Taliban’s Double Game: A Chasm Between Rhetoric and Reality
ターリバーンの表と裏: レトリックと現実の間の溝
(WAJ: ターリバーンの危険性と反動的性格について本サイトでは一貫して警告を発してきた。ターリバーンの再登場後2年半たった現在でも、ターリバーンを国家として承認する国は1国もない。しかし、”デフォルト・オーソリティ(事実上の当局)”と呼んで、アフガニスタンの実質的な統治者として扱う諸勢力(国家及び組織)が存在することもまごうことなき事実である。今号(2024年1月25日号)では、このファテー・サミ氏の指摘をはじめ、ターリバーンとは何なのか、その何が危険なのか、実像の解明と理解に資する記事を集めた。ターリバーンを認めるべきか否か、ターリバーンの存在の根拠を内部にまで分け入って分析する以外に、現在のアフガニスタン問題を解決するカギはないからである。なおサミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。通読すれば氏の鋭く的確な慧眼ぶりに驚かれることだろう。)
By Fateh Sami 2024年1月16日
ファテー・サミ(本サイト・アフガン主筆)
矛盾: 言行不一致をどう埋める
アフガニスタン情勢の進展の陰に隠れて、安全と安定に関してターリバーンが弄するレトリックは、彼らの実際の行動とはまったくかけはなれている。以下、ターリバーンが織りなす欺瞞の網を深く掘り下げ、彼らの行為が公約と合致していない不安な現実を明らかにする。
ターリバーン政権の出現の結果、女性の社会的、経済的、文化的活動への参加が厳しく制限されている。過去の遺物たる服装規定を課し、公の場に姿を見せることを妨げるターリバーンが主張する女性の安全確保に意味はない。安全が宣言されているにもかかわらず、著名な女性が標的にされ暗殺されており、それが恐怖と不安の一因となっている。
ターリバーンの下では、ダーイシュ(訳注:アラビア語でイスラム国を意味し、ISIL(イラク・レバントのイスラム国)、IS-KP(アフガニスタン・ホラーサーンのイスラム国)などのこと)、アンサルーラ(訳注:イエメンのフーシ派民兵の一派)などのさまざまなテロ組織が自由に活動している(訳注:ターリバーンに関する国連レポート参照 )。国際指定テロリストであるハッカーニ(Haqqani)がターリバーンの内務大臣に任命されていることは、テロ活動の拡大を浮き彫りにしている。女性は教育、雇用、公共スペースへのアクセスを拒否されており、あからさまな差別に直面しているが、これは国連憲章と人類文明の基本原則に対する明らかな違反である。ターリバーンが生み出している恐怖は劇的にエスカレートしている。
ターリバーンはカーブル占領以来治安が改善したと主張しているが、現実はその真逆で彼らのこれまでの行動と寸分違わない。ターリバーンは殺人、自爆テロ、幹線道路の封鎖、路上爆弾の埋設など幾多の狼藉を働いた挙げ句に権力にたどり着いた。米国の後押しとカタールのドーハでの秘密交渉によって権力に上りつめた後、さまざまな名前を持つさまざまなテロ集団が現在、パキスタンを経由してアフガニスタンに侵入している。このことは、アフガニスタンがパキスタンの多大な影響下にあることを示している。
ターリバーン政権は狂信者と過激派に支配され、不法な支配を維持するために強制と武力に頼っている。ターリバーンは水面下で違法麻薬取引とアフガニスタンの鉱物資源の中国への販売に従事している。彼らの行動は、この地域で戦略的対立に関与している国々の代理人として機能していることを示している。
この憂慮すべき状況に国際社会は直ちに目を向け、人権の侵害、女性の権利の抑制、およびターリバーン政権がもたらす広範な安全保障上の課題に対処せねばならない。
ターリバーンの台頭のもとでアフガニスタンは過激派勢力の温床となっている。それはアフガニスタンの安全を脅かすだけでなく、世界的な脅威にもなっている。ターリバーン、ダーイッシュ、アル=カーイダは別物であるとのよく使われる言い訳は、カーブルでアル=カーイダ指導者アル・ザワヒリ(Al-Zawahiri)を殺害した(訳注:アル=カーイダのNo.2と目されていたアイマン・アルザワヒリ容疑者が2022年7月、カーブルでアメリカのミサイルにより殺された)という疑わしい主張が輪をかけて、さらに奥深い真実を隠蔽している。この根拠のないプロパガンダは、ターリバーンとテロネットワークとの永続的な関係を覆い隠すのに役立っている。
表向きの統治の裏で、ターリバーン政権はデオバンド派マドラサ(訳注:19世紀にインド亜大陸で始まった戦闘的イスラム学派の神学校)として知られるパキスタンの宗教教育機関の卒業生によって支配されている。パキスタンISI(訳注:軍統合情報局)と、しばしばターリバーンの父と呼ばれるサミ・ウル・ハクの監視の下で組織されたこれらのマドラサは、過激なイデオロギーを今へと伝え、アフガン人の生活のあらゆる側面に浸透している。国会議員、軍人、学者、研究者、専門家など、かつての政府に尽くした者たちが今や攻撃対象となり、悲惨なエピソードが数多く聞こえてくる。
<参考サイト:デオバンド派>
https://academic-accelerator.com/encyclopedia/jp/deobandi-jihadism
<ターリバーンの父(殺害記事)>
https://www.nbcnews.com/news/world/muslim-cleric-known-father-taliban-killed-pakistan-n930466
かつては多様性に富む国家だったアフガニスタンが、雪崩を打って過激派グループの巣窟へと変貌した。これは国家の安定を脅かすばかりか、国民を徐々に絶滅に導くことになる。ターリバーンの影響力はウイルスのように広がり、域内に留まることなく世界規模の重大な脅威となっている。国際的な緊急の関心をもって、この欺瞞的な網を突き破り、状況を正しく伝え、アフガニスタンと世界に迫りくる壊滅的な結果を回避しなくてはならない。
ターリバーンの我田引水に潜む幾重もの矛盾の皮をぶち破ろう。そうすれば安全保障に関する彼らの行動や発言が、ただのうす汚れたタペストリーであることに気づく。彼らのウソは、単にその信頼性に疑問を投げかけるだけではない。騙されることなく、彼らの真の目的を今一度見据え直そう。さもなければ永遠の平和と安定などおぼつかない、アフガニスタンとその先に。