(2026年2月11日)

 2026年解散総選挙の結果と現行制度の構造的問題 

~代表性・競争性・政権交代可能性の観点からの批判的考察~

 

はじめに

2026年の衆議院総選挙は、高市早苗首相による突如の解散により実施された。

結果として、自由民主党は得票率36.7%、得票数21,026,139票にとどまった。にもかかわらず、衆議院の3分の2、316議席をを単独で占めるという戦後初の事態が生じた。

一方、立憲民主党と公明党の連携による「中道改革連合」は議席面では惨敗したが、比例票では10,438,80票、得票率18.2%を獲得した。意外な善戦といえる。しかし議席数は解散時を大きく下回りわずか49議席と惨憺たる結果におわった。

自民党が中道のわずか2倍の票数ながら6倍以上の議席を占める「民意の亀裂」と「議席分布」の、この不都合な乖離は偶発的現象ではなく、日本の小選挙区比例代表並立制の構造的必然の帰結といえる。

本稿では、この乖離の発生構造を歴史的・制度的観点から分析し、現行制度の問題点を批判的に整理する。さらに、代表性と安定性を両立する制度設計の代替案を提示する。

 

1. 2026年総選挙の得票構造と議席配分

 

1.1 過去の選挙との比較

比例票の推移をみると、自民の支持率は以下のように推移してきた。

  • 2014衆院選:34%前後
  • 2017衆院選:33%前後
  • 2021衆院選:34.7%
  • 2022参院選:34.4%
  • 2024衆院選:26.7%(歴史的敗北)

これに対し2026年総選挙では37.8%に回復したものの、あくまで「過去の通常値よりやや上」程度である。喧伝された「高市ブーム」はそれほどの効果を生んだわけではない。

すなわち、自民が票を爆発的に増やして3分の2を獲得したわけではなく、議席の“過大評価”が制度によって発生したと考えるべきである。

 

1.2 小選挙区での「総取り」現象

小選挙区は、最多得票者が議席を完全に独占する勝者総取り方式(FPTP)である。
今回、自民は31都道府県で小選挙区を独占したと報じられ、多くの選挙区で反自民票が分散した結果、わずか37.8%の得票で巨大な議席ボーナスを得たことが判る。

 

2. 制度的欠陥の本質】

 

2.1 並立制の本質的問題

日本の制度はドイツ型MMPと異なり、

  • 比例で議席配分を補正しない
  • 小選挙区での議席総取りがそのまま議席構成を決める

という特徴を持つ。そのため、

議席占有率 > 得票率

という“過剰代表”が多数派の政党に生じやすい。

自民の「得票37.8% → 議席66%超」という構造は、この制度の典型的な帰結である。

 

2.2 「2大政党制」前提の制度と現実の乖離

小選挙区制は、2大政党が均衡する状況でこそ代表性と政権交代性が成り立つ。
しかし現在の日本の政党体系は、

  • 与党:自民1強
  • 野党:中道・左派・右派・地域政党など多数の中小勢力

という「1強+多極(多弱)」の構造であり、制度が想定した2大政党競争は存在しない。

その結果、

  • 野党票が小選挙区で分散
  • 自民が30%台の得票で“100%議席を取る区”が続出
  • 反自民・非自民票の大部分が死票化

という現象が再生産される。

 

2.3 メディアの構造的問題

大手メディアは、

  • 「与党 vs 野党(複数)」の単純対立図
  • 政策比較よりも選挙情勢報道中心
  • 野党内再編・政策の細部を丁寧に報じない

といった傾向が強く、結果として有権者は

「野党はバラバラで政権担当能力に乏しい」という印象を持ちやすい。

この報道構造は、制度の欠陥によって不利な立場に置かれた野党の競争力をさらに弱める方向に作用している。

 

3. 現行制度の民主的正統性への影響

以上の制度構造は、以下の民主主義的価値を損なう。

  1. 代表性の欠如
    • 民意の37%が議席の66%になることは、多数決原理の歪曲である。
  2. 公平性の損失
    • 数百万票単位の野党票が死票化し、民意の反映度が著しく低下。
  3. 政権交代可能性の喪失
    • 制度が自民1強を構造的に補強し、選挙が「形式的競争」にとどまりかねない。
  4. 政治的多様性の圧殺
    • 小党が生き残りにくく、多様な意見が議席に反映されにくい。

こうした制度のもとでは、有権者が政権を選択する能力そのものが縮減され、
議会制民主主義の「競争性」「開放性」が大きく損なわれる。

 

4. 代替制度案:代表性と安定性の両立を目指す設計

ここでは、世界の制度比較をふまえつつ、日本に適した現実的な代案を検討する。

【案1:ドイツ型・比例補正つきMMP(Mixed-Member Proportional)】

 制度概要

    • 有権者は「小選挙区票」と「比例票」を別々に投じる
    • 議席全体は比例票に基づき配分
    • 小選挙区当選者はその議席に充当
    • さらに不足分は比例代表で補う
    • 必要なら「超過議席」(overhang seats)を追加し、全体の比例性を確保

 期待される効果

    1. 民意と議席の乖離が大幅に縮小
    2. 小選挙区は維持されるため、地域代表性も担保
    3. 小党も比例で議席を獲得し、多様な意見が議会に反映
    4. 同時に、連立が常態化するため、政策が極端に振れにくい

 日本への適用可能性

ドイツの連邦議会やニュージーランドで成功している。
「安定性」と「代表性」を両立した制度として世界的評価が高く、日本でも十分採用可能。

 

【案2:小選挙区を大幅に縮減し、比例区を拡大する“修正並立制”】

 制度案

  • 小選挙区:289→150程度へ縮減
  • 比例区:176→300へ拡大
  • 同時に、比例票の議席比率を一定範囲で補正する(準MMP化)
  • 効果
  • 小選挙区の“総取り効果”が弱まり、死票が減る
  • 野党票の分散による損失が軽減
  • 比例区が拡大するため、小党の議席が増え、政党政治の健全化に資する

 

【案3:2回投票制(Runoff)による小選挙区の補正】

 内容

小選挙区の決選投票制度を導入する。

    • 1回目で過半数に達しない場合
    • 上位2名で決選投票(フランス方式)

効果

  • 「30%程度の得票で当選」が激減
  • 反自民票が集約され、自民の過剰代表が抑えられる
  • 民意に最も近い候補が最終的に選ばれる

 

【案4:STV(単記移譲式)による大選挙区制】

 内容

    • 3~5人区の大選挙区を設定し
    • 有権者は候補に順位をつけて投票
    • 票が有効に移譲され、多様な政治的立場が議席に反映される
      (アイルランドや豪州の上院などで利用)

 効果

  • 死票が大幅に減少
  • 保守・中道・リベラル等の多様な代表が誕生
  • “一強の総取り”が制度的にほぼ不可能になる

 

最後に

 ・2026年総選挙で現れた「得票37% → 議席66%」という乖離は、政党体系・選挙制度・メディア報道が重層的に絡み合う構造問題の帰結である。

・現行の小選挙区比例代表並立制は、「政権交代可能な2大政党制」を前提とした制度であるにもかかわらず、現在の日本の「1強+多極(多弱)」という政党構造とは整合しない
その結果、代表性・公平性・競争性が損なわれ、民主主義の正統性が揺らぐ。

本稿で示した代替制度案—特にMMP方式比例拡大型修正並立制—は、小選挙区による地域代表性を維持しつつ、民意の反映度を高め、政権交代可能性を高める現実的改革案である。

・制度改革は政治的には困難だが、民主主義の持続性を確保するためには、代表性と安定性が両立する制度への移行が避けて通れない課題である。

・現行の選挙システムに味を占めている自民党が現行システムの改善をするとは思えない。反自民政党あるいは政党グループは、次期総選挙においては、現行システムを上記のより合理的なシステムへの変更を行うことを公約に掲げ、政権交代の暁には速やかに実行すべきである。

 

<補足>

議会における採決の際「党議拘束」を許す議会運営は、より良き結論を求めてなされるはずの討論の意味を無にする愚行である。議員個々人の自らの信念に基づく意思表示を封じるのであるなら、議員は単なる投票マシンにすぎないことになる。この問題は別の機会に議論する。

 

【野口壽一】