Could we live with a nuclear-armed Iran? Reluctantly, yes
(WAJ: この論考を掲載した「The Conversation(ザ・カンバセーション)」はアカデミックとジャーナリズムの融合をめざして2011年にオーストラリア・メルボルンで創設された非営利のニュース/解説メディア・ネットワーク。専門知識を持つ提携研究者が執筆し、プロの編集者が読みやすく編集。専門性と平易さを両立した“解説型ジャーナリズム”として注目され、現在世界規模で活動している。ベンジャミン・ザラ氏の主張は明快。核兵器が存在する現実にあって核戦争を抑止する拡大核抑止保証の考えを承認する立場からも、今回のアメリカのイラン核施設爆撃の無益さ、危険性を批判している。理想論を声高に唱えるだけでなく現実世界の政治力学を踏まえた言説が必要とされている。)
<著者>
ベンジャミン・ザラ(Benjamin Zala)
モナッシュ大学(Monash University)政治学・国際関係論上級講師
<利益相反に関する開示>
ベンジャミン・ザラは原子力研究に資金提供する米国慈善団体スタントン財団より資金提供を受けており、欧州研究会議(ERC)の資金提供を受けるプロジェクトにおいて、レスター大学の名誉研究員を務めている。
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イスラエルとイランの停戦は今のところ維持されているように見えるが、今回の事件全体がリスクに見合うものだったのかどうかを振り返ることが重要だ。
より広範なエスカレーションは起こり得えたし、これからも起こりうる。そして、イランが将来、新たな熱意をもって核兵器開発を目指すかどうかは分からない。
では、もしイランが本当に核兵器開発を追求し続けるとすれば、われわれは核武装したイランと共存できるのだろうか?
イランの爆弾は実存的脅威か?
少なくとも西側諸国では、イランの核兵器はイスラエル、そしておそらく米国にとっても存亡の危機となるというのが通説となっている。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イラン核施設への攻撃は「イスラエルの存亡にかかわるイランの脅威」を後退させる目的であると述べた。
Israeli Prime Minister Benjamin Netanyahu said Iran’s nuclear program and ballistic missiles pose an “existential threat” to Israel, while Iranian President Masoud Pezeshkian said they will give a “powerful response” to Israeli aggression.
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— SBS News (@SBSNews) June 16, 2025
ホワイトハウス報道官のキャロライン・リービット氏は、イランの核兵器を「イスラエルだけでなく、米国、そして世界全体の存亡に関わる脅威」と表現した。
同じ主張は、欧州各国の首脳、G7首脳会議、そしてオーストラリアでも繰り返された。
もちろん、国連の核監視機関が証言しているように、イランは攻撃当時、まだ核兵器を保有していなかった。攻撃はイランの将来的核兵器保有阻止を目的としていた。イスラエルと米国は、イランの核兵器保有は「考えられない」としていた。
しかし、もしイランがイスラエルと米国の攻撃以前に核兵器を開発していたとしたら、あるいは将来そうすることができたとしたら、それはイスラエルや米国にとって存亡の危機となるだろうか?
答えはノーだ。そして、その理由は至って単純。核抑止力が機能するからである。
抑止力が機能する理由
もしイランが核兵器を独占していたら、状況は違っていただろう。しかし、そうではない。
イスラエルは半世紀以上にわたり、強固な核兵器を保有してきた。世界の核兵器備蓄に関する権威ある評価には、必ずイスラエルの約90発の核弾頭が含まれている。
イスラエル政府は公式には核兵器の存在を肯定も否定もしていない。しかし、イスラエルの核計画内部からのリーク情報や、世界中から集められた優れた評価のおかげで、核兵器の存在はほぼ確実だ。これはまた、イスラエルが核拡散防止条約(NPT)に署名していない理由も説明できる。核兵器の備蓄を放棄しなければ署名できないからだ。
もちろん、米国は1945年以来核武装しており、数千発の核弾頭を公然と保有している。これらは米国に対する核攻撃への抑止力となっている。
ワシントンは、NATO加盟国、日本、韓国、オーストラリアを含む30カ国以上に拡大核抑止保証を提供している。イスラエルの核兵器保有量を考えると、米国がイスラエルにこれを提供する必要はない。しかし、イスラエルの核兵器保有量に少しでも疑問があれば、米国は間違いなく拡大核抑止保証を提供するだろう。
核兵器と共に生きてきた80年間、確実な核報復による抑止効果は非常に強力であることが知られている。事実、幾度もの冷戦危機において、ソ連とアメリカ両国は互いの核兵器使用を抑止した。インドとパキスタン両国が、ごく最近を含め、幾度となく対立する状況において核兵器使用を抑止している。北朝鮮とアメリカ両国も互いに攻撃を抑止している。
パキスタンのイスラマバードで行われた軍事パレードで展示された、核弾頭搭載可能なパキスタン製シャヒーンⅢミサイル。アンジュム・ナヴィード/AP
同様に、イスラエルやアメリカの何らかの対応によって、イランは核兵器の使用を間違いなく思いとどまるだろう。
イランの指導者たちはイスラエルの破壊を呼びかけており、「イスラエルに死を」「アメリカに死を」というシュプレヒコールは、政権支持者の集会で頻繁に聞かれる。
しかし、この激しいレトリックの裏には自明の理がある。それは、イランの破壊を犠牲にしてまで、核兵器でイスラエルを破壊するイランの指導者はいないということだ。
国民国家の歴史において、故意に自殺した国は一個もない。いかなる理由であっても――イデオロギー的、宗教的、政治的、その他いかなる理由であっても――ありえない。すべての国家は生き残ることを何よりも重視する。なぜなら、生き残ることで権力や繁栄といった他の目標を達成できるからだ。
さらに、イランは残忍なほど権威主義的な神政政治体制によって統治されている。そして権威主義体制にとって、権力の維持は最優先事項である。核戦争の翌日に権力を維持することは不可能だ。
万能薬ではない
これは、イランの核兵器開発が歓迎すべき事態であることを意味するものではない。全く違う。
新たな核兵器保有国が出現するたびに、誤算や事故の機会が生まれる。すでに脆弱な核不拡散体制によりいっそうの負担をかけることになる。
さらに、核抑止力は正しくなく、倫理的にも疑問視される可能性がある。長期的には持続可能ではない可能性さえある。
世界中に1万2000発以上の核兵器が存在することは、人類全体にとって疑いもなく潜在的な存亡の危機をもたらしているのだ。
しかし、核武装したイランがイスラエルや米国にとって特別なリスクとなるという考えは、検証に耐えない。核武装した北朝鮮、核武装したパキスタン、そしてさらに言えば核武装したイスラエルと共存できるのであれば、たとえ不本意ながらも、核武装したイランとも共存できる。
イスラエルとイランの間で現在提案されている停戦が維持されるかどうかに関わらず、イスラエルが開始し米国が支援した軍事作戦は、両国の言い分に照らせば極めて危険で不必要だった。
テヘラン政権は残忍で権威主義的、そして公然と反ユダヤ主義を唱えており、軽蔑に値する。しかし、それが自滅的であるという証拠はない。
イランの核爆弾がイスラエルや米国にとって存亡の危機となり、一方的な予防的軍事攻撃を正当化するというのは、全く意味をなさない。
もうこれ以上、このような主張を繰り返すのはやめるべき時だ。