(2024年11月25日)

 マスメディアとSNS 

~敗因はメディアの差なのか?~

 

アメリカは謀略の国、国際通信社やマスメディは謀略のツール

われわれウエッブ・アフガンは、アメリカのアフガニスタン撤退の意図を、「アフガンのつぎ、西はウクライナ、東は台湾」と分析し、アメリカを脅かすようになってきた2番手である中国を主敵として叩く、世界支配戦略に基づく作戦とみなした。

その観点から、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に関しては、「罠にかかったプーチン ~アフガン戦争化に向かう危険性~」と喝破して、ミリタリー・ケインズ主義を基本とするアメリカの軍産複合体戦略を明らかにした。その後の事態は、アメリカが巧妙にウクライナを操り、戦争の恒常化を実現して今日に至った。

ウクライナが昨年の春季攻勢に失敗し、戦争が膠着化に陥った2023年10月7日、ハマースがイスラエルに対して自爆テロ的な襲撃を発動し、イスラエルの大規模なジェノサイド攻撃を誘発した。

その前に、ウクライナ戦争をつづけるロシアにドローンやミサイルなどを供与して参戦していたイランは、ハマース・ネタニヤフ戦争にも引きずり込まれ、中東における戦争がウクライナ戦争とつながった。

その結果、「米NATO西側同盟+ウクライナ・イスラエル」対「ロシア・イラン・北朝鮮枢軸+ハマース(アラブ諸国)」による第3次世界戦争の構図ができてしまった。中国はロシアに寄り添いつつも巧妙に深入りを避けている。その他のグローバルサウスも当たらず触らずの姿勢を持している。

そこに、大統領選挙に勝利したトランプ次期米大統領が割り込んできた。先週の11月18日、とんでもなく意味深な発言をした。それは、ロシアをウクライナ侵攻に誘い込んだバイデン大統領のささやき、つまり「アメリカは直接参戦しない」との発言に似た布石だった。トランプ氏は何と言ったか。ロイター通信は18日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューを引用しトランプ氏の言葉をつぎのように伝えた。

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[ワシントン 18日 ロイター] – 米大統領選共和党候補のトランプ前大統領は、中国が「台湾に侵攻」した場合、中国に追加関税を課す意向を示した。18日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。
WSJのインタビューでトランプ氏は「もしあなた(習近平)が台湾に侵攻するなら、申し訳ないが、150~200%の関税を課すつもりだと言うだろう」と述べた。
中国による台湾包囲に対して軍事力を使用するかとの質問に対しては、習近平国家主席は自分に敬意を抱いており、そのような事態にはならないと回答。
「私は彼と非常に強い関係を築いていた」と述べ、「彼は私を尊敬しており、私が著しくクレイジーであることも知っているので、私が(軍事力を使う)必要はないだろう」との見方を示した。
ロシアによるウクライナ侵攻についても語り、自分がまだ大統領職にあったなら、プーチン大統領は侵攻を開始しなかっただろうと改めて主張。
「私はプーチン大統領にこう言った。『ウラジーミル、我々には素晴らしい関係がある。もしあなたがウクライナを攻撃するなら、私はあなたを、信じられないほど激しく攻撃するだろう。モスクワのど真ん中であなたを攻撃するつもりだ』」と語った。

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日本の軍事専門家は、トランプ氏のこの発言に対して「関税で中国に台湾侵攻をあきらめさせることなどできない。まったく甘い考えだ」、とテレビのニュースショーなどで厳しく批判する。中国には、日米の防衛力を強化し、軍事的に対抗する以外にない、というわけだ。

言葉の裏や裏の裏を読むことをせず真っ正直に受け止める能天気な日本人にとって、バイデン氏やトランプ氏の言葉が、プーチン氏や習近平氏をおびき寄せる「悪魔のささやき」であることが理解できない。そしてその言葉にさまざまな味付けをして世界中にばらまき、軍事やビジネスにおける支配を強化する魔術であることを理解しない。民主党のグローバリズムと共和党のMAGA(アメリカファースト)モンロー主義がアメリカの一体化した世界制覇戦略の裏表であることが理解できない。

アメリカの戦略では中国の武力行使は所与のものとしてあり、中国、台湾、日本、韓国などを戦わせて弱体化し、自らは巨利を貪ろうとしている。米軍産複合体の意図は透けて見えている。それを逆手に取って軍備増強や改憲はたまた核武装を実現しようとする動きもたしかに日本にはある。だがそれはいつかきた亡国の道の焼き直しにしかならないだろう。

アフガンからの撤退以降、アメリカは世界経済においてひとり勝ち状態である。(東洋経済ONLINEほか)(しかし富が偏在し多数に行き渡らない不平等感は増大しており、それがトランプ勝利の要因のひとつとなった。)

米英の国家意思と結びつくロイター、AP、AFPの3大通信社や米英のテレビ局、新聞社など英米ユダヤ系メディアの情報操作によって世界は誘導されている。

 

支配の要は「恐怖」による操作

地球規模の支配にとって最大の恐怖は「戦争」だ。ひとつの国の国内支配にとっても支配の要は「恐怖」である。

本サイトのトピックス欄を見てもらえれば分かるように、ターリバーンは処刑や鞭打ち刑などの体罰を公開で実施している。恐怖心をあおり演出し大衆娯楽にまでして治安の維持に活用している。国民に恐怖心を植えつけ支配する政治システムである。「なんと野蛮な」と顔をそむけたくなる。一見して、わが国など「文化国家」の在り様からは遠く離れた異質のシステムのように思われる。果たしてそうか。

実は「恐怖心や不安をあおる大衆意識操作」の活用という点では現代日本も変わらない。毎日のテレビや新聞の報道を思いおこしてほしい。交通事故から地震や火災や異常気象などの災害ニュース、殺人や強盗、闇バイトやオレオレ詐欺などの犯罪報道。政治報道でさえ、ヤミ金や不倫疑惑。起きてほしくない事例ばかりが頻出し焦点を当てられる。あってほしい、あやかりたいニュースはほんの一部。

ビジネスでも宣伝のほとんどを占めるのは金や健康や美容や老後。不安につけこんでモノやサービスを売り込む。お金なしには生きていけない社会では保険や金融サービスはより効果的だ。どこよりも強い「不安」という営業ツールがタクトを振るう。現代の社会システムは「不安=恐怖=terror=テロ」を支配のための心理操作の要としている点でターリバーンの支配構造と大差ないのである。恐怖や憎悪といったネガティブな感情でなく、「共感、協働、愛」などのポジティブな感情によってつくられる社会をわれわれは求めているのに。

 

選挙に見るマスメディア支配のほころび

ターリバーンと違うのは、「文化国家」ではマスメディアが発達し、赤裸々な暴力でなく、気づかれないほどソフトに、真綿で首を絞めるようにそっと、意識操作が行われる点である。民主国家におけるマスメディアは「第4の権力」として戦後数十年間の経済成長期には存在感を発揮してきた。しかしバブル崩壊後の景気停滞とインターネットの普及により、マスメディアの威力と存在感は揺らいでいる。

そのことを最もよく現わしたのが最近のいくつかの選挙である。

(1)兵庫県県知事選挙での斎藤前知事の復活。朝日放送の出口データ(共同通信でも同じ)にみられる見事な傾向。10代から30代までは70%近くが斎藤氏、40代50代でも過半数。

 

(2)同様の動きは、小池vs蓮舫が演出された東京都知事選で、突然2位に躍り出た石丸伸二現象として現れた。

石丸氏の躍進はYoutubeやSNSを駆使した新しい選挙戦術の結果として描かれた。

(3)10月27日に投開票された第50回衆議院議員総選挙では政治と金の問題が問われた。自公の苦境は予想されたが、マスコミの予想を超えて与党は沈没し、過半数を取れなかった。立憲民主党は議席こそ躍進させたが得票数は伸びず、国民民主とれいわが票を伸ばした。ここでも、ネットを駆使した国民の躍進が強調された。しかし躍進の要因はそれだけでなく、「手取りを増やす」と勤労者層の切実な要求にこたえるキャンペーンを行ったことが大きかった。

<参考> 前回総選挙と今回の党派別得票増減(比例代表区全国集計)
政党  2021年→今回→増減
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自民  1991万→1458万→ -533万
立憲  1149万→1155万→ +6万
国民  259万→616万→ +357万
公明  711万→596万→ -115万
維新  805万→509万→ -296万
れいわ 221万→380万→ +159万
共産  416万→336万→ -80万
参政  なし→187万
保守  なし→114万
社民  101万→93万→ -8万

(4)さらに決定的なのは、米大統領選のトランプ圧勝だろう。事前にはアメリカのマスコミは、ハリス・トランプ大接戦キャンペーンをはり、ハリス当選への誘導を行った。だが結果は、マスメディアの予想をはずす、トランプ氏の大勝。要因としては、ラストベルトの労働者やマイノリティーの経済的苦境があり、それらをくみあげることのできなかった民主党の自沈があった。

それは、過去3回の大統領選挙結果を見ると歴然だ。今回、共和党が獲得票数を増やしたわけではなく、民主党が自滅した事実がクリアになる。各選挙の得票数、得票率を比べると下記のとおりだ。

2024年:全体の投票率=65%(暫定値)
トランプ 7千480万票(50.4%)
ハリス  7千120万票(48.0%)

2020年:全体の投票率=66.6%
バイデン 8千120万票(51.3%)
トランプ 7千420万票(46.8%)

2016年:全体の投票率=60.1%
クリントン6千580万票(48.2%)
トランプ 6千300万票(46.1%)


前回と今回で、トランプ候補の得票数はほとんど変わらないのに、ハリス候補は前回のバイデン得票数より1千万票も減らしている。見た通りの民主党の自滅である。

以上の4つの事象は、すべて、マスメディアの選挙前予想を覆すものだった。10月の総選挙のみ自公の敗色は予想されていたが、過半数割れや、国民、れいわなどマイナー政党の躍進は予想されていなかった。

兵庫県知事選や都知事選ではSNSなどネットメディアの影響をマスメディアは盛んに取り上げて論じている。

たしかに、マスメディアは基本的に「1→ 多」の一方向である。それに対してインターネットのSNSは「多 ⇔ 多」であり本質的な違いがある。ここに、マスメディアの策略にはまらないためにはどうすればよいかのヒントがある。

 

大衆意識操作システムとしてのマスメディア

マスメディアの役割は少数者である支配層が、多数である被支配者層をイデオロギー的に取り込むところにある。新聞・雑誌・ラジオ・テレビと発展してきたマスメディアは第4の権力として存在することができた。しかし、大多数の有権者の生活実態を「恐怖」や「不安」などの感情をてことした意識操作で覆い隠せなくなった時、既得権益を守る側に立つマスメディアの存在にほころびが生じ始めるのである。

その最大の要因は、大多数の有権者の生活実態をベースにした疑問、マスメディアの言説に対する疑問である。
兵庫県知事選では、一方的な斎藤知事叩きにたいする疑問がうまれた。背景には既得権益者たちの排除に手をつけた知事に対する若者の支持があった。その支持がSNSを通じて広まった。一種の口コミである。都知事選や総選挙や米大統領選挙でも同じである。

しかし、問題の根の深さは、マスメディアの予想を裏切った選挙の結果が、本当に有権者のためになるのかどうか、である。

これは選挙や議会をベースとした代議制民主主義システムの根本的な問題点であり、日常的な市民活動が求められる根拠である。与えられる情報をうのみにするのでなく、疑問を持って議論をし、横に広げていく口コミやコミュニティ活動が求められる。それを助けるのがSNSなどネットコミュニケーション技術である。

そこにおいて、最も重要とされるものは民主主義を獲得し発展させ機能させていく日常的な思想と行動にほかならない。

【野口壽一】