Terrorists’ Paradise on Both Sides of the Durand Line: Do Not Treat Terrorism Selectively

 

(WAJ: パキスタンは、ソ連がアフガニスタンに駐留していた時期には米英やサウジアラビアなどとムジャヒディーンを育成支援し武装抵抗をさせた。ソ連軍が撤退しPDPA政権が崩壊した1992年以後、ムジャヒディーンの内部抗争でアフガニスタンが破壊の極に達しそうになった時、今度はターリバーンを育成支援してアフガニスタンを支配させた。2001年以後、米英NATO軍の支配下では秘かにあるいは公然とターリバーンを支援し、2021年再度カーブルに入場させアフガニスタンの実権を握らせた。いま、パキスタン政府に武力攻撃を繰り返しているパキスタン・ターリバーン(TTP)は、アフガニスタン・ターリバーンと兄弟組織であり、かつても今もアフガニスタン・ターリバーンの庇護・支援のもとにある。アメリカは現在、一転してターリバーンを利用してISやアル=カーイダをせん滅しようとしているが、自律性を持つようになったターリバーンを思うようにコントロールできなくなってきている。自分に都合の良いテロリストは善、都合の悪いテロリストは悪、といったご都合主義の破綻した姿が現在のアフガニスタンとパキスタンに現出している。)

ファヒム・サトオダ
モハムマド
2024年5月13日

2024年3月26日、パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州で中国人技術者を狙った自爆テロが発生し、パキスタン北西部のダム建設プロジェクトに従事していた中国人技術者5人を含む6人が死亡した。当時、犯人と動機については、パキスタン国内の分離主義グループ(訳注:パキスタンからの独立を目指す少数民族で、中でもバローチ人のそれが有名)が背後にいるとの疑惑を含め、さまざまな憶測が流れた。しかし、先週火曜日、パキスタン軍のアフマド・シャリフ報道官は、この攻撃はアフガニスタンのターリバーン支配下で組織されたものだと主張した。先週の水曜日、ターリバーン国防省報道官のエナヤトゥッラー・カワラズミは、パキスタンの主張を無責任だとして否定した。彼は、ISISの過激派がパキスタン国内からアフガニスタンに侵入し、攻撃を行っていると主張した。翌日、パキスタン外務省のムムターズ・ザーラ・バローチ報道官は、ターリバーン国防省報道官の主張を無責任だとして否定し、パキスタンからアフガニスタンへのISIS過激派の侵入を否定した。彼女は、中国人技術者の襲撃にアフガニスタンが関与しているという自国の主張を繰り返し、パキスタン政府はこの件に関して証拠を持っていると述べた。

パキスタンとアフガニスタンの間には、共和国時代もターリバーン時代の現在も、このような相互非難が常に存在している。パキスタンは現在、ターリバーンが「テロリスト」を匿っていると非難し、同様にアフガニスタンの支配者ターリバーンからもパキスタンに対する非難がなされている。しかし、こうした非難の応酬の裏には現実に刻まれた強烈な痕跡が隠されている。アフガニスタンにおけるターリバーン支配下のテロリスト聖域の存在に関するパキスタンの主張は真実であり、パキスタン国内のテロリストの存在に関するターリバーンの主張も真実である。

国境の東、パキスタンの部族地域(訳注:アフガニスタンと国境を接し、2017年に東隣のカイバル・パクトゥンクワ州に編入されたが、長く自治地域だった)の一部がテロリストの隠れ家と化して久しい。そこにテロリストの聖域が数多くあることを示す証拠は十分にある。例えば、パキスタンのアボタバードでオサマ・ビン・ラーディンが殺害されたことは、その明確な証拠のひとつである。かつてターリバーン指導者や戦闘員がパキスタンにいたことも、この状況を物語っている。そんな中、パキスタン政府は、権力を握る正当なアフガン政府に抗うターリバーンの活動を許可し、軍事訓練、地雷製造、政治運動などを許した。このような活動に基づいて、ハイバトゥッラー・アフンザダはハジ・ハサニ・モスクで自爆テロの訓練を行い、戦闘員たちの首に木の鍵をぶら下げ(訳注:天国への鍵の意味か? 自爆犯のこと)アフガニスタンへと送り込み、アフガン政府と国民を標的とした。この許可があればこそ、ターリバーンのペシャワール評議会とクエッタ評議会はその地で公然と活動できた。今では逆に、アフガニスタンのターリバーンがそのような便宜をTTPや他のグループに提供している。

アフガニスタンがテロリスト集団の手に落ちた今、パキスタンの主張も妥当だ。テロリストたちはアフガニスタンに巣窟や聖域を持ち、そこからテロ活動をコントロールしている。アフガニスタン国内で中国人への攻撃を計画しているというパキスタンの主張が真実かどうかは不明だ。それでも、テロに対するイスラマバードのアプローチが変わらない限り、このような攻撃がなくならないことは明らかだ。ターリバーンの支配下にあるアフガニスタンでは、少なくとも20のテロリスト・グループが活動しており(訳注:国連レポート第6章「アフガニスタンで活動するその他のテロ集団」より「TTPほか絡み合うテロ集団」、他のいくつかのグループはパキスタン領内に聖域を見いだしている。

パキスタンの部族地域では、さまざまなテロリスト・グループが幅広く活動しており、パキスタン軍がその一部と交戦することもある。しかし問題は、パキスタンの軍と政府がテロリストの間に線を引き、彼らを有益か有害かのどちらかに区別することにある。中には表立ってパキスタン政府と軍の利益に反しない武装テロ集団があるが、彼らとは戦わない。また、パキスタン軍が彼らを育成・支援しているという主張もある。こうした主張に根拠がないとしても、パキスタン軍が国内で活動する特定のテロリスト・グループに対して作戦を実施せず、イスラマバードの利益のために行動する「善良なテロリスト」と認識していることは明らかだ。このようなテロリズムの定義やテロリストの分類は、パキスタンにおける過激主義やテロリズムと闘う上での障害のひとつである。例えば、イスラマバードがアフガニスタンのターリバーンを庇護・擁護し、彼らにテロリストのレッテルを貼ることを控えている一方で、アフガニスタンのターリバーンと矛盾しない目的を持つパキスタンのターリバーン(TTP)をテロリストと呼び、彼らと戦っている。TTPだけが問題なのではなく、テロリズムはパキスタンとアフガニスタンでさまざまな顔とさまざまな名前で活動しており、どんな政府によっても善悪に分けられるるべきではない。

したがって、テロとの戦いには、まず両国におけるこの現象の存在と危険性を認識し、その上で明確な定義を示す必要がある。アフガニスタンの統治当局もパキスタン政府も、自国の領土内にテロリストが存在することを否定する場合、テロリズムを明確に定義することに失敗している。そのような定義がなければ、テロとの効果的な闘いはできない。明確な定義がなければ、いかなる統治当局や政府によるテロとの闘いの主張も、単なる強弁とメディア戦争にとどまるだろう。したがって、パキスタン政府はテロの定義を再考し、(善悪に分類することなく)すべてのテロリスト集団と闘わなければならない。テロと闘うには域内諸国の協力が必要だが、アフガニスタンにおけるターリバーンの支配が続けば、それは実現しないだろう。したがって、パキスタン政府と、直接的・間接的なテロの脅威に直面しているすべての域内諸国は、ターリバーンとの関わり方を再考しなければならない。テロ集団が権力を握っているのを放置し、他のテロ集団と戦うことが可能かどうかを考えなければならない。

この段階を経た後は、域内のテロリストの聖域を根絶する時である。テロとの軍事戦闘の作戦段階に入る前に、域内諸国は非難や否定を乗り越え、戦闘の第1段階に着手しなければならない。第1段階は、域内における、特にアフガニスタンとパキスタンにおけるテロリストの存在を認めることに始まる。第2段階では、テロリズムの定義を明確にし、善悪に分類することを避けねばならない。最終段階である第3段階は、域内諸国の協力のもと、テロに対する武力戦争を行うことである。そうしない限り、どの国も単独でテロと戦うことはできない。テロリストの隠れ家がどの国や域内のどの地にあるのかの見極めは、戦闘の第3段階であり最終段階に属する。

パキスタン政府が、国内の過激派やテロリスト集団に対する姿勢を明らかにし、他の域内諸国にも同じことを期待すれば、彼らを相手に行動を起こすことができる。これらの作戦は、差別なくすべてのテロリストを対象としなければならない。現在の状況は、テロリストを善玉と悪玉に分け、善玉のテロリストを放置し、支援さえしてきた結果である。テロリズムは、その名称や特徴にかかわらず、抑圧されなければならない。現在のアフガニスタンには、テロリスト政権が権力を握っているため、そのような枠組みがない。一部のテロリストが他のテロリストと戦い、最終的にテロを根絶することを期待するのは無理がある。しかしパキスタンでは事情が異なる。そこでは、TTP、アル=カーイダ、ISISのようなグループは政府をコントロールしているわけではない。したがって、統治政府は所属、名前、出自に関係なくテロリストを標的にすることができる。

パキスタンのテロリストを弱体化させ、排除すれば、この全域内の安全保障に貢献できる。アフガニスタンが今日テロの拠点と化したのは、テロリストがパキスタンの地で訓練され、武装し、送り込まれたからだ。今のようにアフガニスタンがテロリストの避難所になる前、パキスタンの国土の一部がそのような特徴を持っていた。もしアフガニスタンに非テロリストで合法的な政府が存在すれば、テロリストと戦い、彼らの聖域を国内から根絶することが期待される。しかし、現在の状況は違う。したがって、パキスタンとこの域内に残された唯一の選択肢は、国内のテロリストとその聖域に対する姿勢を明確にし、テロの明確な定義を示し、テロリストを分類することを控え、ターリバーンに圧力をかけて他のテロリストと対決させることである。アフガニスタンの近隣諸国、特にパキスタンとイランが現在とっている、ターリバーンに関与し、このグループに直接的または間接的な支援を提供するという政策は、テロリストを強化するだけであり、最終的には地域全体をテロリズムによって破壊することにつながる。

もし政府が行動開始に躊躇するなら、テロリストは勝利を得るだろう。テロリズムは、政治家や域内諸国の支配者が目先の利益を満足させてから戦闘に入るのを待つような現象ではない。テロリズムは日々肥大化しており、もし政府が行動を起こさなければ、この現象に対して動き、戦う機会を逃してしまうかもしれない。

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