(2025年6月25日)

 莫大な戦費 

~誰の誰への誰のための出費?~

 

待ってましたとばかりに

タコ(TACO)だ、ビビリだ、朝令暮改だなどとさんざん悪口を言われていたトランプ大統領、「どうだ!」とばかりについにやった

「2週間以内に」の発言も「速攻」するための煙幕にすぎなかったようだ。その口が乾かぬうちに、ステルス三角翼B-2爆撃機をつかって地下核施設にバンカーバスターをぶち込んだ。

アメリカだけが持つバンカーバスターの初陣だ。
米軍はやりたくてやりたくてうずうずしていたに違いない。
BBCによれば作戦を、数カ月かけて練りに練って勇躍実行した。

動員した軍備、リソースを調べると、「真夜中の鉄槌作戦(Operation Midnight Hammer)」と称する今回の対イランオペレーションにアメリカ空軍・海軍がつかった作戦リソースは、莫大だ。

 

周到に準備された大作戦

わずか1日で、分かっているだけでも、下記の通り。

・B‑2ステルス爆撃機:合計7機
・航空機合計 125機以上
・バンカーバスター爆弾(GBU‑57 MOP) 14発(計約420,000ポンド=190トン超)
・トマホーク巡航ミサイル 潜水艦から約30発超
・精密誘導兵器 75発以上
・潜水艦 1隻
・飛行時間 約18時間(片道)×複数B‑2
・航空給油 複数回実施

米軍史上最大・最長規模のB‑2ミッション。バンカーバスター爆弾の初の実戦投入だった。
米軍人たちのワクワクしている様子が目に浮かぶ。

さらにさらに、後方支援として、

イラン側による反撃の可能性に備えて、ミサイル駆逐艦ザ・サリヴァンズ 、ミサイル艦トーマス・ハドナーなどのアーレイ・バーク級駆逐艦が地中海やペルシャ湾付近に展開、イランから発射される弾道ミサイルの迎撃など防空およびミサイル防衛態勢に従事。

また、カールビンソン航空母艦打撃群がアラビア海に展開し、戦艦ミニッツが6月末までに後継として向かう等、航空戦力による安全保障態勢も整備。

当然、中東の米基地・艦隊対応は緊急警戒態勢。

米海軍バーレーン基地(Naval Support Activity Bahrain)では、基地関係者を対象としたロックダウンや警戒体制強化が敷かれた

同基地周辺では、5〜6隻の駆逐艦や護衛艦、航空母艦打撃群など米艦隊が集中配置され、有人・無人警戒やミサイル防衛、戦区への即応能力を向上させた。

 

いったい幾らかかったんだ!

全体コストをAI君に計算させてみたところ、直接費用だけで約3億7400万ドル(1ドル150円換算で約561億円)。

項目         米ドル(USD)
—————————————————–
B-2運用費       約34百万ドル
GBU-57 MOP(14発)   約280百万ドル
トマホーク(30発)   約60百万ドル
—————————————————–
合計(直接費用)    約374百万ドル

 

本来、直接費のなかには次のような項目も加えるべきだろう。

・空中給油機(KC-135, KC-46など)の運用費
・支援戦闘機(F-22, F-35, F-15等)の燃料・整備費
・偵察・電子戦・早期警戒機などの運用費
・海軍艦船(駆逐艦、潜水艦、空母)の日常運用費(例:1日あたり数十万ドル)
・作戦準備にかかる人件費、衛星偵察・サイバー支援、通信網維持費

これらをすべて含めた場合、2億ドル程度追加されると推定され、全体では5億ドルから6億ドルと推定される。日本円では900億円、この1日のオペレーションを準備した数カ月の経費を加算すれば軽く1000億円規模の資金が投入されたことだろう。(わずか1日でですよ!

この「真夜中の鉄槌作戦」を実行する前にイスラエルは「ライジング・ライオン作戦( Operation Rising Lion)」と称して6月13日から連日、イランの10カ所以上の地点および都市に猛爆をかけ、対空システム、核施設、軍事施設などを破壊。要人暗殺などを敢行した。

この攻撃にイランも翌日からミサイル発射で応戦し、イスラエル・イラン戦争の勃発となったが、イスラエルの爆撃は、「真夜中の鉄槌作戦」を実行するための地ならしならぬ〝空ならし〟(イランの対空網破壊)にすぎなかったことが判明した。

以上が、この10日ほどのあいだに、イスラエル・アメリカがイランを叩くために使用した直接経費の推定である。(これに加えてイラン・イスラエル両国民衆の人的物的損害も相当規模。それは編集後記で)

トランプ氏に言わせれば、わずか10日間のこの莫大な支出は「イランの核武装を阻止し世界の安全を守るための費用だ。お前たちのただ乗り、アメリカの搾取は許さない、金を出せ」、というわけだ。

 

理不尽な攻撃をアメリカ議員も批判

そもそも、イランに先制攻撃を仕掛けたイスラエルは1948年の建国いらい核開発を開始し今では少なくとも90発の核爆弾をすでに持ち、300個の核兵器を製造できるだけの核物質を保有しているとみられている。(米国NGO「核脅威イニシアチブ」(CNNサイト参照)

しかも、アメリカはイランと核交渉のさなかだった。イスラエル・ネタニヤフ首相の横やりでアメリカは攻撃をせかされた、との説があるが、アメリカの周到さをみれば最初からアメリカのシナリオに基づいた作戦と言ってもおかしくない。

そのようなトランプ政権のやり方に対して、アメリカ議会からも早速、「大統領専断」の批判の声があがっている。2019年にアメリカで設立されたシンクタンク:Quincy Institute for Responsible Statecraftのサイト「Responsible Statecraft」が6月22日付でアメリカの言論界の様子を伝えている。このクインシー研究所(Quincy Institute)はジョージ・ソロス氏とチャールズ・コーク氏という立場の異なる富豪が資金提供したことで話題になったが、保守・リベラルの両陣営から支持される「反軍事介入・外交重視」の立場をとっている。

ウエッブサイトResponsible Statecraftは同研究所の中東研究員アダム・ワインスタイン氏の発言「米国は中東に展開する4万人の兵士を正式に危険にさらした」を紹介した後、共和党議員らの次のような発言を紹介している。

共和党下院議員マージョリー・テイラー・グリーン氏
「アメリカが偉大になりそうなたびに、また外国の戦争に巻き込まれる」「もしネタニヤフ首相が先にイラン国民に爆弾を投下していなければ、イスラエル国民に爆弾が落とされることはなかっただろう。」

共和党トーマス・マッシー下院議員(ケンタッキー州選出:すでに、攻撃に反対を唱え攻撃を阻止するための法案を提案済み)
「これは憲法違反だ」

共和党ウォーレン・デビッドソン下院議員(退役軍人、オハイオ州選出)
「トランプ大統領の決定は正当かもしれないが、合憲的な根拠を見出すのは難しい。

民主党ジム・ハイムズ下院議員(コネチカット州選出)
「我々が共に守ると宣誓した憲法によれば、この問題に対する私の関心は爆弾が落ちる前に向けられる。以上だ」

無所属バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)
「これは極めて違憲だ」「この国を戦争に導くことができるのは米国議会だけであり、大統領にはその権限はない」

民主党ティム・ケイン上院議員(バージニア州選出)
「アメリカ国民は、アメリカがイランに戦争を仕掛けることに圧倒的に反対している。そしてイスラエル外相は昨日、イスラエルの爆撃によってイランの核開発計画が『少なくとも2~3年』遅れたと認めた」「では、なぜトランプ氏は今日、無謀にも急いで爆撃を決断したのか? ひどい判断だ。私はすべての上院議員に、この愚かな第三次中東戦争に賛成するか否かを投票するよう強く求める。」

アメリカは民主主義の国だ。数々の帝国主義的侵略や政府転覆などの介入工作を国内外で続けてきたが、民衆はそれに反対し平和と人権を守り確立する戦いをつづけてき、実現してきた国でもある。アメリカがトランプ大統領の専制政治を許さず、民主主義の国として存続していけるかは、ひとえにアメリカ民衆と世界のわれわれの連帯の力にかかっている。第三次世界戦争のとば口にたっているいま、世界市民が試されているのではないか。

野口壽一