Trump’s Dealmaking Record Could Be Bad News for Ukraine

長くて複雑な外交手続きに費やす時間は彼には明らかにない。

 

(WAJ: ソ連は10年、アメリカは20年、アフガニスタンに軍隊を派遣した。それは、両国の支配権を拡大する意図がバックにあったが、一方ではアフガニスタン社会の発展を支援する意味もあった。社会主義圏と資本主義圏の存在意義のデモンストレーションの場でもあった。両者ともイスラム勢力のジハードのまえに試みは失敗した。とくにアメリカの失敗は世界に対して甚大な影響を与えている。本論考は当事者の頭越しにアメリカの都合を押し通す姿勢がウクライナや台湾をめぐる極東の情勢に如何に影響を与えるものであるかを指摘し、同時にトランプ2.0を前に日本人が考えるべき示唆を与えている。)

 

2024年11月15日
カール・ビルト(欧州外交評議会の共同議長、スウェーデン元首相)

 

ロシアとウクライナの戦争を平和的に終結させるうえで、ドナルド・トランプ次期米大統領は、自らが自慢するほどの交渉上手なのだろうか。トランプ氏は新たな戦争を始める気はないと言う。その言葉は信じるべきだ。だが、それは進行中の紛争の解決を模索することとはまったく違う。

最初の任期中、トランプ大統領は彼の実践的な平和構築能力について何らかのヒントを与えてくれるかもしれない3つの状況に直面した。

第1は、トランプ氏の狙いは北朝鮮の指導者、金正恩氏を「ロケットマン」と呼んだことだった。トランプ氏は最初、金氏とその祖国を消滅させると脅し、次に大々的に報道された2度の会談で金氏への愛と尊敬を表明し、最後には何も達成できずに問題から立ち去った。今日、北朝鮮の核開発計画は、トランプ氏が阻止しようとした時よりもずっと進んでいる。

2つ目のケースは中東、特にイスラエルとパレスチナの紛争で、トランプ氏はこれについても迅速かつ容易な解決を約束した。この紛争は、任期の終わり近くに歴史的なアブラハム合意につながった。しかしこれはトランプ氏の外交設計事務所から生まれたものではないことを忘れてはならない。それどころか、これは、イスラエルが発表した占領下のヨルダン川西岸地区の併合計画を阻止するために、アラブ首長国連邦がイスラエルを承認するという提案の結果だった。実際、トランプ陣営の中東戦略の中核にあったのは、ずっと後の協定ではなく、この併合計画だった。彼の取り組みのもうひとつの中核であるパレスチナ問題の意図的な無視は、その後バイデン政権によって継続され、今日この地域で激化する戦争への道を開いた。

第3は、トランプ大統領の取引歴の中でおそらく最も教訓的な紛争だが、もちろんアフガニスタンだ。2021年8月のアフガニスタン国家の無秩序な崩壊と混乱した撤退という痛ましい惨事の責任の大部分は、退任するジョー・バイデン大統領が負っているが、その前に起こったことを見過ごすべきではない。大部分の惨事はトランプ大統領が前年にターリバーンと結んだ恥ずべき取引によって事前にプログラムされていた。その取引では、米国はイスラム主義グループとのいくつかのあいまいな約束と引き換えに、アフガニスタンの完全な放棄に同意した。

今日のアフガニスタンの状況を平和と呼ぶことはできるが、それは米国や他の国際社会が求めていた結果からは程遠い。米国が2001年に初めて介入した時よりも、ターリバーンがアフガニスタンに対してより厳しく、より残忍な支配力を持っており、それは誇れる取引ではない。

こうした交渉の試みは、24時間以内にウクライナとロシアの和平を解決するというトランプ大統領の約束に関して、どのような手がかりを与えてくれるのだろうか。残念ながら、その手がかりは希望を与えるものではない。

トランプ氏には明らかに、長くて複雑な外交手続きに時間を割く余裕はない。彼の考えでは、真の交渉人は時間を無駄にしない。彼は細部へのこだわりは我慢ならない。さっさとしなくてはならない。「トランプ流こけおどし」に我々は慣れてきたとは言え、彼が「24時間」と語ったとき、そこにはおそらく本気の部分もあっただろう。

我々が学んだように、トランプ氏は米国の同盟国やパートナーの利益をあまり気にしていない。友人の金正恩氏との交渉において、トランプ氏は米国の長年の同盟国である韓国と日本を完全に傍観者にし、展開する光景を信じられない思いで見つめる立場に追いやった。

中東では、ワシントンのアラブ諸国のパートナーはトランプ大統領が支持する併合計画に恐怖し、計画の実行を阻止するために行動を起こした。

しかし、下手な交渉役が和平協定を約束した場合に起こり得る結果について、最も強力な手がかりを与えてくれるのはアフガニスタンだ。

はっきりさせておきたいのは、トランプ氏がアフガニスタンの和平を推し進めたのはまったく正しいことだったという点だ。戦争を終わらせたいという目標は問題ではない。安定した軍事的解決策がなかったのでなおのことだ。しかし、どんな和平合意であろうと、アフガニスタンのさまざまな派閥や利害関係者を交えて打ち出されるべきだった。芯の部分は、何十年も続いていた内戦だった。本当の和平が可能だったかどうかは永遠に知る術がない。だが、間違いなく容易ではなかっただろう。

しかし、トランプ氏はその努力を完全に放棄し、ターリバーンへの降伏文書に署名することを決めた。中途半端に顔を立てようと、ぼろ隠しの実行不可能な約束をいくつか付け加えただけだった。アフガニスタン政府は、国内の非原理主義の武装勢力や活動家もろとも、見殺しにされた。トランプ氏は、米国の降伏を祝うためにターリバーンの指導者をキャンプ・デービッドに招待するアイデアさえ持っていた。

もちろん、その後は歴史が物語っている。バイデン氏は、スケジュールを数ヶ月間わずかに調整した以外は、トランプ氏の合意を忠実に守った。自国のまともな未来のために戦ってきたアフガニスタン人の士気は崩壊し、避けられない惨事が続いた。

現在、少なくとも最近1万人の北朝鮮軍を加えたクレムリンの兵士たちは、ロシアのミサイルとドローンがウクライナの都市と民間インフラに降り注ぐ中、村々をひとつずつ進軍している。ロシアの軍事力が支配権を握った場所ではどこでも、生き残ったウクライナ人は大量虐殺的な占領に苦しんでいる。トランプ流の24時間の和平交渉は、何をもたらすのだろうか?

トランプ陣営は、クレムリンとウクライナに停戦に同意するよう命じ、それによって紛争を凍結させ、紛争がなくなると期待していると想定される。だが交渉を始めれば彼らは驚きに包まれることになる。なぜならロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、戦争開始以来一貫してそうしてきたように、ウクライナの安全保障と主権の大幅な制限、さらに領土のロシアへの引き渡しなどをウクライナが飲む停戦以外には興味がないと明言するからである。

プーチン大統領がウクライナでの目標を放棄していないことがトランプ氏とそのチームに明らかになったら、何が起こるのか? トランプ氏はその後、アフガニスタンのモデルを試し、ウクライナとヨーロッパ諸国の頭越しにプーチン大統領への降伏を画策するのか? 侵略の果実を受け入れ、NATO加盟の見込みは消え、これと言った軍隊は残らず、西側諸国による制裁は終了し、事実上ロシアによってウクライナの政治と将来が支配されるのか?

プーチン大統領がまさにこれを望んでいることは間違いない。プーチン大統領の考えでは、事実上の降伏にウクライナとヨーロッパ諸国を従わせるのは米国の責任になる。

トランプ氏の第1期の実績が参考になるなら、同氏はアフガニスタンのモデルに倣う誘惑に駆られるかもしれない。それは24時間で実現可能な唯一の取引だ。同盟国やパートナーを脇に追いやることになる。そして同氏の選挙資金提供者であるイーロン・マスク氏もおそらく賛成するだろう。

しかし、そのような取引は、アフガニスタンにおける米国の降伏よりもさらに大きな惨事を招くだろう。中国の習近平国家主席が、それを台湾の支配権獲得の取引締結のひな形として認識しないとしたら、彼は愚かだろう。テヘランと平壌の政権は、自分たちが歴史の正しい側にいると考えるに違いない。何百万人ものウクライナ人が国外に出るだろう。プーチン大統領はさらなる前進を大胆に推し進めるだろう。ヨーロッパ全体で米国への信頼は崩壊するだろう。

誰もが経験から学ぶ。トランプ氏とそのチームが過去を振り返ることもあるだろう。そうすれば米国に必要なのはまた再びの大失敗ではなく、後には引かず侵略には報酬を決して与えない覚悟を見せつけることだと気づくだろう。そうしてこそ任期をうまく始めるチャンスがある。

 

この投稿は、トランプ政権移行に関する Foreign Policy の継続的な報道の一部です。こちらでフォローしてください。

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