(2025年1月15日)
ロス大火災であけたアメリカ
~世界はトランプ外交で大被害をこうむるのか?~
アメリカの新年幕開きはロスの大山火事
去年日本は能登半島地震であけた。
震災1年を機にNHKが行ったアンケートでは3分の2にあたる68%の人が「復旧・復興の進ちょくを感じていない」と回答するほどの遅れがある。行政、政府の存在価値が問われている。
アメリカは7日にロサンゼルス近郊で発生した山火事が強風で燃え広がり大惨事となった。12日現在まだ完全鎮火していない。11日のBloombergの報道によれば、死者は11人以上、住宅や商業施設の被害1万棟以上、1万2000ha、保険対象外の被害や、賃金損失やサプライチェーン(供給網)の混乱などの間接的な経済的影響を含めた被害総額と経済的損失は、推定1350億~1500億ドル(約21兆3200億~23兆6800億円)に上るという。被害はこれからも増えつづけている。
おなじカリフォルニア州では、6年前の2018年(平成30年)11月8日に、大規模な山火事が相次いで発生している。 このうち、同州北部ビュート郡で発生した山火事「キャンプ・ファイア」では、85人が死亡、200人以上が行方不明となったほか、約1万4000棟の家屋が損壊、6万2000haが焼失し、約2万5000人が避難をよぎなくされた。
記憶に新しいところでは、2023年8月ハワイ・マウイ島で発生した山火事は102人以上の死亡、2200棟以上の損壊を出している。
ロサンゼルスで発生している大規模な山火事の原因については、調査が進められており、テロや放火の可能性は示唆されていない。しかし、複数個所から同時発生している現象が疑惑として挙げられている。火災の原因としては、乾燥した天候、強風、干ばつなどの自然要因が複合的に影響していると考えられている。
戦火も被害も止まず死者が出続けている
ガザ地区では一昨年10月のイスラエルによるジェノサイド的攻撃で、確認されただけで死者数は4万数千人を超え、市街地のほとんどが破壊された。
ウクライナでは極寒のなかロシアのミサイル攻撃で水や電気がストップし人々は凍える寒さと暗闇に耐えている。ロシア軍は占領地をいまよりほんの僅か(ウクライナ全国土の0.1%から1%)増やすために数十万人の兵士を死傷させたと言われている。プーチン大統領はクルスク州に侵入したウクライナ軍を追い出し奪われた領土を取り返すために北朝鮮兵を引き入れ、ここでもまた相当数の兵士を死なせ、捕虜にまで取られている。
20日にはトランプ氏が大統領に就任
大統領候補を下ろされた妄言バイデン大統領は退任間際に有罪判決を受けていた息子に恩赦を与え、返り咲き大統領になるトランプ氏はガザを更地にして娘婿に渡し復興開発させたり、グリーンランドは長男に与えてリゾート開発するつもりのようだ。もともとトランプ氏は不動産業者。アメリカから移民してき、領土を西へ西へ広げてきた入植植民者の末裔。歴代アメリカ大統領・政策担当者も私欲の塊。バイデンもトランプもその悪しきエキスなのだろう。アメリカの拡張主義は止まるところを知らない。(地球を飛び出して月にまで行った、と賛美(?)する人びともいる。)
地球規模の気候変動問題にもどる。
その原因はさまざまに取りざたされている。だが、原因追及はさておき、気候変動や天変地異が環境全般や社会に被害を及ぼしている事実を否定する人はいない。だとすれば、現代世界は、現状で考え得るさまざまな方策を地球的な規模で共同して取り組むべきであろう。
だが、気候変動対策に後ろ向きなことで知られるトランプ大統領の誕生で、アメリカはバイデン政権で復帰したパリ協定から再び脱退するのではないかと危惧されている。アメリカファーストを標榜するトランプ大統領がアメリカを脱退させれば、気候変動枠組み条約締約国198カ国の中で、唯一、米国だけがパリ協定不参加となる。(しかし、カーボンニュートラル政策は環境政策にとどまらず、産業政策であり、通商政策としての色彩を強めている。再エネ発電設備や蓄電池といった製品は、製造業の対中戦略という点で非常に重要であることから、米国のカーボンニュートラルへのスタンスは今後も変わらないだろうとの予測もある。)
トランプ政権が正式に発足すれば世界政治に大きな変化を及ぼすことは間違いない。大統領選挙キャンペーンで、トランプ候補はウクライナ戦争やガザ戦争を即座に終わらせるとか、不法移民1000万人を強制追放するとかの大言壮語を述べ立てていた。そして、選挙に勝つや否や、矢継ぎ早にアメリカ人をも驚かす次のような動きを見せてきた。
・退役軍人ピート・ヘグゼスを国防長官に指名
・ターリバーン批判者のルビオ氏を、国務長官に指名
・イーロン・マスク氏を「政府効率化省」トップに起用
・ワクチン懐疑派ケネディ氏を保健省長官に指名
・カナダをアメリカの51番目の州にと発言
・グリーンランドをアメリカに渡せと要求
・パナマ運河をアメリカに返せと発言
・メキシコ湾の名称をアメリカ湾に
恫喝、恐喝、やりたい放題だ。
その勢いに悪乗りするイーロン・マスク氏は、禁断の内政干渉に手をつける。
・イーロン・マスク氏、ドイツの極右政党支持を表明
遅れてはならじとフェイスブック創始者のザッカ―バーグ氏もつづく。
・米メタ 第三者ファクトチェック廃止
先ほど述べた気候変動の姿勢を忖度して、金融界までも大慌てで追随。
・CO2排出ゼロ目指す国際取り組みから米大手銀行が相次ぎ脱退
軍産複合体が支配するミリタリーケインズ主義アメリカの総本山、シリコンバレーの「デジタル資本主義」とウォールストリートの「金融資本主義」の2本柱をペンタゴンの軍事力が支える構造を、トランプ大統領が指揮することになる。
引っ掻き回わしはアフガンでも
アフガン問題でも言いたい放題だ。
・トランプ大統領、米国は「アフガニスタンのターリバーン」に数十億ドルを送金していると主張
・マスク氏、米国納税者の金がターリバーンに流れているのではないかと疑問
トランプ大統領やマスク氏は、アメリカが莫大な資金をターリバーンに送金しつづけている現実を暴露し批判しているが、ホンネはターリバーンを味方につけて、アフガニスタンを中国やロシアに対抗する基地として使いたいと思っている。トランプ氏は、アメリカがアフガニスタンに残した莫大な軍装品や空軍基地などの価値を数え上げ、ターリバーンとのディールをやりたがっている。
トランプ氏は、アフガニスタンのバグラム空軍基地の放棄を批判し、同基地は世界最大かつ戦略的に最も重要な基地のひとつだとする。そして「最長の滑走路、最も強力で、強固で、厚い滑走路、我々はそれを放棄した。私がこの基地を気に入ったのは、アフガニスタンのためだけではなく、中国のためだ。中国が核兵器を製造している場所から1時間の距離にあり、今や中国がそれを保有している」。「バグラム空軍基地をとりもどさなければならない」と言外ににおわせている。
・トランプ大統領は、アフガニスタンが米国が残した武器の主要販売国であると主張
2025年、世界の火元はアメリカ
ロスの山火事とは比較にならない〝大惨事〟に地球が見舞われかねない恐ろしい予感に背筋が寒くなる。
しかし、トランプ氏の発言は余りにも思い付き的であったり、理不尽であったりして名指しされた対象だけでなく、第三者の反発をも生むものが多い。
そのため、トランプ氏の言動は「ディール」のためのはったりだ、とする批判や、政権内部にもさまざまな相対立する主張をもった連中を抱え込んでおり、政策がすんなり実行されるわけがない、との見立ても多い。
実際、反対派を武力で物理的に抹殺し一枚岩のように見られていたターリバーンでさえ最近は内部の軋みが表面化するようになってきた。さらには、イスラム世界からの批判も強まってきている。
・シリアのイスラム主義指導者はターリバーンの統治モデルを忌避
・イスラム協力機構(OIC)、アフガニスタンに焦点を当てた女子教育に関する会議を主催
トランプ氏が頭越しにプーチン氏と手打ちをしようとしてもウクライナがやすやすと従うとは思えない。イスラエルへの一方的な軍事支援に対する批判はアメリカ国内でも強まっている。カナダやグリーンランドやパナマが簡単に主権を売り渡すとも思えない。
トランプ氏の外交の本質は「新ヤルタ秩序をもとめるいじめ外交」(2025年1月14日、日経新聞)と見なす分析もあるが、21世紀の現代でそれは通用しそうもない。というのは、ヤルタ会議が成立した第2次世界大戦終末期と違い、21世紀は、数カ国の大国が地球全体を牛耳られるような世界ではないからである。
G7の力の衰えはいうまでもない。いまはG20とかBBRICsとかグローバルサウスとかの潮流が存在感を増している。トランプ氏がいきり立って拳を振り回しても、甘言を弄して取り込もうとしても、各国も「わが国ファースト」の態度を取りうる世界に、現代はなっているからだ。
現に、習近平氏を大国支配の仲間に引きこもうと大統領就任式に招待したが代理派遣でお茶を濁されている。
トランプ氏が国家エゴイズムをあらわにする姿勢をとればとるほどその危険性と醜さが際立つようになり、世界を団結させる力も生まれてくるだろう。
各国にことわざや格言がある。冬来たりなば春遠からじ、明けない夜はない、止まない雨はない。夜明け前は暗い。アフガニスタンでは止まない砂嵐はない、と言う。そして、アメリカでは、消えない山火事はない。
トランプ氏の盲動や恫喝に、あきれず、諦めず、屈せず、世界人民とともに闘えば、世界は、これらのことわざや格言の正しさを再確認することになるだろう。
【野口壽一】