Pakistan’s missing market

 

(WAJ: アフガニスタン・ターリバーンやバルーチ族の武力攻撃を受けているパキスタンは経済不振や洪水などの自然災害に悩まされている。そのような中にあって、パキスタンの経済危機の解決の1手段はインドとの交易拡大である、と筆者は強調する。インドとの交流により成長をつづけているバングラデシュを見よ、と。パキスタンの経済危機の現状に対する分析としては、
・第一生命経済研究所:西濵 徹氏の論説、
https://www.dlri.co.jp/report/macro/268787.html
https://www.dlri.co.jp/report/macro/201120.html
https://www.jsri.or.jp/publish/review/pdf/6308/02.pdf
や、「2023年10月外務省:最近のパキスタン情勢と日パキスタン関係」:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000366837.pdf)
などがある。)

 

Source: foreignpolicy.com
出典:フォーリンポリシー・ドット・コム
Harold Vazquez October 5, 2023
ハロルド・バスケス 2023年10月5日

 

一難去ってまた一難のパキスタンは地政学的・経済的戦略を根本から見直す必要がある。そうしなければ、どのような国際通貨基金(IMF)のプログラム(直近では7月12日に承認された約30億ドルの「スタンドバイ・アレンジメント」)も、次の大変動が起こるまでのわずかな期間しかもたない。

パキスタンは、持続可能で包括的な経済成長を何よりも優先し、特に放漫と緊縮のサイクルを生み出してきたエリート中心の政策を見直さねばならない。2010年から2022年にかけての年平均経済成長率は約4%と低調で、同時にGDPに占めるパキスタンの負債総額の割合は55%から76%に上昇した。対照的に、バングラデシュの同期間の経済成長率は年平均6.2%で、債務残高の対GDP比は30%から39%への上昇に留まっている。

債務の増加に対処することに加え、より迅速で包括的な成長は、貧困層や社会的弱者が中産階級に加わるための最良の道である。

パキスタンが再び成長を高めるためにできる最大の一歩は、現在ほとんど無視できるほど少ないインドとの貿易を受け入れることだろう。私が携わった世界銀行の調査によれば、パキスタンがインドと正常な貿易関係を結んでいれば、輸出は80%増加し、GDPや雇用にも同様の影響を与えることができたという。これらの予測から外挿すると、2022年に315億ドルに過ぎなかったパキスタンの商品輸出は、インドとの貿易が実現すれば、さらに250億ドル程度を上乗せできる可能性がある。世界銀行の別の調査によると、パキスタンの未実現貿易ポテンシャルの85%はインドが占めている。

過去1年間で貧困の増加につながったインフレの蔓延など、パキスタン経済の他の深刻な問題への対処にも、インドとの経済関与の深化が役立つだろう。保護と税制上の優遇措置を求めてロビー活動を続ける家賃収入にたよる資産家たち、そして現在進行中の経済災害によってさらに悪化している長期にわたるエネルギー危機などの問題も解決できよう。 2022年以降パキスタン経済が低迷し続けていることを考えると、インドとの貿易は非常に価値があることが判明するだろう。

プルワマのテロ攻撃(訳注:2019年2月14日、インドのジャンムー・カシミール州にあるプルワマ地区でインド警察軍の車両が自爆攻撃され、40人の犠牲者を出したが、その首謀者はパキスタンに拠点を置くテロ集団ジャイシュ・エ・モハメッドとされている)とジャンムー・カシミール再編法案(訳注:2019年8月に制定されたが、これによってジャンムー・カシミールは連邦直轄領となり、警察権や財政権を失うなど自治の範囲が大幅に狭められた)の可決を受けて、2019年以来インドとの貿易はほぼ停止している。現在、パキスタンはインドからの輸入を臨時ベースでのみ許可している。パキスタンが最大限の利益を享受できる形で貿易を正常化するには、まずパキスタンがインドからの輸入禁止措置を取り消し、インドがパキスタンからの輸入品に対する200パーセントの懲罰関税を撤廃する必要がある。そうすれば、パキスタンはインドに「最恵国待遇」の地位(他の貿易相手国に与えられるのと同じ関税措置)を与えることができ、インドもパキスタンにその地位を再び与えることができる。やがて両国は関税を合理化するスケジュールについて合意し、パキスタンは陸上国境における貿易制限を解除するだろう。

影響は強烈なものとなるはずだ。通常の貿易協定が結ばれれば、パキスタンのインドからの輸入は輸出と同様に大幅に増加するだろう。もしパキスタンがインドからの標準的な輸入を許可していたら、小麦や玉ねぎなどの重要産品の流通に影響を与え、悲惨なインフレを軽減し(インドは世界有数の輸出国の一つ)、貧困層への影響も軽減できただろう。南アジアがインフレに敏感であることを考えると、インフレを抑制する輸入の政治的利点を過小評価すべきではない。

インドとの貿易は国内市場における競争を刺激し、生産性の向上にも役立つことができる。さらに、巨大なインドの輸出市場の利用可能性はパキスタンの起業家を興奮させ、国内の実業家をさらに刺激する可能性がある。市場が大きくなれば、既存のプレーヤーは、パキスタンやインドの潜在的な競合相手に、もう少し寛大にスペースを提供できるようになるかもしれない。

そして、エネルギー面では、インドはすでにバングラデシュとネパールに電力を輸出しており、大幅な余剰電力を抱えている。太陽光発電の価格は世界でも最も安い部類に入る。地理的に恵まれているパキスタンは、国境を越えてパンジャブ州から電力と精製石油を輸入することで電力不足を克服でき、それによって政治的理由で停滞した以前からの交渉を再開できる。これは、非常に有望な再生可能エネルギーパートナーシップの始まりともなるだろう。

このように、インドとの活発な貿易関係によってパキスタンは重要な構造的利益を達成できそうだ。それは一本道というよりむしろ、生産性の向上とイノベーションの刺激、価格の歪みの軽減、海外直接投資の増加などが有機的に絡み合った行程である。求めるのはより高いスループット。貿易による利益については、よく知られているが、二国間貿易の潜在力が十分に活用されていない現状を鑑みると、こうした利益はパキスタン経済にとって重要となる可能性が高い。

重要な問題は、実際に拒否権を行使しているパキスタン軍がこの貿易中心のアプローチに同調するかどうかである。これには、戦略的、短期的な理由と、長期的なセキュリティ上の利点の両方を考えておこう。 2011年から2012年にかけてインドとパキスタン間の貿易を正常化しようとする取り組みが行われ、非常に楽観視されていたが、軍ではなく既得の経済的利益の享受者(農業、自動車、製薬ロビーなど)が最終段階で邪魔立てした。パキスタンが前例のない経済的苦境に見舞われている今、軍は「経済復興計画」のパートナーとなり、輸出と海外投資に焦点を当てている。この計画が純粋にドルの流れと投資に焦点を当てていることから、軍といえども「敵」経済とのつながりを利用することに異論はないだろう。

さらに、陸軍は、対処すべきアクティブな国境を 2 つも持たないことを好むだろう。パキスタンとアフガニスタンの関係は過去2年間で悪化しており、その結果、国防軍は西国境で軍人と民間人に対するターリバーンによる国境越しの攻撃や国内に踏み入っての攻撃に対処するために多忙を極めている。この状況において、インドとの静かな国境――2021年2月からパキスタンとインドの間で大規模な停戦が実施されている――は魅力的な提案である。調和のとれた貿易関係は、その目標を達成するのに役立つことができる。

その上、軍事力頼みで安全保障に取り組む従来のアプローチは、パキスタンにとってますます問題になりつつある。国家安全保障へのより持続可能なアプローチは個人と経済の発展を重視するものであり、軍指導者らがこれに注目している兆候がある。 2021年の演説で、当時のパキスタン陸軍総司令官カマル・ジャベド・バジュワは、国家安全保障を経済発展および地域協力に結び付け、安定したインド・パキスタン関係を「…東西アジアの関係を確保し、南アジアの未開発の可能性を解き放つ鍵である」と述べた。

<参考記事>
https://www.indiatoday.in/india/story/pakistan-offers-conditional-peace-india-says-onus-on-islamabad-to-end-terror-1780962-2021-03-19

状況が許せば、こうした声は大きくなる。パキスタンの現陸軍司令官であるアシム・ムニル将軍も、そのようなアプローチに賛同しそうな兆候がある。そして、貿易協力はパキスタン(さらに言えばインド)が核心的な懸念を抱きながらも進められる。たとえ当事国間に大きな齟齬があっても深い貿易関係が保たれる場合がある。中国とインドや中国と台湾の経済関係に見られるように。

インドとしても自国の利益を考えれば、パキスタンとの新たな関係の中心に貿易を据え、建設的かつ積極的な役割を果たすことが可能で、そうすべきである。

なぜか?パキスタンと同様、インドも2つの戦線での緊張を望んでおらず、中国との実効支配線に軍事エネルギーを集中させているため、パキスタンの国境が平穏になることは歓迎だろう。カシミール(訳注:歴史的にインド、パキスタン、中国がその帰属を主張し争っている)、シアチェン(訳注:カラコルム山脈の東部にある氷河)、サー・クリーク(訳注:インダス川河口の湿地でインドとパキスタンにまたがっている)における長期にわたる紛争や、国境を越えたテロリズムなどと比較すると、貿易は壊れた関係を再スタートさせるための論争の少ない道である。

インドにとっての商業的利益も小さくない。貿易関係が正常化すれば、パキスタンはインド第5位の輸出市場であるバングラデシュと同等以上のパートナーとなる可能性がある。そして、全体像の一部として、パンジャブとカシミールの境界や管理ライン(訳注:カシミールでインドとパキスタンの支配地域を分ける軍事境界線)に暮らす少数の人々を忘れてはならない。例えば、インド側の調査によると、ワガ・アッタリ国境に隣接する都市アムリトサルの9354世帯が、2019年のインドとパキスタン間の貿易停止の直接的な影響を受けた。

結局のところ、インドは国境における現在の緊張が永遠に続く必要のないことを知っている。大国であり世界の友人であるという世界的ビジョンに沿って、将来の長期平和を目差し、インドはパキスタンとの対立を回避して、経済的利益と本来の平和を組み合わせる方向に舵を切るべきである。国益に焦点を合わせれば国民の支持は固い。

最後のワイルドカードは、中国がインドとパキスタンの経済貿易関係をどう見るかだ。パキスタンに対する中国の関心が経済的なものよりもむしろ戦略的なものであるという議論を受け入れるならば、中国はそれほど心配することはないだろう。商業的には、中国はパキスタンの輸入における支配的な地位(2021年のシェアは28.3%)を確信しており、インドからの潜在的な輸入によってそれほど邪魔されることはないだろう。

実際、パキスタン企業への中国の直接投資によってパキスタン企業がインドへの輸出を増やすことができれば、隣国同士の貿易関係は中国に長期的な商業的利益をもたらす可能性さえある。最後に、パキスタンの中国に対する債務は約300億ドルであり、中国は他の貸し手と同様、返済よりも新規融資や既存融資の延長を望んでいる。

パキスタンは、並外れた政治的・統治的課題と相まって、苦しい経済状況に直面している。回復のチャンスを得るためには、輸出によって大規模でダイナミックなインド市場を活用しつつ、インドからは安価な輸入品と、自然エネルギーを含む価格競争力に優れたエネルギーを手に入れ利益を上げるべきだ。新たな関係から得られる直接的な利益はインドよりも大きいため、必要であれば、一方的に貿易再開に向けて動き始めるべきだ。

もちろん、貿易再開の結果インドが短期的に得る利益は決して小さくはなく、将来的に得られる可能性のある利益はさらに大きくなるだろう。したがって、インドとしても貿易関係の更新に向けて積極的に、あるいは少なくとも創造的かつ寛大にアプローチしなければならない。

【原文(英語)を読む】

https://biz.crast.net/pakistans-missing-market/

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