Pakistan faces a growing terrorism threat
(WAJ: トランプ米大統領はターリバーンに屈伏する形でアフガニスタンからの撤退を決めた責任者であることを棚に上げて、バイデン政権の撤退時の不始末を口を極めて批判する。一方、撤退時に自爆テロでアメリカ人13人ほか多数のアフガン人を殺害したテロ犯とするISIS-Kメンバーの逮捕に協力したパキスタンを誉め、感謝している。バンス副大統領は領有を主張するグリーンランドを訪問し、ターリバーンを世界最悪のテログループと非難する一方、テロ指導者のシュラジュディン・ハッカーニの懸賞金をゼロにした(テロ指定は解除せず)。アフガニス問題はアフガニスタンだけの問題に限定されることなく、これからますます、イラン・パキスタン・インドを含む一塊の問題として現れてくる。)
クリストファー・クラーリー(ニューヨーク州立大学アルバニー校政治学准教授)
2025年3月27日
アフガニスタンおよびインド両国とのパキスタンの関係が悪化する中、パキスタン・ターリバーンとバローチ分離主義者による攻撃が激化している。
パキスタンにとって今年は非常に厳しい年だ。多方面からのテロリストや過激派の攻撃を阻止しようと政府は奮闘している。過激派やテロリスト集団による暴力は数年にわたって激化傾向が続き、今年はパキスタンにおけるテロ関連の死者数が過去10年で最悪の年になりそうだ。
パキスタンのテロ、脅威グラフ(2025年初頭に殺人を伴うテロの急激な増加が見られる)
2010年代からパキスタンにとって最大の脅威であったパキスタン・ターリバーン運動(TTP)は、勢いを盛り返している。イデオロギー的に類似したアフガニスタン・ターリバーンがアフガニスタンを制圧したからだ。昨年の国連報告書では、パキスタン・ターリバーンに対するアフガニスタン・ターリバーンの支援が「大幅に増加した」としている。国連の専門家は、その理由として「(アフガニスタン)ターリバーンはTTPをテロ集団とは考えていない。両者の関係は密接で、TTPへの借りは大きい」と結論付けている。この「借り」という表現は、TTPが以前にアフガニスタンのグループを支援していたことを反映している。
<参考記事>国連:アフガニスタンのタリバン、反パキスタンTTPテロリストへの支援を強化
https://www.voanews.com/a/un-afghan-taliban-increase-support-for-anti-pakistan-ttp-terrorists/7694324.html
パキスタンは、2001年から2021年までの米国主導によるアフガニスタン介入中にアフガニスタンのターリバーンに安全な避難場所を提供した。2021年8月の米国撤退後、アフガニスタン・ターリバーンがカーブルを奪還した際、パキスタン政府はかなりの影響力を持つようになると期待していた。しかし、パキスタン軍司令官アシム・ムニールは報道陣に対して、隣国アフガニスタンは「我々の言うことを聞かなくなった」と認めた。
<参考記事>陸軍司令官は、TTPの存在と国境を越えた攻撃がアフガニスタンとの唯一の争点であると指摘
https://www.dawn.com/news/1885161
反乱軍がハイジャック犯にエスカレート
パキスタンの苦境に追い打ちをかけるように、南西部の広大なバルチスタン州での反乱も大幅に強化されてきた。今月初め、バルチスタン州の州都クエッタと隣接するハイバル・パフトゥンフワ州の州都ペシャワルを結ぶ旅客列車がバルチスタン分離主義者によって一時的にハイジャックされた。武装した分離主義者らは乗客約400人を人質に取った。パキスタン軍は急遽ハイジャック犯を殺害し人質を解放する手段に出た。こう着状態は終結したが、多数の死者が出た。双方とも死傷者の数を争っている。公式発表によると、分離主義者に加えて少なくとも数十人の乗客が死亡したとされているが、バルチスタン分離主義者らは死者数はもっと多いと主張している。
<参考記事>パキスタンの分離主義グループが400人以上の乗客を乗せた列車をハイジャック
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20250312_25/
この事件によりパキスタンとアフガニスタンおよびインドとの関係は悪化した。パキスタンはテロの増加は両国のせいだとしている。パキスタン当局は、アフガニスタン・ターリバーンがパキスタンを狙う過激派やテロリストに安全な隠れ家を提供していると非難している。その結果、国境での衝突、主要な国境検問所の閉鎖、そして両隣国間で全般的な敵対関係が生じた。またパキスタンは、長年のライバルであるインドが国内で反乱を煽動していると非難している。一方インドは、自国の統治の悪さと、これまでインド国内の反乱を支援してきた事実からパキスタンは責任を転嫁しようとしているだけだと主張している。
パキスタンには、楽観視できる十分な理由がおそらくひとつある。それはパキスタンの情報機関がトランプ政権の求める初期の要請に素早く応えて、米国が主張するいくつかのイスラム国ホラーサーンによるテロ行為の実行犯の逮捕を助けた事である(訳注:ISIS-Kテロリストのモハメド・シャリフラー逮捕 https://webafghan.jp/topics/#20250310)。その男は米軍撤退中の混乱時に起きた殺人的テロ(訳注:2021年8月の空港自爆テロ)にも関与した。この協力に対して、トランプ大統領は3月4日の上下両院合同会議での演説でパキスタンに公式に感謝の意を表した。第1次トランプ政権は、パキスタンへの軍事援助のほとんどを停止したにもかかわらず。
イスラマバードは問題山積みで、そこへさらに米国の反感を買う余裕はほとんどない。そこで対テロ協力がトランプ新政権とより良い関係を築く足がかりとなるやも知れない。
クリストファー・クラリー 氏はニューヨーク州立大学アルバニー校の政治学准教授であり、スティムソンセンター南アジアプログラムの非常勤研究員。著書に『The Difficult Politics of Peace: Rivalry in Modern South Asia 』(オックスフォード大学出版、2022年)がある。