India Watches Closely as ‘Friend’ Sheikh Hasina Battles Unrest.
インドは「友人」シェイク・ハシナが暴動と闘うのを注意深く見守る
The Bangladeshi PM has been sensitive to Indian security concerns. Little wonder then that Delhi has chosen to stand by her.
バングラデシュ首相はインドの安全保障上の懸念に敏感だ。デリーが彼女への支持を選んだのも不思議ではない
(WAJ: アフガニスタン、パキスタン、インドは太古から近代まで密接な関係を持っている。現代でも、インドからのイスラム分離国家であるパキスタン、バングラデシュは政治・経済・宗教が絡み、インド・アフガニスタンと深部で影響し合っている。さらにインドとバングラデシュはミャンマーと国境を接している。この論考が最後に、インドの「インド太平洋戦略」にふれているように自公政権の安保戦略とも緊密な関係にある。イランから南アジアにおよぶ地域から目を離せない理由のひとつがここにある。(<追記>なお、この記事を公表したあと、デモの激化を抑えきれなかったハシナ首相は8月5日に国外へ逃れた。インドを経てイギリスに亡命するのではないかとの観測情報が流れている。))
エリザベス・ロシュ(The Diplomat:ザ・ディプロマット(米国バージニア州を拠点とするウエッブマガジン))
2024年7月23日
2021年3月27日、バングラデシュのダッカで、インドのナレンドラ・モディ首相がバングラデシュ国民への象徴的な贈り物として、バングラデシュのシェイク・ハシナ首相に救急車109台の鍵を手渡す。
Credit: X/Randhir Jaiswal クレジット: X/Randhir Jaiswal
インドは隣国バングラデシュの状況を注視している。バングラディシュでは公務員採用における割り当て制の撤廃を求め100人以上が死亡する暴動が発生している。
かつてこの国には公務員の30%を1971年の独立戦争時の自由の戦士の子孫に割り当てるという制度があった。やがて全公務員の半数以上がその恩恵で採用された者という事態となり、2018年にシェイク・ハシナ首相(訳注:独立の父で初代大統領ムジブル・ラーマンの長女で、1996年から2001年および2009年から現在まで通算20年に渡り首相の座にいる)はそれを廃止した。ところが今年6月に高裁が割り当て制の廃止を違憲と判断したことで、騒乱が勢いを増した。学生たちは、割り当て制が復活すればパキスタンに対する独立運動を主導した与党アワミ連盟党の同盟者に有利になると考え、これに反対したのだ。
事態を重く見たバングラデシュ最高裁判所は7月21日、公務員における自由の戦士の子孫の割合を30%から5%に削減した(訳注:93%が能力枠、2%が少数民族と障害者枠)。これにより危機はいくらか緩和されたものの、夜間外出禁止令は引き続き施行されており、騒乱の根底にある問題は依然として残っている。
インド政府は、ほぼ15年間、東の隣国バングラデシュとの関係構築に多大な投資を行ってきたが、抗議活動については公には慎重な姿勢を保ってきた。インド外務省は、この騒乱を「バングラデシュの内政問題」と表現しながらも、インドにとってのこの事件の重要性に注目した。外務省の報道官ランディール・ジャイスワル氏は、S・ジャイシャンカール外相が「自ら状況を監視している」と述べた。
では、なぜインドはバングラデシュの情勢を懸念しているのだろうか?
まず、インドは常に平和な周辺地域を望んでおり、それによって自国の経済発展に自由に注力できる。インドはバングラデシュと4096キロの国境を接しており、インド政府はバングラデシュでのいかなる騒乱もインドのアッサム、西ベンガル、ミゾラム、メガーラヤ、トリプラの各州に波及する恐れがあると懸念している。これらの州の多くは過去に暴力的な反乱を経験しており、すでに影響を受けていると考えられている。
パキスタンとの国境と中国との国境が緊張状態にある中、インドはバングラデシュとの国境の平和を確保したいと考えている。インド政府はすでにミャンマー内政の騒乱を警戒しており、バングラデシュの南(訳注:東南部)に位置する軍事政権下にあるミャンマーとの国境にフェンスを設置すると発表した(訳注:インドはバングラデシュを挟む最東部でミャンマーと国境を接している)。
最初は学生主導の運動として始まった抗議活動にイスラム教徒や反インド主義者、その他の勢力が加わっているとの報道を受け、インド政府はハシナ政権および国民との関係改善に向けて過去15年間行ってきた投資が水の泡になるのではないかと懸念している。
インドは国民の支持と親善を築くためにバングラデシュに多額の投資を行ってきた。2015年、インドは数十年にわたるバングラデシュとの陸上国境協定を批准し、両国関係を高成長軌道に乗せた。両国は海上国境紛争も解決した。
この2つの国境問題は両国関係の拡大を阻むものだった。インド政府が陸上国境協定を批准し、海洋国境に関する国連裁判所の判決(訳注:2014年6月)を受け入れたことで、両国関係が飛躍的に発展する準備が整った。
<参考記事>
https://www.aljazeera.com/news/2014/7/9/bangladesh-wins-sea-border-dispute-with-india
バングラデシュ国民とハシナ政権との関係強化を目指し、インド政府はこれまでダッカに約80億ドルの信用枠(LoC)を設けてきた。これはインフラ整備やディーゼル燃料供給パイプライン建設など開発プロジェクトに使用され、二国間の連携と経済協力を深めるとともに、バングラデシュ国民の生活向上を目指すものだ。
バングラデシュは現在、インドの海外における LoC 支援の最大の受益国だ。実際、両国は現在の二国間関係を「ソナリ・アディヤイ」、つまり関係の「黄金時代」と呼んでいる。
インドが遠く離れ、経済的に未発達な北東部地域(訳注:ここでインドはミャンマーと国境を接している)を開発する計画を実現するには、友好的なバングラデシュが重要だ。インドは、この地域とバングラデシュ、ネパール、ブータンなどの国々との経済統合を推進してきた。計画には、バングラデシュ、ブータン、インド、ネパールを含む当該地域内での鉄道、道路、エネルギーの連携強化も含まれている。
(参考地図:ジェトロ作成)
インド北東部の経済的繁栄が進めば、インド政府は同地域での反乱の再燃を防ぐことができるだろう。
ハシナ首相は、この点に関してインドの懸念に特に敏感だ。2008年に首相に選出された後、インドに対して彼女が最初にとった行動のひとつは、非合法組織であるアソム(訳注:かつてはアッサムと呼ばれていたが2006年に名称を変更した)統一解放戦線(ULFA/訳注:アソム州の分離独立を目指す過激組織)の逮捕された幹部指導者の一部をインド政府に引き渡すことだった。今年初めにULFAが解散を決定したのは、バングラデシュが彼らの国内潜伏を拒否した結果とみられている。
ULFA は 1970 年代後半から活動しており、インドからの分離とアッサム人(訳注:アソム州に住む人々)による独立国家の樹立を求めている。同グループはバングラデシュに避難し、そこを拠点としてインドへの攻撃を開始した。ハシナ首相が条件や見返りなしに独断でULFAを追い出したことに、インドは注目した。インド当局は、これはインドの安全保障上の懸念に対する、これまでの軍事政権(訳注:1970年代末から1990年代初頭までは長く軍事政権下にあった)やバングラデシュ民族主義党(訳注:アワミ連盟党のライバルで、一般的に反インドの傾向を持つ)政権(訳注:党首のカレダ・ジアが2006年秋に首相の座を追われて以来、政権を取っていない)には見られなかった敏感さを示していると評価している。
最近の騒乱はインドとバングラデシュ間の貿易に影響を及ぼしており、すでに低迷しているバングラデシュ経済にさらに大きな打撃を与えると予想される。
したがって、ハシナ政権の弱体化、そして野党のBNP(訳注:バングラデシュ民族主義党の略称)とイスラム主義政党(訳注:バングラデシュイスラム会議など国内に13の政党を数える)の強化は、インドにとって悪いニュースである。BNPとイスラム主義政党はパキスタンおよび中国に近いと見られており、したがってインドの利益に反する。中国およびパキスタンとの緊張関係を考えると、インド政府はバングラデシュで彼らの影響力が増大するのを容認するわけにはいかない。
インドはまた、バングラデシュをインド太平洋戦略の重要な一部であり、アクト・イースト政策(訳注:2014年に発足したインドのモディ政権が推進する外交政策で、東アジアとの関係を強化し、経済連携を図る)における重要な提携先であると考えている。
そしてハシナ首相は、これらの問題に関するインドの考えを受け入れ、歓迎してきた。ハシナ首相が困難に直面するたびにインドが彼女を支持することを選んだのも不思議ではない。