For the fist time, Israel just lost a war

 

(WAJ: 訳出したこの見解が掲載されたのはイスラエルを拠点とする英語で発行されるオンラインニュースメディア The Times of Israel。同メディアは独立系メディアとしてイスラエルやユダヤ系社会に関する多様な視点を提供している。本稿は、同メディアが運営するブログ提供サービスを使って発表されたまったくの個人的見解である。筆者は、後段の自己紹介にある通り、もともとはアメリカで30年以上弁護士をつづけてきたユダヤ人でイスラエルに帰還(アリヤー)した人である。その人が今回のネタニヤフ政権のハマースに対する戦争を「敗北」だと厳しく批判している。イスラエルを支持するイスラエル国内にいるイスラエル人の貴重な証言のひとつである。)

2025年1月15日
ダビッド・K・リーズ(David K. Rees)

イスラエルは16年間(訳注:2008年~2009年にかけてガザのハマースとイスラエル軍との戦争(いわゆるガザ紛争)以来ということ)、自国を守るために次から次へと戦争を強いられてきた。 それまでの戦績は、1948年(訳注:建国時、パレスチナの立場からはナクバ(大災厄)と呼ばれる)、1967年、1973年と連勝だった。2006年にはヒズボラと戦い引き分けた。それが一変した。ハマースと締結したばかりの今回の和平協定は明らかにハマースにとっての勝利であり、イスラエルにとっての敗北だった。ガザの人々が歓声を上げるのも不思議ではない。

 

まさに戦勝したかのように狂喜するガザの住民(イギリスの新聞:ザ・ガーディアン提供)

 

この戦争でハマースが勝ち取ったもの

  1. 世界世論を反イスラエルに変えた。
  2. ハマース政府はその多くが終身刑を宣告されている数百人のパレスチナ人捕虜の釈放について交渉できた。加えて一部のハマース指導者は殺害されたが、新しい指導者が後に備える。
  3. 報道によれば、戦闘員の多くが死亡したにもかかわらずハマースは戦闘部隊の再建を進めており、ガザには現在1万2000人の兵士がいる。
  4. ハマースは、イスラエルが小さな成果のために巨額な浪費をすることを証明した。
  5. ハマースは、2023年10月7日の虐殺が素晴らしい結果をもたらしたと誇れるようになる。実際、イスラエルは今、2023年10月6日よりも弱くなっている。
  6. 人質を奪還するには巨額の金がかかることを証明。
  7. ガザの大部分が破壊されたが、ガザを再建するために世界は巨額の資金を提供しようとしている。これらの金額のかなりの部分が間接的にハマースの金庫に収まると予想される。
  8. ハマースは引き続きガザを支配し、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業)もこれまでどおり存続する。
  9. この戦争よってイスラエルと米国の間に深刻な亀裂が生じた。
  10. 当初、ハマースに課せられたのは人質3人の解放のみ。その後すぐさらに4人の人質を解放する必要が生じる。合意の第1段階(訳注:停戦後の最初の6週間)では、合計33人の人質が解放されるにとどまる。イスラエルはその後、ハマースの指揮下にあるパレスチナ人捕虜をさらに人質と交換する可能性がある。したがって、合意の第1段階が終了した時点で、ハマースはおよそ30人の人質を引き続き拘束することができ、そのうちの何人かはすでに死亡している可能性がある。(訳注:2023年10月7日のハマースによる攻撃で殺害されたのは約1200人。ガザに連れ去られた人質は約250人で、停戦時になお約100人が人質となっている。従って、第1段階終了時に残る人質数は70人前後か。)つまりイスラエルは、戦争開始時に述べた目標を達成できなかった。目標にはガザ地区からハマースを完全排除することも含まれていたのだが。
  11. ハマースは10月7日の虐殺で戦争犯罪を犯したが、そればかりかイスラエルに数千発のミサイルを発射した。どれも戦争犯罪で償いを要する。
  12. この戦争でイスラエルが被った犠牲は莫大。 10月7日の虐殺以来、ハマースはガザ地区で400人以上のイスラエル兵を殺害しただけでなく、イスラエルの国家債務は大幅に増加し、経済も打撃を受けた。イスラエルの経済活動は戦争によって20%以上減少したと推定されている。13.イスラエルはガザ地区のハマース部隊に対してある程度の休息を得るだろうが、イラン抵抗枢軸の他の部分つまりフーシ派、ヨルダン川西岸のハマース、それにイランそのものに対処しなければならない。
  13. イスラエルはガザ地区のハマース部隊に対してはある程度の休息を得るだろうが、イラン抵抗枢軸の他の部分つまりフーシ派、ヨルダン川西岸のハマース、それにイランそのものに対処しなければならない。
  14. イスラエルは今後ガザから軍隊を撤退し始める。そのため現状では殺害が停止する。

2023年10月6日にイスラエルが持っていなかったもので今回手に入れたもの。

1.何もなし。

 

この取引には3つのフェーズがあり、その第1段階の条件が合意されただけだ。フェーズ2と3では追加の交渉が必要だ。ハマースはイスラエルにこれ以上何も与えないようにするため、これらの段階で合理的な条件の交渉を拒否する可能性がある。いつになっても人質全員が解放されることがない。ハマースはまだ約40%が無傷のトンネル網を再建することができるだろう。

ハマースとイスラエルが戦争を起こし、合意に達したのはこれが初めてではない。これまでハマースは約束を破っては、また新たに戦争をけしかけてきた。直近では2021年に起こった。それ以来、カタールは平和と引き換えに数百万ドルをハマースに援助できるようになった。実際、ハマースはその後2年間、複雑なトンネル網を構築し数千発のミサイルを配備して10月7日の虐殺の準備をした。ハマースが決して約束を破らずガザからイスラエルを再攻撃することなどないと信じる理由はない。

これらすべてに対する皮肉がある。ネタニヤフ首相はスモトリヒ氏とベン・グヴィル氏率いる人種差別的で超宗教的な極右政党(訳注:それぞれ「宗教シオニズム」と「ユダヤの力」)に魂を売った。狙いはイスラエル首相に再選されるための連立政権の樹立。その目標のため彼は両氏を重要な大臣職(訳注:それぞれ財務相と国家安全保障相で、後者は今回の停戦に反対し辞任)につけ、ヨルダン川西岸に対する大きな権限を与えた。ただし外務相と国防相は「リクード」(訳注:団結を意味する保守政党、ネタニヤフが党首)から選出したが。彼は将来いかなる戦争が起きても自分が首相で対処することが極めて重要であると信じて連立したのだが、予想通り、今の任期中に戦争が起きた。しかし彼がイスラエルを守る男だと言うのはかけ声倒れに終わり、戦争に負けた最初のイスラエル首相として名を残すという残念な雲行きだ。

 

 筆者自己紹介 

イスラエルに帰国する前、私は米国で30年以上弁護士として過ごした。業務は、州裁判所や連邦裁判所で、女性の権利訴訟を含む多くの公民権訴訟を扱うことだった。ACLU(American Civil Liberties Union、米国自由人権協会)で数多くの憲法訴訟を担当し、合衆国最高裁判所では1件の公民権訴訟で弁論を行った。コロラド州最高裁判所の刑事訴訟規則委員会の委員長を務め、コロラド州最高裁判所の民事規則委員会および証拠規則委員会の委員を務めた。業務の多くが公共の利益に関わるものであったため、環境法に興味を持ち、環境防衛基金(Environmental Defense Fund)などの環境保護団体と緊密に協力した。EDFのロッキー山脈理事会のメンバーも務めた。EDFから紹介された巨大な環境訴訟で勝訴した結果、ネブラスカ・シエラ・クラブから表彰を受けた。また、有害廃棄物や放射性廃棄物の処理に関する知識も深めた。廃棄物処理に関する数多くの訴訟に関与し、その中には核廃棄物処理に関する連邦最高裁判所での極めて政治的な訴訟も含まれていた。子供の頃、ナチス・ドイツから逃れてきたドイツ系ユダヤ人の難民である母から、イスラエルは彼女とその子供のための場所だと聞かされていた。それから何年も経ってから初めてイスラエルを訪れたとき、私は母の言っていた意味を理解した。イスラエルに自分の居場所があると感じた私は、アリヤー(訳注:Aliyah、イスラエル人がイスラエルに帰ること)を信奉し、イスラエルを我が家とした。今は引退しているが、社会活動や自分のいる世界への関心は持ち続けている。

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