(2024年9月25日)

 日本語教員資格、国家試験始まる 

~問われる日本の本当の開国~

 

 

いよいよ11月17日(日曜日)に

日本語教師に国家資格をあたえる国家試験が実施される。これは2023年5月26日に成立した「日本語教育機関認定法」に基づくもので今年4月に施行された。これによりカリキュラムなどの一定の基準を満たした「認定日本語教育機関」で日本語を教えるためには「登録日本語教員資格」が必要となる。

この試験を前に、日経新聞は9月17日付の社説で在日外国人労働者への日本語教育の必要性と、国はもっと支援せよ、と政府の尻を叩く提言をおこなった。
われわれはアフガン女性と子弟への日本語教育と生活支援をまったくのボランティアでやっているので、日経新聞の主張には、共感できる点が多い。日経新聞はメディアの性格上、企業活動に限定はして次のように書いている。

 

日経新聞の主張

主張の結論は、
「日本に在留する外国人が安定して生活し、社会に溶け込むには日本語の習得が欠かせない。政府は外国人労働者の受け入れを拡大する以上、日本語が学びやすい環境づくりを急ぐべきだ。」

と簡潔で、その論旨は、
・だが現状、日本語を学ぶ環境が整備されているとは言いがたい。
・中小企業が行うには負担が大きい。
・日本語教室のない「空白地域」が全市区町村の44%。
・学習にかかる費用を国と自治体、企業がどう分担すべきか、検討する必要がある。
・さらに外国人子弟への教育が急務。教師不足がある。
・日本語教室まで生徒をタクシーで送り迎えしている自治体さえある。(例:桑名市)
・自治体やボランティアに頼るばかりでは地域差も生じ、限界がある。
・政府が前面に立って施策を進める必要がある。
と、これまた明快だ。

 

主張のどこが評価できる?

日経新聞の今回の主張は、在日外国人労働者およびその子弟への日本語教育環境充実の必要性を強調し、ボランティアに頼るだけでなく政府が前面に立って施策を進めよ、と課題をピンポイントで指摘し、政府の尻を叩いている点で画期的だ。日経新聞は、外国人労働者受け入れの、日本政府の施策と本気度を問うているのだ。

日経新聞の指摘は、在日外国人労働者に限定している。しかし、われわれが参画して進めている、在日アフガン女性とその子弟たちのための日本語学校・イーグルアフガン明徳カレッジ(EAMC)の実践はもっと幅広い。現地アフガニスタンでの戦乱やターリバーンの理不尽な政策の犠牲者(難民)救援の課題にも取り組んでいるからだ。その問題を論じるとテーマがあまりにも広範に及びかねない。で、今回は日本語教師の問題に絞って検討してみる。

 

登録日本語教員制度とは?

制度概要は、
政府は、建前としては、日経新聞の主張を実現するプランをもっている。その施策のひとつが日本語教師の国家資格化だ。日本語教員不足に対応し、教員の質の向上をはかるとして、登録日本語教員制度を2024年ことしの4月から施行した。これは、先に述べた「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」に基づいている。それまでの日本語教師の民間資格を国家資格へと格上げし、日本語教師の社会的意義や待遇の見直しにつなげようとの趣旨である。制度開始第1回の日本語教員試験がいよいよ実施されるというわけである。

登録日本語教員制度の目的は、
・日本語教育の質の向上(教育の質の均一化や専門性の向上、学習者への質の高い教育の提供)
・日本語教育の社会的評価の向上(教師のスキルや知識を証明し教師の社会的な地位や評価、信頼性の向上)
・外国人労働者や留学生への支援

制度の仕組みは、
・資格要件(大学での日本語教育に関する科目の修了、日本語教育能力検定試験の合格、一定時間以上の教育経験)
・基準を満たせば、文部科学省や関連機関に登録申請を行い、認定を受ければ「登録日本語教員」の資格を取得

資格制度を導入したからと言って、日経新聞が指摘したような切実な課題が解決されるわけではない。むしろ、不十分で問題だらけの日本語教育の現場を混乱させ、さらに貧弱なものとしかねない弊害もある。

 

制度で問題を解決できるわけではない

制度導入によって解決できる課題は上記の目的に述べた項目であろう。しかしそれは机上の目的にすぎない。実際がどうなるかは別の問題である。
じっさい、制度導入によって次のようなデメリットが懸念されている。
既存教師への影響(再教育や要請される資格の取得が必要になる可能性がある)
コストと手間の増加(資格取得のための費用や時間がかかるため、教師になるためのハードルが高くなり、人材不足が懸念される)
地方や海外での教育への影響(資格要件の厳格化により、特に地方や海外での日本語教育の担い手が減少する可能性がある)

懸念される数々の心配以外に、最大の問題点は新制度導入が「絵に描いた餅」となり、官僚にとっては「やっている」のアリバイづくりとなり、制度導入の手間暇、運用による現場の混乱、導入をビジネスチャンスとして参入してくるビジネス群による混乱などが予想される。

 

制度づくりに血道をあげる前に

日経新聞の主張に賛同するのは、主張が日本語教育現場における施策の貧困さを指摘しているからである。その主張には、労働者欲しさの企業側のご都合主義的でプラグマティックでご都合主義的なにおいを強く感じるのだが、それでもないよりはましな主張であると考える。そしてそのような「ましな」提案をうけて、よりより運動、民意の涵養を図ることが必要ではないか。

 

日本が本当に開かれた国となるために

イーグルアフガン明徳カレッジ(EAMC)では、日本語教師および子弟の教育・保育スタッフは完全無給であり、支給するのは交通費だけ。さらに教室など施設は千葉明徳学園からの無料貸与、スタッフの交通費や教材費その他必要経費はすべて寄付に頼っている。日経新聞が主張する「学習にかかる費用を国と自治体、企業がどう分担すべきか、検討する必要がある」は、生徒を雇用している企業ではなく、全国にある、EAMCのような完全ボランティア組織の活動をこそ、手厚く支援すべきではないだろうか。

2023年末時点の在日外国人総数は、約342万人で前年末比10.9%増。過去最多で人口比2.8%。

JICAが実施した調査・研究「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究-外国人労働者需給予測更新版-」によれば、日本経済の今後の成長目標を実現するためには外国人労働者が2030年には419万人、2040年には688万人がどうしても必要。しかし現状の施策では2030年に77万人、2040年には97万人不足するという。

要は、2024年の被雇用者数6080万人(正規雇用3602万人、非正規雇用2131万人)を母数とすれば2030年には被雇用者総数の6.9%、2040年には11.3%を外国籍の雇用者にしなければならないとの予測である。

本サイトの「<視点:104>外国人受け入れ~プラグマティズムではいけない~」でも指摘したように、外国人労働者欲しさのプラグマティックな主張だけでなく、日本が本当に開かれた国となるための外国人受け入れの基盤づくり=世界との共存共栄、外国人受け入れの共生融合の思想と制度づくりが問われている。

日本は江戸時代以降、現在も人的移動に関しては鎖国政策を続けているようなものだ。移民によって成り立っているアメリカはさておき、ヨーロッパはECになってからの移民・外国人労働者受け入れの歴史をもっている。右派ポピュリズムはそれへの反発でもあるのだが、日本はやっとヨーロッパの経験のとば口にたっているにすぎない。いずれ日本も今のヨーロッパが苦しんでいる苦しみを感じることになるだろう。多文化共生・融合社会に向けて苦闘している「開国先進国」の経験(それがポジティブであろうとネガティブであろうとそのすべて)に今のうちから学ぶ必要がある。解決策は決して、国を閉じることではないのである。

野口壽一