(2026年2月12日)
これからが本当の “ストップ タカイチ”
~諦めたり腐ったりする必要はまったくない~
<議会制民主主義改善の余地はある>
2026年の解散総選挙後、高市早苗政権が衆議院で2/3を単独で超える316議席をもつという戦後初の状況を得た。だが、これは圧倒的民意の反映ではない。
議席数では惨敗した「中道改革連合」が得票数では自民の約半数の1000万票を取っているし、自民の得票率も37.8%に過ぎず、驚異的な国民的支持を得ているわけではない。このことは<視点:165>で詳述したのでここでは繰り返さないが、構造的に「1強総取り」を生む選挙制度と、議会における討議を形骸化させる党議拘束が、民主主義の劣化を加速させた結果に過ぎない。
- 1強総取り制度という欠陥
小選挙区比例並立制は、得票率3〜4割の政党が議席の6〜7割を得る「議席ボーナス」を制度的に生む。
前論文でも述べた通り、この制度は“2大政党制”の前提が崩れた現在の日本では、過度に1強を優遇し、反対票を大量の死票に変えてしまう。
- 党議拘束という討議破壊装置
もうひとつの構造的問題が党議拘束だ。
議案の採決にあたって党派が党議拘束をかければ、どれほど議会で質疑が交わされようが、結末は最初から決している。
党議拘束がある限り、議員は「討議する主体」ではなく、「指示されたボタンを押す投票マシン」に成り下がる。
議員個人の良心、選挙区住民の声、政策に対する独自判断は奪われる。
それなら討議とは何のためにあるのか?
議会とは本来、合意形成の場であるはずだ。
- 多様な意思決定システムに学ぶべきだ
単純多数決は民主主義の“唯一の”方法ではない。
- 日本にはかつて伝統的な寄合(合議)制度があった。
- アフガニスタンに部族会議 ジルガ(部族長、長老による合議体)がある。
- スイスには「直接民主制+コンセンサス型政治文化」
- 北ヨーロッパのコーポラティズム(労使政府三者合意)
- 南アフリカの“インダバ(indaba)”(寄合の一種でCOP:国連気候変動枠組条約締約国会議の運営に応用)
- かつての北アメリカ先住民(特にイロコイ連邦)の「合意形成制」
- 世界各地には多様なコンセンサス型意思決定制度が存在している。
多数決は便利だが、対立が固定化し、少数派が切り捨てられる危険がある。
多様性が意識され、尊重されるべき現代の政治は、多数派と少数派の間に橋を架ける技法をもっと学ぶ必要がある。
<民主主義は議会だけで実現されるわけではない>
民主主義は「選挙と国会」だけで構成されるわけではない。
- 三権分立
行政・立法・司法が互いを抑制する構造は、巨大多数議席を持つ政権には特に重要だ。選出方法やリコール制度、監視システムなど多様な機能がや規制が発明されている。
- 中間組織
労働組合、業界団体、NPO、市民グループなど、国民(市民)による中間組織が社会構成要素となっている。
- 大衆運動
デモ、署名、諸団体のストライキ・直接行動、市民集会は、議会外で政治に意思を伝える正統な手段である。
- 行政と大衆運動の連携
自治体や行政機関も、市民からの声や圧力を通じて、中央政府へのカウンターとなり得る。
民主主義とは、多数派政党が好き勝手にできる政治のことではない。
多数派を統制する無数の“社会の力”が作る仕組みである。
<巨大化した与党への働きかけ>
衆院単独2/3議席といえど、政権は全能ではない。
- ロビー活動
政策単位での働きかけは、議会外の団体や専門家ネットワークを通じて大きな効果を持つ。
- 議会外圧力
団体陳情、署名、シンポジウムなどは、与党議員の行動を微妙に変える。
- 大衆運動
デモ、集会、ストライキ、その他の実力抗議行動は、政治の方向を「変える能力」を持つ。
- 首相の独裁は不可能
首相とて、政党内部、世論、経済界、自治体、諸外国、国際環境……無数の制約を受ける。
ましてや日本政府は改憲・増税・軍拡・外交などで国民や関係諸国からの厳しいチェックを受ける。
とりわけ「改憲」は、参議院では発議ラインも超えておらず、国民投票では過半数が必要。
改憲は“ストップ・タカイチ”の最も確実な焦点となる。
“止められるテーマ”が、はっきり存在している。
<実例としてのイタリアが示すこと>
2022年、イタリアではジョルジャ・メローニ率いる政権が成立した。
メローニ首相は、かつてベニート・ムッソリーニの系譜を引く極右政党出身とされ、選挙前には
- 反移民・国境封鎖
- EU批判
- 同性愛カップルへの否定的言動
- 伝統的家族観の強調
- ナショナリズム的経済政策
といったポピュリスト的主張を展開していた。
だが、政権を取ると事情は一変した。
- 国内外の圧力
- EUの財政規律
- 国際市場の圧力
- ビジネス界の現実的要請
- イタリア国内の連立相手との調整
こうした制約の中で、メローニ政権は
- EUとの協調維持
- NATO重視
- 財政規律の遵守
- 過激政策の“封印”
- 国際協調的外交の継続
といった“現実主義路線”へ大きく舵を切った。
つまり、いかに選挙で強権的スローガンを掲げても、政権に就けば社会の制約を受けざるをえない。
これこそ民主主義社会の持つ“自己調整機能”の強さである。
<無謀な政策、独断は通用しない>
高市早苗首相の政治スタイルは、時に“タレント的”“ミーハー的”な軽さを伴い、国家的重責を担う冷静な指導者像には疑問がつく。
特に、政権発足直後からの“改憲”への前のめり姿勢は象徴的だ。
だが、衆院で2/3を得たからといって、参院ではまだ発議ラインに達していない。さらに、国民投票では有権者の過半数の賛成が必要である。
歴史を見れば、改憲派が有権者の過半数を得たことは一度もない。
だからこそ、「改憲阻止」は“ストップ・タカイチ”の最も確実な焦点であり、最も勝てる戦場である。
SNS、メディア、市民運動、学者、専門家、自民党内の反タカイチ派――ありとあらゆる領域で声を発し、議論し、圧力をかけていくことができる。
<最後に ―「これから」が本当の勝負だ>
巨大与党の誕生を見て、「もう終わりだ」と嘆く必要はまったくない。
むしろ、
- 制度の欠陥を見抜き、
- 社会の多様な力を最大限活用し、
- 権力の暴走を抑止し、
- 民主主義の持続性を守る
ここからが“ストップ タカイチ”の本番である。
政治は選挙の一日で終わらない。
むしろ、選挙が終わった日から、民主主義を守るための市民の仕事が始まる。
権力の集中を許さず、
誤った方向へ舵を切らせず、
必要なときには止める力――
それを作り出すことこそが、私たちの社会の成熟であり、希望である。
決して諦める必要はないし、腐ることもない。
ここから本当の「ストップ・タカイチ」が始まる。
【野口壽一】