The Political Landscape of Pakistan: A Journey of Turmoil and Transition and prelude to Global Unrest?

 

(WAJ: パキスタンの総選挙は、イムラン・カーン元首相が率いるパキスタン正義運動系が予想を裏切って第一党の地位を占めた。リーダーであるカーン氏が収監されあらゆる選挙活動妨害をはねのけての結果である。軍の支持をうけた与党系は連立を模索して政権の維持を画策している。今回の選挙結果をうけて反与党の武力闘争の増加が懸念される。パキスタンの危機は深まっているが、他の地域のそれと性格がことなる。パキスタンは核保有国だからだ。なおサミ氏がこの間、本サイトに執筆した論説のすべては「ファテー・サミ執筆記事一覧」で読むことができる。通読すれば氏の鋭く的確な慧眼ぶりに驚かれることだろう。)

 

By Fateh Sami  2/12/2024
ファテー・サミ(本サイト・アフガン主筆)

パキスタンで行われた今回の選挙は、国内の根深い政治的混乱を反映して、論争を引き起こし政情は混迷している。談合疑惑と軍の影響力に対する不満が蔓延し、この国は内戦の瀬戸際に立たされている。 しかも、パキスタンの政情不安の影響は国境を越えて広がり、世界中に不安定をもたらす可能性がある。 以下、パキスタンの政治情勢の複雑さを概説し、域内および世界の安定に対する広範な影響を検討する。

<参考記事> 選挙の結果(最新情報)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240214/k10014358351000.html

 

まずこれまでの歴史。パキスタンの政治情勢は建国以来、権力力学の複雑な相互作用によって左右され、しばしば軍が国の統治に対して重大な影響力を及ぼしてきた。 数々の政治的事件、権力闘争、外部の影響が複雑に絡み合った結果がパキスタンにおけるこれまでの選挙の歴史であり、未来に向けて混乱の種を蒔いてきた。

パキスタンでは最初から力強い軍事体制が敷かれた。それに抗おうとした幾人かの首相はいずれもひどい目に遭った。そのことは、ズルフィカール・アリー・ブットーの処刑、ベナズィール・ブットーの暗殺など、枚挙にいとまがない。イムラン・カーンのごとき人気者のリーダーでさえ、軍の機嫌を損ねると、汚職の廉で投獄された。

関連記事
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31327?layout=b

 

続いてカーンのリーダーシップ。軍の影響力を減らすと公約したイムラン・カーンがたとえ選挙で勝利しても、現実は依然として厳しい。 軍が彼の党に真っ向から反対し数多くの制限を課していることは、パキスタンの政治舞台における権力力学の果てしなき存在を浮き彫りにしている。首相時代には、プーチン大統領との会談を含むロシアへの予期せぬ接近をして、歴史的にパキスタン軍に大きな影響力を行使してきた西側諸国、特に米国と英国に眉をひそめさせたこともある。

<参考記事> カーンに課せられたハンデキャップ
https://www.asahi.com/articles/ASS296D7ZS29UHBI025.html

カーン首相のロシア訪問
https://www.aljazeera.com/opinions/2022/3/3/why-was-pakistans-pm-in-russia-amid-ukraine-invasion

 

さらに、カーンはパキスタンのテロ組織に同情的とみなされており、彼のテロに対する姿勢はこれまでも物議を醸してきた。そのため隣国アフガニスタンの反ターリバーン勢力は、緊張をより深めていた。

そうした状況下での今回の選挙だったが、結果はどうだったか。国の民主化プロセスは始まったのか。まず、不正選挙や政治的自由の蹂躙に関する報道がその先行きの暗さを伝えた。 いまも引っ切りなしに、国政選挙で多くの不正がなされたと報告されている。そんな中アルジャジーラによると、パキスタン選挙管理委員会が発表した結果は以下の通りだ。イムラン・カーン率いるパキスタン正義運動党(PTI)と提携する無所属候補者が国会議席266議席中97議席を獲得。対するナワズ・シャリフ元首相率いるパキスタン・ムスリム同盟・ナワズ(PML-N)は75議席を獲得。さらにパキスタン人民党(PPP)が54議席を確保した。単純過半数の134議席が必要であるため、誰が政権を樹立するのか、または連立政権が誕生するのかは依然として不透明である。PTIやその他の政党が投票の不正操作が広範に行われていると抗議したため、警察は弾圧を匂わせている。 同じく木曜日に選挙が行われた4つの州議会の結果も、まだ待たれている。

今後の見通し。パキスタン国民、特にイムラン・カーン元首相の支持層である教育を受けた若者たちと軍の間で緊張と衝突がおそらく起こるだろう。彼らは、パキスタンの後進性の主な原因は、国の政治構造における軍の行き過ぎた支配と影響力であると信じている。パキスタンが直面する経済の後進性や貧困蔓延などの問題は、インド亜大陸からの分離以来つづく、軍の統制、ISI(軍統合情報局)の関与、汚職、独裁に起因すると考えられている。インドがさまざまな分野で大きく進歩する一方で、パキスタンは依然として汚職と経済崩壊の泥沼にはまり、国民のニーズに適切に対応できていない。パキスタンの若者の間でこうした不満が高まり、軍による長年にわたる政治支配を終わらせよとの声が高まっている。

これは前例のない混乱状況だ。国民が建国以来の伝統的な軍支配という権力構造からの脱却を求め、政治や統治への軍の介入を減らすよう叫んでいる。この変化への欲求は、域内にテログループを輸出するための基地というパキスタンの役割とも相まって、近隣諸国との間に緊張が高まっている。

加えて隣はアフガニスタンだ。ターリバーン内部の分裂と近隣諸国の影響がここに来て顕著となり、パキスタンのアフガニスタン支配はより複雑化している。ターリバーンの構成員は、かつてインドが英国に植民地支配されていた時に設立されたデオバンド派マドラサで教育を受けた人々だ。そんな中世風の原理主義の原点たるパキスタンが、域内での影響力を維持しようとすれば、様々な問題に直面することになる。

前述した国内の緊張のさなか、西側諸国とアジアの大国に挟まれたパキスタンは、地政学的な対立の集中砲火を食らっている。インド、中国、ロシア、イランなどの国々は、域内における影響力をますます増やし、米国と英国の伝統的な支配を困難にしている。こうした地政学的な綱引きはパキスタンの内紛を悪化させ、今後の安定した道筋を描く取り組みを複雑にしている。

では将来はどうなるのか。若い世代の間で軍の人気が低下し、変化への願望が見て取れ、パキスタンの今後は不確実と見える。政治における軍の役割を削減し、汚職や貧困などの組織的問題に取り組むよう求める声は、パキスタンの若者の間で強く反響を呼んでいる。しかし、有意義な改革を達成するには、危険な政治の海へと乗り出し、固定化した権力構造を克服する必要がある。

結論として、パキスタンは根深い政治的課題と外部からの強い圧力に直面しており、重大な岐路に立っている。この奮闘の結果はパキスタンの将来を決定するだけでなく、域内の安定にも広範な影響を与えることになる。パキスタンが激動の過去から抜け出し、民主主義と繁栄の先駆者として台頭できるかどうかはまだ分からない。しかし、ひとつだけ確かなことは、これからの道のりは険しく、予測不能ということだ。

以上のように、パキスタンは内紛と民主主義規範の崩壊に直面しており、世界は懸念を強めながら見守っている。地政学的な対立が国内の反対意見の収束を困難にし、域内の将来にとって厳しい状況だと言えよう。さらに、イスラエル、ウクライナ、パキスタンなどの国々の不安定な状況は、知恵と自制心で管理しなければ、広範で制御不能な世界的紛争を引き起こす可能性がある。潜在的だが大きな火種なのだ。国際的な利害関係者は、これらのくすぶっている緊張が世界全体に壊滅的な結果をもたらす前に、この緊張状態に直ちに対処する必要性を認識せねばならない。

選挙結果については下記参照:
https://www.aljazeera.com/news/liveblog/2024/2/12/pakistan-post-election-crisis-live-parleys-and-protests-after-tense-vote