IThe Return of ISIS to the Scene of Events: How Taliban Facilitate Terrorism Growth?
(WAJ: アメリカがアフガニスタンからの撤退を決めたターリバーンとのドーハ合意においてターリバーンはアフガニスタンをテロの出撃基地にしない、との約束をしていた。ドーハ合意に至るまえ、米軍はアフガニスタン国軍だけでなくターリバーンとも共同してアフガニスタン内のIS掃討戦をおこなっていた。アメリカがアフガニスタンの統治をターリバーンに引き渡した裏にはそのような秘密合意があった。アメリカは国境外からターリバーンとの共同によりISなどのテロリズムと戦う作戦(オーバーザホライズン作戦)を展開してきたが、その作戦が実効性を失っている現実が明らかになりつつある。ロシア政府はISなどのテロと戦うためターリバーンのテロ指定を解除しようとしている。 しかしそのような判断が甘いとの指摘がアフガニスタン現地からなされている。)
By: Muhammad Ali Nazari
Hasht-E Subh Hasht-E Subh 2 April 2024
ムハンマド・アリ・ナザリ
ハシュテ・スブ 2024年4月2日
ここ数カ月間、ISISグループ(訳注:ダーイッシュとも呼ばれる)の強化に対する世界的な懸念が強まっている。 ISISホラーサーン支部(訳注:ダーイッシュまたはIS-K、またはIS-KPとも呼ばれる)はここ数カ月、当域内で活動を拡大している。 ISISホラーサーンが今ほど強力になったことはかつてなかったと言える。この支部の活動範囲の拡大と攻撃の増加は、このグループの強化を示している。アフガニスタンとパキスタンは、このグループの活動の主な中心地であり、この1年でこれまで以上にISISホラーサーンの標的となっている。このグループはイランとロシアでも大規模かつ複雑な攻撃を仕掛けており、国境を越えた攻撃を開始する前例のない能力を示している。中東諸国もこのグループによって大きな脅威にさらされている。アフガニスタン国内でハザラ人やシーア派といった特定の民族や宗教集団がこの組織の標的となっているほか、ターリバーングループやターリバーン友好国の政治代表も標的とされている。カーブルにあるロシア、パキスタン、中国の大使館は以前にも標的にされたことがある。イラン、中国、インドの大使館は最近、攻撃の脅威にさらされている。
イランのケルマーン(訳注:1月3日、イランのガーセム・ソレイマニ最高司令官の追悼式典で約100人が死亡、284人が負傷したテロ事件。ISが犯行を主張。自爆犯2人のうち一人はタジキスタン国籍だった。)とロシアのモスクワでのISISの攻撃(訳注:モスクワ郊外のコンサートホールで3月22日、銃撃のあとおきた火災で133人が死亡したテロ事件 )は前例がなかった。これらの攻撃は世界的に深刻な懸念を引き起こした。ISISが事件の表舞台に再登場したのである。 ISISホラーサーンは2015年に活動を開始して以来、厳しい弾圧を受けてきた。外国軍はアフガニスタン政府および国軍と協力して、ISISホラーサーンに大きな打撃を与え、このグループの弱体化につながった。いくつかのケースでは、アフガニスタン政府がこのISIS支部の指導者を逮捕または殺害し、グループ自体にも大きな打撃を与えた。シリアとイラクでのISISの敗北と、アフガニスタンとパキスタンでのホラーサーン支部の弱体化により、このグループはメディアの見出しから消えた。しかし、ここへ来て大規模かつ複雑な攻撃が開始されたことにより、彼らは再びニュースの見出しや事件の舞台に登場するようになった。 ISISホラーサーングループが弱体化し、容易には立ち直れないとの考えに則り、バイデン政権はアフガニスタンでこのグループと戦う役割をターリバーンに任せ、同国から撤退した。統治が始まった1年目、ターリバーンはアフガニスタンを完全に支配下に入れて、ISISホラーサーンと戦う動機と十分な力を持っていると考えられていた。しかし、これらの出来事により、そうした計算が間違っていたことが証明された。最近、このグループの活動の増大について世界的な懸念の波が高まっている。アメリカの上院議員を含む米国当局者らは、アフガニスタンからのアメリカの無秩序な撤退を継続的に批判し、この政治的混乱がISISホラーサーングループの再建を助け、強化させたことを認めている。
ISISホラーサーンの最近の行動、特にモスクワ郊外でのコンサート襲撃に対する犯行声明は、世界の安全保障関係者に衝撃を与えた。攻撃後、ISISは世界中の同調者に呼びかけ、世界各地で「十字軍」を標的にするよう促した。ISIS報道官アブ・フダイファ・アルアンサリによるとされるこの呼びかけでは、ISIS過激派の標的としてイスラエル、米国、欧州に具体的に言及した。 ISISホラーサーンの最近の活動に対する反応は、アフガニスタンだけでなく、域内諸国、そして世界中にこだましている。
信頼できる報道機関や研究筋は、このグループのテロ能力の増大について懸念を表明している。米国政府ですら、ISISが米国の国民や利益を標的にしているのであれば、アフガニスタンで彼らに対して行動をとらなければならないと大統領に警告したと伝えられている。一方、ターリバーンはISISホラーサーンの増長を公式に認めることを控えているが、国内の特定地域では攻撃を防ぐための予防措置を講じている。最近の報道によると、カンダハールのモスクでは、夜の礼拝中のISISによる攻撃に備えて、ターリバーンのメンバーが警戒しているという。特にカンダハール市中心部で新カーブル銀行の支店がISISによって攻撃された事件(訳注:モスクワでテロが起きた3月22日の前日にあたる21日朝に、カンダハールでこの銀行襲撃事件が起き、さらに同日午後カーブルで爆破テロが発生した。ただし、これらの事件はターリバーン対ISの対立でなく、ターリバーン内部にISが浸透したための内部闘争であるとも言われている。)を受けて、カンダハールの治安対策は強化されており、ISISの複雑な攻撃能力に対するターリバーンの懸念の表れである。
一方、ここ数日、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)がアフガニスタン上空を継続的に飛行している。これらのUAVは、3月29日木曜日にニームルーズ州上空、土曜日にはカンダハール空域上空で活動し、一部の報道によるとファラー、パクティカ、パンジシール空域でも活動していると報告されている。アフガニスタンの空域は依然として米軍の管理下にあるため、これらの無人機は米国所属のものとみられる。ターリバーンのザビフラ・ムジャヒド(Zabihullah Mujahid)報道官は、カンダハール上空の無人航空機監視に関して、米国によるアフガニスタン領空の侵犯だと批判し、緊張の高まりを強調した。
アフガニスタン上空での米国の無人機の持続的な存在は、ISISホラーサーンの活動の増大と相まって、米国政府内の深刻な懸念を示している。こうした最近の出来事を考慮すると、ISISホラーサーンは世界的な脅威をもたらすまでに自らを強化しているようだ。米国のアフガニスタン領空への再来は、ISISを封じ込めるターリバーンの能力に対する信頼の喪失を示しており、状況への対処には限定的ながらも直接の関与が必要だとアピールしている。域内諸国と世界大国がISISを抑制するための真剣な行動をとることなく、域内でのテロ対策を調整できなければ、世界はこの組織によるさらなる攻撃を目の当たりにする可能性がある。
テロリズムの強化を助けるターリバーン
米英NATO国際軍とアフガニスタン国軍の作戦によって弱体化していたISISホラーサーングループは、ターリバーン統治下で再び強力になった。テログループに対してターリバーンが何ら政治的なアプローチをとらないことは、このグループや他のテロ組織の強化に貢献している。フィナンシャル・タイムズが最近報じたように、ISISとアル=カーイダの両方がターリバーン支配下のアフガニスタンに戻ることは予測可能であったし、これらの組織はいずれもターリバーンの統治下で自らを再建した。フィナンシャル・タイムズの報道によると、これら2つのグループはすでにターリバーン支配下のかつての聖域に戻っているという。
<参考記事>
https://www.ft.com/content/0f3f08e0-9e26-4dd5-ab30-0da1c77e15eb
アフガニスタン政府との戦争中、ターリバーンは他のいくつかのテロ組織から支援を受けていた。アル=カーイダ、ウズベキスタン・イスラム運動、パキスタン・ターリバーン(TTP)、アンサルラ(訳注:Ansaru:2012年、ボコ・ハラムから分派して設立されたナイジェリアのIS組織)、タジキスタン・イスラム運動、東トルキスタン・イスラム運動などのグループの戦闘員がアフガニスタン共和国政府との戦争でターリバーンを支援した。ターリバーンが権力を回復した後、アフガニスタンを支配できたのはテロ集団の支援によるものであると認め、追放されたこれらの集団に避難場所を提供した。ターリバーンがこれらのテロ組織のメンバーに避難所、身分証明書、アフガニスタンのパスポート、金銭、さらには妻さえも提供しているという多数の報告が明らかになっている(訳注:<連載>ターリバーンに関する国連安保理報告)。最近、ターリバーンがバダフシャーン州とタハール州の金採掘から得た収益の25%をアル=カーイダに割り当てたとの報告があった。これらのグループは、さまざまな国から追われ、安全な避難所を欠いており、ターリバーンの統治下で避難所と支援にありついた。これらのグループはそれぞれの目的を持っており、それぞれ自国の政府に対して武器をとって攻撃をはじめた過去を持つ。そんな彼らが再び人員を集め、強化することができた。ターリバーンが提供した避難所は彼らに十分な機会を与えた。つまり、ターリバーンの統治がこれらすべてのグループをリフレッシュさせ復活させた。
一方で、アル=カーイダはターリバーンの緊密かつ永続的な同盟者として、ターリバーン首長国の支配機構の中に存在している。少なくとも2人の知事と1人のターリバーン顧問がアル=カーイダグループのメンバーである。これはアル=カーイダがアフガニスタンの物質的資源と政治力とから事実上利益を得ていることを意味する。世界的な圧力の下でひどく弱体化していたアル=カーイダは、過去2年間で徐々に再生し、強化されてきた。現在、ISISによるテロ攻撃の増大と並んで、アル=カーイダは再びゆっくりと着実に脅威になりつつある。アル=カーイダは現在、ターリバーンとアフガニスタンの国家資源からの政治的・財政的支援を受けて自らを強化している。
<参考記事>
https://foreignpolicy.com/2024/03/22/al-qaeda-taliban-afghanistan-gold-mining/
他方、ターリバーンから敵とみなされているISISホラーサーングループも、意図的か非意図的かにかかわらず、ターリバーンのアフガニスタン復帰によって強化されている。ターリバーンは政権につくと、すべての刑務所の扉を開放し、囚人を解放した。これらの囚人の中にはターリバーンやISISのテロリストもいた。刑務所から釈放されたターリバーン戦闘員は元いた組織に戻ったが、同様のことがISIS戦闘員にも起こった。 ISIS捕虜の解放と戦場復帰は、ISISの隊列を強化するのに役立っている。ターリバーンは図らずもISISグループの強化を支援したといえる。
さらに、ターリバーンは過激主義と急進主義を助長するアプローチをとる。この国でのジハード主義学校の設立は、過激主義、そして最終的にはテロリズムの増大の原因のひとつとなっている。これらの学校の生徒は過激派聖職者によって教え込まれ、将来過激派になり、ターリバーンのために死ぬ覚悟をするよう意図的に訓練されている。これらの生徒は学校外でも友人や親戚に影響を与える。彼らの友人や親戚の全員がターリバーンのメンバーであるわけではないし、ターリバーンへの参加が有益だと考えているわけでもない。そのため、ISISや他のテロ組織に参加するものがいるかもしれない。ターリバーンのプロパガンダ機関(ターリバーンが創設または管理するさまざまな報道機関を含む)は、ターリバーンの歌やジハードに関するメッセージを広め、過激主義の考え方に貢献している。ハイバトゥッラー師(Mullah Hibatullah)のような人物を初めとしたターリバーン指導者らは、世界規模のジハードとこれに関する戦闘員の重要性について繰り返し発言しており、それが原理主義やテロリズムの拡大にも寄与する可能性がある。
ターリバーン支配下でISISホラーサーンが強化されたもうひとつの理由は、国内におけるISISの存在に関するターリバーン指導者の否定と無策である。ターリバーン指導部は政権復帰に酔いしれ、ISISホラーサーンの存在と活動に対する懸念を無視した。 ISISが攻撃を強化した後も、ターリバーンの報道官や指導者らはアフガニスタンにおけるISISの存在を否定し続けた。現在、彼らは徐々に否定段階を終えようとしているが、ターリバーンがISISに対して大規模な作戦を開始した兆候はまだない。したがって、ISISホラーサーンの活動に関するターリバーンの否定と無策が、ISISホラーサーンに一息つく余地を与え、刑務所からの戦闘員の帰還が彼らの隊列を強化した。
The Return of ISIS to the Scene of Events: How Taliban Facilitate Terrorism Growth?