この報告書は、国連決議1526（2004）に従い設置された分析支援・制裁監視チームの第14次報告書であり、決議2665（2022年）の附属書のパラグラフ（a）に従い、決議1988（2011年）に従い設置された安全保障理事会委員会に、同監視チームのヘルン・パレス・ルース議長名で6月1日に「安保理文書」として提出されたものである。原文はここをクリック。
＜連載全体のリード＞
当たり前ではあるが国連は人権を蹂躙するターリバーンが嫌いだ。ターリバーン第1次政権時（1999年）に米国の主導で制裁を開始してから現在まで、計30回も中身を変えつつ、24年間にわたり制裁を加え続けている。その内容は「安全保障理事会の制裁決議」として発表されるのだが、課された制裁がうまく機能しているかどうかを見極める「制裁監視チーム」という別動隊がある。前政権（カルザイ政権）が頑張っていた2011年の時点で、「独立メンバー8名、補佐人員5名、予算430万ドル」という規模の集団だった。このほど「第14回レポート」が「安保理文書」として発表された(6月1日)。国内経済の状況、政府内の不協和音、アル＝カーイダとの関係、その他テロ集団の暗躍、危険な武器の蔓延など、その内容は多岐にわたる。チームのメンバーはアフガニスタンに足を踏み入れていないと言うから、よほど確かな内通者が裏にいるのだろう。ややもすると「女性の権利の侵害」（これはこれで「超」重大事項なのだが）のみに目が行きがちな国際的な傾向があるが、このレポートを丹念に読み解くことで、アフガニスタンで今何が起きているのかを知る手がかりにしたい。数回に分けて読み解いていく。（WAJ）
第４回リード
イラクとシリアの国境付近で暗躍し、その名を馳せた「イスラーム国（ISIS）」のアフガニスタンにおける提携テロ組織が「イラクとレバント地方のイスラーム国ホラーサーン（ISIL-K）」である。2年前の米軍撤退時、空港で自爆テロをおこして一躍有名になった。何百人ものアフガン人が死んでも静かだが、十数人のアメリカ人が犠牲になると大騒ぎするマスコミへの恨み節はさておき、いま彼らはどんな状態なのか。ターリバーンは国際承認が欲しくて、ISIL-Kを倒す（注：「ISISの急増でターリバーンが得た利益参照」）と主張し、米国は軍事予算が欲しくて、近々米国本土を襲う力をつけると反論する。国連レポートによると、彼らは巧みに洗練されてアフガニスタンにおける脅威ナンバーワンに認定されたようだ。(WAJ)
進化し根を張るISIL-K （国連レポート第5章「イラクとレバント地方のイスラーム国ホラーサーン」より）
【第44項】複数の国連加盟国は、ISIL-Kをアフガニスタン、近隣諸国、中央アジアにおける現在の最も深刻なテロの脅威と評価した。過去１年間、ISIL-Kはアフガニスタン国内での活動能力を高め移動の自由を増大させることで利益を得た。ISIL-Kは、主には低インパクトの攻撃を堅調に続けることを狙っており、そこにときおり派手な行動を組み合わせて、中長期的に宗派間紛争を誘発し、地域を不安定化させようとしている。ISIL-Kは2022年9月にロシア連邦の大使館、そして12月にはパキスタン大使館、さらに中国人がよく利用するカーブルのロンガンホテルに対して攻撃を行い、近隣諸国との国際協力と商業関係を確立しようとするターリバーンによる暫定政権の努力を妨害した。いくつかの国連加盟国は、こうしたより野心的で複雑な作戦は、目標を完全には達成できなかったものの、大々的に報道されて国際的な注目を集めたことから、ある意味成功であったと評価した。2022年以降、ISIL-Kは、主要都市のソフト・ハード目標に対する190件以上の自爆攻撃を主張し、約1,300人の死傷者を出した。
【第45項】2022年中、ISIL-Kは複数の注目される攻撃を実施して、2021年よりも多くを殺傷し、同グループがターリバーンを直接攻撃できることを示した。複数の国連加盟国によると、こうした攻撃はハッカーニ・ネットワークとバドリ313大隊（訳注：イスラーム首長国軍のエリート部隊）への警告であり、ターリバーンが国内のサラフィスト（訳注：サラフと呼ばれる初期イスラームの時代に回帰すべしというスンナ派の思想を担ぐ者たち）を差別する限り攻撃を続けるとのメッセージだと判断される。ISIL-Kは、敵対行動を起こしたとされるか、イランとつながりがあるとされるターリバーン個人を攻撃した。その一例が、2023年3月9日に起きたバルフ州知事、モハマド・ダウード・ムザミル（Mohammad Dawood Muzammil）の殺害で、彼はターリバーンが政権についた後に殺された人物の中で最高位の幹部だった。
その１日前にも、ISIL-Kはヘラート州の水道局長を暗殺している。ターリバーンは直ちにISIL-Kを標的として積極的な作戦を展開した。その結果３月15日、ISIL-Kはその拠点の一つであるナンガルハール州では知事への攻撃に失敗した。ISIL-Kはまた、2022年にシラージュッディン・ハッカーニ（Sirajuddin Haqqani）とムッラー・ヤクブ（Mullah Yaqub）というターリバーンの大幹部2名を暗殺しようとしたが失敗した。伝えられた所によると、暗殺計画には両者の自宅への侵入までもが含まれており、実際そこまでは成功したらしい。つまりISIL-Kは内部情報を得て、それを利用出来ることが明らかになった。全体として、こうしたISIL-Kの攻撃は、偵察、調整、伝達、計画、実行など、組織として強力な作戦能力を持つことを誇示した。さらに、知名度の高いターリバーンの要人に対する攻撃は、ISIL-Kの士気を高め、離反を防ぎ、リクルートを後押しし、寝返るターリバーン兵も出てきた。
【第46項】ISIL-Kは、かつてはピラミッド型組織だったが、今やネットワークを重んじる組織へと進化し、5カ年計画に基づいて短期的・長期的な目標を掲げ、戦力を増強し敵の攻撃に備えている。このISISの提携組織であるISIＬ-Kの指導者はサナウッラー・ガファーリー(Sanaullah Ghafari) (別名シャハブ・アル＝ムハジール Shahab al-Muhajir ISISおよびアル＝カーイダほか制裁リスト431番）だ。彼はISIS関連で最も野心的な人物と見られており、彼の意向でアフガニスタンでのリクルートが増え、今やISIＬ-Kはアフガン人が主体で、アフガン国内の問題に重点を置いている。ガファーリーはこれまでのISIL-K指導者とは異なり、自身高学歴で、同じく高学歴の人物をより多くリクルートし、非サラフィストも採用している。ある国連加盟国は、ガファーリーはISIL（ダーイシュ）指導部からISIL-Kを活性化させる任務を与えられていると報告した。ガファーリーはマウラウィ・ラジャブ（ Maulawi Rajab ISISおよびアル＝カーイダほか制裁リスト 434）に支援されていた。
（訳注：ガファーリーは2020年6月以降ISIL-Kを指揮したが、当該国連レポートが発表された6月初旬に、ターリバーンの治安部隊によって殺害されたと報じられた。ただしターリバーンからはこの件につき未発表。参考記事 https://www.voanews.com/a/is-k-leader-in-afghanistan-reported-dead-/7130444.html）
【第47項】ISIL-Kの戦闘員の数は4000人から6000人（家族を含む）と推定されている。出身地はアフガニスタン、アゼルバイジャン、イラン・イスラーム共和国、パキスタン、ロシア連邦、トルコ、中央アジア諸国である。さらに昨年、シリア・アラブ共和国からアフガニスタンに渡航した少数のアラブ人戦闘員もいる。ISIL-Kの訓練キャンプや拠点は主に北部（バグラーン、バルク、ジューズジャーン、クンドゥズ、ファーリヤーブ各州）、北東部（バダフシャーン、タハール）、東部（クナル、ナンガルハール、ヌーリスターン、パクティーカー、パクティヤー、ホースト）にあり、2022年には少なくとも5カ所が新たに加わった。国の中央部（カーブル、カーピーサー、パルヴァーン）では、スリーパーセル（潜伏部隊）がネットワークを構築している。その他の場所にも5人から15人単位の少人数が潜伏している。
【第48項】 ISIL-Kは、ターリバーンが旧共和国の警察当局に敵意を持っていたこと、そしてそのパシュトゥーン化政策を巧みに非難して、上層部の描くシナリオに不満を持つターリバーンの指令官や少数民族出身の戦闘員、さらには釈放された囚人たちを仲間に引き入れた。新兵にかなり高い給料を支払うと主張することも、このグループに加わる大きな動機となっている。また、TTP（パキスタンのターリバーン）メンバーとウイグル人、さらにタジクやウズベクの少数民族に照準を合わせた採用キャンペーンも行っている。さらには、ウズベキスタン・イスラーム運動（IMU： 訳注：1998年にウズベク人がカーブルで組織したイスラーム軍事組織）の部隊が、ターリバーン傘下にとどまり時間を稼ぐ一方で、密かにISIL（ダーイシュ）に忠誠を誓っているという報告もあった。ISIL-Kに雇われたタジク人の自爆テロ犯は、ドゥシャンベからテヘランに移動し、ヘラートとニームルーズを通ってアフガニスタンに入り、国内でテロ攻撃を行った。ISIL-Kにリクルートされたタジク人戦闘員の一人、アブ・ムハンマド・アル・タジキ（ Abu Muhammad al-Tajiki、ISISおよびアル＝カーイダほか制裁リスト未掲載）は、2022年6月18日、カーブルのヒンズー教徒とシーク教徒が集まる寺院で自爆攻撃を行った。彼は死ぬまでタジク語によるプロパガンダを担当していた。
【第49項】ISIL-Kはメディア活動を強化したが、スルタン・アジズ・アザム（ Sultan Aziz Azam ISISおよびアル＝カーイダほか制裁リスト435番）、ボイス・オブ・ホラーサーン（訳注：ISISの雑誌媒体）、アル・アザイム財団（訳注：ボイス・オブ・ホラーサーン誌などを出版するISISの報道機関）がそれを指揮した。新しい記事を12カ国語で発表したり、テレグラム・チャンネルのネットワークを構築して、国際化戦略を推し進めている。こうして、彼らは能力を高め、内容を磨き上げ、各民族集団に照準を合わせて近づく。ハザラ人やシーア派に対する攻撃を理論武装し、イデオロギーとしてはタクフィリ（訳注：宗派の異なるモスレムを異教徒と断じて抹殺する）を説き、西側に対する報復攻撃を扇動する。彼らは、ターリバーンが国内の外国大使館や国連を守ることは「異教徒」の擁護だと批判している。
【第50項】 複数の国連加盟国は、ISIL-KがISIL（ダーイシュ）から資金を受け取るだけでなく、イスラームの各種財団、非政府組織、ISIL（ダーイシュ）メンバーの家族からの後援寄付も受けていると指摘した。セキュリティを強化した暗号通貨取引の例もある。外部の資金源に加え、グループ内部にも資金源があり、麻薬密売からの直接利益や、麻薬の運搬に対する課税、身代金目的の誘拐、鉱物の密輸、地元住民や貿易・輸送会社に対する恐喝などがある。こうした内部の資金源を動員するとき、グループはしばしばターリバーンの「ブランド」の下で行動し、自らを富ませると同時に、現在のアフガニスタンの暫定政府（デファクトオーソリティー）の信用を失墜させている。
（続く）