WAJ: 本サイトの翻訳アンカーをつとめる金子明が翻訳作業中に讃嘆の声をもらしました。編集部としてはそれを聞き逃さず、この特別賛歌を企画しました。ご賞味あれ。

 

<サミ氏記事なめ尽くしガイド>

『ウェッブ・アフガン』現地情報主筆ファテー・サミ(Fateh Sami)氏の記事を日頃ご愛読いただきありがとうございます。彼の最新記事「中東情勢の緊迫化: ガザ地区での大量殺戮に対する世界の広範な反応と大国抗争の温床」URLの最後に「57」の数字があるのを、鋭い読者の皆様はお気づきのことと思います。そうです。このサイトの立ち上げ以来、サミ氏は57本も書いてきたのです。「思えば遠くに来たもんだ♪」ではありませんか。

本人が「これまでの記事をまとめ、別の形で発表したい」と語るのもむべなるかな、アフガン ⇄ 日本相互理解への大きな貢献です。論評子もつねづね彼の意見には目を見張り、同じジャーナリストの端くれとして「かかる情報をどこから入手し、自分流にかみ砕いているのかしらん」と気にかけておりました。

情報源は、ふつう「企業秘密です」とか「そこんとこは、な・い・しょ」などとはぐらかすもの。ところが、ご存じの通りサミ57号の末尾には驚くなかれ27本もの参考動画が紹介されています。国内のマスコミはおろか好事家サイトもほとんど伝えていない隠れた情報鉱脈です。ふむふむ、こったら所がサミ記者の巡回先なのね。手の内をさらしてくれてありがとう。

それは、彼が今回のパレスチナ戦争に大いなる危機を感じ取ったからなのでしょう。アフガン崩壊に何度も打ちのめされたファテー・サミ記者だからこそ、いま声高に叫びたい衝動に駆られたのだと思います。欧米からの偏った意見ばかり傾聴せず、「君たち、世界にはこんな考えもあるんだよ、ぜひ知っておけよ」と。

書物を読むとき、参考図書など参考しませんか? どうせ剽窃元の羅列による免罪符にすぎないと軽んじますか? 今回ばかりは、それではもったいない。一気に27本! 並んだだけで食傷気味になるとの批判はごもっとも。でも、サミ記者の心をこめたフルスイングをぜひ受け止めてください。いずれもレアな動画(眼鏡をかけて読む必要なし)なので、おすすめは1日1本ののんびり視聴。夜長の秋のひと月後に、あなたの常識が幾ばくか揺り動かされているかも知れませんぞ。

それでは僭越ながら、わが独断と独善で、27本のミニガイドを書き散らかさせていただきます:

(以下、番号から一気にリンクしてください)
(5) なんじゃこのゴーグルマンは!だが、意見はしごく真っ当なムスリム礼賛。そうとうバイアスがかかってはいますが。トップバッターを彼にするとは、サミ氏はかなりの「いけず」です。

(6) その昔、わが国には「転びバテレン」などと言う言葉がありましたが、この方どうやらイスラエルの味方だったひと。だが「もう許さん、やり過ぎだ」と冷静に発信します。何を今更、と言わず、こういう良心の持ち主には拍手を送りたいものです。

(7)  プーチンが登場します。柔道好きな親日家と愛されていたのも束の間。ウクライナ戦争で味噌をつけ、独裁者、殺し屋、狂人とまで揶揄されるロシアのリーダーですね(上げて落とすは世界共通のマスコミホビー)。でもこのリーダー、中東問題は相変わらずシコシコやっています。実にシコシコ。やはりこの国のでかさはメルカトルのお陰だけではないようです。

(8) なんだこのじいさんは? 名前はルイス・ファラカンさん。調べるとアメリカ人、元歌手、「イスラームの国」創設者で現在90歳ですと。彼の2006年、スーダン内戦激化時のアジテーションです。アラブとアフリカの関係について吠えています。

(9) 元軍人らしきおじさんが自宅らしき場所から発信していますが、中身は驚愕の内容です。例のコンサートの死者は「その多くがハマースよりもイスラエル軍の誤射によった」ですと。にわかには信じがたい話ですが、そのあとの「イスラエルはハマースの挑発に乗ってしまった、やがてパラダイムシフトが起きる」という主張には不思議な説得力があります。

(10) カイロ平和サミットにおけるヨルダン国王の発言です。例の「二国家解決」を強くアピールしてくれました。彼の演説中、採択した国連、反対した米国、棄権した英国の各代表はインサートされました。わが国の代表はいたのかしらん? 調べてみてください。

(11) この男は何者だ? 間延びしたコリン・ファレルのようなイケメンだがその舌鋒は鋭い。ケン・オキーフさん、もと米海兵隊ですと。BBCスタジオにおける彼の言いたい放題は圧巻です。その一端:「イスラエル政府は国民を真実からまったく遠ざけるプロパガンダの反映にすぎない。」またこれが上げられたSNSに送られた各種コメントもいちいち面白く必読です。

(12) ヒズボラ指導者のナスララ師が11月3日に行ったパレスチナ戦争についての演説です。ペルシャ語にアラビア語の通訳付きみたい。何を言っているのかわからん1時間超の演説。でも大音量で聞いているとなんだかここちいい(特にうるさいのは通訳だが)。中身は思いっきり要約して読売新聞が伝えています。

(13) コーネル・ウェスト博士が「バイデン大統領の演説には失望した」と嘆いています。平等を旨とする心を打つお言葉ですが、動画の最後に「コーネル・ウェスト2024」のロゴが出て納得。大統領選に出る(泡沫?)候補の声なのですね。でも、論評子に米市民権があったら、この人に一票。

(14) サミ記者は参考動画集の真ん中にこんな映像(と詩)を入れて来ました。私たちが伝え、伝えられる戦争とは何か? 映画「ナウシカ」でクロトワが語る「かわいそうなどと言っていればきりが無い」はわかります。戦争を止められない私たちに「同情する資格などない」のです。だがしかし・・・

(15) #14を受けて、難民キャンプの話です。聞き手は黒帽子のジョージ・ギャロウェイ(全ての母親トークショー)、答えるのはガザのキャンプで育ったアブデル・アトワンさん。ジャバリア・キャンプがイスラエルに攻撃されたことを受けての訴えです。「ジャバリアばかりでなくガザの至る所で虐殺が起きています。私も数十人の親類を亡くしました。『ムスリムのあなたたちに教えましょう』と言っていた西洋自慢の人権は今どこですか? ジョージさん、あなたたち、どうかしたのですか?」さらに彼はイスラエルの言う「自衛のため」はナチスも使った言い訳だ、と指摘します。特に「ガザの地下にはガスがある」となっては、何ともお里が知れた感じです。

(16) #11のオキーフさんが米軍なら、このジョー・グレントンさんは元英兵。アフガニスタンで戦った経験をもち、ジャーナリストとなったいま戦争を資金の面から分析しています。いわく「戦争は経済だ。」戦争で儲かる少数の人々のためではなく、世間一般のために「停戦を」と訴えています。

(17) アラビア語の24時間テレビTRTのニュースです。イスラエル軍に抵抗するハマースの活躍を伝え(ようとし)ています。でもハマース自慢の新兵器「アル・アセフ」はご覧のような手作り感満載の水中ドローン。こんなんで核武装したイスラエルの相手になるのかな。ほら穴作戦も含め、むかしわが国の竹ヤリ本土防衛策を彷彿させます。

(18) 米国に住むユダヤ人の底力でしょうか。10月27日に敢行されたニューヨーク中央駅でのシットイン(座り込み)の様子です。「またユダヤ人がイスラエルを応援して騒いでいるのね」と見出し読みで誤解してはいけません。「われわれの名を使うな」のTシャツを着て、多くのユダヤ人らがガザ侵攻に抗議したのです。イスラエルのウソと非道に気づいたユダヤ人も多い。世界の声「ガザ・イスラエル戦争 ~一日も早い停戦を~」に詳しく述べられている通りです。

(19) またもプーチンさん。10月30日にとある会合で今回の戦争について話しました、「流血と暴力を止めるのがわが国の使命だ」と。どうやら中東の多くの元首たちと電話などで話し合っているようで、彼らの努力にもかかわらず「この地に混沌をもたらす勢力がある」と、暗に米国を批判しました。止めないと「中東の話だけではすまなくなる」とは何とも恐ろしい脅し文句です。

(20) 続いては国連総会にイランの外務大臣が登場しました。彼はあの国をイスラエルとは呼びません。「シオニスト政権」だそうです。「仕返しだからとて、戦争犯罪を犯してはならない」と冷静に訴えています。さらに非難の矛先は米国に向かい、いつかみたいに「戦争拡大を他国にまで勧めないで」と辛辣です。

(21) 再び帽子のジョージさん(#15参照)。ただし、この動画投稿の方が先です。パレスチナの惨状を伝え「議場に座っている場合じゃないでしょう」と政治家たちをたきつけています。最後に「わたし次のロンドン市長選に出るからね」と宣伝したのはただのジョークでしょうか。

(22) 「金持ち父さん、貧乏父さん」を知っていますか? 論評子が死んでも読まなさそうなタイトルのベストセラーですが、その著者のロバート・キヨサキさんが、インド系のホストのインタビューを受けています。その状況だけでも面白そうですが、中身はバイデン大統領について、アメリカの未来についての有り難いお話です。

(23) トゥルーニュースのお二人がネタニヤフのインタビューをねたに面白いことを言っています。「イスラエルはパレスチナ人に拳銃と投票権を持たせない。イスラエルはパレスチナ人をアラブ諸国に売り払う気まんまん(いまは価格調整の段階まで来た)。でも、もしBRICSがパレスチナを国家承認したらどうなるでしょう?」ほんとうにどうなるか気になります。

(24) アイルランドの議場で熱く語っているのはリチャード・ボイド下院議員。「イスラエル大使をわが国から追い出し、イスラエルを戦争犯罪で訴えろ。この非道を見て君たちはだんまりか。」その間、他の議員の沈黙をカメラは抜きまくります。そしてやがて「チン」と鐘。のど自慢かよ!と突っ込みたくなる議場風景でした。

(25) 南半球からは女性議員が訴えます。オーストラリアのメーリーン・ファルーキさん。「虐殺を前に手をこまねいている世界のリーダーたちよ、恥を知って首をくくれ」とは手厳しい。「やがてパレスチナは解放されるが、歴史は決して忘れない、戦争のチアリーダーたちのことを。」

(26) ロシアからはこの人、ラブロフ外相です。ゼレンスキーから逃げたと世界のマスコミに揶揄された彼も、ことパレスチナ戦争については正論を語ります。「すぐに火を消せ」と。そしてロシアが長年提案し続けている「二国家解決」をアピールします。「ブリンケンが賢ければわかることなんだけどね。でも彼の知能は我々のあずかり知らぬこと。この案件はわが国だけでは解決しない。米国も協力して欲しいが、そこが問題なのだ。」

(27) アフガン人ラザク・マムーンさんのフェイスブック投稿(10月28日)です。ベラルーシのルカシェンコ大統領が「中東発で第3次世界大戦が起きる」と警告したこと、さらに米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官が「これまで通りイスラエルに軍事支援する」と語ったことについて論評しています。サミ記者に確認したところ「述べられた中身はかなり偏向的」とのことですが、こうした発信者がいること自体は注目に値します。

(28) 言語学の権威ノウム・チョムスキー博士がイスラエル問題を語っています。「ユダヤ人のシオニズムよりもクリスチャンのシオニズムの方が古く、はるかに強力だ」との解説に始まって「おっ!」と思わせますが、パンチラインがもっとすごい。おそらく、今回の戦争を踏まえて「知識人よ立ち上がれ」的会合での一幕でしょうが、締めにいわく「知識人たちは羊の群れみたいに付和雷同で国家を助けるばかり、『俺たちの力を見せろ』など戯言。主流派に罰せられておしまいです。」なんともシニカルなご老人です。

(29) アメリカ人のオーウェン・シュロイヤーさんが自ら司会するウェブ上の極右ニュースショー「戦争部屋」で語っています。「西側は腐りきっており、このままではプーチンが歴史の寵児となる。」過去の米国の世界戦略は「代理戦争で政権をすげ替え続けて狂っている」とけちょんけちょん。対するプーチンは「まさに天安門の戦車男だ」と礼賛します。動画投稿から半年後の今年9月、彼は例の「1月6日議事堂乱入」を煽った廉で2か月の投獄を宣告されました。何やらフランス革命のマルキ・ド・サドを彷彿させる怪人物です。フォロワーたちはこの投稿が「すぐに消されるぞ」と騒いでいるので視聴はお早めに。

(30) レバノン女性サラ・エル・ヤフィさんの訴えです。病院を爆破したのは誰か?彼女の論は証拠に基づき、信憑性に富み、「まさにその通り」とうならせます。いやはや、世界にはこんな慧眼の主がいるのですね。さすがにゴーンが逃げた国レバノンはあなどれません。

(31) アルジャジーラのハリド・マジュゾウブさんが病院爆破に関するイスラエルの苦しい言い逃れを糾弾しています。これはひどい。一連の逃げ口上を見るにつけ、#30の真実味が強調されます。皆さんもフェイクニュースには騙されないようにしましょう。

いかがでしたか。論評子はこれを書きながら、たくさんの論客たちのフォロワーになってしまいました。さて最後に考察。サミ記者はなぜここまで詳しく情報源を開陳したのでしょうか? 思うにこうでしょう:「中東の出来事にはこれだけの反応が上がる。翻って我らがアフガニスタンの悲劇はどうだ!

仏像が壊されたときだけ騒ぐわが国への貴重な情報提供と理解し今後も精進いたします。

金子 明

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