビ局であるアムTV(amuTV)は要旨次のように伝えている。(https://webafghan.jp/topics/#20250613a)
ターリバーンは「(イスラエルの攻撃は)国際法の基本原則、特に国家の主権と領土保全に対する明白な違反」であると述べ、イスラエルによる爆撃が数カ月にわたって続いているガザ地区の紛争にも言及し「パレスチナの抑圧された人々、特にガザ地区の人々が容赦なく壊滅的な攻撃を受けている今、占領政策は人道規範と国際基準を完全に無視した暴力行為である」と述べ、このような行動は地域の緊張をさらに高めるだけだと警告した。さらにターリバーンは自制を呼びかけ、関係するすべての当事者に対し、責任ある行動を取り、地域の平和維持に努めるよう強く求めた。さらに「交戦当事者は、この状況に対処するために全責任を負い、地域全体に不安と混乱が広がるのを許さないようにしなければならない」と述べた。
国内で散々暴力やテロを繰り返し、いまも暴力と見せしめの体罰を国民統制・治安の要とし、女性に対して日常的に非人道的で赤裸々なジェンダー・アパルトヘイトを加えているターリバーンの言説とはとても思えない崇高な声明だ。われわれもそれに、もろ手をあげて賛成し、日ごろの対立を忘れて共闘すべき姿勢ではないだろうか。イスラエル/パレスチナ問題に臨むと、われわれとターリバーンの関係もねじれている。
国際関係における「ねじれ」の発生
われわれとターリバーンとの「ねじれ」はそれ自体重要事項なのだが、国際舞台ではもっと大きなねじれが生じている。
たとえばウクライナが6月1日に実施した「クモの巣作戦」。ウクライナのドローンが100機以上、国境から遠く離れたロシア各地の空軍基地を攻撃し核爆撃をはじめ相当数の空軍機や基地を破壊した攻撃をめぐって明らかになった事実がある。この攻撃に対してロシアがキエフを含むウクライナ各地に大規模な報復攻撃をしかけたとき、ウクライナはイスラエルから供与された防空システムをロシアから飛んでくるミサイルの迎撃に使用した事実が判明した。トランプ大統領が、なかなか言うことを聞かないゼレンスキー・ウクライナにしびれを切らしパトリオットシステムなどの武器供与を一時停止していたとき、イスラエルは公然・非公然にウクライナを助けていたのだ。ゼレンスキー大統領とネタニヤフ首相はトランプ大統領の意向を無視している。
ロシア・プーチン大統領はウクライナ攻撃の口実にウクライナはネオナチだとして非ナチ化を掲げている。そのウクライナが反ナチの権化であるイスラエルから対ロシア武器援助を受けているのである。これはねじれであるとともに、イスラエルにとってはロシアにドローンや攻撃武器の供与をつづけるイランとの間接戦争でもある。プーチン大統領もイラン・北朝鮮と枢軸を構築しトランプ大統領の停戦構想をノラリクラリとやり過ごし、言うことを聞かない。
ウクライナがトランプ大統領の意向を無視して進めている対ロ戦争(基本的にはネオコンなどが仕掛けたロシアへの挑発の結果としておきたロシアによる侵略に対する防衛戦争なのだが)、トランプ大統領が成果を誇示した中東外交を無視してイランとの直接戦争をはじめたイスラエル。トランプの中東政策、対イラン政策を台無しにするネタニヤフ、トランプ大統領の停戦提案を聞かない3人。それぞれがそれぞれのやり方でトランプ氏の顔に泥をぬっている。
「ねじれ」がもはや「世界基準」?
最近になって顕著になってきたその他のねじれ現象をいくつか挙げてみよう。
・シリア、アサド政権の崩壊
旧アル=カーイダ、IS系勢力を支援するアメリカ、イスラエル(アサドに弾圧されていたイスラム過激派釈放。反ロシア)
・世界での右派ポピュリスト勢力の伸張
イタリア首相、フランス・ドイツ選挙、ポーランド大統領となったナブロツキ氏は「ポーランド・ファースト」ハンガリー・オルガンなどNATO内部の親プーチン派台頭
・インド・パキスタン紛争
アメリカの仲介で核対立は避けられたが、アメリカ、中国、ロシアの陰でパキスタン軍部とインド軍部の画策がつづく。
トランプ大統領のおひざ元でさえ;
・鳴り物入りで進めてきたトランプの高関税攻撃 習近平主席はトランプ大統領の言うことを聞かず全面対決。トランプ関税攻撃はしりつぼみ。TACO(「タコ」 Trump Always Chickens Out(トランプはいつもびびってやめる))と揶揄される始末。
・内政でもイーロン・マスク氏の離脱、不法移民摘発一時停止、反トランプ行動の高まり
群雄割拠、下克上の戦国時代をどう生きるか
「多極化世界」とか「多様性の時代」とかは、世界情勢でいえば、つまるところ、「下克上の戦国時代」のこと。
第2次大戦後の冷戦時代はアメリカ陣営とソ連陣営がそれぞれ国際的に2極を形成し、お互いに牽制しながら「核の恐怖」というリバイアサンによる秩序が保たれた。朝鮮戦争やベトナム戦争でさえ管理可能な戦争だった。
ところが1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻(大義名分はアフガン4月革命防衛)の失敗によって「恐怖による世界平和」は崩れた。ソ連と世界社会主義陣営の崩壊によりアメリカ一極が出現したが、国家と国家の戦争でなく、国家とゲリラやテロ組織との間の世界非対称戦争の時代が出現した。武力(警察官)による世界支配(管理)は破綻し、誰もアメリカの言うことを聞かないトランプ時代の現在にいたった。
世界はあちらでもこちらでもねじれた関係が複雑に絡み合う下克上の群雄割拠の戦国時代となった。
カナダG7サミット、日本はどうする
日本は中東地域に95%近くの原油を依存している。いま、コメ問題で食料自給力の増大とさわいでいるが、日本の農業は機械と化石燃料・電力がなければなりたたない。米を作る前に、石油が入ってこなければ食糧生産そのものが成り立たない。世界大乱となれば生きていけないのが日本だ。
この原稿を書いている現在、カナダではG7サミットが開かれている。
国際関係に「和」が実現されなければ日本は生きていけない。
日本はじめ世界のリーダーたちの力量が試されている。
【野口壽一】
<参考サイト>
【解説】イスラエルが深刻な戦争犯罪と批判相次ぐ、各国の対応次第で将来に禍根か……BBC国際編集長
https://www.bbc.com/japanese/articles/cdxk87824wjo
「クール」な米国の動きが鍵に…とうとう始まってしまった「イスラエルとイランの直接対峙」の行方
https://news.yahoo.co.jp/articles/769abd3de0ee3c5986a9de7df27452f2f996de22?page=1
イーロン・マスクが去ってレームダック化が進むトランプ政権、浮き彫りになった第一次政権時との「決定的な違い」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88727
<解説>イランが核武装よりも“潜在的”核保有国であり続けたい理由…トランプはネタニヤフを封じ込めることができるか?
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/37852?layout=b
あのトランプもネタニヤフにはもうウンザリ…中東歴訪で見せたアメリカの政策転換、優先したのは「戦争よりもビジネス」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/37684
【検証】 ウクライナは「クモの巣」作戦をどう実行したのか ドローンでロシア爆撃機を破壊
https://www.bbc.com/japanese/articles/ce8143xklddo
イスラエルはウクライナに「パトリオット」を渡した=イスラエル大使
https://www.ukrinform.jp/rubric-defense/4002437-isuraeruhaukurainanipatoriottowo-dushitaisuraeru-da-shi.html?utm_source=chatgpt.com
米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示 米紙報道
https://jp.reuters.com/markets/commodities/3OVY3VIBUZJODFNKPZ2UDOM4AQ-2025-06-14/
LAに海兵隊を派遣へ 移民政策への抗議デモ 日本人街や全米でも
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250610/k10014830471000.html
G7サミット16日から討議 漂流の危機 トランプ関税による対立の中で協調打ち出せるか
https://news.yahoo.co.jp/articles/8b3964d328ed4facc25fe018ca5a618396b3af66