見えるもの 見えないもの 見ようとしないもの

(WAJ: 日本アフガニスタン合作記録映画『よみがえれ カレーズ』の共同監督・熊谷博子さんが現地で購入したブルカを着用した体験をフェイスブックに投稿されました。観念的なブルカ批判と異なり実際に着用してみての問題点が指摘された率直でユニークな投稿。シェアさせていただきました。)

(写真は、ブルカを着る熊谷さん)

少し前になるが、とある集会で見せたいと思い、タンスの奥から、アフガニスタンで買ったブルカを引っ張りだした。頭から足元まですっぽりおおい、顔の部分が網目になっている、あの衣装である。
『よみがえれカレーズ』(1989年)の撮影で土本典昭さんたちと長期滞在していた時だから、もう35年も前のものだ。時々出しては、大事にしまっていたので、カビも虫もついていない。その後、洗濯もしていないから、アフガニスタンの乾いた空気と土の感触が今も残っている。
久々に着てみた。実はアフガニスタン国内にいた時は、何度か着ていた。
アフガン女性への抑圧の象徴のように言われていたが、その当時は、私はなかなかに便利なものだと感じた。私の方からは外は見えるが、外部からは誰なのかわからない。小さな隠れ家の中にいるような、安心感を覚えた。旧ソ連軍の撤退が始まった年であり、当時の政府側に対するロケット弾の激しい攻撃もあったが、国外にいた難民が戻ってきたり、町には比較的自由な雰囲気もあった。
タリバーンの台頭する前である。まだバーミヤンの巨大石仏も、彼らの手で破壊されてはいない。
今回久しぶりに着てみて気づいた。
アフガニスタンにいた時は、外がしっかり見えると思っていたが、意外に見えない。網目もかぶるし、見えるのは正面だけで視界は限られる。もしかしたら私も現地では、女性は家の外へ出る時は頭から足元までおおうべし、という慣習に影響されていたのだろうか。
首都のカーブルでは、スカーフだけの女性も見かけたが、地方都市では、色は違うが、皆このブルカで身体をおおっていた。
私は自分の勝手で着ていたが、強制されたらたまらない、と改めて思った。
さすがに外での着用はためらわれて、部屋の中ではあったが、前の部分をまくり上げた時の風景は、まるで違っていた。
そこで一番強く感じたこと。見えるもの、見ないものはむろんあるが、見ようとしないものがたくさんある、のではないか。
ジャニーズ事件なんて、その典型だし、他にも限りなくある。
プリーツをそろえ、ブルカを元通りにしまいながら、“見ようとしない人”にはならないぞ、と思った。
こういうことを書いたのも、実は10年近く、瀬戸内海にあるハンセン病療養所、長島愛生園に暮らす、とても素敵なご夫婦の生き様を撮ってきた。やっと完成し、来年3月、公開になるからだ。
お二人が、様々な制限のある中で、どれだけの見ようとする意志と力を、長い間持ち続けてきたのかを、ひしひしと感じている。
この作品の完成に追われ、このFBに投稿することはほとんどできなかった。これからはちゃんと投稿しますので、ぜひお読み下さい。

(2023年11月6日記)

=========================

<フィルモグラフィー>

『よみがえれ カレーズ』(監督:土本典昭+熊谷博子+アブドゥル・ラティーフ)
この映画には1988年5月15日のソ連軍撤退開始以降12月までのアフガニスタン全域の取材から、アフガニスタン人の心が描かれている。
戦争は人びとの心に深い傷跡をのこした。首都カブールのバザール近くでの、たった一発のロケット弾がひきおこした殺傷の現場がフィルムに収められている。「イスラム教徒同士がなぜ殺しあうんだ」とインタビューに激して答える老人の声がその場にはりつく。10年に及ぶ内戦で無残に破壊された古代の遺跡や泣きながら息子の墓に歌いかける女たちの姿は痛々しい。
反政府ゲリラのリーダーが政府軍司令官に秘かに会って告げる「もうこれ以上戦う必要がない。この10年の戦争は何もいい結果をもたらさなかった」と。司令官は答える。「協力しましょう」・・・(製作を担当した株式会社シグロの紹介より。詳しくはここをクリック

 

作兵衛さんと日本を掘る公開中
監督・熊谷博子さんの言葉

当時の炭鉱の姿ではあるが、私には、そのまま現代に思えた。中に描きこまれた労働、貧困、差別の問題、戦争への記述、共働き坑夫の家事労働に至るまで今と同じだ。特にエネルギー産業の労働構造は、完全に重なって見える。

前回のオリンピックは1964年。首都圏が好景気に沸く一方で、筑豊には失業者があふれていた。作兵衛さんをめぐる人々が語る、今につながる炭鉱の意味。作兵衛さんと、絵の中の名もない人々とともに日本を掘りたい、と切に思った。

【熊谷監督・略歴】1951年4月8日生まれ。東京都出身。1975年より、番組制作会社のディレクターとして、TVドキュメンタリーの制作を開始。戦争、原爆、麻薬などの社会問題を追う。『幻の全原爆フィルム日本人の手へ』(1982)など。85年にフリーの映像ジャーナリストに。
主な監督作に映画『よみがえれ カレーズ』(1989:土本典昭氏と共同監督)、映画『ふれあうまち』(1995年)、映画『三池~終わらない炭鉱(やま)の物語』(2005年:JCJ特別賞、日本映画復興奨励賞)、NHK ETV特集『三池を抱きしめる女たち』(2013年:放送文化基金賞・最優秀賞、地方の時代映像祭奨励賞)

作兵衛さんと日本を掘る』ホームページより

 

●  熊谷博子監督の公式ホームぺージhttps://www.hirokokumagai.com/

熊谷博子監督のFacebook ページhttps://www.facebook.com/profile.php?id=100009096361769

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です