(2026年2月17日)
スターリンク遮断と停戦協議
~和平協議の帰趨を決めるのは戦場をとりまく国際情勢~
ジュネーブで停戦協議はじまる
報道によると、ジュネーブで17・18日の2日間、米ロ・ウクライナの3カ国3回目実務者協議が開かれる。形式は米国仲介協議(米露・米宇・露宇を含む枠組み。)今回は、領土問題や「エネルギー停戦」などが議論される見通し。
ロシア側は今回、代表団の規模を拡大。メンバーに前駐日ロシア大使のガルージン外務次官を含め、団長はメジンスキー大統領補佐官が務めるという。団長の変更理由についてロシア側は、これまでの協議が安全保障を中心に行われていたためとしている。
今回の協議では、エネルギー関連インフラを標的にした攻撃の停止や領土問題などが議論される予定。
停戦や安全の保証をめぐりゼレンスキー大統領は、妥協する用意があるとする一方、アメリカが提示する、停戦後の安全保証について議論する案には合意できず、安全の保証確約が先だと主張している。双方の立場の隔たりは大きく、議論が前進するかどうかは不透明。
協議の結果を決めるのはテーブルの上ではなく、砲弾を撃ち合う戦場、両国の国内情勢、および戦争を取り囲む国際情勢である。
ベトナム戦争の際にはパリで和平交渉が行われ、その推移に世界中がかたずをのむだけでなく、アメリカ糾弾の大衆的な運動が世界中で展開された。
現在のロシアによるウクライナへの侵略戦争をめぐっては、ベトナム戦争時に比べると、世界反戦勢力の後押しは弱い。しかも、ロシアのウクライナ侵攻をアメリカ(ネオコン)が挑発しプーチンがその”罠”に引っかかった背景があり、かつアメリカが、トランプ大統領を擁して経過に無責任、かつ恥ずかしげもなく、現状での露骨なアメリカ利害追及姿勢を示しており、交渉も、現場の戦争行為もウクライナにとって極めて厳しい条件が強いられている。
停戦協議であれ和平協議であれ、その帰趨を決めるのは基本的には現実の戦場である。
ウクライナは戦争強国になっている
皮肉なことに、24日のロシア侵攻4周年を経るなかで、ウクライナはヨーロッパ屈指の軍事強国に変身。軍事技術においても最先端のシステムを開発・実施しうる社会と軍隊を持つにいたっている。現代の戦争はIT化、AI化された戦争である。この最新技術の使用において、ウクライナはロシアを大きく凌駕している。ロシアは経済制裁をうけている。したがって、最新技術を駆使した兵器製造に困難さえきたし、ドローンや兵器の供給をイランや北朝鮮に依存する始末である。
一方、もともとソ連時代から軍需産業の集積地のひとつであったウクライナは、西側諸国の支援を受けて国内でのドローンやミサイルの製造にとどまらず、最新兵器や防空・ミサイルシステムの外部からの支援も得ている。
その中でも特筆すべきなのが、スペースXが提供するスターリンクシステムである。いまや、GPS情報無くして地上戦闘もミサイル攻撃も、実行不可能だ。
民間企業であるスペースXが現代戦争に不可欠のシステムを供給している問題については別途検討すべき事柄が多々あるが、停戦協議の直前のいま、このスターリンク問題について考えてみる。
今年2月初旬、スペースX社は、ロシア軍のスターリンクシステム利用を遮断した。なぜこの時期にイーロン・マスクがそれを決断したのかの分析には興味がそそられる。しかし今はそれをおいて、この措置によってウクライナがロシアに「勝てる」のかを考えてみる。
クライナ「勝利」とは?
まず、ウクライナが「勝つ」とはどういうケースだろうか。その現実的な定義は次の3通りではないだろうか。
A)「勝利」= ウクライナが独立国家として存続し、ロシアが目標を達成できないこと
現状においてこの結果は十分にあり得る。戦争は、片方がコストの大きさを認識し、意味のある成果を得られなくなったときに終わることが多い。たとえば、ベトナム戦争やアフガン戦争における北ベトナムやムジャヒディーン、ターリバーンの勝利。北ベトナムもアフガン側も大きな損害を被ったが、戦争遂行するソ連やアメリカが戦争遂行コストや国内での政治的不安定化に耐えられなかった。日本の例に引き比べても、日露戦争がその例だ。膨大な被害をこうむりつつも満州の戦場で薄氷を踏む勝利を収めた日本に対して、ツアーロシアは国内における革命運動を惹起し体制そのものの崩壊危機に直面した。
ウクライナ戦線での分析では、ロシアの進行速度は遅く代償が大きいとされている。スターリンク遮断により、侵攻速度をうんぬんするよりも、防衛にすら混乱を生じているとれぽーとされている。人的損失も大きく、人口的に数倍のスケールをもつロシアが圧力が戦場への兵士供給にも事欠く深刻な制約になっていると指摘されている。
B)「勝利」= ウクライナが(クリミアを含む)すべての占領地を武力で奪還すること
これは上記に比べてはるかに困難である。だが、次のような大きな戦果をあげることができれば不可能とはいえない。
・ウクライナの兵力増強と訓練体制の強化
・継続的な外国からの軍事支援(特に防空、弾薬、情報・監視・偵察)
・戦場におけるロシア軍へ致命的な損失を与える。およびロシア領内の軍事施設・インフラの破壊。
・ロシア経済への制裁の継続および強化によりプーチン体制への揺さぶり。
現在の公開情報に基づく評価では、かなりの程度でロシア経済への打撃を与えているが、劇的な変化は生まれておらず、長期的消耗戦の可能性が高いとみなされている。しかし、スターリンクの遮断によりウクライナ領内に立てこもっているロシア軍に致命的な損害を与えられれば、日露戦争のような状況が生み出されないとは言えないだろう。
C)「勝利」= ウクライナが受け入れ可能な交渉による解決+強力な安全保障の保証
ウクライナ・ロシア双方に圧力をかけ、両国から利益を引き出す。アメリカが狙っているのはこれだ。スターリンクの遮断はロシアへの圧力である。ロシアはこの圧力をまともに受け、何とか占領地の確保(最低でもドンバスとクリミア)とロシア領への併合を勝ち取りたいと思っている。今回の協議でロシアはこの点を強硬に主張するだろうが、ウクライナが承認するとは思えない。また、ロシアの要求を認めることは、力による国境線の変更を認めることとなり、国際秩序の規範維持にとって決して認めることはできない。
スターリンク遮断の意味
ロシアによるスターリンク利用の遮断は、ドローンや通信の分野でロシア軍の能力を低下させる可能性はある。しかし、それだけで戦争の行方が決まるわけではない。「ウクライナが勝つ」ためには、生産能力、兵力、防空体制、兵站(補給体制)、国際的支援体制、世界人民の大衆的な平和運動の力、そしてウクライナ国民の意思=政治的社会的持久力が必須だ。
今日明日の停戦協議の推移と戦場の状況から目が離せない。
【野口壽一】