Pakistan Can’t Stop the Cycle of Discontent

和解が必要 さもなければ一層の政治対立が
The country needs reconciliation. The next government will bring more political conflict.

 

(WAJ: Forign Policyは『文明の衝突』のサミュエル・P・ハンティントンが発行するアメリカ合衆国のオンライン新聞。リシ・スナク・インド系首相をかかえるイギリスから帰国して今度の総選挙に勝利するとして臨んだナワズ・シャリーフ元首相。ところが第1党は獄中に放り込まれているイムラン・カーン元首相らのPTI。パキスタンは、影響力を落としつつある軍、選挙で多数を取れない分裂した伝統政党が、若者の不満に飲み込まれている図だ。どの勢力も絶対的な多数となれない内部分裂を抱えるパキスタンに、パキスタンターリバーンやバルーチ族などの武装反対派、およびそれらと連携を取るアフガニスタン・ターリバーンが絡む。デフォルトの危機にも対応せざるをえないパキスタンの危機は、グローバルな危機を誘引しかねない。アフガニスタン・パキスタン問題は依然として一時も目を離せない重要事項である。)

 

フォーリン・ポリシー 2024年2月16日
フサイン・ハッカーニ:ハドソン研究所上級研究員。南および中央アジア担当ディレクター

 

2月8日に行われたパキスタン総選挙の結果は、パキスタンの文民・軍事体制に対する広範な不満を反映しているが、多くの有権者が望んでいたものとは逆の結果をもたらしたようだ。イムラン・カーン元首相率いるパキスタン・テフリク・エ・インサフ(パキスタン正義運動:PTI)党と提携する無所属の候補者たちは、同党の旗下での出馬を禁じられるなか、どの主要政党よりも多くの議席を獲得したが、過半数には達しなかった。議会での連立には数の論理が必要だが、汚職容疑で投獄されているカーンはライバルたちとの交渉を拒否している。

パキスタンの次期政権は、ナワズ・シャリーフ元首相率いる中道右派パキスタン・ムスリム同盟・ナワズ(PML-N)とアシフ・アリ・ザルダリ元大統領とその息子ビラワル・ブット・ザルダリが率いる中道左派パキスタン人民党(PPP)を含む伝統政党の連合に代わることになる。2月8日、パキスタンの不動の政治秩序(各政党が票のみならず強力な軍の支持を争う)は動揺したが、崩れはしなかった。PTI の驚くべきパフォーマンスは軍の評判と不可侵性を傷つけたが、事態の成り行きに影響を与える軍の能力はそのまま残っている。

パキスタンのゲーム・オブ・スローンズ(訳注:アメリカのテレビドラマシリーズ『王座のゲーム』。最終放映は2019年5月19日)の最新エピソードは、深刻な経済危機と、復活したテフリケ・ターリバーン・パキスタン(TTP)やその他の過激派組織による安全保障の脅威のさなかに、こうした展開を迎えた。政治が二極化したことで、パキスタンは膨張する債務と財政赤字への対処が困難になっている。GDP が3400億ドルなのに、2026年までに780億ドル近い対外債務を返済しなければならない。農業、不動産、小売などの主要経済部門に税金を課すことは、政治的合意がなければ困難だ。そのような不確実性の中で、政府が年間総額約17億ドルもの支出を続けているさまざまな赤字国有企業、パキスタン国際航空から電力会社まで、を民営化することはできない。

パキスタンはまた、ジハード(イスラム聖戦)グループに対処するための包括的な戦略も必要とされている。現在のジハードグループは国内でテロ攻撃を専らとする輩だが、かつてはインドに対する非正規戦争の当事者として、またアフガニスタンでの影響力を確保する手段として奨励または容認されてきた。パキスタンの進歩を妨げているとしてインド、イスラエル、米国を非難するポピュリストの言説は、過激派が描くイスラームの英雄という自画像を信じるあまり、彼らへのしかるべき対処を妨げる。かたやインドとの和平、西側諸国との関係、経済的恩恵をあたえてくれるアラブ諸国との結びつき。この三つすべてが、内部分裂したパキスタンでは自由に裁量できない。政権の座につき何かに着手すると、パキスタンの権益を売り渡しているとして反対派からしばしば非難される。

パキスタンのいがみ合う政治家たちが挙国一致政府を樹立するときが仮にあるとすれば、それは今だろう。不正投票と揶揄されつつも、圧倒的勝者のなかった選挙結果を考慮すると、安定した超党派政権ができれば軍を政治から撤退させる道が整うだろう。それはまた大物政治家(例えばカーンのような)を次々と投獄し支持者に嫌がらせをするという長き伝統からパキスタンを救い出すのにも役立つだろう。議会も変化して、代替となる政策案を討議する場となり、今のように、どちらがより腐敗しているかをめぐる各指導者の腰巾着による罵倒合戦は終わるだろう。

しかし、現実は厳しい。形成されつつある連立政権は団結を促進させるどころか、ただちにカーン支持者らの反対に直面する。現状のままでは、パキスタンの分断がすぐに終わる可能性は無に等しい。先週の選挙の結果は、有権者が政治エリートや王朝政治、そしてこの国の将軍らによる公然・秘密の干渉にうんざりしている事実を裏付けた。経済面での広範な不満、急増する裕福な若者世代に与えられる機会の欠如が、和解を断固拒むポピュリスト政治を生み出している。

クリケットのスター選手から典型的なポピュリスト指導者となったカーンは、政敵との交渉による解決という考えを否定している。彼はパキスタンの政治エリートと外国の陰謀がこの国に問題をつくりだしている、と被害者意識にもとづく強力な物語をひねり出した。彼の大言壮語は現実的な解決策を提供しないかもしれないが、無力な人々が怒りや不満を発散するはけ口となることは間違いない。カーンは、新たな政治的妥協という考えを受け入れるよりは、革命の方が彼に大きな力を与えると信じているようだ。カーンは、PTIの選挙での成功を他の主要政党と交渉するために利用するのではなく、2つの小宗教政党に同盟提案を持ちかけた。ただし、そのうちの1つはすでに提携を拒絶している(訳注:選挙後、PTIはスンナ派のMWM党と提携したが、シーア派のCIC党とは提携が成立しなかった)

<参考記事>
https://www.aljazeera.com/news/2024/2/21/out-of-power-whats-next-for-imran-khans-pti-in-pakistan

 

側近によると、2023年5月に最初に逮捕された後、カーン前首相は軍事施設への攻撃を煽ったという。次の標的は選挙不正疑惑だ。いま彼は暴力的な抗議行動を煽ろうとし、街頭革命への飛び火を狙っている。しかし、5月9日の攻撃は、暴力的な混乱を引き起こし、PTIへのより厳しい弾圧を可能にさせた。数百人の党活動家が逮捕され、数千人が治安当局からの脅迫に直面した。カーンが懲りずに支持者の命と自由を危険にさらすならば、無責任と言えよう。

<参考サイト>カーン前パキスタン首相を起訴、各地で暴力的抗議も 約1000人拘束
https://www.bbc.com/japanese/65554242

 

皮肉なことだが、カーンは2018年、腐敗した文民政治家に替わる救世主として、パキスタン軍と治安当局の支援を受けて権力を握った。将軍らは、やがて楯突くようになる政治家たちに嫌気がさして、彼らに代わる人物としてカーンを擁立した。しかしカーンも首相となるや軍と衝突した。将軍らの指図に背き、経済運営を蔑ろにした。彼のポピュリズムによって、ただでさえ不安定なパキスタンの対外関係は傷つけられた。カーンを首相の座から引きずり下ろすために、軍はかつて信用を失墜させた同じ政治家たちに着目した。

議会の不信任投票で追放されると、カーンはかねてからの反エリートキャンペーンを声高に続ける機会到来と見た。敵役のリストにはパキスタンの最高位の将軍たちを加えた。国を救う戦いだった。彼の支持者たちは欣喜雀躍し今に至っている。軍は何十年にもわたってこの国の政治に影響を与えてきたが、今では未曾有の攻撃にさらされている。カーンは、将軍たちが米国の命令で行動しており(米国政府はその主張を否定している)、パキスタンの利益に反していると吠える。伝統的な軍寄りの有権者さえもその毒に侵される始末だ。軍指導者らは現在、ほぼ2年にわたって全国民をカーンから切り離そうと躍起だが、ほとんど成功していない。

将軍らと新たな民間同盟者らは、カーンを投獄し、ナワーズ・シャリーフ(訳注:パキスタン・ムスリム同盟総裁。首相経験者だが汚職の廉でイギリスへ亡命していたところ、カーンの対抗馬として再浮上した)を亡命先から連れ戻し、PTI系候補者のメディアへのアクセスを禁止するなどの抑圧的措置を講じれば、自分たちが望んでいた選挙結果が確実に得られると考えていたのかもしれない。ところがさにあらず、若いPTI活動家たちがソーシャルメディアを利用して有権者を動員し、体制側の計画を覆してしまった。

それでも、パキスタン軍の横暴に対する有権者の反応が革命を引き起こす可能性は低い。短期的には、この国では軍と緊密に協力する意思のある弱い文民政府が引き続き存在し、カーンは刑務所に留まり、彼の党は失職したままとなるだろう。政治的暴力が蔓延しても、軍が表だって秩序を回復せよという声が高まるだけだ。

パキスタン軍は長年にわたり、文民政治家の「選出、解任、失格、逮捕」のサイクルを繰り返してきた。しかし長期的には、この国の指導者たちは、国中に広まる不満と二極化に力を合わせて対処しなければならない。それがカーンのポピュリズムの成功の一因なのだから。可能性は低いが、カーンが方針を変えて政治的妥協を受け入れれば、パキスタンの痛みを和らげるのに役立つかもしれない。いずれにせよ、かつては支持者だったが、今は軍の政治的役割に対して敵意を持つに至った国民の存在は、将軍たちに何も起こらなかったように行動することを難しくしている。

フサイン・ハッカーニは、ハドソン研究所の上級研究員および南および中央アジア担当ディレクター。アラブ首長国連邦、アブダビのアンワル・ガルガシュ外交アカデミーの駐在外交官。2008年から2011年まで駐米パキスタン大使。
Twitter: @husainhaqqani

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