(2025年2月25日)

 ウクライナをアフガニスタンにするな! 

~当事者をのけ者にする国家エゴは自滅への道~

 

まるで世界政治のパラダイムシフト

イーロン・マスクが差しだすX上で勝ち誇ったようにデマをまき散らすトランプ大統領。
それを見ているふたりの男がベロを出してあざ笑っている。

・グリーランド、パナマ運河、ガザをアメリカに。
・カナダはアメリカの51番目の州に。
・ガザは更地にしパレスチナ人を追い出してリゾート開発。
・輸入品に高関税をかけて製造業を復活させる。
・国境を通過する財貨やサービスしか眼中にない短視眼。
・不法移民は即追放。
・ウクライナでの戦争はすぐ終わらせる、と豪語し、
 ―独裁者プーチンの目の前でゼレンスキー大統領を独裁者とののしる。
 ―アメリカの支援額を3500億ドルと誇大に、ゼレンスキー氏の支持率を4%と架空ででたらめな数字で貶める。
 ―ゼレンスキーのおかげでウクライナ人は何百万人も死んだとそしる。
 ―プーチンが侵攻したのではなくウクライナが勝てない戦争を始めてアメリカを巻き込んだとウソ。
 ―プーチンが望めばウクライナの全土を占領して良いと暴言。
 ―ウクライナにアメリカの支援の代償として希少地下資源を寄こせとゆする。

なるほどと思わせる主張もあるが、短期間に100を超える大統領令を連発。第1期の側近であったバノン氏の洪水戦略でマスコミの批判をかわす。(もはやメディアもお手上げ!トランプが繰り出す「Flood Zone」戦略、乱発される大統領令に打つ手はないのか

この21世紀に、吐き気をもよおすような異様な世界が出現した。
まるで世界政治に歴史劣化のパラダイムシフトが起きそうだ。

無法ともいえる乱暴で粗暴なエゴ丸出しの言説や行動が、ガザやウクライナだけでなく、世界中の人民を不安に陥れている。
つぎは露中北の核保有国に囲まれた日韓台か。

 

自滅への道?

ウクライナ問題での、トランプ大統領の勝ち誇ったような物言いは、実は、ロシア・プーチン大統領に白旗を上げているのにほかならないと鋭く看破したアメリカ人がいる。
「世界の声」「アメリカを売り渡す指導者たち」(ノア・スミス)

トランプ大統領がプーチン大統領との電話会談で約束したとされる内容を整理して列挙すると次のようになる。
(1)ユーラシアからの撤退(ロシアへの覇権の引き渡し)、西半球・アメリカ大陸への後退
(2)軍隊の規模と能力を大幅に削減する軍備縮小
(3)中国との製造業競争をやめ中国への原材料と農産物の供給に移行

このようなアメリカの姿は、第一次世界大戦に敗れたドイツがしぶしぶ飲んだ条件とおなじだ、とスミス氏は断定する。違いは、ドイツは膨大な賠償金を背負わされたが、今回のアメリカには賠償金がない、という点だけだ、と。

こう見てくると、アフガニスタンで苦しんでいたトランプ政権の第1期、当事者であるアフガニスタン政府やNATOのその他の国々を脇において、ターリバーンとの単独交渉で、ターリバーンにアフガニスタンを明け渡し、撤退を決めたかつてのトランプ大統領といまのトランプ大統領の姿がダブる。

見捨てられたアフガニスタンはどうなったか。

国民は飢餓に苦しみ、人口の半分の女性は「居場所は家の中と棺桶の中だけ」と言われるような状況。このままいくとウクライナが第2のアフガニスタンになりはしないか心配だ。いや、アフガニスタンどころかそれ以下かもしれない。いままで投資した分(実は支援金)の見返りとしてウクライナの地下資源の半分の利権をよこせ、さもなければロシアがウクライナ全土を占領するのを容認する、などと、弱みに付け込んで金品をむしり取る、仁義を忘れたヤクザ以下、あからさまで醜い発言をする始末だ。(「プーチンが望めばウクライナ全土占領」トランプ大統領 ロシア寄り発言連発

2020年2月のドーハ合意は第1期トランプ政権下での出来事。当時のアフガニスタン政府やNATO軍を介在させずアメリカはターリバーンと単独で和平協議を行い合意を成立させた。しかもその詳細内容は秘密のママ。あとを継いだバイデン政権は撤退合意時期を数カ月遅らせただけで合意を守り逃げるようにして軍を引いた。トランプ大統領はバイデン政権の撤退の不始末をののしるが、その原因をつくったのは、合意内容をターリバーンに守らせる義務も課さずただひたすら白旗をあげたトランプ大統領そのひとだ。

その結果、アフガン国民は苛烈な暴力支配のもとにおかれ、国民の半分が飢餓に苦しみ、国外への避難者の数が800万人を超える状況を強いられている。

そもそもアメリカは9.11同時多発テロの下手人ビン・ラーディンを引き渡さないターリバーン政権を猛爆撃で打倒した後、テロを根絶するとの口実でアフガニスタンを占領し、イラクに戦争をしかけた。しかし大量破壊兵器を隠し持っているとしたイラク開戦の口実はまったくの「ウソッパチ」だった。

同じことをまたしてもウクライナでやろうとしている。(ノア・スミス:アメリカを売り渡す指導者たち

トランプ大統領の言動は、国家、それも世界第一の大国、強国の指導者としての倫理や風格を微塵も感じさせない。「ディール」の名のもとにただただゆすりたかりを凌ぎとするごろつきにしか見えない。このような、当事者をのけ者にしてまで国家エゴを貫こうとする国は、外国からはもちろん、自国民の信頼さえも失い、ひたすら自滅への道をころげおちるしかないだろう。

 

醜い王様を化粧して美しく見せる連中

前回の<視点:本音丸出しのアメリカ主義者・トランプ~建前や綺麗ごとでは済まされない哲学的課題~>で、アメリカは普通の国ではない。外務省はなく国務省が世界を自分の国のように扱う、と書いた。

トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を呼号するが、それは、他の国を尊重してその中の1番という意味ではない。トランプ氏はアメリカ合衆国(合州国)の長であり、かれのもとにはいま50の州つまり国がある、という認識だ。実際、建国時には州(state:国)は13で250年の間に50に増えた。だから平気でカナダに51番目の州になれ、と言えるのだ。アメリカは連邦制(邦=国)の国家連合体だから。(皮肉交じりに日本は51番目の州と言われるが、実際、税金に相当するような上納金をさまざまな口実で召し上げられていても、大統領選挙や連邦議会選挙の投票権はありはしない。)

「言ったものの勝ち」という言葉がある。アメリカ大統領は全世界に展開する世界最強の軍隊と黒カバンの中に入った核爆弾発射スイッチ、世界金融を支配する世界紙幣ドル印刷権を持っている。実は言う前に勝っている。だから、「常識」人のわれわれからすればトンデモ論にしか思えないような言説でも「王様は裸」と言えず、また、言わずにギャラや原稿料を稼いでいる人びとは、「王様の本音はこうだ」「隠された周到な意図があるのだ」「実はトランプ氏もマスク氏も頭が良いのだ」などと王様に上等な着物を着せて崇め奉る。

この現象を「世界の声」に掲載した「トランプも洗ってやれば正気なのか」(ダニエル・W・ドレズナー)は「sanewashing」と表現している。これは「sane(正気の、健全な)」と「washing(ごまかし、美化)」を結合させた造語で「美化」や「正当化」、「合理化」とかの意味を表している。しかし野口的には、サニタリーウォッシングでトイレやキッチンなどの清掃・清浄化としたほうがよりふさわしいと思う。サニタリーウォッシングをやっている連中は汚らしい言動を見せかけだけの「正常化」をする太鼓持ちにすぎない。

いまアメリカで広がっているトランプに迎合するこの現象をドレズナー氏は的確に描写・分析・批判している。
現在、この馬鹿げた非常識な考えを正当化している集団が3つある、と。つまり、
(1)トランプ氏の追従者と、その追従者を支援するメディア
(2)「私はトランプ氏に投票しなかったが…」といいつつトランプ氏の言動を合理化する評論家や同僚たち
(3)トランプの言葉を武器にして自分たちの政策を推進する政策提唱者たち
このような太鼓持ちや御用学者や御用評論家、悪徳弁護士、ゴマスリ、寄生虫、たかり屋などの同類は、いまの日本にもゴチャマンといる。

 

百歩譲って

トランプ大統領の言い草は、ロシアを味方につけて主敵である中国包囲網を強化するためだ、ついでにウクライナの資源を頂戴する、常人には理解しがたい高度な戦略なのだと主張するかもしれない。そのようにトランプを裏読みして合理化することもできるかもしれない。「世界の声」「平和構築におけるパートナー:米国と欧州はいかにしてウクライナ戦争を終わらせるか」(リアナ・フィックス)参照。

だが、そのような裏をかく言動や行動は、敵を騙さなければできず、そのためには自国民をも騙さなければならない。それこそが陰謀だ。しかし世界は騙されない。陰謀は必ず暴露され崩壊していく。

ここで危惧すべきは、トランプ政権の洪水作戦が馬脚を現すまでに、第2次世界大戦以降世界が築いてきた善きものが壊されていくことだ。国連をはじめ諸国諸機関、民間で進められてきた国際協力、人道支援などの推進組織やそれらの運動を支える通念が破壊される。そうでなくても、国連は、ロシアや中国だけでなくむしろ英米仏ら常任理事国のわがまま勝手で理不尽な行動により、世界市民からの信頼感と国際的存在価値が低まってきている。

社会的存在である人間が現時点で帰属せざるを得ない国家は2面性をもっている。人間が生存していくために必須の社会的サービスを提供する機能と、支配階級や階層に所属する勢力によって国家の持つ機能が独占されゆがめられている現実である。

瓦礫の山にされたガザを自国が領有する。パレスチナ人を追い出し、更地にしてリゾート地にする。地上げ屋もやらなかったような悪辣で野卑な根性丸出しのあさましい姿を世界にさらして平然としている。そんな人間を大統領に選出したアメリカという国の民度はいまや地に落ちている。

しかし、アメリカには良識ある人々が国民の半数はいる。アメリカの動向もその他の国々の動向も、1回限りの選挙ですべてが決まるわけではない。むしろ、国を構成する諸機関やさまざまな中間組織、「くに(国、邦、州)」を支えている人々の日常の活動こそが最後には現実を動かしていく。

悪辣ではあっても奸智にたけたとは言い難いキャラクターとの闘い。諦めたり、飽きたりせず、粘り強く持続させていきたい。

野口壽一