(2025年4月25日)

 自国を“ならず者国家”と批判する米識者 

~自縄自縛におちいるトランプ政権~

 

まずはこの、純アメリカ製ボーイング787を見て、トランプ政権がなにをしようとしているか感じてください。

Quoraの投稿より

 

ならず者国家とは誰のこと?

「ならず者国家」という言葉は、90年代末から2000年代初めアメリカでも使われ始めた。それまでは、左翼ないし反米主義者がアメリカを批判するときに使うことがあった。ジョージ・W・ブッシュ大統領はそれを逆手に取ってイラクやイランや北朝鮮などを”rogue state”(ローグ・ステート)と名指ししたのだった。

2002年の一般教書演説では「悪の枢軸(axis of evil)」と悪罵がグレードアップ。今号で紹介したマイケル・ベックリー氏の「米単独行動主義の時代: ならず者超大国が世界秩序をいかに作り変えるか」の原題は「The Age of American Unilateralism:
How a Rogue Superpower Will Remake the Global Order」。そこでは”Rogue Superpower”と格上げされている。

トランプ政権が登場してから、「世界の声」コーナーではアメリカ識者の「声」を多く紹介したが、その中でもトランプ政権はギャング”gang”または”gangster”として指弾されている。

トランプ政権はギャング集団と同じ トランプも洗ってやれば正気なのかダニエル・W・ドレズナー

アメリカを売り渡す指導者たちノア・スミス

アメリカはギャングに支配されているノア・スミス

国家とギャング集団を本質的に同じとみる。ともに他者の土地から敵を追い出し(戦争)、支配した領土内でライバルを排除し(国家建設)、住人を内外の脅威から守って(保護)、税金や上納金をとる(利益抽出)。/日経新聞の「トランプ政権、カオスの帰結 『王政』に傾く大統領像」(西村博之、2025年3月7日)より
アメリカの社会・政治学者チャールズ・ティリー

トランプ政権は崩壊する運命にあるアレクサンダー・J・モティル

 

自分の国を”ならず者国家”と呼ぶ識者たち

日本では第2次世界大戦前の大日本帝国の軍事侵略批判をすると「自虐史観」などと罵言を浴びせられる。必ずしも反体制派とは思えない大学教授たちが、「ギャング」とか「ならず者」とかの少々俗っぽい罵詈雑言をつかって自国を批判する現実。民主主義や言論の自由や理性の在り方のレベルがアメリカと如何に異なるか、ため息がでるほどだ。

とはいえ、そんな為政者が政府と国のトップに君臨して恥じることもなく高圧的な暴政をほしいままにしている現実はどこの国よりも見栄えの良いものとは思われない。なぜアメリカはそんな国になってしまったのか。

マイケル・ベックリー教授は前掲記事の中で、なぜそうなったかを学問的に議論するよりも「次にどうなるかを予想すること」の方が重要だと断言する。では、どうなればよいのか? 氏は「米国がならず者になるかどうかではなく、どのようなならず者になるかである」と断言する。ならず者であることは自明だからだ。もちろん、反語的な表現ではあるのだろうが、聞くべき内容をもった提言であることには間違いがない。

ベックリー教授は、「米国がならず者の政策を実行している理由はなぜか?」と自問する、そしてその答えは、「それが可能だからだ。」つまり、アメリカの衰退、弱体化が言われてきても、いまだ経済的には世界的に依然として「恐るべき」力をもっているからだ。

軍事的にも、「アメリカ合衆国は自国から数千マイル離れた場所で大規模な戦争を遂行できる唯一の国だ」。「米国の市場と軍事力に深く依存する世界において、ワシントンの影響力は大きく、既存のルールを改訂、あるいは完全に放棄できる」。つまり、自分の好きにできる「ならず者」だというわけである。

教授は、トランプ政権の現在の政策は、中国とロシアという対立国の存在の中で「暴力を振るい、関係を断ち切り、長期的に大きな代償を払って限定的な利益を追求する、無謀で超国家主義的な大国」を目指すのではないか、と予想する。衰えたとはいえそれだけの力を持っているからだ。ではどうするか。「行き過ぎた行動を控えながら、より緊密で有能なパートナーたちの間で自由主義秩序の中核を維持する」”ならず者”にならなければならない、というのが教授の結論である。

詳細は本論を熟読してほしいが、教授の危惧は、極めて具体的であり、現実味がある。つまり、トランプ大統領とその取り巻きたちは現実を甘くとらえており、危険極まりない認識だというのである。

つまり取り巻きを含む彼らは「中国を1980年代の日本――最終的には譲歩を強いられる貿易相手国――と比較したがる。しかし、中国は米国の保護下にある民主主義の同盟国ではない。」 中国は、「かつての列強と同様に、経済と安全保障をコインの表裏一体とみなし、復讐心に満ち、核武装した独裁国家である。その民軍融合のドクトリンは、より正確には、大日本帝国の『富国強兵』イデオロギーを反映している。北京の視点から見れば、ワシントンが煽っている貿易戦争は単なる経済的な争いではない。中国の総合的な国力への攻撃であり、銃撃戦への前兆となる可能性がある」、と。

 

自分だけで生き残ることはできない

自分だけが超大国として生き残れると思っているトランプ政権の政策は、アメリカと世界、とくに同盟国の経済を弱体化させ、同盟関係をズタズタにすることにより軍事的な力をも弱め、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などに対抗できるものではない、と教授は主張する。まだ力のある今のうちに、同盟国と緊密に力をあわせ、敵対勢力に対して多層的な防衛体制を構築すべきだという。

その多層的な防衛体制として「米国は独裁国家の枢軸である中国、イラン、北朝鮮、ロシアに対し、多層防衛体制を敷くべきである。ポーランド、韓国、台湾、ウクライナといった最前線の民主主義国家は、侵略を撃退するため、短距離ミサイル、ロケットランチャー、機動防空システム、哨戒型ドローン、機雷などで重武装すべきである。その背後では、オーストラリア、フランス、ドイツ、日本、英国といった主要同盟国が、より長距離のミサイルと機動性の高い陸・空・海戦力で前線を強化し、全戦域への攻撃と最前線防衛の支援を行う。米国は究極のバックストップ(後方支援)および黒幕として、衛星情報、重量物輸送と兵站、核抑止力、そして空母、ステルス爆撃機、潜水艦による大規模な航空・ミサイル攻撃を提供する」布陣を提案している。

まるで、世界戦争を勃発させないために世界戦争体制を構築しようという提案である。

トランプ大統領が選挙により(しかも実質的差はきわどい)大統領府を抑えたとしても、アメリカの実権を握っている本質的権力層は、軍事、情報、金融、ビジネスを抑えている富裕層である。トランプ政権の無謀な経済的、軍事的、同盟破壊政策は早晩修正を余儀なくされるか、さもなければトランプ政権の崩壊か、大統領その人の失脚によって、ペンタゴンはベックリー教授の主張に沿う世界布陣を画策するであろう。

ベックリー教授のリアリズムは、第2次世界大戦後の、世界を理念によって統治しようという建前で生まれた国連やそれに関連する世界協調路線の行き詰まりに対する諦観があるのではないか。さらには、国家というシステムが基本的に「ならず者」システムであるという冷めた見方があるのかもしれない。

第2次世界大戦後の冷戦時代にも、その後のアメリカ1強時代にも、世界平和の理念や理想は、たとえ建前であったとしても存在していた。アメリカが国連を隠れ蓑にして利用し、利用できなければ「有志連合」をでっちあげてならず者行動をしていても、建前を公然と否定したり破壊したりすることはなかった。アメリカはふたつの顔を持ち、ふたつを使い分けていたのである。しかしトランプ大統領は思想的にも実践的にもそれら建前を「経済的になりたたない損失」として否定しようとしている。われわれが反対し、闘わなければならないのはそのような思想であり、姿勢であり、政策のはずだ。

ベックリー教授のリアリズムを反面教師として、われわれは第3の道を真剣に探し求めなければならない。

野口壽一