How an Afghan Drug Kingpin Became Beijing’s Man in Kabul

 

(WAJ: 本稿の筆者・オドネルは、アフガニスタンの麻薬王・バシール・ヌールザイが現在中国とターリバーンとの関係強化の重要なパイプ役となっている事実を暴露している。終身刑でグアンタナモ刑務所に服役していたヌールザイは、アメリカとの捕虜交換でターリバーンに返還された人物である。詳しくはココをクリック。ターリバーンは「国際社会」からの孤立を歯牙にもかけず、中国、ロシア、イランなどとの関係強化をベースにした外交政策の展開を追究しようとしている。)

(写真説明)縞模様のターバンとチュニックを着た男性の両脇には、同様の服装や迷彩服を着た男がいる。その奥にはホテルのシャンデリアとカーテンが見える。2022年9月19日、アフガニスタン、カーブルのインターコンチネンタルホテルでの釈放後の式典で話すバシール・ヌールザイ(中央)。エブラヒム・ノルザイ/AP

 

2024年2月10日 フォーリン・ポリシー

リン・オドネル(フォーリン・ポリシー誌のコラムニスト、オーストラリア人ジャーナリスト、作家)

ヘロイン帝国の主としてターリバーンの対米長期戦争の資金づくりに貢献し、米国人人質との交換で米国の刑務所から繰り上げ釈放された麻薬王が、現在は中国とビジネスを始めている。

過激派最高指導者の親しい友人であるバシール・ヌールザイ(Bashir Noorzai)は、アフガニスタンで中国企業と不透明な合弁契約を結んでいる。中国企業は少なくとも2件の鉱物・石油化学契約を獲得している。鉱山や治安の専門筋によれば、これらの契約は現金をかき集めはするが、貧しいアフガニスタンをレンティア国家(訳注:中東の産油国のように、天然資源の輸出に頼って財政的に自立する国家)にしてしまい、その発展には何も役立たない。

「アフガニスタンのパブロ・エスコバル」は中国とビジネスを始めている。(訳注:パブロ・エスコバルは、コロンビアの犯罪者。「麻薬テロリスト」、「麻薬王」とも呼ばれた。「コカインの帝王」とも呼ばれ、1980年代から1990年代初頭にかけて、アメリカ合衆国において自身の組織した麻薬カルテルによるコカインの取引を独占し、その過程で、死ぬまでに推定300億ドル(2021年の時点で640億ドルに相当)もの純資産を蓄えた、史上最も裕福な犯罪者とみなされている。Wikipedia)

ターリバーンの数十億ドル規模のヘロイン生産・輸出企業群は、数十年にわたり世界市場を支配してきた。投獄される前、ヌールザイはヘロイン取引のドンであり、1993年に亡くなるまでメデジン・カルテル(訳注:パブロ・エスコバルが創設した犯罪組織)を運営していたコロンビアのコカイン王にちなんで「アフガニスタンのパブロ・エスコバル」と呼ばれることもあった。

ターリバーンにとって、信者たちの司令官はハイバトゥッラー・アフンザダ(Hibatullah Akhundzada)だが、その腹心であるヌールザイは、元米海軍ダイバーのマーク・フレリクスの返還を求めるバイデン政権との合意により、2022年9月に解放された(訳注:「バシール・ヌールザイ、グアンタナモ刑務所から釈放」参照)。フレリクスは2年半にわたってターリバーンの分派であるハッカーニネットワークよって人質にされていた

アフガニスタンの鉱業部門の研究者であるジャベド・ヌーラニ(Javed Noorani)はフォーリン・ポリシーに、「ヌールザイは英雄として帰国するや、すぐに仕事に戻った。しかしそれまで未経験だった鉱山の分野に乗り出し、アフガニスタン北部にある既存の金鉱山の運営や石油・ガスの探査という大きな契約をアフンザダに近づくことで、ものにした。まるで軍閥のひとりになったようだ」と語った。ヌーラニはかつて共和国時代に副大統領となったほどの非常に強力な軍閥の故モハマド・カシム・ファヒム(Mohammad Qasim Fahim)にヌールザイをなぞらえた。

ヌールザイは中国のパートナーと共に、自前のアフガン中国オイル&ガス社を設立し、その会社が中国との契約を果たした。ヌーラニによると、それはアフガニスタンの「不透明な入札プロセス」の賜物で、なおかつ最高の後推しはトップとの男の友情の存在だった。

匿名を希望した内部情報通の話によると、ヌールザイは石油契約を牛耳るターリバーンの暫定外相アミール・カーン・ムッタキ(Amir Khan Muttaqi)とも親密な関係にある。ヌールザイの会社は、中央アジアのウズベキスタンとタジキスタンとの国境であるアムダリヤ川流域の炭化水素埋蔵量を研究する探査契約も勝ち取った。その情報通はターリバーンを評して、「彼らはヌールザイに大きな借りがある」と言う。

アフンザダが旧友の事業拡大を支援しているという情報は、習近平国家主席が北京でターリバーン代表をアフガニスタン大使として信任したという中国の発表と合わせて考える必要がある。この信任はターリバーンの正統性を認める点で世界の他の国々の一歩先を行った。アサドゥッラー・ビラル・カリミ(Asadullah Bilal Karimi/訳注:信任された在北京アフガン大使)は、1月30日に北京の人民大会堂の正式な式典に呼ばれ、数十名の新しく北京入りした大使たちの列に加わった。中国外務省の汪文斌報道官は、これは通常の外交儀礼だと述べた(訳注:この会場でアフガニスタン以外にも、キューバ、イラン、パキスタンなど計38カ国の大使が信任された)。

<参考>
https://www.voanews.com/a/china-s-president-receives-afghan-ambassador-taliban-seek-recognition-from-russia-iran-/7463837.html

 

アフガニスタンの鉱物資源を手に入れるという中国の長年の計画は、現在、ターリバーンの財政困窮と彼らの政府を承認するという外交問題とに、直接大きく絡んでいるように見える。

2021年8月にアフガニスタンを制圧して以来、ターリバーンは人道支援のために空輸された現金や援助物資を盗んでいた(参考・訳注:フォーリン・ポリシーが報じ、米国政府のアフガニスタン監督当局であるアフガニスタン復興特別監察官の最近の報告書でも確認された) 。ターリバーンと中国共産党との長年にわたる関係は、ターリバーンが政権に復帰して以来実を結びつつあり、中国の鉱山会社との契約は数億ドルに上っている。

<参考:SIGAR最新リポート>
https://www.sigar.mil/pdf/evaluations/SIGAR-24-12-IP.pdf

 

約100万人のイスラム教徒ウイグル人を強制収容所に送り込んだ中国政府は、ターリバーンの過激な行動をみても平然としているようだ。ターリバーンは女性の教育や労働を禁止しており、旧政府や軍のメンバーを探し出して殺し続けている。国連はターリバーンによる広範な人権侵害をリストアップしている。国連安全保障理事会は、ターリバーンとアル=カーイダや他の禁止されたテロ組織との関係について繰り返し報告してきた。

中国の動機は戦略的鉱物へのアクセスのみではない。アフガニスタンは中国政府の一帯一路構想(BRI)の世界的インフラ計画の拡大に不可欠であり、中国製製品を中央アジアを経由して欧州市場に輸送するための道路と鉄道の整備が含まれている。

中国政府はまた、ターリバーンと監視用の技術や機器を共有しており、これには二重の目的がある。ターリバーンは敵をより効率的に探し出せるようになり、中国の治安機関は反中国たる東トルキスタンイスラム運動に関わるウイグル人を特定できるようになる。ただし、ターリバーンはそのメンバーを一方的に中国に引き渡すことはできない。中国ではほぼ確実に処刑されることになるから。とは言え、その成果は大きい。

アフンザダは、ターリバーン傘下組織であるテフリク・ターリバーン・パキスタン(TTP)による隣国パキスタンでの民間人、警察、軍を目標とする攻撃を支援していると考えられている。 TTPは、他の多くの国境を越えた聖戦戦士やテロ組織と同様に、パキスタン北西部の部族地域の支配を求めて戦っている。そのためアフガニスタンでは保護されている。

ターリバーンの政権復帰が安全保障上の問題であることを、何十年もターリバーンと間近に接してきたにもかかわらず、依然として過激主義の影響を受け続けている中国を含む近隣諸国も認めはじめた。アフガニスタンとパキスタンにいるターリバーンが、中国人とその関連施設を標的としているなか、中国政府は一帯一路に関わる投資と融資でパキスタンに数十億ドルを注ぎ込み、破産寸前から救っている。

ヌールザイの事業復帰により、世界で最も裕福な犯罪カルテルの金庫への資金流入が約束される。彼の事業活動のほとんどはヘルマンド州を中心とする南部のケシ地帯であり、そこで彼は広大な土地を所有し、「ムンバイのスラムドッグビリオネア(訳注:イギリス映画「スラムドック$ミリオネア」をもじった表現)」よろしく各種事業を行っている、と匿名を選んだ関係者は語った。

ヌールザイ族の指導者として、彼は多くのターリバーン指導者と親族関係があり、早くから寛大な資金提供者でもあった。ヌールザイはターリバーン内で政治的影響力を持っており、2005年にヘロイン密輸で逮捕される前は米国との仲介役を務めていたとみられている。彼はアメリカに逮捕され2009年に終身刑を言い渡された。

前政権の一部の関係者は、ヌールザイの釈放には、彼が再びターリバーン指導部とワシントンのパイプ役となることが条件になっているのではないかと疑っていた。しかし、ヌールザイの鉱山事業への参入は、彼がワシントンの手下を止めたことを表わしてるのだろう。ターリバーンを権力にとどめるための将来の基金源は中国だと彼はいま見ているようだ。

ヌールザイ自身はアヘンを十分に備蓄している可能性が高いものの、アフンザダはケシの栽培を禁止し、ターリバーンがより儲かるメタンフェタミン市場へ進出する追い風となっている。覚せい剤はアフガニスタンに自生するマオウという植物からつくられる。また安価で容易に入手できる化学物質を原料に製造することもできる。どちらの方法でも、ヘロインよりも製造コストがはるかに安く、収益もはるかに高い。ケシ生産の禁止はすでに覚せい剤生産の大幅な増加につながっており、それは世界中で確認されている。イラン国境警備隊は直近の作戦でアフガニスタン産覚醒剤171キロ(377ポンド)を押収したと1月2日に発表した。

ヌールザイの新たな事業展開で、アフガニスタンの鉱業界における長年の悪癖たる汚職がふたたび脚光を浴びてきた。アフガン国民は何十年もの間、石炭、銅、鉄から貴石、リチウム、大理石、金などに至るまで、膨大な資源が埋蔵されており、国を一気に繁栄に導く準備が整っていると聞かされてきた。ところが、20年に及ぶ戦争とインフラの整備不足により、真っ当な大手企業は尻込みし、その間にターリバーンが暴力で介入して大規模な略奪をほしいままにした。

ヌールサイは、現在ターリバーンがコントロールする怪しい公式ルートに乗って、これまでの伝統的略奪慣習を引き継いでいるように見える。ヌールサイが所有する会社は、北部タハール州のサムティ金鉱床を開発するとして3億1千万ドルの3年契約を結んだ。そこのとある鉱山はこれまでも情報収集に長けた夜逃げ屋どもを魅了してきた。

この鉱山の最後の請負業者であったウェスト・ランド・ゼネラル・トレーディング社(訳注:UAEのドバイに本部を置く総合商社)も、深い岩だらけの川の底から推定31トンの金を抽出する専門知識と能力を欠いていた。ところが、前政権時に大臣とのコネで契約を勝ち取ったと業界の研究者であるヌーラニは述べている。

<参考:ウェスト・ランド・ゼネラル・トレーディング社>
https://westcogroup.net/about-us/

 

アフガン中国オイル&ガス社は、利益の56%をアフガニスタンに支払うと契約に明記しており、3カ月以内に開発が開始される手はずだ。この契約は「素人同然で非現実的」だとし、まともな鉱山会社であれば採掘を開始するまでに何年ものテスト、計画立案、準備を要するはずだとヌーラニは語り、契約の延長は織り込み済みだと付け加えた。

彼によると、ヌールザイは同社の株式を中国のパートナーにいずれ売却し、パートナーはさらにその権益を小規模の中国企業群に売り渡し、その中国企業は順繰りにサラミのごとく株を薄切りにして、資金が流出し続ける。ヌーラニはこれを「腐敗の連鎖反応」と呼んだ。

こうしたレンティア国家を目指す策動では、鉱山は開発されず、アフガン国家に利益は流れず、雇用も創出されず、小規模な下請け業者が行った投資はすべて失われる、とヌーラニは述べている。

全員が敗者で、勝つのはヌールザイとターリバーン指導部に巣くう彼の仲間たちだけだ。

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