Terrorism, Mining, and Ethnicity: Why Taliban of Tajik origin ousting from power?
(WAJ: バダフシャーン州はタジキスタン、中国、パキスタンと国境を接しているアフガニスタン最北東部の山岳地帯に位置する。民族的には中央アジアの隣国タジキスタン人と共通のタジク人(族)が多数を占める。本記事においてはパシュトゥーン人とタジク人の歴史的角逐、パシュトゥーン人のバダフシャーンへの民族移住が現住民であるタジク人だけでなく先住パシュトゥーン人とも摩擦が生じていること、バダフシャーンがターリバーン以外のイスラーム組織の拠点であったこと、ターリバーンの主な収入源である麻薬や地下資源をめぐる争いなど、極めて複雑かつ微妙な関係がバダフシャーン州には存在しており、ターリバーンの支配が盤石ではないことをビビッドに描き出している。ターリバーンが権力を奪取して2年半がすぎ、内政問題の矛盾が深刻化している。)
モハンマド・アリ・ナザリ
ハシュテ・スブ・デイリー 2024年1月9日
バダフシャーン州(以下バダフシャーン)はターリバーン政権の支配下の今、極度に治安の悪い一時期を経験している。暴動は主に現地のターリバーン幹部をターゲットにしており、ターリバーングループ内の抗争および問題とみなされている。ISIS(訳注:イラクとシリアで発生したイスラム過激派組織でイスラム国、ダーイッシュなどと呼ばれる)が主にこれらの攻撃に対する犯行声明を出しているが、バダフシャーンを含む田舎ではターリバーン戦闘員とISISグループとの間に大きな違いはない。テロは今や双方(ターリバーンとISIS)にとって儲かるビジネスとなり、このマーケットにあまたの店を構えている。ターリバーン内部の紛争がイスラム国ホラーサーン(訳注:アフガニスタンのIS。ホラーサンーンは、アフガニスタン・イランの古名)の戦闘員と連携することで解決される可能性もある。バダフシャーンの元ターリバーン司令官で警察署長のアブドゥル・ハク・オマル(Abdul Haq Omar)師は、こうした国内紛争による人気者の犠牲者のひとりであり、1年前(訳注:2022年12月)、在職中にに爆発で殺された。年が明けてもバダフシャーンのターリバーンにとって血なまぐさい事件は続く。6月16日に爆発で死亡したバダフシャーンのターリバーン副知事ナシル・アフマド・アハマザイ(Nasir Ahmad Ahmadzai)も、こうした紛争の犠牲となったターリバーンの著名な人物のひとりである。さらに彼の葬儀中に新たな襲撃が起こり、他の数名とともに、バグラーン州の元ターリバーン司令官も殺害された。
これらの虐殺と暴行は、タジク人ターリバーンを権力から遠ざける第一歩となった。それ以来、しばらくの間、バダフシャーンの状況は国内の他の地域と同様に悲惨だった。州全土が国民を閉じ込める刑務所で、ターリバーンにとってはこれが正常だ。しかし最近、ターリバーン指導部は一歩踏み出した。この州の権力構造からバダフシャーン系ターリバーンを完全に排除する取り組みを進め、同プロセスの第2段階に突入した。そこでは大幅な人事異動が行われた。最も注目すべきは知事、副知事、治安司令官、派閥司令官、治安司令部の警備責任者、情報部長の解任である。恐れ知らずのタジキスタン出身のバダフシャーン系ターリバーンとして記憶されているアマヌディン・マンスール(Amanuddin Mansoor/訳注:2021年9月に知事となったがわずか2か月で退任し、その後、空軍司令官に就任)師は、自らが知事職を解かれた時に、上記の部門に彼が任命した職員のほとんどが解任されるのを目にした。実は彼は、バダフシャーン州知事に任命されたとき、この州の重要な軍事部門もタジク人からなるバダフシャーン系ターリバーンの支配下にあることを見て取り、州内での地場を固めた。ターリバーン指導部はこの状況を懸念し、バダフシャーンを足がかりに彼を重用する計画を停止させた。こうして、アマヌディン師はバダフシャーンから外され、クンドゥズの作戦責任者に任命され、実質的に彼は権力基盤から追放された。クンドゥズ作戦の指揮は重要な軍事的地位であるが、アマヌディンのような人物にとってそれは一種の懲罰とみなされている。他州の出来事であるクンドゥズ作戦よりもバダフシャーン派閥に与する方が重要なのである。
人事異動の内容は以下のとおり。まずアマヌディン知事が巡礼旅行中だった隙に、ターリバーン指導部が彼を知事職から解き、後任にモハマド・アユーブ・ハーリド(Mohammad Ayoub Khalid)を任命した。ハーリドは以前、クナル州でターリバーンの知事を務めていた経験があるパシュトゥーン人。さらに新副知事のカリ・タエブ(Qari Tayeb)も民族的にはパシュトゥーン人だ。加えてハジ・アサド(Haji Asad)として知られるカーン・モハマド(Khan Mohammad)がバダフシャーンのターリバーン総督府長官に就任した。続いて軍事および警察面。バダフシャーンのオマル・エ・サリス第219分団(訳注:2022年2月に創設された州内抵抗運動の鎮圧部隊で3000の兵を擁すると言われている)の司令官ハーフィズ(Hafiz)師が、その職を解かれ、代わりアジズッラー・ハキャル(Azizullah Haqyar)師が任命された。また新任の州治安司令官にはアジズラ・オマル(Azizullah Omar)。彼の下には、ナスラット・アガ(Nasrat Agha)として知られるゼイナラベディン(Zeinalabedin)師が治安担当官として任命された。新任者はいずれもパシュトゥーン人だ。ところで、カーブルのターリバーン諜報部門のトップもパシュトゥーン人だが、1月8日にバダフシャーンで鉱山責任者に任命されるものと予想されていた。しかしこの異動は延期されている。
ターリバーン集団が自らのアイデンティティをいくら確立しようとも、それは過激な国家主義的宗教グループにほかならない。民族的および宗教的背景は、集団内のメンバー間の信頼レベルを決定する重要な要素だ。バダフシャーン系ターリバーンは主にタジク人であり、カンダハールやカーブルのターリバーン指導部と共通の祖先を共有していないため、信頼できないとみなされている。
ターリバーン指導部は、状況の変化が集団内の内部紛争を引き起こす可能性を懸念している。彼らは、タジク人発祥のバダフシャーン系ターリバーン、特に同州の資源豊富な地域に拠点を置くターリバーンが団結すれば、重大な困難を引き起こす可能性があると懸念している。
ターリバーン指導部がパシュトゥーン人を家族ごとバダフシャーン州とタハール州に移住させ始めたとき、不安はさらに強まった。このような動きはターリバーンを含む地元住民の間で不安を引き起こし、民族間の緊張や北部全域の人口動態の変化をもたらす恐れがある。
こうした状況を認識して、ターリバーン指導部は、彼らの決定に対するバダフシャーン系ターリバーンからの武装抵抗の可能性を恐れている。そのために、彼らはバダフシャーン出身の軍指導者を排除し、その公職を剥奪した。さらに、バダフシャーン系ターリバーンの戦闘員を非武装化するための措置も講じられている。新知事は以前から出された武装解除令について、反乱軍もバダフシャーン系ターリバーンも問わず、いかなる抵抗にも断固として対処するよう、各地区に指示した。
一方、州治安司令官のアジズラ・オマルは着任時に200人の戦闘員を率いてカーブルからやってきた。治安司令官を守るこの200という数は懸念の高まりを意味している。この州でバダフシャーン系ターリバーンが重要な役割をパシュトゥーン人ターリバーンに取って代わられた主な理由の一つは、民族性に関連した懸念であるようだ。
しかし、タジク人ターリバーンがもともとこの州に存在していることが唯一の理由で、こうした大規模な人事異動を行ったわけではない。2番目の重大な理由は、この州におけるイスラム国ホラーサーンとヒズブ・タハリール(訳注:カリフ制統一国家樹立を目指す汎イスラーム主義的国際政治組織)の影響だ。ひとつずつ見ていこう。バダフシャーンのターリバーン勢力の一部はISISと関係があると言われている。伝えられるところによると、バダフシャーンにある旧ターリバーン情報局の責任者はISISグループのメンバーだった。だが、情報長官のヌルッラー(Noorullah)師はそのことを知らなかったか、あるいは見逃していた。彼がバダフシャーン諜報機関の指導部から外されたのは、まさにこの理由によるものであった。
現在の国内の不安定の一因となっているのは、イスラム国ホラーサーンである。このグループは東部および北東部の一部の州に広範囲に浸透している。一方、前政府がターリバーン組織によって崩壊させられた後、バダフシャーンはさまざまなテロ組織の中心地となった。ターリバーンによって同州に移送されたTTP(訳注:パキスタンのターリバーン)のメンバーは、アンサルーラグループ(タジキスタンターリバーン)、ウズベキスタンイスラム運動、東トルキスタン戦闘員、その他のテロ組織と同様この州に存在している。彼らの一部は家族とともに来て、州都や各地区に住んでいる。ターリバーンはこうして住み着いた者にアフガニスタンのIDカードとパスポートを配布したという。現在、これらのグループの中でターリバーンの変貌への不満がうずまき、彼らがイスラム国ホラーサーンに傾く可能性がある。これは非常に深刻な脅威だ。バダフシャーンで台頭したISISがこれらのグループからメンバーを動員する可能性は高く、懸念が深まっている。
次にヒズブ・タハリールの影響。この組織はアフガニスタン北部の若者の間で広範な影響力を持つが、軍事活動はしていない。とはいえイスラームのカリフ制の樹立を目指している過激派・原理主義者である。この政治組織は原理主義思想を広めるために社会活動を行っており、この点でターリバーンやISISなどのグループと連携している。アフガニスタン・イスラム共和国時代でも広範な活動を行っていたが、違法とされていた。旧政権にとっては懸念材料で、アブドゥラ・アブドゥラ(Abdullah Abdullah)元国家和解高等評議会議長は同組織をターリバーングループの非軍事部門と呼んだ。ターリバーンがパンジシールに到達したとき(訳注:2021年8月15日にカーブルを制圧したターリバーンは9月になってようやくこの谷を落としたと発表した)、彼らがヒズブ・タハリールに忠誠を誓っていると広く伝えられた。ところがその後、ターリバーンはこの組織を弾圧し始めた。最近の事件では、バダフシャーンに集まっているこの組織のメンバーをターリバーンが二度に渡り逮捕した。1回目は16名が拘留され、2回目は45名が拘留された。ヒズブ・タハリールのメンバーがイスラム国ホラーサーンと関係がある可能性が、こうした一連の拘束の理由のひとつとなっている。
ヒズブ・タハリールがターリバーン支配下のバダフシャーンで活動を続け、ISISが力を得たことを考えると、ターリバーン指導部がこの州で政治的・軍事的人事を刷新したのは、ISISとの対立の準備を整えている可能性が高いためと思われる。バダフシャーンにおける大量解雇にはさまざまな側面があるが、そのひとつはISISの広範な存在と権限獲得に対する懸念である。
3番目の重要な理由は、バダフシャーンの経済資源だ。ターリバーンは麻薬に大きく依存している集団として認識されている。結成以来、収入のかなりの部分を麻薬の生産と貿易から得てきた。指導部の高位メンバーがこの取引に関与している。現在、アフガニスタン北東部のバダフシャーンは、アヘンを含む麻薬の最も重要な生産地だ。加えてバダフシャーンにおける新型麻薬の大規模な生産はターリバーン指導部の注目を集めている。一方、バダフシャーンはタジキスタン、パキスタン、中国の3カ国と国境を接する国境州だ。この位置関係はターリバーンの闇貿易にとって極めて重要である。闇貿易には明確な会計慣行がないため、バダフシャーン系ターリバーンによるこの州の支配は、カーブルとカンダハールに根を張るターリバーン指導部にとって特に好ましいものではない。
ターリバーン指導部の注目を集めているもうひとつの重要な収入源は、州内にある多数の鉱山だ。鉱山の管理はこれまでもターリバーン集団内の内部紛争の原因のひとつだった。共和国崩壊後の初期段階では、ハッカーニネットワークがより多くの州を支配下におさめていた。そのことは比喩的に言えば宝の山におり収入源を把握していることを意味した。シラージュッディン・ハッカーニ(Sirajuddin Haqqani)は、より大規模な戦争とより多くの州の占領により、おそらくより多くの権利を得るに値し、税関、鉱山、そして旅券発行のようないくつかの高収入部門を掌握していた。しかし、カンダハールのターリバーンは、これらすべての資源をハッカーニネットワークの支配から徐々に奪い取り、今に至っている。
そんな指導部も手を焼くのがバダフシャーンだ。この州の鉱山は依然としてバダフシャーン系ターリバーンの管理下にある。カーブルとカンダハールの指導部は、これらの鉱山の管理をさらに強化することに熱心である。現在も州内における人事刷新の噂は絶えない。鉱山責任者であるタジク人ターリバーンを解任したり、パシュトゥーン人ターリバーンを新しい情報長官に任命するという情報は非常に深刻に受け止められている。こうした異動が実現すれば、バダフシャーンの官僚機構、軍事力、歳入源に対する地元バダフシャーン系ターリバーンの支配力は大幅に弱まるだろう。
このように、「テロ、鉱山、民族」の三角形がバダフシャーンにおいて解雇劇が長引く一因となっている。
Terrorism, Mining, and Ethnicity: Why Taliban of Tajik origin ousting from power?