(2024年9月17日)

 今日のウクライナは明日のニッポン 

~「敵基地攻撃」のもたらすもの~

 

9月11日は米同時多発テロの日

23年前のその日、アル=カーイダの自爆テロ犯が4機のジェット旅客機を乗っ取り、ニューヨークの世界貿易ビル2棟とワシントンのペンタゴンビルに突入。もう1機は機内でハイジャック犯との攻防の末ピッツバーグ近郊に墜落した。行方不明者を含め3000人を超える犠牲者を出した痛ましい事件は、アメリカ本土へのイスラム過激派による宣戦布告なき攻撃であった。アメリカが外国から大規模な本土攻撃を受けたのは建国以来初めてであり、アメリカ人のみならず世界が言い知れぬショックを受けた。

アメリカはこの日を境に、アフガニスタンでのアル=カーイダ・ターリバーン掃討、イラク・フセイン打倒、中東でのイスラム国やシリアでの戦闘へと突き進み、アフガニスタンでは20年戦争に沈み込んだ。世界は9.11以前とは一線を画する国際的な不均衡戦争の時代に突入した。米英NATOなどの有志国家群はその不均衡戦争を「テロリストとの闘い」と呼んだ。

 

またも9.11に大変な動きが

23年目の今年9月11日、ウクライナをめぐって、第3次世界大戦が勃発しかねない危険な動きが表面化した。ウクライナへの米英NATOによる武器弾薬の供給や軍事支援。ロシアへは北朝鮮やイランが同じように武器弾薬の供給や軍事装備品の支援を行っている。双方とも隠れて人的支援も行っているのは暗黙の事実である。実は、第3次世界戦争はすでに始まっているとみなしても間違いではない。(イランによるロシアへの弾道ミサイル供与に関するG7外相声明

BBCが11日に報道した「アメリカ製長距離ミサイルの使用、バイデン氏が制限解除を示唆 ウクライナによるロシア国内への攻撃で」がそうであり、それを裏付けるように米国のアントニー・ブリンケン国務長官と英国のデイビッド・ラミー外務大臣はロンドンでの会見後そろって、11日にウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会った。ゼレンスキー大統領は、かねてからの要望だった西側から供与された武器の使用制限の緩和を要望した。ウクライナはロシア本国をミサイル攻撃したいのだ。米英は、長距離ミサイルによるロシア国内への攻撃の必要性を了解している。そのうえでプーチン大統領との駆け引き(世界舞台への手の内の見せ方)を弄しているのだろう。危険な火遊びだ。

 

戦争膠着打破の狙い

ウクライナ軍は8月6日、同国北東部スムイ州から国境を越えてロシア領クルスク州に進軍した。瞬く間に東京都の約2倍のロシア領を支配下に置き、1カ月以上、占領地を維持している。第2次世界大戦以来初めて自国領土への外国軍の侵入を許したプーチン大統領は、ウクライナ軍の侵攻を外国による侵略と認めず、「テロ攻撃」と見なし10月1日までの掃討を命じた。あくまでも国際法によって縛られる戦争ではないと言い張りたいのである。

ウクライナ軍の作戦については、さまざまの憶測が飛び交っている。2022年2月24日以降、ウクライナ東部、南部に侵入し4州を占拠し併合しているロシア軍の一部を占領地から引き戻すためだとか、和平交渉にむけた材料づくりだとか、甲論乙駁、外野評論家スズメたちはちーちーばっぱと騒がしい。

 

やられてばかりのウクライナ

ロシアがウクライナに攻め込んだ2022年2月24日以降の戦況は、一方的にウクライナが被害を被っている。北方から首都キーウを目指して侵攻してきたロシア軍は3月、首都近郊のブチャを占領し数々の残虐行為を働いた。だが、ウクライナ軍の猛反撃により敗走した。それ以降、東部、南部での激戦中には、商業施設や学校、教会など民間施設も爆撃を受け、住民や子供たちをロシアに連れ去られた。そのような行為に対して国際刑事裁判所(ICC)は2023年、プーチン大統領に戦争犯罪の容疑で逮捕状を発行した。

2022年2月24日からの2年半の間、ロシアはウクライナの全土に対してミサイル攻撃や空爆を行った。攻撃は軍事施設だけでなく、民間施設、特に電力やガスや水道などのインフラ設備の破壊を意図的に行った。病院、学校、住宅、商業施設も破壊された。ロシアの意図は、ウクライナ国民の戦意をそぐことだった。

しかしウクライナは、戦争開始以降2年以上、ロシア国内に対する攻撃を一切行うことができなかった。ミサイルを供給する米英独仏などが、核恫喝を行うプーチンの脅しに屈して、ウクライナにロシア本国の攻撃を許さなかったからである。

電力・ガス・水の供給に大なる困難を強いられた厳冬下、ウクライナ国民は文字通り死の苦痛を味わった。その苦痛を、ロシア国民はまったく感じていない。ウクライナ国民の悔しさはいかばかりであっただろうか。

 

越境攻撃、敵基地攻撃

クルスク州への越境攻撃は、単なる領土占拠ではなく、ウクライナ国民がロシア国民にウクライナ国民の苦しみを感じさせる闘いでもあった。「特別軍事作戦」とか「テロ対策」などと愚劣な口実で戦争行為を覆い隠そうとするプーチンの詐術を粉砕する戦いでもあった。それは、戦争を管理可能な状態において拡大させず、第2次世界大戦以降、一貫してアメリカが遂行し、完成させてきた軍産複合体による軍事ケインズ主義経済の貫徹であった。つまり、アメリカは、ウクライナをつかい、ウクライナを勝たせず、負けさせずの戦争管理下に置いてきたのである。

ウクライナの作戦は捨て身の作戦だと言える。ある意味、ハマースが昨年の10月7日、自爆テロ的攻撃をイスラエルに対して敢行したのに似ている。ウクライナは両手を縛られてボクシングをさせられているようなものだった。ボクシングでは顔が腫れ血が流れるくらいだが、ロシアの戦争の仕方では、(プーチンは卑怯にも戦争と言っていない)であれば3万数千人(ウクライナ政府発表)の兵士だけでなく住民1万人以上(国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)2024年2月発表)が殺害され、負傷者は数えきれない。国連UNHCRなどの調べによれば難民化した住民は国内に354万人以上国外に655万人以上、合計1000万人超に達した。

戦争がいかにむごたらしく、非人間的なものであるかは、ウクライナの陥った状況をみると一目瞭然だ。(ガザの惨状はウクライナ以上)

 

戦争は外交の延長

ウクライナとロシアの紛争は、2014年のクリミア侵略をはさみドンバスにおける武力対立を含みつつも、2022年2月23日まではまだ政治的な争いの範囲内に収まっていたが、2022年2月24日以降、国家倒壊をめざす本格的な侵略戦争とそれに対する自衛の戦争となった。

ウクライナとロシアの戦争(くどいようだがプーチンは口が裂けても戦争とは言わない)の原因については双方に言い分がある。だが、ロシアがおこなっている行為は、独立した国家の破壊をめざす、あるいは他国の領土を略奪しようとする行為であり、第2次世界大戦終結以来、いかなる国家も行ってはならないこととされ、ロシアの前身国家であるソ連も創立国のひとつである国連の定めでもある。また、戦争を政治目的を実現するための手段として合法化するのであれば国連を始め国際的に承認された国際交戦規定にしたがい、「宣戦布告」を行い、正々堂々と実施すべきであろう。それを行いたくないプーチンは「特別軍事作戦」とうそぶいて「宣戦布告なし」に侵略を行ったのである。本サイトが厳しくロシアを批判するのは、その故であり、それを許すならば、あらゆる国境紛争が戦争に帰結してしまうからである。(日本国憲法は国際紛争の解決手段としての戦争を放棄している。)

今年の9.11の前、イランによるロシアへのミサイル供給は、ウクライナにとって恐怖を呼び起こした。つまり、ロシア領土内からウクライナ国内のインフラ設備がこれまで以上に破壊されること必至だからである。すでにキーウ周辺では水道システムが破壊され市民の日常生活の大きな障害となっている。ウクライナは、ロシア製のみならずイランや北朝鮮から供給されるミサイルの発射基地をどうしても破壊せざるをえないのである。

 

日本の戦争好きも敵基地攻撃

日本政府が2023年版の防衛白書に記載した「敵基地攻撃能力(反撃能力)」とは具体的には敵のミサイル発射基地を攻撃することである。
想定される敵は中国と北朝鮮。本音は、「台湾有事」を前にした中国である。だから、防衛省は、台湾の北東数百kmにある石垣島から九州南端の馬毛島に至る琉球弧に米軍と共同であらたにミサイル基地や軍事基地を建設ないし増強しようとしている。

「琉球弧 戦争と平和の最前線」(森の映画社映画パンフレットより)

本サイトでは、2021年、米軍のアフガニスタンからの撤退戦略は、ウクライナ→新疆ウイグル・台湾を争点とする、アメリカの世界軍事戦略に位置づけて理解すべきであると主張してきた。ウクライナとロシアの紛争をバックから支えてロシアをたたき経済的政治的に台頭してくる中国を抑え込む戦略だ。極東においては、軍事力布陣の要として日本を重視、目下の同盟国として体制を整えてきた。2006年5月の「在日米軍再編の実施のための日米ロードマップ」(ロードマップ)において示された在日米軍再編計画に基づき、現在まで強引に進められてきた。(令和5年版防衛白書

琉球弧は「さきの大戦」で悲惨な戦場にされた。艦砲射撃の爆撃で身内の4人に一人が殺され、家屋敷や土地は焼かれ収奪され、基地の島とされたまま、現在また、対中国のミサイル基地とされつつある。

本来、台湾問題は中国の内政問題である。中国人同士で平和的に解決できるし、すべき問題であるが、中国共産党と国民党の内戦の歴史をひきずり、そこにパックス・アメリカーナの世界戦略と尖閣諸島の領有権問題がからみ、一見複雑な国際問題化した。

「台湾有事」といわれる軍事的対立はトランプ政権時代に強硬化した対中締め付け策(2018年10月4日のペンス米副大統領ハドソン研究所での対中政策演説)で顕在化してきた。アメリカはそれまでの対中「戦略的関与政策」を転換した。それは「中国を国際社会に関与させ、その経済発展を支援していけば、中国はやがて民主的で、自由で開かれた既存の国際秩序にも調和的な国家(Responsible Stakeholder)になるであろうとの期待」が裏切られた結果だった。(参考

ウクライナは今、ロシア領内のミサイル基地を撃破することにより、自国を守ろうとしている。「敵基地攻撃作戦」だ。英米はロシアのレッドラインをさぐるべく表向きはウクライナに自制をもとめつつ、HIMARS(ハイマース)やATACMS(エイタクムス)やStorm Shadow(ストームシャドウ)などの長距離爆撃できる(つまりロシア国内の基地を攻撃できる)ミサイルを供給する。戦争が確実に一段エスカレートした。

 

させないためにはしないこと

ウクライナの状況を冷静に分析すれば、米英NATOとロシアの代理戦争にウクライナが利用されているのは明白だ。「台湾有事」もそれと全く同じ構図となりかねない。日本政府は、習近平政権のかたくなな戦狼外交とアメリカの挑発的な中国封じ込め政策のはざまにあって、米国の駒として使われている。

被害を被るのは日本の一般国民だが、琉球弧にすむ沖縄県民、鹿児島県民はすでに直接の被害と不安のもとに投げこまれている。自衛隊と米軍計約4万人が参加する大規模な実動訓練「自衛隊統合演習(JX)」は、琉球弧だけでなく全国各地で実施されている。航空自衛隊の戦闘機が普段使用していない民間空港に離着陸する訓練や民間病院、民間施設を使った負傷者搬送訓練などだ。

まわりは海ばかりで逃げることもできず補給もままならない南海の島々に、標的になるだけのミサイル基地をつくる愚は火を見るよりも明らかだ。標的があるから攻撃される、標的があるから反撃する。しかし上記のイラストを見れば一目瞭然、中国のミサイル基地は広大な大陸のなかにある。地の利は小学生にでもわかるだろう。補給が切れればすぐさま孤島となる島々に基地をつくってどうするの、といいたい。
加えて、アメリカが、日本国民と一緒に、命をなげうって、南海につらなる島々や日本列島を死守するとも思えない。

「台湾有事」と騒いで有事を引き寄せるのでなく、「有事」を「無事」にするためにはどうすればよいかに知恵を絞り、中米双方に対して平和外交を展開することこそ日本の取るべき道ではないだろうか。

最後に、本サイトでもすでに紹介したが沖縄の置かれた状況と平和をもとめる住民の闘いを描いた下記の映画がDVD化されている。小集会での鑑賞や上映討論会での利用が可能だ。当編集部も所有している。上映を希望されるかたは noguchi_phoenixlabo@f05.itscom.net までご一報ください。DVDとプロジェクターをもって駆けつけます。

・『琉球弧』(森の映画社、藤本幸久・影山あさ子監督、詳細はココ
・『島で生きる』『ドキュメント石垣島』(湯本雅典監督、詳細はココ
・『勝ちゃん 沖縄の戦後』は10月12日よりポレポレ東中野を皮切りに全国上映されます。 上映詳細はココ映画情報はココ

 

【野口壽一】