Gaza War: Why Is the Taliban Group Silent?

(WAJ: ターリバーンはガザ戦争が勃発して2カ月近くになろうとする現在でも、その戦争に関する自らの立場を明確化していない。理由は、ターリバーンはアメリカの支持の喪失を恐れているからだ、というこの指摘には納得させられる。)

Shujauddin Amini
Hasht-E Subh  28 October 2023

シュジャウディン・アミニ
ハシュテ・スブ 2023年10月28日

ガザ戦争は21日目に入った。イスラエル軍によるガザ地上攻撃はまだ始まっていないが(訳注:12月4日現在、凄惨な地上戦後の人質・拘束者交換の休戦期間を経て再びイスラエルは攻撃を再開している)、イスラエル側の報復爆撃によるパレスチナ人の死傷者は5千人を超えている(訳注:現在は死者だけでも1万5000人を超えている)。ガザ戦争に関する多くの国の立場は明らかだ。中国、ロシア、エジプト、サウジアラビアなど、一部の国は中道を選択している。米国、英国、フランス、ドイツ、イラン・イスラム共和国など、いくつかの国は中立を維持できていない。トルコなどの国々は口頭での批判を強め外交関係レベルを低下させている。例えば、トルコのエルドアン大統領は、国会出席中にトルコ当局者のイスラエル訪問の中止を発表し、ハマースを「解放」運動と呼んだ。(訳注:日本政府はハマースを批判しイスラエルを支持しつつもガザの被害やパレスチナ人への人道的同情を表明している。)

一方、ターリバーンの立場は依然として曖昧である。このグループは関係者を非難も賞賛もしていない。具体的には、ターリバーンはハマースをトルコ当局のように解放運動と呼ばず、かつまた、イスラエルをイラン・イスラム共和国のように、簒奪者かつ子供殺害政権とは呼ばなかった。彼らはまた、1967年以前の国境で2つの国を創設する必要性について語るサウジアラビアとエジプトの立場を支持しなかった。

ターリバーンはイスラム主義運動であり、世界各地でムスリムを支援する義務があると考えているのだから、ガザ戦争に関するターリバーンの立場を検討することは極めて重要である。さらに重要なことは、ターリバーン最高指導者ハイバトゥラー・アクンザダ師が自らを「アミール・アル・ムーミニーン」(訳注:信徒の長)と名乗っている。この称号には世界中の信者を支援することが求められているのだ。

注目すべきは、反ターリバーン勢力のパレスチナ人支援の姿勢がこの集団のそれよりもを断固たる点である。例えば、アフガニスタン救世国家抵抗最高評議会(訳注:2022年5月にトルコで結成された旧政権高官らの組織。アフガニスタン国民からは賞味期限切れの政治家たちと揶揄されているが・・・)は、声明を発表してハマースのイスラエル攻撃を支持した。この評議会指導部の一員であるムハンマド・モハキク(Muhammad Mohaqiq)でさえ、パレスチナ・イスラム聖戦グループの指導者ジヤド・アル・ナハラと電話会談を行った。だが実際にはイスラム主義者で聖戦主義者のターリバーンこそがとるべき行動だった。同様に、アフガニスタン国民抵抗戦線 (NRF) の立場は、ターリバーンの数多くの曖昧な声明よりも明確で一貫性があった。

<参考サイト:アフガニスタン救世国家抵抗最高評議会(国民抵抗戦線高等評議会(National Resistance Front High Council))>
https://afghan.caravan.net/2022/05/26/bagramnrf/
https://afghan.caravan.net/2022/05/26/bagramnrf/

 

ターリバーンからすれば、ハマースとパレスチナ人を支持する軍勢に加わることがもっぱら期待された。そこでターリバーン報道官はパレスチナ側の要求を鮮明に擁護したが、その擁護によって自らの沈黙が招いたハイバトゥラー師に対する世論からの疑問がかき消された。

問題は、ターリバーンの最高指導者がなぜハマースを真剣に支持せずかつイスラエルに反対しないのかということだ。以下6点にわたり考察する。

 

1. 米国からの資金援助

イスラエルは米国の戦略的同盟国であり、イスラエルの敵国が米国の友人であり続けることはできない。したがって、アメリカの支援を必要とする政府や団体はイスラエルの立場を支持しようとする。米国政府がターリバーンによる人権侵害を無視し、このグループにドルの小包を送っていることからもわかるように、ターリバーンは米国の友人とみなされている。ガザでの戦争は同盟者を明らかにした。ハマースの敵がイラン・イスラム共和国、トルコ、カタールに好かれることがないのと同様に、イスラエルの敵がアメリカに好かれることはない。

イラン・イスラム共和国と同様にターリバーンがハマース支援の舞台に躍り出れば、間違いなく米国はターリバーンに対するアプローチの仕方を再検討するだろう。その結果、米国の同盟国扱いは変化することだろう。当分の間、ターリバーンは米国の支援を必要とし、ムスリムを守ることは二の次だ。それが自称「信徒の長」をリーダーと仰ぐ集団の実態である。

ターリバーン指導者は、イスラエルに敵対するハマースを支持すれば、米国政府が反ターリバーン勢力に好意を示すかもしれないと恐れている。例えば、アメリカに支持されていた旧政府軍兵士の一部が率いるアフガニスタン統一戦線の創設がなされるとすれば、ターリバーンにとって朗報であるはずがない。

 

2. 危機を演出し利益を得る

ターリバーンにとって危機の創出は、危険と同時に利益ももたらす。ガザのような大規模な危機により、アフガニスタンは以前よりも世界の注目から遠ざけられている。これはアフガニスタンにおける包括的な民主的政治構造の構築要件を破壊しようとするターリバーンの利益となる。例えば、ウクライナ危機により、アフガニスタン危機に対処する必要性が世界の注目の焦点から外された。言い換えれば、ウクライナ危機が解決するまで、アフガニスタンの事件は世界の俎上に上ることはないということだ。ガザ危機はウクライナ危機より深刻だ。一方的な戦況とはいえ、戦争が続けば他の勢力も参戦せざるを得なくなる。

ガザ危機が激化すれば、アフガニスタン危機は再び忘れ去られるだろう。したがって、ターリバーンはガザ戦争の終結について考えるよりも、ガザ戦争の継続と拡大を望んでいる。世界が別の場所で忙しくなり、アフガニスタンにかまっていられないからである。

加えて、戦時交渉を終えて次の解決策を模索しているターリバーンにとって、ガザでの戦争継続は困った事態ではない。政治的には有益でないが、構っている場合ではないのだ。

 

3. 人権に対する非妥協性

ターリバーンは人権について好ましく感じていない。この問題に関して、彼らは適切な妥協点を持たないだけでなく、人権を侵害し、人権擁護活動家の要求を完全に無視する。ガザ戦争においては、両勢力への賛成派も反対派も共に人権侵害に反応していきり立った。その上、ムスリムたるパレスチナ人がイスラエル人よりもはるかに多く殺された。多くの国がガザ地区での人権侵害を真剣に批判したが、ターリバーンは自国には関係ないとして慎重姿勢だ。ターリバーンの声明でも人権侵害は非難の口実として言及されておらず、パレスチナ人には正当な防衛の権利があるとしか述べられていない。

自身も人権侵害で告発されているターリバーングループは、ガザでの人権侵害を批判するのは馬鹿げていると考えているのかもしれない。なぜなら、アフガニスタンでの義務をとっとと果たせ、その上でガザ住民の救援に急げと、困ったブーメランが飛んでくるからだ。

 

4. 他国の内政不干渉の原則

ターリバーンは他国の内政への不干渉原則を重視している。その理由はターリバーンが包摂的な民主政府の樹立を拒否していることで世界がまだこの集団を認めていないためである。ターリバーンはどういった政府をつくるかは内部問題であると考えており、この点に関して世界の声に耳を傾けようとはしない。ガザ戦争に対するターリバーンの曖昧な立場はこれに影響されている。例えば、ターリバーン内務大臣代理のシラージュディン・ハッカーニ(Sirajuddin Haqqani)はパクティア州での会合に出席し、ターリバーンは他人事には干渉しないが、ムスリムには同情的であると述べた。ガザにおける人権侵害について懸念を表明したり、交戦当事者に自制を求めることは他人事への干渉を超えて、道徳的になさねばならぬ問題である。

ターリバーンは、自国問題への干渉に敏感であるため、たとえパレスチナ人の権利を守るためには介入が必要であっても、ガザ戦争への干渉を避けようとしている。なぜなら、干渉は「自分が欲しがらないことは、他人に望まない」という道徳原則への違反と考えているからだ。ターリバーンはガザ戦争に介入しないことで、内政に干渉しないよう世界を説得したいと欲している。

 

5. 介入に付随する損失

ターリバーンはまだ合法的で民主的な政府になっておらず、政府ではなく集団として認識されている。多くの国が「ターリバーングループ」、「ターリバーン暫定政府」、「アフガニスタンの現支配者」などの用語を使用しているが、これらの用語が「アフガニスタン政府」になる可能性は依然として厳しい。さらに、ターリバーンの国家的正当性は疑わしく、国民は同意を与えていない統治者を信頼できない。西側政府からの資金援助に対するターリバーングループのニーズは依然として満たされていない。この場合、ターリバーンが戦争当事者の一方を支援するにあたり、ハマースを助けイスラエルに反対することは、イスラエルの西側同盟国を自分たちの支援から遠ざけることになるだろう。

 

6. 米国のワグネルとしてのターリバーンの現実

ジョー・バイデン大統領がメディアとの会話の中で、アル=カーイダの指導者アイマン・アル・ザワヒリ殺害についてターリバーンの協力があったと発言した際(訳注:今年6月の記者会見。詳細は左のハイライト部分をクリック)、ターリバーンはアメリカのワグネルとして扱われた。前政権の情報長官ラフマトゥラ・ナビル(Rahmatullah Nabil)は、バイデン大統領の発言に応えて、ターリバーンを米国のワグネルと呼んだ(下記参考記事参照)。ターリバーンは、もし彼らがアメリカのワグネルでなければ、主要な同盟者や支持者を殺害するために共謀しなかっただろう。

<参考記事:
https://www.afintl.com/en/202307014146

 

米国と共謀してアル=カーイダの指導者を殺害したことはともかく、ターリバーンがガザ住民殺害に直面した上で沈黙するのには当惑する。もしこのグループが米国のワグネルではないとしたら、ガザ住民に起きていることに沈黙を保つ可能性は低いだろう。パレスチナ人を支援することは、アフガニスタンとその周辺地域におけるターリバーンの信頼を獲得することになる。その理由は、一方では国内の国民感情がパレスチナ人を支援することに集中していること、他方では周辺地域の一部の政府、特にロシアとイランが、パレスチナ危機解決の分野において米国とは全く異なる見解を持っていることだ。にもかかわらずパレスチナ危機に対するターリバーンのアプローチは、近隣各国よりも米国と歩調を合わせている。

アフガニスタンにおいて個々の国民が沈黙していることは、ターリバーン最高指導者の沈黙よりも当惑させられる。ロンドン、マドリッド、パリ、ベルリン、シドニーの街頭で、イスラエル支持者ではなく、パレスチナ支持者が大量に目撃されたことは注目に値する。だがターリバーン支配下のアフガニスタンでは、誰も街頭に出てこなかった。かつて共和制の支配下では、パレスチナ人の権利を守る必要性から、アフガニスタンの人々は何度も街頭に出て、公共物の破壊を破壊する事態さえ発生した。しかし今回、世界で最もイスラム的な政権を自称するターリバーン首長国の支配下では、パレスチナ人を支持する熱狂は生まれていない。

ターリバーンが雄弁家、説教者、モスクの導師、弁護士たちに、ガザで起こっていることに関する抗議運動の組織化を控えるよう警告した可能性は高い。逆にもしターリバーンがパレスチナ人を支援したい意向を隠し持っているのなら、いつものように善良な人々の持つ強い気持ちを利用して何かを発するだろう。

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